ウォール街版SAT試験問題
ルイス・ルーカイザーとジム・クレイマーの関係と近いものはどれか。
(A) ふさふさだった頭髪と禿頭(B) マンハッタンのアップタウンとブルックリン(C) 大昔の郵便ポニー・エクスプレスと電子メール(D) 上記(A)から(C)すべて
(D)を選んだ方には、満点の800点を差し上げましょう。かつての経済番組の人気キャスター、ルイス(ルー)・ルーカイザー氏と現代の人気キャスター、ジム・クレイマー氏は正反対であり、人間性から話し方、声の大きさまで全く異なりますが、実を言うと、かつて投資に関する世論に強く影響与えたルーの番組も、今の世論に影響を与えているジムの番組も、私のお気に入りの番組なのです。金曜日の夜に放映されていたルーカイザー氏の “Wall Street Week”は、巧みに構成された彼のモノローグで幕をあけ、語呂合わせをちりばめながら、厳しい批評を加え、時にアナリストやポートフォリオ・マネージャーは兵役についた方が世のためだとも言わんばかりの結びで幕を閉じる番組でした。一方、クレイマー氏の“Cramerica”は毎日放映される軽めの番組であり、愚かな人々を手厳しく責め立て、無知なる投資家と賢明なる投資家が戦い、最終的に「何も分かっちゃいない」連中は実務に携わるよりも、教壇に立っていた方がお似合いだと断定されます。おそらくはルーカイザー氏もクレイマー氏も正しいことを言っているのであり、だからこそ、私はこの2つの番組に惹かれるのではないかと思います。
クレイマー氏に関しては、午後遅くの“Lightning Round”コーナーでその日の取引に関して彼が示す判断を気に留める必要なんてないと思われる読者もいるかもしれません。ですが、彼は愉快であり、さらに視聴者が発する「ブーヤー」という合い言葉は何度聞いても飽きさせません。実際、私はクレイマー氏の番組には単なる銘柄推奨以上のものがあると考えています。彼はマネー・マネージャーとしての本能を持っていますが(なぜなら、彼はマネー・マネージャーの出身です)、自らの信念に忠実であるという類い希な資質も併せ持っています。市場の陰の極でFRB(米連邦準備理事会)に挑みかかるには勇気が必要です。それはまるで、タイタニック号のダイニングから飛び出してきた乗客が操舵室に駆け上がり、「艦長、この船から避難しないといけません。目の前に氷山が迫っています」と叫ぶようなものであり、実際に氷山は迫っていたのです。クレイマー氏は娯楽や勇気以外にも、毎日のように良識に基づくメッセージを発しています。確かに、“Lightning Round”はルーカイザー流の深い分析に基づくものではなく、お手軽に作られたものですが、そこには、分散投資が重要であり、市場が常に上昇するわけではないことに気づいて欲しいとの願いがあちらこちらに散りばめられています。ルーカイザー氏の場合、本質的には常に強気でした。これに対し、クレイマー氏は一方の目で集中投資の危険性を警戒し、もう一方の目では略奪者の餌食になる危険性に目を配っています。物事の核心を見抜くことができれば、何かを学べる場合があります。私も、月曜日から金曜日の午後には、毎日自分にそう言い聞かせています。ブーヤー、ジム!
私が、クレイマー氏と、彼が少なくとも金融メディアにおける大物の1人に上りつめたことを取り上げた理由は、彼がしばしば口にする「よろしいですか、どこかで必ず上昇している市場はあるのです」という言葉にあります。その単純さゆえに、この考え方に反論することは困難であり、株式でも、債券でも、下落局面でも上昇する銘柄はあります。たとえば、正常に機能していた時分の債券市場ではモーゲージ債をPO(Principal Only)部分とIO(Interest Only)部分に切り分け、投資家はモーゲージ債の元本返済部分と金利収入部分を選択することができました。一方は金利低下局面で有効な投資対象であり、もう一方は金利上昇局面における有効な投資対象でした。クレイマー流の思考をおそらく最も純粋な形で体現しているのが為替市場でしょう。つまり、ドルが下落局面にある場合、それは必ず他の複数の通貨が上昇していると考えることができるわけです。さらに一歩進めると、「Grant’s Interest Rate Observer」誌を発行するジム・グラント氏ならば、個別通貨の独自の動きを認めながらも、あらゆる通貨が金に対して値下がりしていると主張することでしょう。グラント氏の世界でも、何かは上昇しているわけです。
つまり、どこかにある上昇相場を見つけ出せというのが教えです。しかし、上昇相場は「ほぼ常に」存在するものの、今はそうではないのです。現在、レバレッジの解消が進む世界の金融市場で価格が上昇するのはどこにでもありふれた砂のような資産ではなく、希なダイヤモンドのような資産なのです。
過去数ヵ月間、PIMCOのインベストメント・コミッティーでは黒板に次のような展望が掲げられています。
レバレッジ解消が進む中で起きる事態
PIMCOでは、これについて、単純化し過ぎたきらいもあると考えていますが、必ずしもすべての読者にとって明確というわけではないでしょう。「期間プレミアムだの、リスク・スプレッドだの、ボラティリティだの、上昇相場や下落相場と何の関係があるのか」。こうした疑問もあることでしょう。ステップ(1)は、GSE(政府支援機関)、銀行、投資銀行、世界のヘッジファンド、そして個人までもが資産を縮小し、バランスシートのレバレッジ引き下げを図るに伴い、売却対象となる資産の価格が下落するだけでなく、そうした資産との間で裁定可能な他の証券の価格も下落することを意味しています。たとえば、過去12ヵ月間、サブプライム・モーゲージと、プライムとサブプライムの中間にあたるAlt-Aモーゲージに対する懸念が高まり、こうした資産の価格は急落しました。必然的に、こうした資産を保有する企業の株価は下落していますが、内容に問題のない全く別の資産の価格まで下落しています。現在、ジャンク・モーゲージの利回りは15%に達するものもあります。このため、暗黙の政府保証に加え、財務省が必要な場合には資本注入を実施することを約束したことにより、正真正銘のトリプルAの格付が付与されている政府機関モーゲージ債から、限界的な部分で資金流出が発生しています。PIMCOが推計したところでは、レバレッジの引き下げに伴い、ファニーメイとフレディマックのモーゲージ債の価格は最大で3~4%が下落し、それぞれの固定金利30年物証券の利回りは最大75ベーシスポイント上昇しました。
同じように、資産の売却や流動性の顕著な低下に伴うボラティリティは、リスク・スプレッド・プレミアムをさらに押し上げ、幅広い投資家が保有するあらゆる株式と債券、および一部の不動産の価格の下落につながっています。こうした動きがあいまって、現在のレバレッジの引き下げは、主要な3つの資産クラス全体の価格を下落させています。それを示しているのがチャート1ですが、このチャートをみると、なぜそれほど大騒ぎしているのかと、不思議に思われるかもしれません。このチャートから分かる通り、以前にもこの3つの資産クラスが低調となり、米国経済が輝きを失いかけたことはあったのです。しかし、今回のような前年比10%を超える下落は大恐慌以降、経験されたことはなく、それだけでも潜在的な危険信号です。その上、資産価格が10%下落すると、米国民の富はそれ以上に失われます。こうした資産の多くはレバレッジや信用を利用して購入されたものであるため、下落幅が大きくなるほど、マージンコール(追加の担保・証拠金の差入れ要求)は頻繁になり、その深刻さも増すことになります。そして、追加のキャッシュフローが提供されなければ、資産の清算だけでなく、債務の清算が引き起こされることになります。債務の清算は低迷し景気後退色の濃い経済をさらに深刻な状況へと突き落とす危険性があります。たとえば、住宅市場をみると、全米の住宅価格は15%下落しています。ところが、毎月の元利金返済は変動金利契約、もしくはオプション契約により増額されることが多く、このマージンコールが差押えにつながると、債務の清算が起こり、はるかに深刻な事態を招くことになります。銀行は住宅を保有することになり、市場でこれを売却するため、価格はさらに下落し、それが新たな差押えを発生させるという形のスパイラルが発生することになります。
現在、米国の金融システム、そしておそらくは世界の金融システムでも、こうした滅多に目にすることのないようなシステマチックな債務の清算を目の当たりにしています。これを放置すると、キャンプ・ファイアーは山火事となり、資産価格の軽度な下落は金融市場を呑み込む破壊的な大津波となる可能性があります。もちろん、各国中央銀行は過去12ヵ月間、被害を最小に食い止めようと、消防士やライフガードよろしく、全力を尽くしてきました。そして、下落相場の大底を予測し、「バーゲン」を拾おうとする民間の動きも前向きの作用を及ぼしてきました。この1年間で銀行を始めとする金融関連に投入された資本は4000億ドル以上に上ります。これはかなりの金額であり、私を始め、PIMCOのファンド・マネージャーもその一翼を担いました。しかし、残念なことに、こうした動きは時期尚早でした。こうした案件の中で、額面以上の価格を維持しているものはほとんどなく、債券市場流の言い方をすると「すべて水面下に沈んでいます」。そのため、PIMCOも、諸外国のSWFや中央銀行も、追加的投資に二の足を踏んでいます。
したがって、レバレッジ引き下げ過程を示した黒板のステップ2は膠着状態にあり、否応なくステップ3に変化しつつあります。資産の清算が続いていますが、民間市場では、これ以上の資本の投入に対する躊躇が広がりつつあります。流動性は枯渇しつつあり、リスク取得意欲はきわめて低く、一時的に株価の回復がみられたものの、資産価格の多くが下落を続けています。そして、原油や商品価格までもが下落し始めました。どこかにジム・クレイマー氏の言う上昇している市場があるのかもしれませんが、新たなバランスシートと資産価格を支える流動性の新たな源泉が登場しない限り、それは幻影に過ぎません。
新しいバランスシートが必要というと、今度はデロイト・トウシュのような会計事務所か何かのたとえ話と思われるかもしれませんが、そういう訳ではありません。先ほどの黒板に書かれたプロセスは、資産債務デフレに最終的に歯止めをかけるために、これまでとは異なる、かなりの規模の新たな購買力の源泉が必要であることを示唆しており、PIMCOのインベストメント・コミッティーもそう考えていると言いたいのです。フレディマックとファニーメイに追加的な資本を呼び込もうとする財務省の試みが失敗したことで、新たな購買力の必要性がきわめて明確になりました。しかし、資産の清算を進める中、レバレッジ水準の高い機関は例外なく同じジレンマに直面しており、今後もこのジレンマは続くとみられます。新たなバランスシートが現われない場合、こうした機関が唯一可能なことは資産の売却であり、多くの場合、それは価格の一層の下落を招くか、最終的に債務の清算やデフォルトを発生させることになります。
大恐慌時代の銀行強盗、ウィリー・サットンは銀行を襲う理由を聞かれ、「そこに金があるからだ」と答えています。確かに違法ですが、他社の資金を強奪することを生業にしているとすると、これは800点満点に近い答えです。時間を現代に戻すと、今後、モラル・ハザードや規制当局による違法すれすれの不作為、金融セクターと富裕層に対するさらなる救済を取り上げ、政府による救済を「スリック・ウィリー」と呼ばれたウィリー・サットンにたとえるケースも出てくるでしょう。しかし、常識的に考えて、過去に例がないほどの規模で進む資産と債務の清算に歯止めをかけようとするのであれば、財務省のバランスシートを開放し、これを利用する政策が必要になるというのが唯一の結論になります。そして、これはフレディマックとファニーメイだけに開放されるのではなく、FHA(米連邦住宅局)やその他政府機関による補助金付き住宅ローンを通じて、一般の米国民にも開放されなくてはなりません。たとえば、ラリー・サマーズ氏などが提唱している21世紀の住宅版RTC(整理信託公社)も、民間セクターが機能しない、あるいは二の足を踏む稀有な状況の中で求められる政府の財布、すなわちバランスシートの例と考えられます。
米国全体で投機的な買いが進行したことは、資産価格が下落する中、明らかです。ただ、そのツケは現時点で支払うこともできますし、後から払うことも可能です。金融セクター政策に関する試験で800点満点を取ろうとするのであれば、責任のあるあらゆる参加者にその償いをさせようと、道徳的な怒りから出し惜しみするよりも、最初にツケを支払ってしまった方が負担は軽くなるという結論になるでしょう。これまでFRBは12ヵ月を費やして、「ちゃんと分かっている」ことを証明してきましたが、今度は財務省がそれを証明する番です。
さあポールソン長官、ブーヤー!
ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
`ピムコジャパンリミテッド 105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズオフィス18階 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレなどに関するリスクを伴うことがあり、投資は換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。国債には発行政府の完全な政府保証が付与されています。ただし、国債に投資するポートフォリオは政府保証の対象にならず、その価値は変動します。モーゲージ担保証券や資産担保証券は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。また、一般的には政府、政府機関、または民間保証人の支援に裏付けられていますが、保証人が債務を履行する保証はありません。ハイ・イールド債への投資は高格付けの債券よりもリスクをより伴うこととなります。株価は、市場、経済、産業における実態および見通しの両面により下落することがあります。運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。
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