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Investment Outlook
ビル・グロース | 2008年6月

何かおかしい…

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一部の人を永遠に騙すことはできる。

また、すべての人を一時の間、騙すこともできる。

しかしすべての人を永遠に騙し続けることはできない。
                   エイブラハム・リンカーン

「この国に必要なのは5セントで買える良質の葉巻だ」と言ったのは20世紀初頭、ウィルソン大統領時代の副大統領、トーマス・マーシャルですが、今この国に必要なのは、貧しい農民家系の出身で「イリノイのレールスプリッター」と呼ばれ、足元で起きていること、すなわち真実を包み隠さず国民に語ったリンカーン大統領が蘇ることかもしれません。これまで米国民はあまりに長い間、真実を知るよりも、娯楽を優先させてきたため、視聴率至上主義のメディアによって固定化された通説を、少なからず額面通り受け入れるようになっています。たとえば、ここ1年の間、大統領予備選挙に関する尽きることのない報道のシャワーを浴び、共和党であれ民主党であれ、候補者の説教師が私たちの投票行動を左右する大きな要因になるはずだと多くの国民が考えるに至っています。国民にとって、悪化しつつある医療制度の質よりも、今週の「アメリカン・アイドル」(全米で人気がある公開オーディション番組)では誰が脱落するかの方が重要な問題です。代替エネルギーに関する議論よりも、リンジー・ローハンやブリトニー・スピアーズがしでかした新たな奇行の方に関心を示す一方で、なぜガソリン価格が1ガロン4ドルに上昇したのかと訝ってもいます。これまでも常にそうであったように、国民は無関心というわけではなく、関心を持つ対象を誤っているのです。関心は、十分な情報を得た上での選択よりも娯楽に向かい、イデオロギーに関する根本的な議論よりも些細なことに向かっています。

 

ローマ人が日曜日の午後、コロッセオで娯楽に興じている間にも、ローマ人よりも教育水準が高く、勤勉で、明日を良くするためであれば、今日の犠牲を厭わない軍勢がアルプスを越え、現代のローマに向けて進軍しています。アメリカ国民の富のうち、推計1%が毎年、外国人の手に渡っていることに不思議はありません。私たち米国民は肥満気味で、教育水準が低く、享楽的であり、米国の地政学的重要性に対する過剰な自意識により、次々と味方を失っています。民主党のオバマ候補は「Yes we can(私たちはできるんだ)」をキャッチフレーズにしていますが、もしそうだとしたら、重要なのはその「私たち」という部分であって、11月に選出されるこの国の指導者ではないでしょう。ごろ寝を止め、肉体と知性、そして制度もシェイプアップし、この国の将来について、十分な情報に基づく選択を始めるべきです。リンカーンもおそらく同意すると思いますが、騙されることの最も悪い点は、自らを騙すこと、つまり思い違いをしてしまうことです。これまでの米国の歴史を振り返ると、国家として、私たちは随分と自分自身を騙し続けてきたようです。

 

私たちが思い違いをしていることの一つに、インフレをコントロールできている、という確信があります。私は200410月のInvestment Outlook大いなる欺瞞』で、この点を取り上げました。私はインフレ率に関して、独立戦争の英雄ポール・リビアのようにいち早く危機を伝えたという訳ではなく、米国のCPI統計は消費者段階での真の物価を反映していないという見解に賛成したに過ぎません。その後の4年間で、新聞やケビン・フィリップス氏を始めとする手厳しい評論家がこの主張に賛同しています。フィリップス氏の最新著書『Bad Money』は、十分な情報を手にした米国民が書き上げることのできる、現在の経済状況とここに至る経緯を具に紹介した優れた著作であり、この夏の読み物としてうってつけです。

 

今回は過去10年間を対象とした2つのグラフを使い、米国のインフレ率算定方法の妥当性について、再度議論したいと思います。一方のグラフは、米国を除く主要24ヵ国の前年比物価変動率の推移を示したものであり、もう一方のグラフは同じ期間について、米国の物価上昇率の推移を示したものです。この2つのグラフを見比べると、第1にトレンド、第22つの計算の平均の点での違いが明らかです。エド・ハイマン氏とISIInternational Strategy & Investment)が選定したこの主要24ヵ国では、過去10年間の平均インフレ率は7%近い水準になっています。これに対し、米国の平均インフレ率は2.6%です。直近12ヵ月をみると、24ヵ国の平均が同じく7%であるのに対し、米国のインフレ率は4%近くに上昇しています。 

 

私にはこの点がどうも納得できないのです。確かに、1990年代終盤にはブラジルやベトナムなど、景気が過熱した特定の国では必然的にインフレ率は非常に高く、その一方で、米国の生産性の「奇跡」は米国のインフレ率を他の一部の国に比べて、若干低下させた可能性はあります。しかし、同じ期間に米ドルは主要競合国通貨のバスケットに対して30%下落しており、その他の条件が同一だとすると、このドル安は生産性の奇跡と逆方向の影響をもたらしたはずです。米国のインフレ率が常に米国を除く世界全体よりも3%近く低いというのは、おかしいとは思いませんか。ますますグローバル化された「世界共通価格」のコモディティが主導するグローバル経済にあって、エコノミスト達はねじれたフィリップス曲線や産出ギャップ、多要素生産性といった理論付けにより、この状態を説明できるでしょうか。できるとは思えないのです。誰かが騙そうと企み、そのうち自らをも騙してしまったのかもしれません。もっとも、このレポートは陰謀を暴き立てることを目的としたものではありませんし労働統計局や財務省は数多くの統計官やアナリストを擁し、さらには入れ替わりも激しいため、そんなことを考える余裕はないと思われます。私にとって気になるのは、一部の人々が常に騙され続けていること、そして、インフレ率が正確に測定されることにより、投資家にとって、大きな違いが生まれるという点です。

 

米国のインフレ率は主に次の3つの点で、他の国と算出方法が異なっていると考えられます。それは(1ヘドニック法による品質調整、(2)帰属家賃を利用して算定する住宅コスト、(3)幾何加重平均と項目の入れ替えです。過去25年間に、この3つの点すべてにおいて、算定方法が変更されましたが、いずれも米国のCPIを低下させる方向に働くものでした。最初の変更は1983年に労働統計局による住宅コスト算定方法の変更です。労働統計局は住宅保有者が住宅を賃貸に回した際に得られると推定される家賃を基にした指標の方が、現実の状況を正確に反映できると主張しました。しかし、この想定の妥当性は怪しいものです。過去10年の実績からすると、住宅平均コストの年間上昇率はその代替となる帰属家賃3倍のペースに達しており、この変更がなかったとすると、CPIは全体で年間1%程度高くなっていたと考えられます。

 

1990年代になると、米国のCPIにはさらに3つの変更が加えられました。この3つの変更点については、他に米国に匹敵するほどの大々的な変更を加えた国はなく、こうした変更自体が実施されなかった国もあります。そして、この3つとも、米国の年間インフレ率を低下させるものでした。項目の入れ替えと幾何加重平均では、いずれも高価な財とサービスの利用が減少し、安価な代替品や代替サービスに取って代わられると想定されています。たとえば、牛肉価格が上昇している局面では、ステーキの消費量が落ち、ハンバーガーの消費量が増えると想定されました。その後、1990年代終盤になると、ヘドニック品質調整が加速し、統計上、コンピューターやその他耐久財の価格が大幅に下落しました。消費者が新たに購入するアップルのマッキントッシュやウィンドウズ・パソコンは以前よりも100ドル程度値上がりしているにもかかわらず、性能が以前よりも2倍になったため、CPIでは値下がりしていると算定されています。何かおかしいとは思いませんか? BLSの算定通りに、財布への負担が軽くなったと感じられた消費者がいたでしょうか。

 

私は2004年に、こうした算定方法の変更により、CPIが実際の物価上昇率よりも年1程度低くなっており、そのために、ほぼ同じだけ、実質GDP成長率が実際よりも高くなっていると主張しました。実際に、旧来の方法で算定したCPIを測定している調査もありますが、その結果は芳しいものではありません。ただし、こうした調査結果はその正確性を検証できないため、ここで紹介することは控えます。しかし、こうした調査結果を持ち出さなくても、先ほどの過去10年間のCPIチャートが示す世界と米国の違いには目を見張られることと思います。この10年間、米国では公的、民間両セクターの主導で、金融が経済の基礎となり、あらゆるものが証券化され、リフレ的政策が進められてきたにも関わらず、また、ドル安にも関わらず、この状況です。何かおかしいとは思いませんか?

 

また、FRBの金融政策は長年にわたり、「ヘッドライン」インフレ率ではなく、「コア」インフレ率に注目してきました。この「コア」インフレ率という考え方はニクソン政権時代、OPECの強硬的姿勢により、1バレル12ドルに急騰した石油価格の突発的影響を排除するために、考案されたものです。過去数十年にわたり、インフレ率の平均回帰という考え方により、ヘッドラインとコアは密接に連動すると考えられてきました。しかし、モハメド・エル・イーリアンがPIMCOのインベストメント・コミッティーで度々紹介しているチャートからすると、両者の乖離は明らかであり、両者が均衡を取り戻す過程で、ヘッドラインがコアをかなりの長期間にわたって下回ることがあるのだろうか、という疑問が浮かびます。先日発表した長期経済見通しのサマリーでエル・イーリアンが主張した世界的なコモディティの不足と過剰労働力の縮小からすると、その可能性は低いと考えられます。


 

たとえば社会保障給付や賃金交渉など、数々の分野でインフレの正確な指標が必要とされます。実態よりも低いインフレ率が、一般市民ではなく、政府や企業に有利であることは間違いありません。しかし、インフレ率は債券利回りや株価、商業用不動産のキャップレートを推計する際にもきわめて重要です。コア・インフレ率が実際には2%ではなく、3%だとすると、債券投資家はより多くの見返りを求めることになり、名目債券利回りは理論上、現在の水準よりも1%高くなる可能性があります。株式と不動産のバリュエーションに用いられるゴードン・モデルでは、インフレによる名目利回りの付加部分ではなく、「実質」部分が重視されますが、名目債券利回りの算定にあたり、実態よりも低いCPIが広く利用されていることは、TIPSを含め、実質利回りが事実上、一般に考えられているよりも1%低いことを意味します。株式リスク・プレミアムを一定とすると、実質利回りが上昇した場合、米国の株価収益率は低下します。この債券、株式、不動産という3つの投資対象すべてのバリュエーションに対する投資家の認識が見直されることになるとすると、債券で5%程度、株式や商業用不動産ではおそらく10%以上の価格下落調整が起きると考えられます。

 

懐疑的な向きは、資産を基盤とした米国経済が、適切な価格への再調整に耐えられるかどうか、そして、1980年代前半に始まった市場を基盤とする資本主義の絶頂期に、米国のCPIを他国のCPIとは異質なものへと変えたCPI算定方法変更の妥当性について、労働統計局は真剣に議論したのかを疑問視するでしょう。以前はインフレ率が実際の物価上昇率を下回っていることについて、厳然たる事実を突き付けられるよりも、それに目をつぶる方がよかったのかもしれません。しかし、世界の他の多くの国がハードワークと適切な情報開示を志向し、浅薄さを伴う米国型手法の採用を拒んでいるのと同じように、投資家も、米国のインフレが以前に想定されていたよりも世界の水準に近いはずであり、実際に近いことに、突如として気がつく可能性があります。数兆ドルに上る米国資産を保有する外国人投資家は、価格受容者ではなく、価格設定者となりつつありますが、その価格自体が妥当ではない可能性があるということになります。何かおかしいとは思いませんか?

 

さて、そこで、運用に関してはどのような結論が得られるでしょうか。世界のヘッドライン・インフレ率が7%に達する現在、新たなグローバル投資戦略が求められています。PIMCOは喜んでこれを提供したいと思いますし、その能力があると自負しています。PIMCOは次のように考えます。(1)実質金利が(非現実的な)マイナスであるため、米国国債が選好されないことは明らかです。(2)米国のTIPSCPIに対するプロテクションを提供するものの、名目債同様、実態よりも低いインフレ率により、本来よりもリターンが低くなるリスクがあります。(3)一方、コモディティを基盤とする各種資産と、国内のCPIや名目債券利回り比較の点で、株価収益率に確固たる裏付けのある外国株式は有望な投資&#