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Investment Outlook
ビル・グロース |  2008年10月

恐れるものはマックの恐怖

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簡単な説明

今、市場は不安が不安を呼ぶ事態に立ち至っています。自由市場資本主義の輝ける栄光に包まれていたはずの米国は競りにかけられ、買い手がほとんど現われない中、叩き売られています。今にして思えば、こうなった原因は明らかです。常軌を逸した過剰なレバレッジと不十分な規制、資産を基盤とした繁栄を過信し、価格は上がるばかりでなく、下がることもあるという常識を見失ったこと、自己中心的な欲が過大になり、将来の世代にのし掛かる負担への配慮が欠如していたこと、そして合衆国建国の父達にはとても見せられない政治的な泥沼に陥ってしまったことです。他にも原因は数多く、枚挙に暇がありません。それはいずれ歴史家がじっくりと考察するでしょうが、今まさに米国は叩き売られており、競売人の声は恐怖に打ち震えています。

 

一般の米国民はウォール街の流儀について、ほとんど知らないでしょうし、今後も知ることはないでしょう。最近では私自身も日々、仕事を通して学んでいるくらいですから、複雑な翌日物レポやリバース・レポの仕組み、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を利用した企業のクレジットのプロテクションの売買、そして、救済される投資銀行がある一方で破綻に追い込まれる投資銀行もある理由について、普通の市民の方々が理解することはないでしょう。  では、わかりやすくするために議論を単純化してみましょう。信用市場は信頼の上に成り立っており、信頼が失われると、市場は機能停止に追い込まれます。私と共にPIMCOの最高投資責任者を務めるモハメド・エラリアンは、日常生活の中から、これを説明するうってつけの例を見つけました。マクドナルドのドライブスルーでビックマックを注文するところを想像してみてください。最初の窓口で注文を伝え支払いを済ませ、そこから数メートル進んで、品物を受け取ります。ところが、最初の窓口で支払いを済ませても、次の窓口でカロリーたっぷりのビッグマックを受け取ることができるかどうか、分からなくなった場合にはどうなるでしょうか。顧客は支払いを渋るようになり、通常通りに取引が成立しなくなる可能性があります。現在、資本市場ではまさにこうした事態が進行しています。資本市場はこの「マックの恐怖」に取り憑かれ、正常に機能していません。最初の窓口で注文を受け、別の窓口で「ビッグマック」を渡すと約束していた投資銀行、すなわちCDSやスワップ、その他のデリバティブ取引に関わる数兆ドルの支払いを約束していたリーマン・ブラザーズが破綻した後、機関投資家は資金をリスクに晒して「ビッグマック」を注文するよりも、家に籠もってピーナッツバター・サンドを食べる方が良いと意思表示するようになりました。そして、投資家の資金がマクドナルドのレジには入らず、タンスにしまわれたままになると、失業は増加し、企業収益は落込み、銀行ローンの借入れは一層困難になり、米国経済は支柱を失うことになります。

 

より高度な解説

PIMCOのインベストメント・コミッティーのメンバー全員が、資本主義はこれまでに生み出された経済システムの中で最も優れており、最も有効であると考えていますが、資本主義には欠点もあります。それは本質的に不安定さを伴うということです。資本主義であれ、社会主義であれ、共産主義であれ、経済が機能するには耐用年数が30年以上の建物や道路、工場、住宅などの固定資産が必要になります。古典的な共産主義経済の場合、こういったものを作ってしまえば、事は終わります。資金調達や借入金の返済が必要になることはなく、何も心配はありません。しかし、資本主義の場合、こうした資本プロジェクトの資金を調達するための負債や株式の売買を通じて短期的な利益の最大化を図ろうとするため、そこには不安定さという要素が加わることになります。資本主義はその根幹で、利益の最大化を指向しているため、企業と家計は何らかの形で資金を借入れ、何らかの形で株式を発行し、この負債や株式を互いに取引します。そして、これがバブルと破綻、偽りの繁栄、そして不安定さの芽を育むのです。

 

しかし、資本主義が特に脆弱になるのは、倒産の可能性が増加し、不安定さが加速する現在のような局面です。こうした局面では、不安が信頼に取って代わります。いかなる経済であれ、存続するには建物や道路、そして住宅の恒常的なメンテナンスが必要です。旧来の共産主義政府であれば、新5ヵ年計画に予算を配分し、その建設に人員を割り当てるだけで済むところ、資本主義では価格や市場、そして、見えざる手が将来の利益をもたらすという信頼を通して、同じ作業を完了しなくてはなりません。住宅を例に取りましょう。住宅価格は20世紀においては長い期間、大きく上昇することもなければ、下落することもありませんでした。しかし、これから価格の下落が見込まれるとした場合、消費者は住宅購入を躊躇するでしょう(そして、銀行もローンの貸出を躊躇するでしょう)。企業が工場を建設する場合や研究開発に投資する場合も同じです。利益と価格の上昇こそ、資本主義の根本的な原動力です。

 

先月号のInvestment Outlookでは、金融市場が大津波に呑み込まれる可能性について取り上げましたが、あのレポートは、PIMCOが保有する、既に十分に保護されている政府機関モーゲージ債の救済を意図したものではありません。むしろ、読者の皆様と政策当局に対し、レバレッジの解消プロセスにおける資産売却が、住宅の差押えとあらゆる形態の資産を保有する脆弱な金融機関の破綻につながる中、資本主義固有のこの不安定性がまず住宅市場に襲いかかり、次に銀行や投資銀行、保険会社など、金融機関に広がっていく可能性について、警鐘を鳴らすつもりで書いたのです。最近の一連の出来事はこの考え方が的外れではなかったことを証明するものであるといえます。しかし、重要なことは、あらゆる資産クラスで価格が下落しているため、今後の長期の資本を要するプロジェクトに対する投資と実体経済への脅威が拡大していることです。もちろん、資本を投じる投資家の利益を保証する必要があると言っているわけではありません。そうではありませんが、ワシントンでもロンドンでもフランクフルトでも東京でも、そして北京でも、あらゆる資産の価格が2桁の下落となれば、それは大きな問題です。この点を明確にするため、先月号で紹介した資産価格のチャートをもう一度、掲載しましょう。



さて、システム全体に資本主義固有の不安定さが広がる局面についての認識が新たになると、必然的に次なる注目点は、それを解決するための全体的な方策に移ります。これまで注目を集めてきたのは米国の政策であり、それはもっともなことです。それは行き過ぎた熱狂が最も顕著であったのが米国だからです。しかし、財務省による8,500億ドルの救済策が打ち出されるまでの間、必要に迫られ、かなりの規模の政策対応が取られてきたとはいえ、それらは場当たり的であり、十分なものではありませんでした。システム全体で進行するレバレッジの引き下げには、システミックな対応が必要であり、それは短期的な利下げや流動性の供給、あるいはサブプライム・モーゲージ債の購入をも超えたものでなくてはなりません。PIMCOFRB(米連邦準備理事会)が今こそ決済機関としての役割を果たし、2番目の窓口で金融機関同士のビックマック取引が決済され、投資家に対してビッグマックの受け渡しができるように保証する必要があると考えています。同時に、FRBはもう1つの大胆な対応を取ることが必要です。それはコマーシャルペーパーを自ら直接購入することです。さらに、FRBは金利を1%に引き下げるべきでしょう。現在起きているのは資産デフレであり、ヘッドライン・インフレの脅威は既に過去のものとなっているのです。

 

こうした対策が成功するかどうかの決め手となる1つの要因は、不安が不安を呼ぶ悪循環が行き過ぎのところまで進むかどうかです。そして、成功の鍵を握る1つの要因は世界的な政策協調です。それは米国型の資本主義が米国だけのものではなくなっているためです。ほぼすべての主要国経済がこれまでに何らかの形で米国型資本主義を取り入れており、それに付随する不安定性も受け継いでいます。しかし、現在では以前のように米国が政策対応を牛耳っているわけではなく、各国が協調して同じ政策を進めているわけでもありません。ブラジルのように利上げを終えたばかりの中央銀行もあれば、中国のように、流動性を緩和するのではなく、吸収している中央銀行もあり、これを世界レベルで差し引きすると、メディアが言うほどの効果を上げられない可能性もあります。そして、統一の取れた世界的対応を期待することは難しいかもしれません。IMF(国際通貨基金)と世界銀行を中心とした国際機関は以前のような処方箋を提示することができず、近い将来、プラザ合意やルーブル合意のような国際協調が実現する兆しもありません。米欧の中銀間で合意されたドルスワップ協定などはありますが、基本的に各国はそれぞれ独自の道を歩んでいると思えます。

 

結論と投資方針

将来の経済学の教科書には、資本主義について、「人類が考案した中で最もダイナミックで生産的なシステムであるが、このシステムが効率的に機能するのは、民間のインセンティブと政府による監視の間の微妙なバランスが保たれている場合である」と記載されることでしょう。今まさに、政府が差し伸べる手とアダム・スミスのいう「見えざる手」がはっきりと目に見える形で握り合うことになります。長期にわたる不況が予想されるものの、政府が手を差し伸べることにより、恐慌は回避されるでしょう。また、財政赤字は数ヵ月前にこのInvestment Outlookで予想したように1兆ドル近くに増加し、最終的にインフレ率と長期債利回りは上昇することになるでしょう。しかし、当面の間はコマーシャルペーパー市場が機能を回復する可能性と世界的な協調利下げに注目することが最良の選択肢となります。米国債とLIBORカーブの短期セクターを保有すべきです。政府機関モーゲージ債も、財務省による買い取りが追い風となるでしょう。流動性を維持しつつ、信用力の優れた投資対象に集中すべきです。また、「マックの恐怖」、すなわち不安の増幅に対する警戒を怠らないこと。今はこれが賢明です。

 

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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