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Investment Outlook
ビル・グロース | 2009年9月
ニュー・ノーマルへと続くフェアウェイ
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人々がゴルフに魅せられる理由を分析することは、ひも理論の複雑さを探ることにも似ています。要するに、科学的な裏付けのないきわめて多くの配列があり、物理学者であれ、ゴルファーであれ、好きなことを言うことができ、いかなる説明も可能だということです。ゴルフに関して言うと、リラックスするため、友達と時間を過ごすため、自然に親しむため、接待のため、他人と競い、勝つためなど、ほぼ無限の可能性が考えられます。確かではありませんが、ゴルフをプレーする理由を禅問答風に説明しようとすると、登山に関する有名な一節に近いものになるのではないでしょうか。つまり、ゴルフがあるから、ゴルフをするのです。どういった理由があるにせよ、ゴルフとはこれまでに考え出されたあらゆるゲームの中で、最もフラストレーションの溜まる、何とも忌々しいものであり、プレイヤーは高揚感を味わったかと思えば、次の瞬間には悲嘆の底に叩き落とされることになります。愛おしくもあり、憎たらしくもある。それがゴルフです。

私個人に関して言うと、あの複雑に絡み合う精神的な迷路に誘われる理由は、わずか15センチばかりの1本のトロフィーに集約されています。黒檀の台座の上に黄緑色のボールが鎮座しているそのトロフィーは、我が家の居間の本棚に誇らしげ飾られており、台座の銘にはこう書かれています。「ホールインワン記念 1990年3月15日 デザート・コース14番ホール155ヤード」。これが私の生涯ただ一度のホールインワンであればよかったのですが、残念ながら、これは妻のホールインワンを記念したものなのです。台座にはビル・グロースではなく、スー・グロースと刻まれています。あの素晴らしいショットは私が打ったものではありませんでした。私が今でもゴルフを続けている理由はそこにあるのかもしれません。

2年前の6月、気温30度を超える灼熱のパーム・スプリングスでコースに出た時のことです。言うまでもなく、それほどの暑さの中、私に付き合おうという物好きはおらず、私が何とか肩を並べてやろうと思っている「ホールインワン達成者」の妻も、その日はエアコンの効いた自宅で、冷えたレモネードを飲んでいました。ゴルフには1つの「不文律」があります。それは、ホールインワンが正式に認められるためには、証人が必要であり、さらには18ホールすべてをプレーすることが必要というものです。この不文律がなければ、ティー・グラウンドに大量のボールを持ち込み、そのうちの1つが運良くホールに吸い込まれるまで、何百発、いや何千発と打ち続ける輩が出てくることでしょう。その日、私は1つのボールだけを持ち、たった一人でプレーしていたのですが、こともあろうに、そうした時に限って、ホールインワンが出たのです。本来であれば、黒檀の台座にタイトリストの白いボールが据え付けられ、「ホールインワン記念 2007年6月7日 マウンテン・コース17番ホール129ヤード」と書かれたトロフィーに私の名前が刻まれていたことでしょう。たとえ誰一人、聞いていなくても、森の木は音を立てて倒れるものです。同じく、誰も見ていなくても、ホールインワンはホールインワンです。私は断固としてそう主張します。あの時、私が打ったボールは間違いなくホールに吸い込まれたのであり、妻もそれに同意してくれました(ただし、最初はおかしな表情をしていました。妻はゴルフのルールを全く知らないのです)。しかし、残念なことに、他の誰も私の味方にはなってくれませんでした。きっと彼らは私のことが羨ましかったに違いありません。事実、私はこの話を聞いた数人が夕暮れ時、ホールインワンを達成したティー・グラウンドで人に隠れて何篭ものボールを打つ姿を目撃しています。ただし、その光景を見ていたということで、厄介な問題が持ち上がる可能性があります。仮にその時、ボールがカップに吸い込まれていたとすると、私という証人が居たために、正式なホールインワンと認定されてしまう可能性があるのです。何とも忌々しいではありませんか。

もっとも、それがホールインワンに認定されるか否かは、読者にとって目先の最も重要な懸案事項ではないと思われます。逆に、「世界経済(そして金融市場)はニュー・ノーマルとなるのであろうか」という問題がタイガー・ウッズにとっての10大懸案事項の1つに入っていても不思議ではありません。おそらく、この「ニュー・ノーマル」対「オールド・ノーマル」の二項対立を最も上手く浮き彫りにしたのは、バートン・ビッグス氏ではないでしょうか。今年始め、私はブルームバーグ・ラジオの番組で、彼が自らを「上昇相場の申し子」と言ったのを耳にしました。私にはこれが素晴らしい一節であり、ビッグス氏は上手い言葉を考え出す能力に長けていると思えました。但し、その後に続けて彼が言ったのは、長きにわたり、この業界で生き抜くことができた秘訣が押し目買いにあるということ、そして、それは市場であれ、経済であれ、企業利益であれ、資産であれ、落ち込みの後には必ず回復局面が訪れ、以前よりも高い水準に上昇するからだということです。これは彼が長年の経験で学んだことであると同時に、資本主義とは本来、こうした形で機能するものです。子供が成長するように、経済も成長し、企業の利益も伸びていきます。それゆえ、ビッグス氏は自らを上昇相場の「申し子」と呼んだのではないかと考えられます。つまり、単に長い間、上昇相場を経験してきたからというだけでなく、経済成長と資産価格の上昇は、まさに人間の成長と同じように、ほぼ常に見られる自然な進化であるからです。人は自然に成長するものであり、それだからこそ、ビッグス氏は資本主義も同じような形で成長するのだと言ったのではないかと思うのです。

予想外であったのは、レバレッジの削減とディグローバリゼーション(脱グローバル化)、規制の再強化により、そうした成長パターンに重大な断裂が生じたことです。PIMCOの見るところ、この3つすべての組み合わせは、上昇相場の申し子が成人し、大人しくなる時期が来たことを意味しています。すなわち、状況は一変し、向こう10年間、場合によっては20年間、変化が続くことを認識する時期が来たと言うことです。世界はPIMCOがニュー・ノーマルと呼ぶ状況に向かっています。このニュー・ノーマルでは、子供の成長と同じように、経済が雑草のように力強く成長するのではなく、きわめて緩慢な成長にとどまり、企業収益の伸びは相対的に見て、低水準となり、政府が財政赤字や規制強化、経済の制御の点で重要な役割を果たすようになります。そして消費者は支出を絞り込み、(若干、奇怪ではありますが)日本のように、現世では使い切れないほどの水準を目標に貯蓄を開始することになります。

DDR、すなわち、レバレッジ削減(Delevering)とディグローバリゼーション(Deglobalization)、規制再強化(Reregulation)へのこうした傾倒は概念として、理解できるかもしれませんが、それを実感することは難しいかもしれません。DDRが必然的に低成長のニュー・ノーマルにつながる理由はどこにあるのでしょうか。次にご紹介するアプローチを使うと、多少理解しやすいかもしれません。このアプローチは同じ概念を基にしたものですが、それをさらに一歩拡げ、DDRが数々のビジネス・モデルや経済モデルを破綻させ、それにより馴染みのある古い世界が壊され、「申し子」であるバートン・ビッグス氏ですら、落ち着いた大人に変わってしまう可能性があることを物語るものです。次の通りです。

  1. 米国流資本主義、モノ作りよりも金融商品。過去25年間の「大いなる安定」と切っても切れない関係にあったのが、ある種の逆重商主義の受容でした。米国は消費し、その代金を支払うために、金融資産と債務を作り出します。発展途上国、そして多くの先進国が製品を作り、その見返りとして、米国の証券を受け取ります。このゲームには終止符が打たれました。中国やブラジルなどの発展途上国が成熟し、独自の消費者倫理を生み出す段階に至らない限り、世界経済はこれまでよりもゆっくりとしたペースで成長することになります。
  2. 民間主導の成長対政府主導の成長。自由市場の見えざる手は政府による目に見える拳に取って代わられます。これは一時的に必要かもしれませんが、それが恒久的なものになると、将来の成長と利益という点で、難しい状況になります。かつて成功を収めた「影の銀行システム」は規制され、レバレッジは引き下げられています。現在の金融システムの将来像を「体重50キロ程度の虚弱者」と表現することは行き過ぎと思われますが、だからといって、すぐにチャールズ・アトラスのような筋骨隆々とした体つきにならないことは確かです。自らを「上昇相場の申し子」と信じ込むのであれば、砂を噛む思いを覚悟しなくてはなりません。
  3. 世界の経済的リーダーシップ。米国ではなく、中国が21世紀をリードすると断定するのは早計ですが、過去6ヵ月間の状況からは中国が、1964年にリング上でソニー・リストンに向かい「立て、この木偶の坊」と叫んでいたモハメド・アリに見えてきます。中国が自国経済の支援に投じた金額は、GDP比で見て、米国の3倍の水準に達しており、さらに大幅なマイナス成長となった米国とは対照的に、8%近い名目成長を達成しています。中国の株式市場は変動が激しく、規制が緩いものの、この12ヵ月間で2倍近い規模に拡大しており、それに比べると、米国株式市場は力強さに欠ける弱ったベアに見えてしまいます。
  4. 米国の住宅と雇用。米国の「オールド・ノーマル」な住宅モデルは住宅保有を奨励しており、最終的にはチャート1に示す通り、家計の住宅保有比率は69%まで上昇しました。税控除可能な補助付き住宅ローン金利と、政府機関であるファニーメイとフレディマックに対する規制当局の「見て見ぬふりをする」対応が、長期にわたる住宅ブームと現在の大幅な落ち込みの火付け役となりました。しかし、最近のケース・シラー住宅価格指数が何を示唆しているにせよ、住宅は景気後退からの脱却の先導役を務めることはできません。住宅保有比率が上昇ではなく低下し、米国の69%の世帯でなく、ニュー・ノーマルな65%程度の水準に落ち込むと見られることだけから考えても、このモデルは既に崩壊しています。

影の銀行システムを経由した資産の金融化により、借入れが容易になり、金利は低く抑えられ、暮らしが楽になったことで、結果として、消費者主義におけるアメリカの時代が到来しました。貯蓄率は10%からマイナス1%に低下しました。多くの米国民が貯蓄する必要はなく、第二抵当を利用すれば、すべてが片付くと考えていました。しかしながら、このような状況は変化したのであり、おそらく元に戻すことはできないでしょう。貯蓄率は上昇しており、消費者支出の伸び率は低下しています。ニュー・ノーマルがすぐそこに迫っているのです。

さらに、米国のみならず、世界中でベビーブーマー社会の老齢化がもたらす悪影響を見ることができます。ヘルスケアの拡大はGDPを押し上げているかもしれませんが、それは割れ窓理論の観点からプラスになるに過ぎません。老齢化し、肥満する糖尿病社会に対応するために数兆ドルを投入するよりも、若く健康な社会を作る方がはるかに健全です。同じことがエネルギーにも言うことができます。新たな「エコ」社会に数兆ドルを投じるよりも、テキサスのイエーツ油田やアラスカのプルドーベイで石油を採掘する方が容易であり、収益性も高くなります。米国の社会、そして世界中の社会は大きく変貌を遂げている最中であり、この変化は従来よりも低い成長をもたらし、新たな形の公的部門と民間部門のパートナーシップがこれに付随することになります。

このニュー・ノーマルへの歩みが運用に与える影響を、計量経済学的、定量的、もしくは統計的に、モデル化することは容易ではありません。言うまでもなく、ニュー・ノーマルにおいて重要になる言葉は「ニュー」です。この移行期に成功する投資家は常識を備え、重要な点として、直観力と観察力に優れ、そして不透明な帰結を受け入れる意思のある投資家でしょう。現在、PIMCOは以下に示す戦略的結論の蓋然性が最も高いと見ています。

  1. 世界的な政策金利は長期にわたり、低水準に留まるでしょう。
  2. 量的緩和、ターム物融資、財政出動の取り組みの規模と期間は国内、国外を問わず、幅広い資産クラスにおいて運用リターンを決定づける鍵になります。
  3. 投資家は政府の政策を予測し、必要な場合には政策と手を組み、レバレッジや保証を活用して、利益を得るべきです。
  4. アジアおよびアジアとつながりの深いオーストラリアやブラジルなどの国々が将来の世界的成長を牽引するでしょう。
  5. 長期的に見て、ドルの地盤は脆弱です。

オープン・トーナメントでの戦いと同じように、ゴルファー、すなわち投資家は今後、慎重なプレーを心がけ、決定的な誤りを避けることが重要になります。ニュー・ノーマルの世界では、イーブンパーの成績に、ある程度のアルファを上乗せすることで、十分にトロフィーを獲得できる可能性があります。運に恵まれれば、ホールインワンも可能かもしれません。しかし、必ず誰かがそれを見ていること、そして、その目がニュー・ノーマルを見据えていることが必要です。ゴルフに関して言うと、私の唯一の理解者である妻ですら、黒檀の台座の上に私が乗せたボールを、グロース家で達成された真正かつおそらくは唯一となるホールインワン記念から遠ざけろと言うのです。何とも忌々しいではありませんか。

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

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