私たちは如何にして心配しすぎるのを止めて「Da Bomb 」を好むようになったのか
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(Da Bomb = イケてる、ヤバイ等の誉め言葉の俗語)
これは映画「博士の異常な愛情、または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」をもじったものですが、向こう3~5年間に予想される世界の経済および投資環境を表現した、PIMCOの長期経済予測会議のテーマでもあります。ピーター・セラーズが演じたこの映画の主役のストレンジラブ博士や、このページの漫画に描かれた核爆弾にまたがるスリム・ピケンズのように、PIMCOはおかしくなってしまったという印象を読者の皆様に与えようというわけではありません。先日、ニューポートビーチで3日間開催された長期経済予測会議において、ゲストとしてお招きしたラリー・サマーズ氏やマーティン・バーンズ氏の素晴らしい講演を拝聴した後、社内スタッフが数ヵ月を費やして作成した調査を分析し、PIMCOは、ストレンジラブ博士と同じく、過剰に心配することをやめるか、少なくとも「Da Bomb」が好きになれるように努めてみよう、との結論に達しました。この「Da Bomb」とは何かと疑問に思われることでしょう。ここでは「Da Bomb」という言葉を、カッコよく、羨望の的にされるものをすべて「Da Bomb」と表現する若者のように、厳格に定義せずに使っています。このInvestment Outlookの目的からすると、「Da Bomb」とはグローバリゼーションとグローバリゼーションがもたらす高水準の経済成長、低インフレ、収益の拡大、低金利といったメリットすべてを指しています。そして、過去10年で急激に進展したグローバリゼーションを支えてきた主な要因として、IT革命、インフレ目標や減税などの好ましい政策、中国およびインドなど低コスト市場の自由化に向けた動き、そして世界的な規制緩和と貿易障壁の引き下げに向けた動きなどを列挙できます。こうした要因はこれまでもPIMCOの長期的テーマでした。しかし、どうしたわけか、「Da Bomb」の進化を正しく分析した後も、PIMCOはこの状態とこの状態から生じるだろう帰結について、常に懸念してきました。2万フィート下の目標に向けて急降下し、キノコ雲になってしまうスリム・ピケンズ同様、目が眩んだのですが、潜在意識が抱いている強い懸念を拭い去ることはできませんでした。PIMCOは世界の成長率の上昇を予想していたものの、総需要の低迷により、「緩やかなもの」にとどまるとの見解を示してきました。また、現在のところは「安定的不均衡」という好ましい状況であるものの、将来は貿易収支の不均衡や米国の債務の増加、そしてその結果として発生する資金フローの変化といった要因により、安定が崩れてしまうダウンサイド・リスクに着目してきました。こうした懸念により、現在のポートフォリオは、今や実現しつつある米国の住宅市場の減速、及びそれに端を発するだろう景気減速を踏まえた、米国の市場動向を中心に織り込んだものとなる一方、グローバルなトレンドとは距離を置くものとなりました。しかし、米国を除いた世界は引き続き5%超の成長を達成し、金融市場のトレンドを支配してきたのです。
こうした我々の判断は重大な結果を招いたでしょうか、それとも微妙な差にとどまったでしょうか。安定的不均衡の不安定化を懸念するあまり、PIMCOは過去数年間、リスク資産をアンダーウェイトし、世界的に短期セクターをオーバーウェイトとする戦略を取ってきましたが、このポジションの構築は時期尚早であり、パフォーマンスを低下させる結果となりました。その意味において、今回の長期経済予測会議によって得られる結論はきわめて重要であります。今回の長期経済予測会議では、過ぎたことは過ぎたこととして、これまでの結論にとらわれずに議論を行いました。PIMCOの大会議室に集まった80余名の参加者の前に(また、会議室の外でスクリーンを通して数百名の参加者が見守る前で)2つの同じ状態のグラスを置き、こう伝えました。「こちらのグラスには水が半分しか残っておらず、もう1つのグラスにはまだ半分も水が残っている。どちらを選択するかは我々次第だ」。つまり、PIMCOは懸念することを一切止めたというわけではなく、懸念の程度を引き下げて、これまでとは異なる視点から「Da Bomb」に注目し、それを愛することができるかどうかを参加者に問うたのでした。では、次にどういった結論が得られたかを見ていきましょう。
長期的検証
グローバリゼーション、テクノロジー、市場の自由化と金融イノベーション、好ましい政府の施策。これらは「Da Bomb」をもたらした最も重要な要素であり、それぞれの影響について説明しようと思えば、何ページも割くことが可能です。実際に、私たちはラリー・サマーズ氏と何時間にも亘って議論し、グローバリゼーションの複雑性を改めて認識するとともに、バンク・クレジット・アナリスト社のマーティン・バーンズ氏の主張に耳を傾けました。この「Da Bomb」という言葉はバーンズ氏が使い始めたものではありませんが、氏はこの中身について、よく理解しています。ただし、さしあたってはこうした要素すべてが一体となって、次の4つのチャートが示す、世界的な経済成長の加速、ディスインフレ、株主資本の収益率の上昇、低水準の実質金利というダイナミックなトレンドが作り出されてきた、と言っておきましょう。
さて、ここで1つ重要な点を明確にしておきましょう。一般の市民の方々とは異なり、運用マネージャーにとって、この「Da Bomb」は、4つのグラフとそれぞれのトレンドに影響を与える場合を除いて、重大な問題となるものではありません。4つのチャートとそのトレンドの影響に適切に対処できれば、その成果として、この4つのトレンドが混合することによって生み出される多大なアルファを手にすることができるでしょう。対応を誤れば、スリム・ピケンズと同じ運命をたどることになるでしょう。興味深い点として、「Da Bomb」を構成するすべての要素と同様に、この4つのトレンドには1つの共通項があります。それは労働に対する資本の優位と、その更なる進展です。世界の労働市場に10億人もの潜在的労働者が加わり、テクノロジーのS字カーブ理論に基づく発展と融合し、さらには規制緩和、減税、自由貿易と一体化するという状況は、資本に対するリターンを上昇させ、労働に対するリターンを低下させる組み合わせに他なりません。その結果、株価は上昇し、インフレ率と金利は低下しました。そして重要な点として、経済成長と資産価格双方について、ボラティリティの低い環境が生み出されました。これがマクロ経済における「大いなる安定」と呼ばれる状態であり、これに無視できない規模で寄与してきたのが、第2次ブレトンウッズ体制と呼ばれる枠組みです。この第2次ブレトンウッズ体制とは、成長と低金利を指向する消費国に余剰資金が還流する枠組みであり、歴史的にも注目に値するものです。
新たな動き
このような、労働の犠牲の上に成り立った資本にとっての好循環は持続するのでしょうか。PIMCOはこの循環が終わるとすると、その引き金を引くのは世界の金融バブルの崩壊か、米国住宅市況悪化の加速、もしくはアジアの輸出国からの反撃を引き起こしかねない米国の保護貿易主義への転換、とみています。この3つの要因は「きわめて稀有なもの」ではありません。限りある金融資産を求めて魅力的にファイナンスされたレバレッジの行き着く先が資産バブルとなることは当然の成り行きであり、それはほぼ確実に熱狂を伴います。同様に、米国住宅市場の悪化が近いうちに消費セクターに拡大するとすれば、米国主導の世界的景気減速との見方が再浮上するでしょう。保護貿易法案は現実になる可能性もあれば、ならない可能性もあります。それでも、世界経済が近年の成長率を維持し、向こう3~5年間に渡って金融市場にとって好ましいトレンドが持続する可能性は高いでしょう。
ただし、資産市場に対するより大きな脅威は目先の景気減速ではなく、より長期的なインフレ圧力です。まず、過去数年間にG7諸国において,コア・インフレ率に含まれない食品やエネルギー価格の影響力が高まってきており、これを米国について示したものがチャート5です。1967年以降、短期的には明らかに平均から乖離している期間があっても、ヘッドライン・インフレ率とコア・インフレ率の平均格差はほぼゼロとなっています。しかし、グローバリゼーションが発展した現在、中国やその他アジア諸国のコモディティ商品への需要、特に石油や大豆、鉄に対する需要がきわめて強いことから、米国のヘッドライン・インフレ率の伸びが長期に渡って低下すると見込むことは困難です。これにより、すでに日銀やECBがすでに採用しているように、政策判断において、ヘッドラインの物価統計を考慮し始める中央銀行がさらに増加する可能性があります。
他にも、世界には「Da Bomb」の1つであるディスインフレ的性格を脅かす要因があります。チャート6は香港を経由して諸外国に輸出される中国本土からの輸入品価格が上昇基調にあることを示しています。その一因が人民元の切り上げにあることは確かであり、私はその点が重要と考えます。人民元が容赦なく切り上げられた場合、特に中国国内でインフレが起きていることからすると、中国がこれまでのように、世界各国にデフレを輸出できるかどうかが疑問視されるようになります。中国は現在でも、アジア諸国とユーロ圏にデフレを輸出しているかもしれませんが、日本及び米国には明らかに緩やかなインフレを輸出し始めています。中国やBRICs及びその他新興国が今後も重商主義的な輸出国であり続けることは間違いありませんが、国内重視の姿勢が強くなっており、それが限界部分で過剰貯蓄を吸収し、総需要を拡大させ、世界的なインフレの押し上げに寄与しています。重要な点として、PIMCOの特別顧問に就任したグリーンスパン氏は、数億人もの労働者が計画経済から市場経済に移行するプロセスは、その伸び率の点で今後2~3年の間にピークを迎え、ディスインフレ的影響力は低下する、と指摘しています。加えて、常識から考えても、富裕層と低所得労働者との間の不均衡を顕著に拡大させてきた労働と資本との綱引きは、賃金やその他の手当の上昇を通して世界的に調整され始めることになり、賃金の上昇が企業の利ざやや消費者物価、あるいはその両方に対する圧力となるでしょう。このプロセスは、逼迫しつつあるユーロ圏の労働市場で初めて試されることになるのかもしれません。
こうした点はすべて、今後数年間の中央銀行の政策決定会合における興味深い論点となるでしょう。現在、20ヵ国以上の中央銀行が公式に「インフレ目標」を採用しており、バーナンキ現議長が就任して以来、米国FRBも事実上、その仲間入りをしています。しかし、ほぼすべてのG7諸国の政策当局が足並みを揃えて2%をインフレ目標として掲げ、多くの発展途上国では3~4%を目標に掲げているとしても、以前は信頼性の高かった短期金利目標という梃子が有効に機能するとは限りません。今日の金融市場の潤沢な流動性は、ヘッジファンドか、プライベート・エクイティ・ファンドか、旧来の銀行であるかを問わず、十分な資金量があれば、民間経済主体が独自に信用を創造できることを別の角度から表したものであるといえ、実際に現在の資金量は十分と呼べる以上の水準にあります。ITバブルの際にFRBが証拠金率の引き上げに消極的であったこと、そして住宅バブルの際には頭金ほぼゼロでモーゲージ・バンクがローンを供与してきたことは、信用創造プロセスにおいて中央銀行の影響力が低下し、民間経済主体の影響力が高まっていることの証左と言えるでしょう。中央銀行が決めるお金の最終的な価格が限度のない信用創造の抑制にきわめて重要であることは明らかですが、金融市場に対するお金の価格が実業界に対するお金の価格よりも大幅に低ければ、金利を引き上げ、それによってインフレをコントロールする中央銀行の能力を制限することになるでしょう。まとめると、「Da Bomb」がもたらす低インフレは当面の間優勢でしょうが、G7経済の中には、今後数年の内にはインフレ率が2%よりも3%に近づく国が出てくる可能性があるということです。
金融市場
こうしたインフレ率上昇の兆しと、依然として堅調な世界景気は、世界の債券市場にとって悪材料とみなされる可能性があり、実際に悪材料ではありますが、現在、米国や日本、及びその他の国で見られるこれと反対の循環的トレンドは、今、債券に対し長期的に弱気なスタンスに踏み込みすぎることに慎重になるべきことを示唆しています。また、以前に比べ弱まって来た感はあるものの、価格や利回り水準に鈍感な投資資金のフローによるボラティリティ低下圧力も手伝って、こうした資金フローは最近のG7諸国の利回り水準を「人工的に」最大で50bp程押し下げてきたことを、鋭い運用マネージャーは理解しています。第2次ブレトンウッズ体制と呼ばれてきた枠組みは、黒字国の製品を輸入し、その資金が低金利で輸入国の金融市場に還流するという、商品を売るためにお金を貸す販売金融のような、持ちつ持たれつの関係をエコノミスト的に表現したものです。(可能であれば)こうした資金フローを追いかけることが、G7諸国の短期的および長期的な金利動向を見極める鍵となってきました。中長期金利は低下し、それによる景気刺激効果を打ち消すために、短期金利はそうでない場合に比べて高く設定されてきました。PIMCOのラミン・トゥルーイによる分析の一部である次のチャートが示すように、ほぼすべてのG7諸国のここ数年の「実質10年金利」はそれ以前の20年間に比べて低下しています。
しかし、現在では、「エール大学やハーバード大学のように」多くの資産に投資して、高運用利回りを得ようとする投資家が増えています。そして、その中には中国や産油国の金融当局を始めとした米国債の発行残高の50%以上を保有する投資家が含まれています。たとえば、PIMCOの長期経済予測会議が終了した翌日、中国は投資制限を緩和し、国内の商業銀行に外国株式の購入を認めました。海外投資家の米国債不買運動や米国の経常赤字の劇的な反転がなくても、米国債(そしてその他の、幅広い投資家に保有されているG7諸国の国債)は今後数年の間にその受け皿の一部を失い、実質利回りがある程度上昇する可能性があります。しかし、それには限界があります。PIMCOのポール・マカリーが主張する通り、最終的に実質金利は信用フローに左右されるのではなく、総需要を刺激するために必要な利回りによって決まります。世界経済は構造的に需要が不足しているという考え方を、PIMCOは引き続き支持していますが、その一方で、BRICsやその他の国が限界部分で消費を拡大し貯蓄を抑制することにより生活水準を向上させると、全体の消費が拡大し、それにより実質金利が押し上げられることも認識しています。
さらにもう1つの、確たる結論には至っていないものの印象的な事実を紹介します。チャート8が示すように、G7諸国の実質潜在成長率が2%をわずかに超える水準にとどまっている一方、世界的な実質潜在成長率は実に5%もの伸びを示しています。この2%の成長率を反映して低水準となった実質政策金利と各種の実質期間金利は事実上、世界の5%の成長を支える調達金利となっていますが、両者のスプレッドがここまで拡大したことは、少なくとも過去数10年間にはありませんでした。運用マネージャーやエコノミストの間では、ゼロ金利に近い水準で借り入れ、それよӚ