ホーム   |   サイトマップ   |   PIMCOへのお問い合わせ
US Canada Europe 日本 Australia Singapore

   プロダクトとサービス
   PIMCOについて
   プレス・センター
   金融商品販売法に基づく勧誘方針
   ボンド・ベーシックス
   過去のレポート一覧
   採用について

 

 

Investment Outlook
ビル・グロース | 2008年2月

遅くても何もしないよりまし

このページのPDFファ
イルをダウンロード
E-Mail配信
音声のダウンロード
ポッドキャストに申し込む
ポッドキャストの使い方
Eメールを送る

早いに越したことはない」というのが私の口癖です。ずっと何もしないよりは、遅くなってでもしたほうがいいのは確かですが、素早い行動こそ、ポートフォリオ・マネージャーが身を守る秘訣です。ただし、これは早起きをせよとか、常に先頭を切れという意味ではなく、市場が危機モードに入った場合のポジション管理に関してのことです。レバレッジ水準の高い、金融を基盤とした世界経済の中では、リスク資産の価格が瞬く間に下落に転じる可能性があるため、気がついた瞬間には既に勝負がついてしまっている可能性があります。確かに、上昇局面の最後に訪れる熱狂的な上げに加わらないことで支払わなくてはならない代償があります。株式の場合なら、ドット・コム・バブルの期間や2007年前半におけるウォーレン・バフェット氏がそうであったように、旧態依然であるとか、浮世離れしている、とのレッテルを貼られかねません。債券の場合には、利回りスプレッドが縮小し、レバレッジの力で2桁のリターンが見込まれるデリバティブ・ストラクチャーに資金が流れ高格付の国債は見向きもされない状況の中、キャリーを失うことが代償となります。しかし、企業利益の悪化や景気後退の可能性、そしてきわめて重要な点として、2007年中盤にみられたようなピラミッド・スキーム(Investment Outlook 2008年1月号を参照)の自壊により、リスク市場に変化の風が吹き始めると、騒ぎに加わらなかったことが功を奏することになります。流動性の低さと人間の精神的な弱さが、資金を守るための素早い行動を妨げているうちに、自動的に出口のドアが閉ってしまうのです。

 

エコノミストやテレビのコメンテーター、そして私自身も、早くからお祭り騒ぎに参加することもあれば、遅れることもあります。しかし、私にとって意外だったのは、2008年に入ってからも、数多くの「著名な」専門家が富裕層向け減税の継続や拡大、サプライ・サイドの重視、規制緩和といった有効性だけでなく、有権者の支持も失われた政策に対する支持を表明していることです。これを、自由放任主義が米国経済に突きつけている脅威の高まりに対する認識が遅いという評価だけで済ませることは、あまりにも寛大であり、認識が遅いどころか全く理解できていないという方が適切なのではないでしょうか。一方、早い時期から将来の政策対応の指針を示していると考えられるエコノミストが、ニューヨーク・タイムズ紙で論説コラムを担当しているポール・クルーグマン教授です。クルーグマン教授はニューヨーク・タイムズ紙のコラム執筆を担当するようになるずっと以前から、MIT(マサチューセッツ工科大学)の世界的に知られた経済学者であり、1990年代には日本が経験した迷路のような不況からの革新的な脱却方法を提案し、1998年には『Return of Depression Economics(邦題:世界大不況への警告)』を出版されています。この本の題名には「恐慌(Depression)」という言葉が使われていますが、必ずしも恐慌をテーマにしているわけではなく、将来の政策が果たすべき重要な役割は、レーガン革命以降、実行されてきたサプライ・サイドの支援ではなく、1930年代のニューディール政策のような需要の刺激にある、という事実を取り上げた書籍です。クルーグマン教授自身は特にコメントしていませんが、私はレーガン大統領の政策自体が誤りだったとは思いません。レーガン大統領は見事なまでに正しく、彼のサプライ・サイド革命はまさに時宜を得たものでした。

 

しかし、問題はその振り子が民間市場の方向に振れ過ぎてしまったと思われることです。クルーグマン教授は(そして私も)、現代の金融が持つ影響力と創造力への理解が足りず、転換を予測するのが若干早過ぎたように思われます。金利の低下と、より多くの米国民に対しての信用供与が可能になったことが、最近まで、米国の需要と世界の需要を牽引してきました。住宅ローン、自動車ローン、クレジット・カードの与信条件は緩和の一途を辿り、利回りの低下とリスク・スプレッドの縮小が続きました。その背景に金融業界の商品開発力があったことは確かですが、もう1つの重要な点として、格付機関が金融界のマジックを頭から信じ込み、手数料を得るために積極的にAAAの格付を付与したことがあります。何も失うことなく、頭金なしで住宅を購入することができるとすれば、誰もが住宅を購入することでしょう。そして、実際に、数多くの米国民がそうしました。5年間、金利ゼロで自動車ローンの借入が可能だとすれば、多くの人が自動車を買おうとするでしょうし、実際に数多くの米国民が現在もそうしています。クルーグマン教授も同意してくれると思いますが、今となって考えれば、需要を刺激し、下支えしてきたのは革新的な証券化金融であり、それを育んできたのは規制緩和と、そして何もかもがうまくいくはずであり、仮に何かまずい事態が生じても金融当局と財政当局が何とかしてくれるとの確信でした。こうした救済は「ケインズ経済の約束事」と呼ぶこともできるでしょう。これは米国民との間に交わされた取り決めであり、政策当局は大恐慌の再来を阻止することができるため、市場が自由であることに問題はないというものです。金融緩和と財政赤字の組み合わせにより、需要は常に刺激可能であり、繁栄は保証されていました。

 

いや、「おそらく」保証されていたと言った方がよいかもしれません。現在、そうした繁栄の歴史的高成長率は危機にさらされている可能性があります。消費の形を取った需要は近年、暴走する金融エンジニアリングにより、不自然かつ非現実的に刺激されてきました。そのため、このブラックホールのような内包される破壊的性質を利下げと赤字支出政策の再投入で、完全に相殺できるのかという、もっともな疑問が生じます。たとえば、ブッシュ政権と米議会は1500億ドルに上る「小切手バラマキ」赤字計画を進めていますが、これはGDPの1%に過ぎず、一時的なものとされています。この計画による長期的な繁栄に対する寄与度はきわめて限られたものになるでしょう。その理由は、米国経済の生産性を最終的に決定づけるものが(1)イノベーション能力と(2)貯蓄と投資の能力であり、今回の景気対策にはその2つがほとんど含まれていないことを考えれば分かることです。一部にはこの景気対策が米国よりも中国経済を助けるものであるとの見方もあり、その点については私も渋々ながらある程度認めざるを得ません。米国民は減税分をスーパーマーケットのウォルマートで売られている中国からの輸入品の購入に充て、1500億ドルは必然的にアジアの金庫に戻っていくことになります。米国がクルーグマン教授のいう「需要に基づく」財政支出を必要としていることは確かです。しかし、先月号のInvestment Outlookで指摘した通り、レバレッジを多用した現代の影の金融システムは動きを止め、限界部分で縮小しようとしており、これまでのように経済成長全般を牽引することは難しいでしょう。そこで、現在提案されているような一時的な対策に加え、3000~5000億ドル規模の恒久的な景気対策が必要となります。いずれ外国中央銀行の金庫に収まることになる小切手を米国の消費者に送るだけの政府案は恒久的な解決策にはならず、一時的な生命維持装置として機能するにとどまります。安定した回復軌道に乗せるためには、消費を刺激するのではなく、政府支出によって需給ギャップを埋めていくことが必要です。公共事業、必要なインフラの修復、研究開発プロジェクトに対する支出こそ、回復の道のりを切り開く処方箋です。住宅保有者への支援はどうでしょうか。それも必要でしょう。住宅価格の下落や延滞の増加を抑制する財政上および規制上の手段を見つけ出さなくてはなりません。しかし、それは間違っても、2009年以降もウォルマートのレジに行列を作らせるバラマキではありません。

 

金融政策に対するアプローチにも変化が必要です。5年前、1の短期金利はきわめて有効に機能し、需要を刺激するにとどまらず、化け物のような住宅バブルを生み出しました。ただし、当時はイールドカーブの短期セクターを基準に金利が決まる変動利付住宅ローン(ARM)の誕生と導入の影響がありました。2~3%程度の初期設定金利で発行され、多くの場合5年以内に金利が大幅に上方改定されるARMローンが何百万件も実行されました。こうした放漫な融資により、人工的に吊上げられた価格で大量の住宅が購入され、さらにはその住宅の資産価値を担保に巨額のホーム・エクイティー・ローンが引き出され、いずれも需要と経済成長を支える役割を果たしてきました。しかし、変動利付ローンは過去の遺物になろうとしています。オリジネーターが提供するARMは厳格な条件が付帯されたものだけになります。非常に低い初期設定金利やその他の勧誘商品は利用できなくなり、規制当局の介入も予想され、さらには、弁護士が集団訴訟のチャンスを虎視眈々と狙っています。

 

そのため、金融面から住宅、そして経済全体の悪化に歯止めをかけようとする試みは30年満期の住宅ローン頼みとなります。しかし、そうだとすると、バーナンキ議長、これは問題です。第一に、現在、金利水準が6~7%の30年満期の住宅ローンを借りるためには、以前よりもはるかに多くの頭金が必要とされます。実際には、以前には考えられなかった20%もの頭金が必要です。30歳前後の若い夫婦がどうやってそれだけの資金を手に入れられるのでしょうか。第二に、同じように重要な問題として、価格が下落している資産に対して、6%以上の金利を支払おうという未来の住宅保有者がどれだけいるのかという点があります。住宅価格が年率2桁の伸びを示している局面では、サブプライム水準やそれ以上の金利を支払う決断をすることは容易でした。それ以上のメリットがあることが明らかだったためです。しかし、現在は住宅価格が下落しているため、リスク・リターンは借家の方が良好です。

 

私が言いたいのは、短期金利を再び1に引き下げることには、そのメリットが低下しているだけでなく、明らかな危険があることを、バーナンキ議長が認識しなくてはならないということです。2003年には短期金利が1%まで引き下げられたことで、2~3ヵ月の間、住宅保有者向け30年住宅ローン金利が5%に低下しました。もう一度、米連邦準備理事会(FRB)が短期金利をこの水準に引き下げることは可能です。しかし、そうすることはバブルを生み、インフレを上昇させる米ドルの下落を引き起こすでしょう。最善の政策は1%よりもかなり高い水準で利下げを停止すると同時に、連邦住宅管理局(FHA)政府支援プログラムを見直し、わずかな頭金で優遇ローン金利での借入を可能にすることです。人工的に作られた1%の短期金利は影の銀行システムが急拡大していた時期には特効薬だったかもしれません。しかし、現在の状況に適用する治療薬ではありません。

 

また、行き過ぎた民間市場経済が繰り出すボディー・ブローでダウン寸前の米国経済を復活させるためには、一時的ではない、巧みに構成された財政及び金融政策による景気刺激策が必要です。民間市場経済の『ローズマリーの赤ちゃん』はレバレッジを基盤とした影の銀行システムとなり、金融を基盤とした経済は単独で繁栄をもたらすことができるという破滅的な結論につながりました。しかし、この結論は誤りです。ケインズが理論化し、クルーグマン教授が主張する通り、民間需要が停滞する局面では、その穴を政府が埋めなくてはなりません。2008年終盤に米国で新政権が誕生するまで、効果的にそうした対応が取られる可能性は低いでしょう。そのため、米国経済と、その影響を受ける世界各国の経済は当面の間、弱々しい歩みを続けることになります。そして、私たちの知る繁栄の復活のカギを握るのは過去10年間、幅を利かせてきた政策ではなく、1930年代にみられたような金融・財政政策改革です。遅くなってもいいでしょう。 何もしないよりはましなのですから。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

 

 

<< 過去のレポート一覧

ピムコジャパンリミテッド
105-0001
東京都港区虎ノ門4-1-28
虎ノ門タワーズオフィス18階

金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号
加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会

ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。

過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。

債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレなどに関するリスクを伴うことがあり投資は換金時に初期投資費用よりも高くなっていたり安くなっていたりすることがあります。米国国債には米国政府の完全な保証が付与されています。ただし、米国国債に投資するポートフォリオは米国政府保証の対象にならず、その価値は変動します。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。

本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2008年

(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。



プロダクトとサービス   |   PIMCOについて   |   プレス・センター
金融商品販売法に基づく勧誘方針   |   ボンド・ベーシックス   |   過去のレポート一覧
採用について