地球温暖化が進行していようがいまいが、世界は「グリーン」に向かいつつあります。そして、電気自動車や平飼い地鶏、ホワイトハウスの菜園など、新たな時代の象徴が次々と現れていますが、環境保護派であることの証はそのいずれでもなく、「緑」でなく「青」かもしれません。犬を飼っている方は、この私見に真っ先に同意してくれるのではないでしょうか。約10年前に渋々ながらネコ派に改宗した私が、ネコのトイレの砂を交換しなくてはならないのは、妻が親戚を訪ねて不在になる年に1度か2度だけです。しかし、犬であればどうでしょうか。犬は散歩に連れて行かなくてはなりません。そして、最近では、近隣の芝を汚し、ハエがたかることがないよう、いざという時のために「落とし物」を入れるあの青い袋を持ち、しずしずと犬に付き従っていくのが、飼い主の務めになっています。スコップを持ち歩くことは、もはや褒められた行為ではないのです。飼い主達は腰をかがめ、袋を裏返して手袋のようにして、芝生を汚すことなく飼い犬の「落とし物」をつまみ上げ、裏返しにした袋を元に戻します。そして、その近所でうまい具合に教会の礼拝やスーパーの買い物に出かけていそうな家のゴミ箱を、急いで探すことになります。本当のところ、飼い主達は心の底で、愛犬がトイレをしないよう、願っているのです。私も3人の子供がいますから、子供たちがおむつをしていた頃のことが思い出されます。おむつ替えは決して愉快な作業ではありませんでしたが、あの環境に優しいとはいえないパンパースは、少なくとも取扱いが実に容易でした。脱着が簡単で、手を汚すこともありませんでした。その当時、「ドギー・バッグ」といえば、ステーキの骨を入れてレストランから持ち帰るものでしたが、現代の「ドギー・バッグ」は、世界が変わりつつあり、多くの点で、私たちの日々の暮らしが惨めになりつつあることを思い出させてくれる、あの青い袋に他なりません。
4,500万人のカリフォルニア州民にも、これと似た比喩を当てはめることができます。カリフォルニア州はかつて、「ゴールデン・ステート」と呼ばれ、新たなビジネス・チャンスに満ちていた、いわばステーキ用高級肉「フィレミニヨン」でしたが、今ではバーガー並の安い「肩ひき肉」に落ちぶれてしまいました。カリフォルニア州の住民はこの地域の支配者ではなくなり、さまざまな面で制限される、短いお散歩ひもにつながれたに等しい状態にあります。失業率12.2%は全米最高に近く、Baaの債務格付けは全米で最も低い水準です。学校はひどい状態にあり、連邦政府が行なっている全米学力調査では、ルイジアナ州やミシシッピ州と最下位を争っている有様です。20年前に比べて、大気汚染は大幅に改善されたものの、高速道路の渋滞は慢性化しており、フリーウェイという名に反して有料化が進んでいます。短気な人、もしくはメルセデス・ベンツに乗る人々のために有料道路が存在する時代が到来したのです。
カリフォルニア州をこうした厳しい状況に追い込んだ原因はさまざまですが、カリフォルニア州は他のあらゆる州よりも歪んだ政治体制の影響を強く受けていると考えられ、予算のスムーズな成立には議会の2/3の賛成が必要になります。かつて、ウィスキーで酩酊した倫理観と常識に欠ける傍若無人な市民が、泥だらけの靴でホワイトハウスの家具を踏み荒らしたジャクソン流民主主義の時代がありましたが、現代のカリフォルニア州法は、これに近い、ある種の直接民主主義により、悲劇的とも言える形になっています。保守派やリベラル派などの提案により、予算の大部分が食い尽くされており、1978年の住民投票事項第13号により財産税は57%引き下げられ、1988年の住民投票事項第98号により、一般会計資金の40%を教育に振り向けることが義務づけられました。最近では、多少なりとも予算が確保できそうになると、学校関係者だけでなく、信じられないことに、いわゆる「刑務所ロビー」により、奪い取られています。ワシントンのKストリートに集まるロビイスト達の間では、カリフォルニア州の刑務所ロビイストが羨望の的になっていることでしょう。
その結果、財政赤字は260億ドルに達しています。この赤字は過去数週間の間に「解消された」とされているものですが、これは主に痛みを先送りし、自業自得のキズに対して、都合よく連邦政府の救済を求めようとする「時間稼ぎ」会計の力によるものです。言うまでもなく、州財政は本来、毎年均衡させなくてはなりません。しかし、米国のほとんどの州では長い間に、それが単なる努力目標になってしまっています。それでも、今年のカリフォルニア州が行った財政危機への対応は、おそらくこれまでの歴史の中でも最大の時間稼ぎであり、増税を事実上、拒否する一方、表面的に経費を削減し、さらには、郡や地域社会が必要とする資金の支払いを停止すると共に、小学生ですら騙されないと思える会計上のトリックを使って、恥の上塗りを重ねました。この過程で、カリフォルニア州は経費を事実上の紙切れで支払うという、新たな形の借金を考案し、その後、イーベイではこの紙切が大幅なディスカウントで大量に取引される事態となりました。カリフォルニア州は、アナグラム・マニアに喜ばれそうなアルファベットを並べた名称がつけられた、さまざまな種類の歳入先行証券を発行しています。先週も寄付を募るかのような資金調達を行い、80億ドルのRAN(歳入先行証券)を、1.5%と短期金融商品としては厳しい金利で発行しました。また、以前には、RAW(歳入先行ワラント)も発行されています。この次に発行されるのはBAG(バッグ)、カリフォルニア州の住民が今では日々拾い集めている、「落とし物」が沢山入ったあの青い袋かもしれません。
カリフォルニア州では、最近、増税期間を延長し、支出への対応ができていなかった5つの法案が住民投票で否決されており、有権者の間で厳しい選択への準備が整ったことを表しているとみられます。より大きな問題は、シュワルツェネッガー知事と州議会が、有害な法案に関する住民投票自体にメスを入れる州憲法改正で合意できるかどうかです。それに対する肯定的な答えが得られるのは、州経済が現在の苦境を抜け出せない場合ですが、そうなる可能性は高いと考えられます。確かに、カリフォルニア州の問題は独自のものであり、自業自得ともいえますが、本当のところ、これは米国の問題です。そして、それは単にカリフォルニア州が米国のGDPの15%を占めるからだけではありません。カリフォルニア州の260億ドルの赤字は、連邦政府の1兆ドルを超える赤字と直接比較できるものではありませんが、どちらも規律の欠如を反映したものであり、さらには、過剰なレバレッジと急落の一歩手前にある現実離れした資産価格の上昇が歳入の大幅な伸びを支えてきたと、認識する能力がなかったことを実証するものです。米国が金融商品を作り出し、アジアが製造業製品を作るという重商主義的な交換が成立する中、カリフォルニア州の資産税、所得税、売上税の税収はすべて、米国の不均衡と、何よりも世界的な不均衡により、不自然に膨れ上がりました。カリフォルニア州では過去12ヵ月間で税収合計が14%減少しており、他の州ではさらに大幅な落ち込みとなっています。夢の国のメリーゴーランドはいつかどこかで止まるものであり、その決定的瞬間がベア・スターンズであったのか、リーマン・ブラザーズであったのか、それとも、2008年9月以降の混乱であったのかは重要ではありません。
現時点で、認識しなくてはならないことは、資本主義が過去数十年間の金融とレバレッジによるリスク・テークを重視したものから、より保守的で、より規制された生産重視のシステムに変容しつつあり、こうした中、世界経済ではカリフォルニア州と米国、そして、英国やスペイン、体力に劣る東欧諸国などの国々が競争上、不利な立場となり、倹約を重視し、将来のために今を耐えることを厭わない国が有利になるということです。「資本主義」という言葉自体、資本を蓄積し、最終的に効率よく利用することにより、企業利益や実質賃金の伸びを実現しようとするものであることを表しています。
そして、カリフォルニア州がかつて保有し、現在、急速に失いつつあるのが「資本」です。財政赤字が100億ドルを優に超える中、資本が失われていることは間違いありませんが、かつてヒューレット・パッカードやアップル、グーグルを始め、新時代のベンチャーを無数に生み出し、シリコンバレーの奇跡をもたらした世界最高水準の教育システムからも資本が失われています。加えて、人的資本の流出が始まりつつあり、カリフォルニア州では流出人口が流入人口を上回るようになりました。米国全体で見ると、人口流出は依然として問題になっていませんが、外国で生まれ、米国で教育を受けた科学者やエンジニアに限定すると、機会を求め自国への帰国を選択するケースが増えています。自由の女神は他国の「疲弊し貧しく身を寄せ合っている大衆」に避難場所を提供し、手を差し伸べてきましたが、それが限界なのかもしれません。それ以外の生きる力のある人々は、結局別の場所へ行き着きます。
ようやく金融システムが安定化した現在、世間はカリフォルニア州の「ガバネーター」ことシュワルツネッガー知事、そしてオバマ政権に、状況を好転させられる資本とビジョン、そして市民としての規律があるのかどうか、疑問視しています。未来のドギー・バッグはステーキの骨を入れるものとなるのでしょうか。それとも、ますます馴染みになりつつあるあの臭いを放つ「落とし物」が入るのでしょうか。「落とし物」が入っていないと証明されるまで、投資家は鼻をつまみ、リスク指向を維持し、青い袋を持っていなくてはなりません。具合的に言うと、以前よりも低い経済成長と利益の伸び、デフォルトによる潜在的な資本の毀損、財産権の侵害、そしてドルの下落に彩られる「ニュー・ノーマル」経済に向かう中、繁栄しないまでも、生き残ることが可能な高格付債や配当の安定した株式が引き続き重視されるということです。
ウィリアム・H・グロースマネージング・ディレクター
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