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Investment Outlook
ビル・グロース | 2008年4月
ホエン・アイム・シックスティー・フォー
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庭いじりをして、草むしりをしよう

これ以上のことを誰が望むだろう 

まだ僕を必要としてくれるかな、まだ僕の食事の支度をしてくれるかな

僕が64歳になっても

 

                                 -ザ・ビートルズ



きっと誰もそんなこと思わなかったことでしょう。ポール・マッカートニー自身、40年前にそんなこと思ってもみなかったでしょうし、私にしても同じです。しかし、ポール・マッカートニーは実際64歳になりましたし、私もじき64歳になろうとしています。彼は亡くなった奥さんと2人で野菜畑の草むしりをしたかったことでしょうね。しかし、私の方はといえば、野菜サラダのようにごちゃまぜに絡み合った状況と向き合い、格闘しています。紛れもない世界的な金融危機のせいで、私は朝から晩までオフィスにこもりっきりであり、ガーデニングの時間もゴルフコースに出る時間もありません。いえ、愚痴を言っているのではなく、私の現在の状況をご説明しているのです。妻のスーは何かというと、「もう、仕事に出かける必要はないでしょうに」と言います。その通りかもしれません。そして、日曜日の午後の時間を使ってこのInvestment Outlookを書く必要もないかもしれませんが、それでも私が日々仕事に出かけ、このコラムを書いているのは、そのすべてが刺激的だからなのです。現在の危機は世界最大のジグソーパズルに例えることができるかもしれません。ちょうど周辺部が完成し、内部の様子もかなりはっきりとしてきたところです。ここでやめるわけにはいきません。それに、64歳になるからといって、年寄りだというわけではありません。「年寄り」の定義は「自分よりも15歳年上の人」ですから、私だって年寄りじゃありません。いずれにせよ、私は幸せに64歳を迎え、皆様が引き続き私を必要として下さることを嬉しく思っています。そして、ありがたいことに、私はまだ自ら生活の糧を得ることができています。

 

先般開催されたPIMCOのインベストメント・コミッティーの会議では、数多くの重要な検討材料が浮かび上がりました。そこで、今回のInvestment Outlookでは今年、PIMCOが注目している点を皆様にご理解いただけるよう、このコミッティーで議論された数多くの検討材料の中から4つを取り上げます。

 

クレジット市場、当局の規制、住宅価格

私の見るところ、民間クレジット市場は機能不全、強欲及び一部の不正により、これまでの持っていた相応の独立特権を剥奪されたといえます。その結果、縮小する民間市場のバランスシートは、一部では規制の強化により、また場合によっては直接保証と公的融資により、公的部門に吸収されることになります。そして、最終的には大規模な資産デフレを回避するために、民間クレジット市場の資産を下支えする政府プログラムが必要になる可能性があります。当局は素速く行動し、問題の中枢、すなわち住宅価格に対するアドレナリン注射を打たなくてはなりません。住宅は米国の消費者が保有する資産の中で最もレバレッジ水準が高く、資金的な重要性も高いため、住宅価格がさらに大幅に下落すると、経済全体が道連れにされることになります。住宅価格を下支えするという考えは共和党正統派の考えと対極に位置するもので、ブッシュ大統領とポールソン財務長官は1990年代に日本の当局が犯した誤りを繰り返さないためには、市場が正常に機能する必要があると主張しています。しかし、市場が正常に機能することを期待できないところまで来てしまった可能性もあります。住宅保有者のレバレッジ水準はきわめて高いため、住宅価格の20%の下落が米国経済に与える衝撃は実際のところ、インターネット・バブルや5000ドルに達したNASDAQバブルの崩壊よりもはるかに強くなります。20%の価格下落は何百万人もの米国民の住宅純資産価値を吹き飛ばすだけでなく、担保割れを引き起こすものであり、庭でレタスを栽培するどころか、住宅を手放して、雑草の生えるがままにさせてしまおうかという気を起こさせるでしょう。さらなる危機を回避するには、住宅価格の下落を速やかに止めることが必要です。

 

ベア・スターンズと影の銀行システム

この数週間で影の銀行システムの自壊は新たな犠牲者を出し、ベア・スターンズがJPモルガンに強制的に身売りされました。「なぜベア・スターンズなのか、なぜ今なのか」という疑問に対する回答として、最も有力と考えられるのは、大手投資銀行の中でベア・スターンズのレバレッジ水準が最も高く、さらにはウォール街での評判も芳しいものではなかったことです。この2つの組み合わせにより、影のシステムの複雑な網の目を通してファイナンスされていた巨額の資産に対するヘアカットが拡大され、最終的にマージン・コールが発生しました。

 

しかし、より重要と考えられるのは、米連邦準備理事会(FRB)が投資銀行に対し、割引窓口貸出を直ちに認めたことであり、この措置により、過去の金融危機時に特徴的にみられたFRBのスタンスや権限が大幅に拡大されたことです。1998年のLTCM危機により、大手ヘッジファンドは「大き過ぎて清算できない」存在であることが非公式ながらも認められ、それにより、ヘッジファンド業界は当局による保護がある程度期待できる対象となったとの結論が導かれました。FRBが今回、投資銀行を「割引窓口クラブ」に招き入れたことは、同じように保護対象であることを認めたことになります。しかし、それには対価が発生します。銀行に対する現在の準備預金基準を、ほぼそのままの形で投資銀行に適用しない理由は見あたりません。こうした基準が適用されると、投資銀行のレバレッジとギアリング・レシオは数年のうちに、商業銀行に近い水準になり、結果として、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ、メリルリンチといった大手投資銀行の収益性は低下することになるでしょう。現在、投資銀行の自己資本は標準的な商業銀行の50%に過ぎません。規制や道徳的勧告により、両者の水準が収斂すると考えた場合、影の銀行は割高な資本の調達か、バランスシートの最終的な利益水準の低下を余儀なくされることになります。どちらにしても、こうした措置は影の銀行システムを、ジェームス・スチュアートが田舎町の伝統的な銀行家を演じた映画『素晴しき哉、人生』に登場する銀行に近づけるものですが、そのコストは高く、債券スプレッドや株価にはそれが反映され始めることでしょう。

 

加えて、重要な点として、最後の貸手であるFRBがこうした手を打ったことで、インフレ傾向が強まる可能性があります。この危機を引き起こした債務は現在、主に別の民間ポートフォリオに収まっており、清算されていないためです(FRBがこれまでに吸収した部分は担保のわずか10%)。そこで当局は、金融を基盤とする経済におけるキャッシュフローを増やすための取り組みを通して、こうした債務にお墨付きを与えることが必要です。これを言い換えると、当局はリフレーションを図っているのであり、インフレ率が上昇する可能性が高まると予想することができます。

 

資産担保融資

私は25年間、JP・モルガン氏の有名な写真を自分のオフィスに飾っています。現在も、モルガン氏が私の背中を見つめ、懐中時計を忍ばせたチョッキの下に書かれた有名な言葉を私に語りかけているように思えます。「融資にあたっては金よりも何よりも、まず人格が大切である」。この25年間、私はほぼ一貫して、氏の考え方が旧時代の遺物であると考えてきました。債務担保証券(CDO)や資産担保証券の「人格」を判断する方法があるでしょうか。むしろ、十分な担保が確保されている物件に対する融資の方が良いと考えてきました。しかしながら、クレジットは資産を担保として、制限なく自己増殖することが徐々に明らかになってきました。影のシステムは「物件(住宅)」価値が下落することはないとの想定に基づき、レバレッジの上昇を後押しし、推奨してきました。このような金融を基盤とする現代の経済に「人格」の居場所はありません。虚偽ローンや不正申請、あるいは単なるモーゲージ・ローンや資産担保証券のオリジネーションと販売をみても、物件の証券化が幅を利かせ、「人格」の入り込む余地はありませんでした。

 

しかし、モルガン氏に感謝しなくてはなりません。融資にあたって「顧客を知る」という氏のモデルに回帰する可能性は低いでしょうが、市場参加者の間では、格付機関のお墨付きを得た資産担保証券に対する安心感が低下し、それに変わって政府や政府機関の保証を頼りにすることになると考えられます。そして、政府のバランスシートが明示的に活用され、過去10年間に発行された酷いローンが支えられ、吸収されることになります。また、証券化の後退により、社債から、株式、商業用不動産、居住用不動産まで、あらゆるリスク・スプレッドでは拡大した水準が定着することでしょう。米国の資産を基盤とした経済は割高なハイブリッドに姿を変え、それがこの先何年もの間、幅を利かすことになるでしょう。

 

救済ではない?

政治家、特に共和党の政治家は、金融機関であれ、住宅投機家であれ、この危機の元凶とされる人々の救済に税金を投入することに断固として反対しています。国民はそれに同意しているように思えますが、そのつけを回されていることには気づいていないようです。この点をご説明しましょう。12ヵ月前、MMFの利回りは5%を超えていましたが、投資家がこの次に受け取る運用報告書に記載される数字は2%近くになっていることでしょう。合計で3兆ドルに達する規模のMMFはこの利回り低下過程でキャピタル・ゲインを獲得できたでしょうか。もちろん、そんなことあるはずがありません。そこで、銀行やフロリダのマンション投機家を救済するため、納税者は少なくとも、本来得ていたはずの年間3%の金利を拠出していると考えることができるわけです。加えて、前述の通り、こうした政策はリフレ的、もしくはインフレ的色彩を帯びています。そのため、国民が購入する多くのモノの価格が上昇すると考えられ、救済のために納税者が拠出する金額はさらに大きくなります。

 

政府は時に不可解と思われる行動を取るものです。納税者にウォール街を救済させるにはさまざまな方法があるのです。

               

さて、これまでに展開してきたリベラルかつポピュリスト的な歯に衣着せぬ主張は、1回のInvestment Outlookで取り上げる内容として、十分なものになったと思われます。今回ご紹介した私の考えをまとめると、こうなります。(1)米国経済を回復させるためには住宅価格の下落に歯止めをかけることが必要です。(2)ベア・スターンズ危機とその対応策は政府による規制の強化とインフレ発生率の増加を意味します。(3JP・モルガン氏は正しかったのです。すなわち、旧時代の融資モデルに直ぐに回帰する可能性は低いものの、融資にあたって重視すべきは資産でなく人格です。(4)自覚があるかどうかにに関わりなく、そして好むと好まざるとに関わらず、国民はウォール街救済の片棒を担がされています。

 

最後に、不思議の国のアリスに登場するマッドハッターの帽子をかぶり、皆様に彼流のお祝いの言葉を差し上げましょう「誕生日でもなんでもない日、おめでとう。」そして、私は64歳の誕生日を迎えます。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

 

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