テン・リトル・アセッツ(10の資産)
戦争!いったい何のためだ?
何のためにもなりゃしない!
何度でも言ってやる
戦争なんて無意味なんだ!
エドウィン・スター、「黒い戦争」より
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実際のところ、戦争は何かしらに寄与するものなのでしょう。戦時下に開発されたテクノロジーが民間に転用された例は多く、たとえば第2次大戦中にはレーダーや核エネルギーが作り出されました。そして、イラク駐在の米軍が軍用車として採用しているハムビーや、それを消費者向けに改良したハマーの存在も忘れるわけにはいきません。私の古いベンツの後ろにぴたりとつけ、まるでブラッドレー戦車のように、前のクルマを踏みつぶさんばかりの勢いでパシフィック・コースト・ハイウェーを駆け抜けていく黄色いハマーを眺めるのは悪くありません。ただし、燃費はガソリン1リッターあたり3km程度のようですが。また、戦争は防衛のための手段として正当化されることが普通です。敵が自国に仕掛けてきたのだから、もしくは仕掛けてくる可能性があるのだから、敵国に対応することは妥当なのだ、といった具合です。しかし、愛国心を煽り立てる自分たちにとっては妥当と思えるこうした合理性と、自国民の死は敵国民の死よりも崇高だとする見方から離れて、私自身のベトナムでの体験から申し上げると、歴史に関する数多くの書物で何度も繰り返される通り、冒頭に紹介したモータウンの歌手エドウィン・スターの歌は正しい主張をしています。すなわち、戦争には良いことなどまったくありません。
しかし、このガンジーやジョン・レノンのような「愛こそはすべて」という哲学には、人間が本来持ち合わせている遺伝子構造を否定するという問題が付きまといます。私達のDNAには適者生存の法則が刻み込まれており、無抵抗主義を信奉する陶芸家がこねる粘土のように、楽観的に人間は柔軟で適応性に富んだ存在だと主張することは、デカルトや、この21世紀に生きる70億人を超える「理性の時代」の参加者とは相容れないのです。イエス・キリストや仏陀といった敬愛される先人達と同様に平和を求めることを強く訴えたガンジーやジョン・レノンのように、人間の好戦的な性質を認めながらも、理性を活用してできる何かがあるはずです。
そのきわめて簡単な方法は好戦的な資質が少ない指導者を選ぶことです。すなわち、生存本能ではなく、育成することに傾斜したDNAを持つ指導者を選ぶことであり、男性優位論者には申し訳ありませんが、これは女性大統領を増やし、男性大統領を減らすことに他なりません。男性が好むように演出された商業ベースの泥レスリングを除いて、実際に女性が掴み合いの喧嘩をしている場面を何度も目にするようなことがあったでしょうか。確かに、女性の陰口や電話での中傷は凄まじいかもしれませんが、銃やナイフを使ったりすることはめったにありません。「チャーリーズ・エンジェル」のファラ・フォーセットでさえも、せいぜい髪を引っ張ったり、顔を引っ掻いたりした程度です。冗談はさておき、私は真剣にそう考えているのであり、皆様にも是非、真剣に考えていただきたいと思います。もし我々皆が真剣であるなら、たとえば現在でも戦闘が続くバグダッド市街に横たわる遺体ははるかに少ないことでしょう。そして、女性指導者はソフトすぎると考える人は、フォークランド諸島を死守したマーガレット・サッチャー女史やイスラエルの元首相ゴルダ・メイア女史を思い出してください。彼女達は不屈の闘志の持ち主でした。それでも、サダム・フセインや___のように、罪もない何万人もの市民を死に追いやることはありませんでした。(誤りを悟った元ネオコンは、このブランクを埋めることが可能でしょう)。こうした間違いを繰り返さないようにするためには、女性のリーダーを増やし、男性のリーダーを減らすことです1。その場合、おそらく一般教書演説が2時間半に及ぶことになり、社会全体の政治性はこれまでよりも育むことを重視したものとなるでしょうが、戦争は百害あって一利なしだということを本当に理解しているのは女性なのです。もう一度言いましょう。戦争には何のためにもならないのです。
私は投資に関して、FRBが今年中に利下げするということ、そしてFRBにとって重要な2つの指標が雇用と資産価格だということを、繰り返し申し上げてきました。建設業の失業者数に増加の兆しがみられ、失業率はFRBが心地よいと感じる水準よりも上昇する危険性が高まっているため、早ければ今年中盤にも利下げが行われるでしょう。また、サブプライム・ローンのデフォルトと、「遅くても何もしないよりはまし」的なモーゲージ銀行に対する勧告や監視の強化により、不動産担保融資は縮小基調に入ったとの強い感触を得ています。不動産担保融資市場の縮小の影響は、住宅セクターの悪化が持続するだけではありません。レイオフと住宅評価益を担保とした借入の減少との相乗効果により、消費も悪影響を受けることになります。住宅評価益担保借入による成長率の押し上げ効果は実質ベースで2%程度、名目ベースで4%程度の寄与度があると試算されており、現在の低水準が3~4四半期にわたって続くと(今がまさにそうです)、需給ギャップを生み出し、失業を増加させ、インフレ率を低下させ、そしてFF金利の引き下げにつながることになります。
しかし、私達は現在、資産を基盤とした経済の中で生活しており、私は過去数年間に渡って、またこのInvestment Outlookでも何度もその点を指摘してきました。そして、米国やその他の国々の経済を支えてきたのはこのような資産価格の上昇と、一部でみられるバブル的な傾向-米国以外では特に英国でこうした傾向が強くみられますが-でした。資産価格の重要性が高まってきているため、FRBはハンフリー・ホーキンス証言で言及されるような雇用やインフレ率といった一般的な経済指標だけでなく、将来の経済動向を示す指標として住宅や株価、あらゆる種類のリスク・スプレッドを政策運営上のターゲットにしているというのが、私の見解です。FRBは表向き、目下の敵としてインフレの上昇を挙げているかもしれませんが、世界的な物価や米国のコア物価が安定した水準に向かっており、一部では実際に安定を達成していることからすると、このFRBの言葉を鵜呑みにすることはできません。FRBが本当に注目しているのは株式やプライベート・エクイティ、企業買収、レバレッジを利用したリスク・スプレッドなのです。何故ならば、将来の安定成長に対する脅威となる要因は物価上昇ではなく、資産価格の行き過ぎた上昇であるからです。
そうだとすると、資産価格の変動に注目することは有益です。ただし、他の債券マネージャーの機先を制して、現在の「高い」利回りを確定できるほど生産的だというわけではありません。誰もがあらゆる資産価格の動きを逐一観察可能であり、そうしたアプローチはベータ・リスクを増加させながら、アルファの少ない、モメンタム主導の取り組みにつながる可能性があります。現在進行中のポーカー・ゲームでカモにならない秘訣は、資産価格を動かす要因、最初に影響を受ける資産クラス、そして最後まで影響を受けにくい資産クラスに関する総合的な感覚を持つこと、そして、これまで好調であったリスク資産に調整が生じるかどうか、或いはそのまま上昇を続けるのかを、早めに見極めることに他なりません。
PIMCOでは短期および長期経済予測会議やインベストメント・コミッティーにおいて、現在の米国と世界の景気サイクルでは、おそらく過去のサイクル以上に、キャッシュのリターンを超過する「キャリー」及び予想「キャリー」が資産価格を押し上げる原動力になっているとの見解に達しています。この場合のキャリーとは、米国の場合で5.25%、ユーロ圏で3.5%、日本の場合で0.5%の政策金利を上回るリターン、もしくは利回りを指します。それぞれの市場において、こうした金利水準を上回る利回りが得られる資産がある場合、理論的に言えば、リターンを稼ぎ出すため、レバレッジをかけてでもその資産の購入を続けることになります。それはボラティリティと景気後退が「過去の話」となっているためです。チャート1はPIMCOが考える資産のキャリーの経路を示しています。これは孤島に招かれた客が姿の見えない犯人に1人ずつ順に殺されていくアガサ・クリスティー作『そして誰もいなくなった(原題:Ten Little Indians―10人の小さなインディアン』にも似ています。ただし、資産のキャリーの場合、犯人は前もって分かっています。それは5.25%の翌日物金利です。翌日物金利こそ、ここに上げた10の資産のうち、少なくとも最初の4つか5つを死にいたらしめた、すなわち資産の価格を下落させた犯人です。
最初の犠牲者はいうまでもなく円でした。円はドルに対するキャリーがネガティブであるため下落を続けました。このネガティブ・キャリーは3ヵ月前では500bp前後であり、現在はそれよりも若干縮小した水準にあります。次の犠牲者は債券でした。債券は歴史的な低水準にあったFF金利が生み出すプラスのキャリーが消失し、結果として過去3四半期にわたって右肩下がりのイールドカーブ、すなわちネガティブ・キャリーとなったため、緩やかな弱気相場が始まりました。第3の被害者(アガサ・クリスティーのいう「小さなインディアン」ではなく、かなりの大物ですが)が資金調達コストに対する感応度が高く、プラスのトータル・リターンに対する期待が高い資産即ち、住宅、となったことに意外性はありません。住宅購入者と投機家は最近になってようやく、インカム・ゲイン(家賃)と比較して、キャリーが大幅にマイナスになるポジションを取っていたことを理解しただけでなく、住宅価格がすでに大幅に値上がりしたため、キャピタル・ゲインではなくキャピタル・ロスが発生し、それによってネガティブなキャリーがさらに悪化する可能性があることを認識するようになりました。この数ヵ月間に、住宅価格の上昇率は数10年ぶりに前年比マイナスとなりました。住宅の次は石油価格と銅価格が主導したコモディティ商品でした。コモディティ商品の先物価格はコンタンゴとなっており、5.25%のキャッシュに対し、キャリーはネガティブになりました。第5の犠牲者になるのはハイイールド資産担保証券市場であると考えられます。延滞とデフォルトに加え、投資家の幻想が打ち砕かれることにより、サブプライム、そして最終的には他の担保資産の価値が不十分な信用力の低いモーゲージ証券の価格が下落を見ると思われます。FRBはそれを笑って見ているわけではないでしょうが、椅子に深く座って、「だから言っただろう」という子供を諭す親のような態度を取ることでしょう(実際に、グリーンスパン前議長は2005年終盤に行った住宅ローンに関する講演でそう述べています)。FRBは政策金利引き下げの前に、コントロール可能な程度の資産市場の調整を見たいわけです。
この物語はどのような結末を迎えるのでしょうか。FRBはさらに利上げを進めるという意見もあります。しかし、その蓋然性はますます低くなっています。過去6ヵ月間の市場の動きを振り返ると、5.25%の翌日物金利に対する米国経済と米国の資産市場の感応度は高まり、資産価格は下落し始めています。資産価格はネガティブ・キャリーに対する感応度が高い資産から下落し始め、最終的には価格がきわめて高い水準に押し上げられたために、5.25%の利回りを確保することが難しくなりつつある資産に広がっています。その例が、5~6%の益回りを確保してきた株式であり、さらには2桁のリターンを生み出してきたプライベート・エクイティです。住宅市場が天井を打ったことは、キャリーの有無にかかわらず、いかなる資産であっても最終的に価格が上昇しすぎると、その後は自重に耐えかねて下落する可能性があることを証明しました。10の資産のうち、最後まで残った資産の下落がいつになるかを知ることは困難ですが、この10の資産こそ、PIMCOの「10の小さな資産」です。FRBにとって残る資産は5つ、あるいは4つかもしれず、プライベート・エクイティ・バブルの自律的な終息を待つことは、バーナンキ議長が最終的にFF金利を引き下げるための優先順位リストにはないでしょう。しかし、インフレ、雇用、そしてキャリーの影響を受けやすい一部の資産、という3つはこのリスト上に存在し、その一つ一つが現在は引き締め的な5.25%の翌日物金利によって締め上げられています。イールドカーブの短期部分をはじめ、今後1年で大きく低下するだろう利回りをできるだけ固めておくべく、PIMCOはこの3つすべてに注目します。将来的に、株式やエマージング債、ハイイールド社債といったリスク資産や、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソ、ニュージーランド・ドルといったリスク通貨が弱含み始めると、FRBは自らの目的が成就されたことを知ることになります。FRBがあまりにうまくやり過ぎ、あらゆるリスク市場の息の根を止めてしまった場合には…。それを考えることは先走りし過ぎというものでしょう。優れた作家はどこで物語を終わらせるべきか、よく理解しているものであり、ポートフォリオ・マネージャーにしても然りです。そして、性別に関わらず、良い大統領もその点を心得ているのではないかと思うのです。
ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
1 故人か存命かにかかわらず、過去および将来のいかなる女性大統領候補に対する支持を表明したものではありません。戦争はひとつの判断基準に過ぎず、他にも医療問題に関する組織図を書き上げる能力や商品取引に関する能力が求められます。さらに、かつて同じく大統領候補であった自らの夫の不倫に目を瞑る能力が求められることは言うまでもありません。ヒュー!
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