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Investment Outlook
ビル・グロース | 2009年1月
アンドリュー・メロン vs 救済国家
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2008年には大恐慌の再来を回避するため、米国が主導する形で世界各国の政府が民間部門に数兆ドルの融資と文字通りの債務保証を提供し、救済の手を差し伸べました。しかし、その是非を巡っては、ブッシュ前大統領のIQに関する物議に匹敵するほどの、激しい論争が巻き起こりました。何より、救済策の導入を図ろうとする側の中でも、その是非についての見解は、二転三転することとなりました。議会は当初、救済に反対しましたが、1週間後にはこれを認めました。ポールソン財務長官はこの救済策をTARP、すなわち「不良資産救済プログラム」と位置づけましたが、1ヵ月後にはその判断を180度転換させてサブプライム・モーゲージの買い取りを停止し、状況の変化を踏まえれば、財務省にはそうする権限があると主張しました。しかし、より広い視点でみた場合の問題は、政治分野を超え、「陰鬱な科学」、すなわち経済学の領域にあります。それは、果たして21世紀の米国型資本主義を表面上ニューディール政策に見せかけた経済に導いたことは必要であり、生産的であったのか、という問題です。

 

一部には、1930年代初頭の財務長官、アンドリュー・メロン氏の「雇用を清算し、資本を清算し、農民を清算し、経済から腐敗を一掃しろ」との意見に従うべきとの考えもありました。結局のところ、救済は過大な債務が原因で機能障害に陥った国内経済と世界経済にさらに数兆ドルの債務を付加するものであり、火に油を注ぐことに近いと、世界のメロン主義者は主張しました。

一方、金融界とFRB(米連邦準備理事会)、そしてPIMCOこれに反対する立場を取りました。経済史を丹念に分析すると、大恐慌と日本の「失われた10年」ではいずれも、融資金融機関や預金者、そして最終的には消費者全体が恐怖に怯え、通常の資本主義経済下でみられるはずのマネーの還流が滞った結果、貨幣のブラックホール、すなわち「流動性の罠」が発生したように見受けられます。政策当局はリーマン・ブラザーズの破綻を機に、クレジット市場が機能停止に陥ったことを認め、国家全体を沈没させるのではなく、むしろ救済に乗り出すべきと判断したのです。

もっとも、救済を巡る議論に終止符が打たれることはありません。救済すべきでないとの命題を証明することも、時計の針を戻して別の選択肢を選んだ場合にどのような状況に至る可能性があるかを示すこともできません。しかし、米国、そして世界各国が救済に乗り出しても、2008年にはほぼすべての主要国経済が景気後退局面に入ったこと、そして、公に認められることはないとはいえ、政策当局は「恐慌」の危険性を感じ取っており、それを危機管理計画の最優先課題に据えていることは間違いありません。2008年末には、FRBの今後の政策が「量的緩和」となりうることが明らかにされました。これは要するに、「資産を買い取り、ウォール街を支援し、その過程において、好ましい影響が雇用や農業部門にも及ぶ可能性を期待する」ことを意味していました。バーナンキ議長はメロン氏とは異なるということです。経済には腐敗した部分があるかもしれません。しかし、バーナンキ議長がこの問題に関して、過度に厳格な対応を取るべきではないと考えていることは間違いありません。財務省およびFDIC(連邦預金保険公社)はFRBと積極的にタッグを組み、3,500億ドルのTARP資金を供与するだけでなく、文字通り、米銀の債務の3/4を保証しました。米国の金融システムが国有化されることを懸念する人々にとって、それが現実になる日も近いと感じられました。

 

こうした変化は控え目に言ったとしても、好ましくないものですが、現実に取られた政策対応は必要なものでした。このInvestment Outlookで指摘した通り、米国やG7諸国の多くの国の経済は過去25年間に、資産価格の上昇により強く依存するようになりました。テクノロジーの発達や一部は見せ掛けだけの金融生産性の上昇が政策により支持されたこともあいまって、米国はモノではなく、金融商品の生産に特化するようになりました。そして、ウォール街は資産を証券化するますます巧妙な手法を開発するようになり、実業界はそれを利用して「エクイティ化」、すなわち、事実上の借入れの拡大を進めていきました。しかし、こうした政策には中身がなく、自己破壊的であり、最終的には過去にみられたように、ポンジー金融であることが白日の下にさらされることは十分に理解されていませんでした。そして、このポンジー金融はどれだけの多くの参加者を引き込み、どれだけ借入れを拡大させたかにより、最終的な利益が決まります。これはまさにバーナード・マドフ氏の手口ではありませんか。過去のあらゆる金融経済危機では、サミュエル・インサルやジェフリー・スキリングのように、誰かがその世代を象徴する「悪人」に祭り上げられるものですが、今回、それはマドフ氏になることでしょう。

 

しかし、他にもマドフ氏の手口に似た目論見は数多く存在しており、モーゲージ市場の歩みを振り返れば、その類似性を見出すことができます。「オプションARM(変動金利住宅ローン)」や、借り手が支払額を選択できる「ピックアペイ」住宅ローンにより、住宅保有者は月間支払額を利息よりも低く抑えることが可能になりました。200万人に上る住宅ローンの借り手は、住宅価格が下落することなどなく、買い手は常に存在すると信じ込み、このポンジー/マドフ型のまやかしを選択したか、それに引きずり込まれたのです。さらに、将来の消費ではなく、足元の消費を拡大させるために「貯蓄」を搾り出すホームエクイティ・ローンや第2抵当ローンが数兆ドルに上ることを考え合わせると、近年、バーナード・マドフ氏や、今回挿絵にした「ポパイ」に出てくるウィンピーが仲間に事欠かなかったこと理解できるでしょう。

 

格付機関のお粗末な仕事ぶりについてはどうでしょうか。格付機関にも同じように、最終的に悲惨な状態に至る見え透いた巨大な茶番劇の責任の一端があるのではないでしょうか。それは言うまでもありません。トリプルA格のサブプライムやモノライン保険は「3匹の子ぶた」の藁の家や小枝の家のように簡単に吹き飛ばされてしまいました。そして、AIGやファニーメイ、フレディマックなど、トリプルA格のクレジットに騒ぎが及ぶと、その真の姿、すなわち、資産価格の上昇が命綱となった、レバレッジに基づくファイナンス構造であることが明らかになりました。まさにポンジー金融だったということです。

 

他にも、上昇し続ける住宅価格と、右肩上がりの売上税収、そして拡大を続ける雇用と所得税収を前提に予算を策定していた地方自治体は財政破綻寸前の状態に陥り、1兆ドルを超える連邦資金を要請しています。状況を一層悪化させた要因のとして、地方自治体はバーナード・マドフ氏ですら思い浮かばなかったであろう会計上の技法を駆使して、財政を都合良く「均衡」させてきました。しかし、現在では、足元の歳出を賄うキャッシュフローにも事欠くようになり、誰もがポンジーに見込まれ、、ポンジーになったのだという私の主張を証明する存在になっています。売り上げを研究開発に投じるのではなく、労働組合との安定した関係を維持するために使ってきた自動車会社、平凡なサービスの見返りとして、投資家から2%の固定手数料と20%の成功報酬という高額の手数料をせしめてきたヘッジファンド、自由のためと称したまやかしの戦争を遂行し、国民の関心を40兆ドルに上る将来の社会保障および医療費負担からそらすことができると考えた大統領と政治家。誰もがポンジーだったのです。

 

もっとも、将来の政策を立案するにあたっては、過去を悔やむのではなく、現実そのものと向かい合わなくてはなりません。そして、投資家も、将来を明確に展望するためには、個人的な信条を捨て、同じように現実と向き合う必要があります。PIMCOの視点は明快です。それは政府と「握手する」ことです。2009年、そしてそれ以降、最大かつ最強の購買力の源泉となるのが政府であることを認識し、政府と一緒に行動することです。つまり、政府が購入する資産を予測し、政府よりも先に投資することであり、具体的には政府系モーゲージ債、銀行の優先出資証券やシニア債、クレジットカードや学生ローン、自動車ローンなど、トリプルA格の資産担保証券が対象になります。こうした資産について、PIMCOは過去6ヵ月間に何度も取り上げてきましたが、他にも注目すべき戦略はあります。オバマ政権はその発足直後から、州や主要な地方都市に対して、巨額の資金を提供する必要性に直面しています。地方が要求する金額は合計1兆ドル近くに達しますが、カリフォルニア州やニューヨーク市の破綻を容認するとは到底考えられません。そうだとすると、米国債に対する利回り比率が歴史的な高水準にある地方債には、価格上昇余地、もしくは少なくとも高いキャリーを伴うディフェンシブ銘柄であるという、2.5%の10年物米国債にはない魅力が備わっているということになります。

 

さらに、もう1つ別の戦略も考えられます。当然のことながら、向こう12ヵ月間に連邦政府がTIPS、すなわち物価連動国債を購入する可能性はありませんが、リフレを目指す政府の取り組みが功を奏し始めると、TIPSには追い風が吹きます。インフレよりもデフレの蓋然性が高くならない限り、実質利回りが2.5に留まることはないと考えられます。債券投資家の間で「ブレークイーブン・インフレ率」と呼ばれている指標には現在、今後10年間、米国の消費者物価指数が平均で-1になることが織り込まれています。その可能性は完全に排除できないものの、高くはありません。さらにもう1つの戦略として、グローバル債券の投資家であれば、投資適格の中でも格付水準の高い社債に多くの市場で投資妙味があることを認識すべきです。依然として、中期セクターで6を超える利回りを簡単に手に入れることができます。

 

この「救済国家」が最終的にどこへ向かい、どのような状況が出現するのかという疑問が出るのは当然です。現実的にいって、量的緩和、2兆ドルに上るFRBのバランスシート拡大、そして将来の財政赤字がGDP67に達することがほぼ確実なことを考えれば、債券投資家は1980年代や90年代と同様に、「自警機能」を果たすべき、つまり、投資に対して慎重な姿勢を維持すべきでしょう。ただし、慎重になるべき市場は、利回りの低さにより高いリターンが期待できない一方で、リスクが上昇している米国債市場になります。今のところ、現代のポンジー型経済と政策対応は、債券投資家が米国政府や世界各国政府の行動を先読みすべきこと、すなわち、政府が購入する資産を先回りして購入すべきことを示しています。アンドリュー・メロン氏ならば、間違いなくそれを認めないでしょう。清算こそ、彼の戦略でした。それでは、ウィンピーはどうでしょうか。たとえ救済国家であろうとなかろうと、ハンバーガーの代金支払いを火曜日まで待ってくれる相手はいないでしょう。

 

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

 

 

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