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Investment Outlook
ビル・グロース | 2009年5月
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PIMCOの私の部屋の片隅には、不気味に迫るバーナード・バルークの写真がかけられています。20世紀初頭に活躍したこの有名な資本家は、懐中時計を忍ばせたベストを着込み、こちら側にあからさまにあごを突き出し、その姿はまるで今も生きているかのようです。1920年代終盤に株式市場が投機的な急騰を見せた時期、バルークは投資家に対し「2+2は4であり、これまでに対価なしに何かを手に入れる方法を考案した人はいない」と、支離滅裂な警告を発しました。その3年後、経済と金融の停滞が深刻化すると、バルークは正反対の意見を述べます。「2+2が4であることに変わりはないが、悲観が永遠に続くことはない」。結局のところ、人類の悲観はバルークが想定したよりも長く続くことになり、歴史家の中には、資本主義的な安寧を求める経済的精神の復活ではなく、戦争が最終的にその転換をもたらしたとの考えもあります。しかし、まず警告を発し、次に明るい展望を示したバルークの言葉は金融市場で成功を掴むための、現代でも通用する方法を提示したものです。それは事実を正面から捉え、足元の市場のバリュエーションにあてはめ、決然たる行動を取り、大勢が少々遅れて同じ結論に達することを期待しながら、それを必死で続けることです。

私は毎日のようにバルークの写真を見つめています。特にバルークと私に共通点が多いとか、考えが近いということではなく、彼の写真を見つめていると、時空を超えて、彼がこう囁いている声が聞こえるような気がするためです。「2+2は2+2であり、2+2でしかない」。バルークの囁きはそこで終わります。これは幸いなことです。もし私がバーナード・バルークの亡霊が語る市場見通しに依存していたならば、PIMCOのお客様は実際よりずっと少なくなっていたことでしょう。しかし、彼が残した教えは依然として明確です。それは上昇方向であれ、下落方向であれ、熱狂から現実を切り離せば、成功をもたらす市場戦略の構成要素が浮かび上がるというものです。

私がPIMCOで運用に携わってきた長い間には、バルークの囁きがほぼ絶叫と化す境界線に達することが何度かありました。1981年に米国長期債利回りが15%に近づいた場面では、2+2は4だというバルークの叫び声が聞こえ、IT企業の株価が向こう30年間ではなく、果てしない将来までの利益を織り込んだ水準に達した2000年には、どれほどのブームが来ようと2+2は4だという声が聞こえたものです。そして、同じように、2007年にはサブプライムに関して、バルークの叫び声が聞こえました。ドキュメンテーション水準の低い住宅ローンや頭金不要ローンが、いかさま賭博やポンツィ詐欺などにも通じる、いずれ悲惨な末路を辿ることになるまやかしを彷彿とさせたからです。

2009年も同じような境界線を迎えています。それは2009年が政府の繰り出す政策カウンターパンチの起点となり、国民と国民の代表たる政府が民間市場、レッセフェール、自由市場資本主義と決別し、代わりに今後確立され、進化する「官民」パートナーシップをこの先何年間ものモデルとすることを決めた年だからです。この見方に疑問があるなら、クライスラーの破産申請を発表した際に発表されたオバマ大統領のコメントの要点だけでも読み返してみてください。十分に納得できると思われます。「私はクライスラーの従業員とその家族、そして地域社会と共にあり、クライスラー車の購入を希望する何百万人もの米国民と共にある(原文のまま)。そして、不当にも税金による救済を期待して抵抗することを決めた投資会社やヘッジファンドを支持するものではない」。南部連合がサムター要塞に向けて放った大砲が南北戦争の口火を切ったのと同じように、このオバマ大統領の言葉は一般に金融の恐怖と考えられるものとの戦いの始まりを告げたことは間違いありません。

誤解なきよう申し上げると、PIMCOはこの戦いに加わらず、そしてきわめて少額のGM債も保有しています。さらに、富裕層から「さほど富裕でない層」への富の再配分は長年の懸案だった転換であり、私は少なくとも過去数年間、このInvestment Outlookでそれを勧めてきました。しかし、変化を助長し、それを求める大多数の米国民の側に立つことは、必ずしも、PIMCOが投資家として、迫り来る自動車のヘッドライトを浴びた鹿のように立ちすくみ、お客様を守るための努力を何もしないことを意味するわけではありません。PIMCOの使命は長期的な変化を見抜き、資産が脅かされている場合には、それを守ることにあります。そして、現在はまさにそうした局面であると思われます。

無論のこと、資産に対する脅威は広範囲にわたる「負担共有」の対象となるものであり、この考え方自体が政策当局の中で変わり続けていることだけを取っても、解釈し、予想することが困難です。しかし、今回の金融危機がベア・スターンズからファニーメイ、リーマン・ブラザーズ、AIG、そしてクライスラーへと波及するに伴い、株主の権利、そして一部では優先債権者の権利までもが損なわれていることは明らかです。ですが、よく聞いてください。本来はそうあるべきなのです。資本主義の本質はリスク・テークにあります。リスクを取らないのであれば、銀行や旧態化した自動車会社にレバレッジを利用して投資するのではなく、資金を銀行預金や米国短期債、貯蓄債券に投資すべきです。経済全体の健全性が脅かされない限り、その規模の大きさや重要性、パイプの太さなどを理由にして潰れない企業はありません。

しかし、それを認めた上で、敢えて申し上げるべきことは、前政権がうやむやにしてきたこうしたリスクが今や、沸騰寸前の状態にあるということです。「良い形での生存」、もしくは生き残ること自体に対する圧力は明らかに産業界ではなく金融界にシフトしつつあります。大きな流れが変わったのであり、私が大統領選で一票を投じ、現在も強く支持するオバマ大統領は前任者が好んだ王衣を捨て、ポピュリストのマントを纏ったといえます。

このような転換期にはどのように投資すべきでしょうか。きわめて重要な点として、この草の根のトレンドが、金融資産から発生するキャッシュフローの不透明性を高めるものであることを、投資家は認識する必要があります。所得の再配分や規制強化は経済成長率の低下を招き、さらにそこから生み出される資金フローはヘアカットされ、ステークホルダーによる「負担共有」の対象となります。そして、こうしたフローの現在価値には、リスク・プレミアムの高まりと、株価収益率の低下が反映されるはずです。数々の覚えやすい言い回しや、真実を射る言葉をひらめくことで定評のあるPIMCOのポール・マカリーは先日、集まっていただいたPIMCOのお客様に対し、米国郵便局を公開企業と仮定した場合、FedEXやUPSとどのように比較されるだろうかと問いかけました。彼は「どちらに高い値をつけようと思いますか」と尋ねました。仮にFedEXの12倍の株価収益率が妥当だとすると、郵便局の価値はそれよりも大幅に低くなるのではないでしょうか。彼が言わんとしたこと、そして私が言わんとすることは、富が再配分され、アダム・スミスの言う民間部門の見えざる手が一層政府の拳に近づくにつれて、資産価値が悪影響を受けると言うことです。それはまず、ヘアカットや負担共有として現れます。これはクライスラーの事例によって証明されたばかりですし、ストレス・テストと不良銀行の政府保有による株式の希薄化も同じことです。しかし、こうした流れの行き着く先として、自由市場資本主義は従来のように、投資の荒野を暴れ馬のように自由に駆け巡るのではなく、鐙と鞍をつけられ、整然とした歩みを強要されることになり、米国だけでなく、世界全般で経済成長率が低下することになります。

今回のInvestment Outlookの目的は、この転換を嘆くことではなく、それを認識することにあります。経済成長率が低下しても、それにより、2桁の失業率、差押えの急増と金融の不安定化に対する恐怖がもたらす破滅的な影響を回避することができるのであれば、それは公共の福祉に適うものです。しかし、オバマ砲の一撃は金融面で重大な帰結をもたらすことになるでしょう。「景気回復の芽吹き」をはやし、多くの資産クラスで新たな上昇相場が来るとの見解に騙されてはいけません。現在においても、最優先すべきは安定し安全なインカムです。バランスシートの優先部分で実行すべきではありますが、新政権との握手は依然として有効な戦略です。政府が実際に資産運用のパートナーになるのであれば、政府の動向に常に注意を払い、目を離してはなりません。リスクに対して十分な見返りが得られるようになるのは、世界経済が安定し、オバマ政権の政策運営方法がより明確に定義されてからになると考えられます。

バーナード・バルークの亡霊は依然として、2+2は4であると助言しています。しかし、対価なしに何かを手に入れた反動は、人類がこの難局を簡単に乗り切り、旧弊化した政治哲学や経済哲学が示す標準的な状態に平均回帰するとの希望を打ち砕くことになるでしょう。モハメド・エラリアンとPIMCOの見据える「ニュー・ノーマル」はこの先、何年もの間、「芽吹き」の横溢に惑わされることはないと思われます。


ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
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