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Investment Outlook
ビル・グロース | 2007年11月
シャドー・ダンシング
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音楽が終わったら、灯りを消すんだ
ジム・モリソン、ザ・ドアーズ 1967年

シティグループのCEOプリンス氏はダンサーでした。なにもプロのダンサーだったというわけではなく、ABCの人気番組「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」にアマチュア・ダンサーとして登場したというわけでもありません。プリンス氏がダンスを踊った相手はサブプライム・モーゲージやそれを組み込んだ金融コンデュイット(導管体)でした。そして、7月上旬には「音楽が演奏されている限り、ダンスを止めるわけにはいきません。弊社は今でもダンスを踊り続けています」と誓ったものの、その言葉に背く行動を取ることになりました。プリンス氏の判断は、1929年に「株価は永遠に高止まりする」と主張した経済学者アービング・フィッシャー氏の見立てほどではないにせよ、現代の投資家やその象徴的リーダー達がこのダンスから手を引く時期を見誤る原因になりました。今ではプリンス氏も投資家達も、サブプライムをパートナーにしたダンスを止めてしまいました。そして、その代りの誰かが、最後まで音楽が終わったことに気づかないよう、ジム・モリソンが歌うドアーズの曲の歌詞のように、灯りが消えそうになっている中に取り残されるのです。もっとも、ベア・スターンズ傘下のヘッジファンドが苦境に陥り、ダンスが終わりかかっていることを示す兆候が現れた時点でも、依然として数多くの投資家がダンス・フロアで踊っていたことは確かです。

批評家は音楽がきわめて長期間にわたって演奏されており、演奏はおそらくプリンス氏がコティヨンを踊れるようになる前から続いてきたことも認めるはずです。実際のところ、サブプライムは1970年代を起点とする米国経済の金融化を描いた歌の最終章だといえます。ドルと金の交換停止、レギュレーションQの廃止による銀行と金利の自由化が21世紀にヘッジファンドが花開く土壌を作り上げました。ただし、実際にそれを後押ししたのは、世界的な資本の自由化、コンピューター・テクノロジー、そして、レバレッジを支え、銀行システムの外で信用創出を可能にした投機的性質を持つ金融商品の誕生と発展、といった流れでした。通貨や株式、債券を対象とする金融先物の後を追って、オプションやスワップ、クレジット・デフォルト証券が成長し、最近ではCDOやSIVなど、時代錯誤的な3文字の名前がつけられたコンディイットが数多く生み出されました。試しに、ご自分で好きな文字を3つ組み合わせてみてください。同じ名前の金融商品が既に存在するかもしれません。

現FRB議長の同意は得られないでしょうが、規制面の安定化装置は金融手法の進化発展についていけていなかったと激しく主張する向きもあります。「ノー・ドキュメント・ローン」や「不正ローン」などが示す住宅ローンのオリジネーションのお粗末な状態は、これを証明する直近の事例といえるかもしれません。過去35年にわたる規制緩和と金融イノベーションが一体となって、PIMCOのポール・マカリーのいう「影の銀行システム」が作り出され、そこでは印刷機ではなくキーボードによって、信用が創出されています。経済史家は1920年代終盤のワイマール共和国が6桁に上る狂乱インフレに先回りし、きわめて速いペースで紙幣を印刷できたことを驚きと捉えています。この紙幣の増発により、労働者は家に持ち帰る午後の賃金を鞄に詰め込むハメになりましたが、1920年代の彼らが中央銀行や財務省などの手の届かないところで巨額の金融デリバティブを生み出す影の投資銀行家やその一派を思い浮かべることができなかったことは確かです。昔ながらの銀行のテンポをワルツと表現するのであれば、徹底して現代的な影の銀行のペースは少なくともファンクやヒップポップ、ヘビーメタルに相当するといえます。

影の銀行システムと世界を駆け巡るデリバティブがクレジットの民主化に手を貸したことは間違いありません。サブプライムは上流階級に属さない住宅保有者向けの住宅ローンと考えることもできます。わずかな人々だけでなく、数多くの人が割安なクレジットの恩恵を受けられるようになるに伴い、生産性向上と広範囲にわたる分散化によってもたらされる落ち着きと安定が経済成長を加速させ、企業収益を押し上げてきました。しかし、従来の銀行システムではなく、影の銀行システムの進行方向が転換したり、その勢いが停止した場合、こうした恩恵の多くが打ち消されてしまう可能性があります。デリバティブの創出と与信の拡大を決定づけるのは資本家のリスク取得意欲であり、中央銀行が冷静に判断した金利水準ではないため、停滞する経済や、後退色の強い経済を再活性化させる能力はさらに不確実なものになります。サブプライム・モーゲージの魔法にほころびが生じているヘッジファンドに個人投資家が積極的に新規資金を投資するようになるまで、どれくらいの時間がかかるか、考えてみてください。資産担保CPの将来を予想してみてください。こうしたクレジット・コンデュイット(導管体)が縮小するなかで、25ベーシスポイントの利下げによって減速する経済の再活性化を図ろうとするFRBは、金融緩和局面であるにもかかわらず、FF金利を一貫して引き上げてきた過去数年間と同じように、民間部門から、コントロール不可能なしっぺ返しを受ける可能性があります。

伝統主義的にみれば、現代の複雑な影と交わらなくても従来の銀行システムには、既に問題が山積しています。これは否定し得ない事実です。住宅ローンの償却、クレジットカードに関る損失、小規模企業向けローンのデフォルト増加は向こう数年にわたり、銀行のバランスシートや損益計算書を圧迫することになります。この圧力は融資基準の一層の厳格化につながり、クレジットの伸びを縮小させるには至らないものの、明らかな減速を引き起こすでしょう。規制当局、マスコミ、政治家も遅きに失した感は拭えないものの、その役割を果たすことになります。「バーニー・フランク」や「グレッチェン・モーゲンソン」といった著名な政治家や記者の名前を口にするよりも速く、貸手の背筋を正させるものは新法や報道の強い力です。カントリーワイドのアンジェロ・モジェロCEOは持ち株を一般株主よりも先に売り抜けたことで非難されていますが、こうした中、カントリーワイドは今後どれだけの限界的ローンを実行するつもりなのか、モジェロ氏に尋ねてみてください。そして、英国のダーリング財務相が民間市場に対して、「旧来の銀行業務に戻る」よう、要請したことも注意深く見守る必要があります。旧来の姿に戻ることはたとえ遅きに失したにせよ、現実化しないよりも良いと思われますが、戻る道のりでは与信の厳格化という形でコストが発生し、住宅市場や他の市場における資産デフレを進行させる危険性があります。

そのため、旧来の銀行とその派生形態であるコンデュイット(導管体)が作り上げた影の銀行双方で、かなりの期間にわたってバランスシートの拡大ペースが大幅に低下することになります。これは比較的短い間に景気を減速させ、利下げや、ポールソン財務長官が提唱する「スーパーSIV」のような流動性向上策といった形での政府による支援が必要になります。ポールソン長官の「第2次世界救済委員会」が、LTCM危機の際に当時のルービン財務長官の肝煎りで作られ、効果を発揮したその原型と同じような成功を収められるかどうかは議論が分かれます。何よりも、この考え自体が非生産的です。なぜなら、これはサブプライムの資産価格を引き続き「影」の中に隠そうとするものだからです。さらには、1998年当時、ルービン氏には規制上の障害がなく、現代の巨大化した影の銀行システムと不安にかられながら向き合う必要もありませんでした。実際、ルービン氏とグリーンスパン氏、そしてラリー・サマーズ氏を擁した彼のオールスター委員会は、この後24ヵ月以上にわたるインターネット・バブルにより、ハリケーン級ともいえる強い追い風を得ることができました。そのため、グリーンスパン前議長はわずか75ベーシスポイントの利下げにより、景気を安定させることができました。

しかし、バーナンキ議長の場合にはグリーンスパン氏ほど僥倖に恵まれているわけではありません。足元の世界経済は年4~5%程度の成長を続けていますが、現在の米国のIPOは技術革新とは反対に、金融を通して生産性の向上を可能にするレバレッジと影の銀行システムによって作られたものであるといえます。銀行とその影が勢いを失い、現代の「世界救済委員会」の能力が相対的に低いとなると、バーナンキ議長は1998年のグリーンスパン氏のように簡単な家事程度ではなく、重労働を遂行しなくてはならない、ということになります。銀行の貸出の伸びの落ち込みは1970年代初頭以降、確認されておらず、実際のところ、恐慌の爪痕が残る1930年代のルーズベルト時代以降、絶えてみられなかったものですが、リセッション色を強める米国経済現がこの落ち込みを回避するには、1%の実質短期金利と3.5%のFF金利が必要になる可能性が高いといえます。バーナンキ議長やポールソン長官、そして彼らのスタッフが危機を認識していること、そして音楽が続き、灯りが消えないことを祈るばかりです。

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

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