私は自分自身について、そこそこ賢いものの、決して群を抜いて賢いわけではないと考えています。つまり、IQの高い人々の集まりであるメンサに入会できるほどではありませんが、大学を出て、真の教育の場である実社会で仕事を得られる程度の知力は持ち合わせているということです。母はよく、私がオハイオ州バトラー郡の小学1年生の中で、最も知能指数(IQ)が高かったと言っていました。そう言われると誇らしい気分になったものですが、その後、知能テストを受けた子供の数がごく僅かであったことを知りました。私はデューク大学を卒業し、UCLAの大学院を修了しましたが、どちらも最優秀とはいきませんでした。要するに、そこそこ賢いかもしれないけれど、天才ではないということです。それが私ですし、それで十分です。なぜなら、成功、特に仕事で成功するためには、IQ以上のものが必要だからと思えるからです。成功するためにはCQが必要です。ここで言うCQとは「常識力(Common Sense Quotient)」のことです。常識力とは情報を吸収し、必要に応じて再利用することができるだけでなく、それを分析し、全く異なる状況や流れの中で活用できる能力を指しています。CQ分野のメンサが存在するとすれば、それに入会できる人は、一見して均衡した状態にある世界を見て、「現在の状態は妥当なのだろうか」と疑問の目を向けることができ、妥当ではないと判断される場合には、「いつ、どのように変化する可能性があるのか」と考えることができる人々です。しかし、CQには、自分自身についても他人についても、その存在を確認し、正確に測定することができないという問題があります。CQは捉えどころのないものであり、はかないものと言えるかもしれません。そして、他に類を見ないほど、きわめて個人的なものでもあります。自分自身の視点に立つ限り、世界は常に妥当であり、他人はそれをなかなか理解してくれないと感じられます。それでも、ビジネスの世界と投資の世界では、IQが見るからに高くても経験により磨かれるCQ値の低い、表層的な人々の真の姿が、時間と共に明らかになるものです。IQとCQが共にメンサに入会できるほど高いウォーレン・バフェット氏は、ずっと以前、彼独特のくだけた調子でそれを見事に表現しています。「誰が裸で泳いでいるかは波が引くまで分からないものだ」。バフェット氏の例えでいくと、世界全体が海岸で終わりなき夏の日を楽しむかのような、浮かれた気分でいる間も、CQの高い人々はビーチコートを着込み、水着に保険をかける必要があることを理解しているということです。2008年3月にベア・スターンズが吸収合併されるまで、世界の投資環境はこうした浮かれた状態にありました。世界は長期にわたる「大いなる安定」の進行にあまりに慣れきってしまっていたと思われ、深刻な事態が起きる可能性を懸念する人はほとんどいませんでした。数日前、IQの高いある優秀なポートフォリオ・マネージャーがラジオ番組で、自らについて「25年にわたる長期上昇相場の中で育ち、押し目買いが常になっている」と語るのを耳にしました。確かに、私たちは誰もが上昇相場の中で育ったのですが、それを「押し目買い」で定義してしまうこと、もしくは長期的時間軸を過去四半世紀だけで定義してしまうことは、近視眼的であり、常識に欠けているのではないかと思われます。今、幕が引かれようとしている時代は、1980年代初頭に、それまでの2桁に上るインフレの終息と民間へのさまざまな規制の緩和で生まれた、たった1世代の強気相場ではありません。それよりもはるかに大規模で、長期間続いてきた時代が終わったのです。 おそらく、半世紀以上にわたる信用供与とレバレッジ金融の拡大の時代が終わったと表現することが最も適切でしょう。住宅ローンや「月賦」払いでの洗濯機購入が始まったのは、20世紀初頭のことですが、本当の意味でクレジットが普及し、革新的な形で利用され始めたのは、ちょうど私が生まれた頃のことです。私の生まれた1944年は今のレバレッジを基盤とする経済の起点となった年と言うことができるかもしれません。第2次世界大戦末期のこの年、ブレトンウッズにおいて、ドルに対する信認とドルの発行が世界を復興させる力を基盤とした新たな世界的指導体制を確立することが合意されました。私はこの体制の中で育ちました。1970年代初頭、ニクソン大統領がこの協定に修正を加えましたが、その後、10年にわたってインフレが高止まりしたことを除いて、この修正による直接的な被害は生じませんでした。信用は資本主義のエンジンにとって魔法の潤滑油として機能し、エンジンの回転数は上がり、金融イノベーションとリスク取得意欲が一体化し、より多くの利益や雇用、そして諸々のものが生み出されました。1970年代にはモーゲージを担保としたジニーメイ債が生み出され、その後、金融先物、スワップ、そしてクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)など、数え上げると切りがないほどの多くの金融商品が誕生することになります。 ところが、重要なことに、21世紀に入ると、この現代金融の奇跡に重大な障害が出始めました。現代金融の奇跡は分散に加え、資本主義が拠って立つ貸出しの持つ生産的な力を通じて、各方面に多大な恩恵を与えてきました。長期的現象を人に例えるなら、この奇跡には、問題など生じることはないとの驕りがありました。この奇跡は、単なる穏やかな航海、すなわち「安定」を上回る「大いなる安定」を促進していました。これは止めようのない流れでしたが、それでも、この「大いなる安定」は、カリフォルニア州モデストの50万ドルに値上がりした住宅を、頭金ゼロで当初の優遇金利が2%のローンを借りて購入した住宅保有者にまでは及びませんでした。レバレッジ金融が最高潮に達した場面でも、これほどの夢物語は支えきれず、2006年になって利回りが必然的に上昇しデフォルトが起き始めると、大波に呑まれ丸裸にされた「大いなる安定」の真の姿が露わになったのです。そして、今に至ります。これが1944年から、私ビル・グロースが体験してきた人間喜劇を比喩的につづった歴史です。予見的であり、個人的であり、CQ的であり、都合のよい解釈かもしれません。それでも、PIMCOはしっかりと立っています。この2008年10月はかつてないほど厳しく、全体のCQが試される月となりました。確かに、PIMCOにはメンサに入会できるほどIQの高いスタッフがいます。しかし、CQの高いスタッフも数多く、その1人が運用デスクで私のパートナーであるモハメド・エラリアンです。彼もバフェット氏と同じように、メンサ級の高いIQとCQを兼ね備えていると思われますが、彼もまた謙遜してそれを認めようとはしないでしょう。さて、このInvestment Outlookを体のよいコマーシャルとも思わず、単に歴史の教訓を学ぶためだけでもなく、運用に活かすために読んでいる方向けに、PIMCOが常識力を駆使して導いた結論をご紹介しましょう。これは次に示すように、自然界に存在する元素の中でも安定性の低いウラニウムの原子に似た簡単な図で説明することができます。
図表1と同じように、ウラニウム238には原子核の周りを回る92個の電子があります。そして、重要な点として、過去半世紀の世界の金融システムを、このウラニウム238に例えることができます。原子核は翌日物FF金利であり、これが十分に低い局面で、電子たる生産的な金融商品の輪が次々と増えました。翌日物政策金利は割安なコマーシャルペーパー借入れにつながり、次にそれが一気に外に飛び出し、大西洋を越えてLIBOR(ロンドン銀行間貸出金利)になりました。そして、さまざまな国債市場や社債市場が形成され、次にそれを担保として利用するようになり(レポ)、それがまた新たな信用を生み、一層の成長につながりました。電子は生産的なあらゆる種類の金融先物やデリバティブに姿を変え、それがウラニウム238の外縁部に位置する資産クラス、すなわち株式やハイイールド債、プライベート・エクイティ、そして金融資産ではない、実物資産である住宅とコモディティを支えてきました。
PIMCOはこうした戦略やその他多くの運用戦略が、ウラニウム原子、核分裂と核融合の違い、レバレッジの積み上げと解消の比喩的な結びつきに関する常識的な理解から得ることができると考えています。そのために、手持ちのCQをフル活用し、水着の紐をしっかりと締めています。波は引いても、いずれまた満ちてくるのです。
ウィリアム・H・グロースマネージング・ディレクター
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