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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2007年10月

分かっていますかね?

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昔ながらの市場は姿を消し、現代の市場はさまざまな金融取引が複雑に絡み合った複合体となりました。デリバティブが主導し、コンデュイット(導管体)により内部爆発が引き起こされる、一見しただけでは理解できない荒野へと変貌したのです。この変化を象徴的に示しているのが、かつて経済番組の人気キャスターとして人気を集めたルイス・ルーカイザー氏と、頭のてっぺんからつま先まで現代的であるジム・クレイマー氏の際立った違いです。バリトンで静かに威厳を持って話すルーカイザー氏は刺激的な上昇相場が持続するとの裏付けを欲していた、老い行くベビーブーマー世代のスポークスマンでした。一方、同じように大衆の応援団であっても、ルーカイザー氏とは大きく異なり、高く裏返った声を現代の薄型テレビに映るライバルの誰よりも大きく張り上げるジム・クレイマー氏は、少なくともこの数週間、市場のモメンタムがベア派に有利に転換するかもしれないとの主張を受け入れる態度を示しています。財務省やFRB、ホワイトハウス高官が楽観的ストーリーで投資家を落ち着かせようとしている最中に、勇敢ながらも、おそらくは無頓着な自由奔放さで、クレイマー氏はCNBCのカメラに向かい、「彼らは何も分かっていません。何も分かっていないのです」と叫んでいました。「彼ら」が誰なのかは明らかにされませんでしたが、クレイマー氏の世界では、ルーカイザー氏流の強気が旧時代のものとなったことが明白でした。

 

実際に、強気は影を潜めました。クレイマー氏が声を張り上げていた頃、私とPIMCOの専門スタッフは財務省とFRBに対して、機能を停止したCP市場と、世界の債券投資家と株式投資家の間でみられる信頼感の低下について、説明していました。あれは816日のことです。この日、株式市場は210ポイントのマイナスで引け、翌金曜日の寄り付きは、そこからさらに数百ポイント下で始まると予想され、米国最大のモーゲージ・オリジネーターであるカントリーワイド・フィナンシャルには、破産が近いとの噂もありました(実際にはこの危機を乗り越えました)。これはバーナンキ議長にとって、彼と理事達が「何も知らない」わけではなく、「何かを知っている」ことを実証する最初のテストになりましたが、議長はこのテストに見事合格してみせたのです。議長は翌朝、公定歩合を引き下げ、その後の数週間にわたって、市場を落ち着かせることに成功しました。そして、918日に開催されたFOMCでは再び行動を起こし、見かけだけでもクレジット市場と株式市場の正常な状態に取り戻すべく行動している世界各国の中央銀行の取り組みに加わったのでした。これまでのところは順調にきています。

 

しかし、クレイマー氏の大げさな非難が不当であるとは、依然として証明されていません。現代の金融複合体は鋭い視点を持つ経験豊かな市場参加者や研究者にとって、是認できないものに変わりました。FRB理事や財務省スタッフは、一定水準の準備預金を裏付けとして預金を貸し出す伝統的な銀行業務こそが正当な流動性創出手段であった時代に育ちました。かつて、経済学の教科書には預金者による1ドルの預金が、準備制度の持つ魔法の力により、5倍にも6倍にも増幅される仕組みについて書かれていたことをご記憶でしょう。この仕組みは今でも変わっていませんが、金融イノベーションにより、新たに銀行システムを経由しない仕組みが出来上がったのです。それがデリバティブであり、CDOCLOABCPSIVなど、34文字に省略される各種ストラクチャー商品です投資銀行業界が考え出す次なる略語は何でしょうか。「IOU借用書」かもしれません。この仕組みにより、預金は10倍にも20倍にも増幅されており、これと比較すると、準備預金制度とそれを規制するFRB何とも力不足に思えてきます。

 

バーナンキ議長やポールソン長官、そしてそれぞれのスタッフがこの点を了解していることは間違いありませんただ、彼らがどこまでその本当の意味を理解しているかは不明確です。グリーンスパン前議長は先日刊行された著書の中で、変動金利モーゲージとそのサブプライム的特性、そして、それに関連した一部の不正行為が住宅市場に与える影響について、最近になるまで本当の意味で理解することができなかったと認めています。住宅市場の熱狂と落ち込みにサブプライム・モーゲージが果たした役割について、FRBが理解するまでにそれほど時間がかかったのだとすると、現在のFRBと財務省は、銀行システムに位置するプライベートなシステムが市場に対する大量の信用供与を突如として停止した際に、何が起きるのかを完全に理解できているのでしょうか。また、この信用供与の停止により、住宅投資や設備投資のための支出と雇用が落ち込む可能性があることを理解しているのでしょうか。公共政策や公的な性質よりもプライベートな色彩を強める、この厚かましい新世界に対応し、FRBは金融政策を、財務省は財政政策を順応させる必要があります。プライベート市場の警告を無力化するには、FRBが平静を装い、それをさらなる短期金利引き下げによって証明してみせる必要があるかもしれません。住宅市場の落ち込みが悪性化し、自己増殖することを回避するには、ポールソン財務長官が苦境にある住宅保有者を支援するための政策を取りまとめることが必要になるでしょう。

 

しかし、弱っている住宅保有者を助けようとするこの試みは、共和党保守派の自由市場放任主義に邪魔されることでしょう。さらに、今後の住宅価格や雇用、経済成長に与える最終的な打撃よりも、意趣返しや「当然の報い」といった感情に流されやすい理解の足りない政治家や大衆がこの取り組みの前に立ちはだかることになります。古くからの格言をこの状況にあてはめると、リセッションとは隣の家の値段が下落する事態を指し、恐慌とは自分の家の値段が下落することを指すといえます。かつて大恐慌時代には、家を失った失業者達が暮らす掘立小屋を、自由放任主義を信奉した当時の大統領の名前を捩り「フーヴァー村」と呼びましたが、現代の恐慌を自らが暮らす住宅の価格下落と定義すると、7000万人に上る住宅保有者は遠くない将来「ブッシュ(草むら)」に住むことになるでしょう。

 

向こう数年間に全米レベルでみた住宅価格は1015下落すると予想されますが、ポールソン長官がこれを食い止められなかった場合、バーナンキ議長がその影響を十分に緩和できるかどうかは疑問です。第一に、先ほど取り上げたように、現代の「影の銀行システム」に対する本当の意味での理解が欠けていることにより、FRBは先を見越した形で金利を引き下げる状況にあった対応がきわめて危うくなっています。モーゲージ・クレジットは2007年に入ってから一貫して縮小を続けており、中小に加え、全米規模のモーゲージ・ブローカーやオリジネーターまでもが与信を絞り込んでいます。さらに、法律面の脅威と制度面の圧力がこのクレジットの内部崩壊に拍車をかけています。その結果、チャート1示す通り、住宅価格はほぼ12ヵ月にわたって下落を続けてきます。そして、FRBは進行中の危機に対し、ようやく対応を取り始めたところです。

 

 

バーナンキ議長率いるFRBはグリーンスパン時代のように資産価格を目標にすることに反対かもしれませんが、住宅市場のバブルと株式市場のバブルとは全く似て非なるものです。1987年のブラックマンデーによる景気への影響はわずかであり、数年前にNASDAQ5000ドルから1500ドルに急落した際も、投資主導によるきわめて穏やかな景気後退につながるにとどまりました。しかし、この2つの例をFRBが資産価格政策を遂行するにあたっての教科書的事例とすることはできません。借入れを基盤とした米国経済に対する金融界の影響力が増していることは確かですが、決して金融界が米国経済そのものではありません。消費者の支出動向や景況感に対する株価の影響力は、住宅価格ほど強いわけではありません。そのため、先日コーン理事が指摘した通り、FRBの金融政策は資産価格と同様に、非対称となる必要があります。すなわち、エスカレーターのようにゆっくりと上り(25bpの利上げ)、エレベーターのように一気に下がらなくてはならない(50bpの利下げ)ということです。

 

しかし、このエレベーターのような金融緩和はバーナンキ議長に問題を突きつける可能性があります。過去のInvestment Outlookでも何度か取り上げ、また、先ほども指摘しましたが、グローバリゼーションと金融イノベーションによって中央銀行の政策運営は以前よりもはるかに複雑なものとなっています。過去数十年には「画一的な」政策金利変動が家計と企業に対して、同時かつ公平に影響を及ぼしました。しかし、今世紀に入り、日々の支払いに追われる個人ではなく、世界的に投資機会を獲得可能な企業に追い風となるイノベーション革命が進行してきました。現在の米国経済では同じ4.75%の金利であっても、消費者と企業双方にとって「中立」となることはあり得ませんし、実際にそうではありません。現在の利回りは世界的な投資機会のある投資適格企業にとっては引き締め的なものではありませんが、変動金利ローンによる返済額の増加に直面している一般の住宅保有者にとっては高すぎる水準です。バーナンキ議長が平静を装い、エレベーター、すなわち利下げを途中で止めてしまうと、足元で進行中の住宅危機が深刻化する可能性があります。一方、企業よりも住宅保有者を重視する場合、株式市場の投機的動きを再燃させる上、ドルの急落を招く危険性もあります。

 

PIMCO分析によると、過去のFRBの緩和局面では最終的に実質短期金利が1以下になる水準まで金利が引き下げられています。慎重を期して、インフレ率を2.5と想定すると、FF金利は向こう612ヵ月間に3.75程度になると考えられます。これは50bpの利下げが2度行われるだけで達成される水準であり、確率は高くないものの、年末までに実現される可能性も否定できません。一方コーン理事の言う非対称なエレベーターの運行にとって、住宅市場が底を打ったとする根拠のない希望やドル危機に対する懸念、単月の雇用の伸びや見せ掛けの景気の強さに対する誤解が障害になると考えられます。しかし、向こう数年間の金融政策を決定づけるのは住宅価格の下落経路であり、さらには現時点ではまだ表面化しておらず、コンデュイット保有者による時価評価もされていない、関連する金融ストラクチャーやデリバティブの時間のかかる解消になります。

 

彼らは分かっていないのでしょうか。おそらく今では、8月のあの騒々しい日に私やジム・クレイマー氏が危惧した以上に、彼らは分かっているのでしょう。しかし、そうだとしても、彼らの選択肢は共和党の保守的政治傾向、与信に対する民間セクターの積極的姿勢の後退、依然として活況を呈する世界経済といった要因によって制限されています。ところで、彼らは何を分かっているのでしょうか。私は少なくとも、彼らが自ら苦況にあり、それもかなり深刻な状況であることを分かっているのだと考えています。

 

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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