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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2007年7月
感染源はそこじゃない!
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間一髪、危ないところでした!ひどい数日間だったかもしれませんが、場合によっては、さらにひどい事態に陥っていた可能性もあったでしょう。誤解しないで頂きたいのですが、私がお話しているのは、ロサンゼルス郡刑務所に3日間収監された後、病気を理由に仮釈放されたパリス・ヒルトンのことではありません。ベア・スターンズ社とサブプライム・ローンを巡る問題についてです。この問題でベア・スターンズは面目を失い、私達投資家はヒヤリとさせられ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の巻頭を飾るべきブラックストーンの株式公開の話題は2面に追いやられてしまいました。我々はレバレッジ・リスクの素晴らしさをお祝いするところだった筈でしたが、実際にはLTCM(Long Term Capital Management)の破綻問題が頭をよぎり、(しょっちゅうあることではありませんが)天才といえども、レバレッジを過度に利用したようなときには、失敗する場合があるということを、改めて思い知らされることになりました。しかし、(金融界はそう思いこませようとしているでしょうが)この事件はあくまでも「間一髪」であったに過ぎません。確かに、ベア・スターンズ社自体には30億ドルの支援の実行が必要になりましたが、殆どのサブプライム・ローン担保証券は、少なくとも帳簿上においては、額面価値で評価されています。従って、それらの資産を売却しない限り、その評価に対して誰も異議を差し挟むことはできません。混み合った劇場の中で「火事だ!」と叫ぶ必要はないということです。確か、バーナンキFRB議長は金融デリバティブが金融市場と経済に対して健全な影響を与えると熱心に繰り返していたのではなかったでしょうか。そして、件のサブプライム・ローン担保証券は金融デリバティブではないのでしょうか。また、こうしたRMBS(Residential Mortgage Backed Securities 居住用不動産担保証券)やCDO(Collateralized Debt Obligations 債務担保証券)は投資適格で、多くの場合トリプルA格であった筈ですし、こうした商品を作ったのは、忠実義務を果たす「プルーデントマン」ではなかったのかという思いも浮かぶことでしょう(女性の皆様にはお詫びしますが、こうした商品を作るのは今でも殆どが男性なのです)。

 

慎重さや、格付機関の基準は、時代と共に変わるのでしょう。慎み深さとトリプルAの格付が意味することは、昔と今とでは違うのかもしれません。私達の世代の代表的な青春映画に、ハワイに出かけた主人公とサーファー達との交流を描いた『Gidget』がありますが、あたかも、この映画の上品な主人公であるギジェットが、ビバリーヒルズで高級コールガール斡旋組織を運営していたハイディ・フライスのイメージにすり替わってしまったかのように感じられます。現在のトリプルA格とは、厚化粧と6インチ(約15㎝)のハイヒール、そして怪しげな入れ墨に、ムーディーズ氏やプアーズ氏といった格付会社が幻惑された結果なのです。この飾り立てた女性達のような資産は、額面通りの価値のある高級な資産ではありません。さらに、バーナンキFRB議長には申し訳ありませんが、デリバティブとは両刃の剣です。デリバティブはリスクを分散させ、金融システムから最終投資家に、リスクを移転させることが可能ですが、その一方で、レバレッジをアンドロメダ病原体(マイケル・クライトンのSF小説に出てくる架空の病原体)のように急激に増殖させるものでもあります。低金利時には無害な金融工学実験が、金利が上昇し、レバレッジ・コストが増加して最終的に資産価格を低下させるようになると、金融工学実験のシャーレから、破壊的なウィルスが生み出されることになります。どなたか、シャーレに蓋をする役目を買って出る方はいらっしゃいませんか。

 

FRB議長を少々からかいすぎたかもしれません。これは笑い話ではありませんので、もうこの辺で止めておきましょう。私はこの「間一髪」、すなわちパリス・ヒルトン風の茶番劇の持つ意味は、単にロサンゼルス郡刑務所に3日間、あるいは27日間収監されたことよりもはるかに大きいのではないかと考えています。この危機は回避され正常な状態に戻ったと指摘する向きは、この問題の感染源を特定するにあたり、誤った場所を探しているのでしょう。問題の核心は、資産を額面で評価することによってごまかすことのできるベア・スターンズ社傘下のヘッジ・ファンドにあるわけではないからです。問題があるのは、ネバダ州ラスベガス郊外のサマーリンであり、西方のロックフォード方向に拡大するシカゴの都市圏であり、そして、いうまでもなく、フロリダ州マイアミの空き部屋だらけの高層マンション群なのです。つまり、問題は2004年から2006年にかけて、割安な、そして時に金利なしの資金でファイナンスされた住宅にあるということです。ベア・スターンズ社のヘッジ・ファンド問題はすでに過去のものとなりつつありますが、この膨大な数の住宅はそうではありません。住宅自体は何ら変化するものではありませんが、住宅ローンには変化が生じます。住宅ローンの返済は増加し続け、それに伴って延滞とデフォルトも増加しています。先日、バンク・オブ・アメリカが発表したリサーチ資料によると、2007年に金利改定を迎える変動金利型(ARM)ローンは概算で5,000億ドルにのぼり、平均するとその金利の上昇幅は200bpを上回るとされています。2008年になると、さらに驚くべきことに、7,000億ドルの変動金利型ローンが金利改定を迎えますが、そのうちの4分の3がサブプライムなのです。

 

本来は、こうなる筈では無かったのです。1のティーザー金利(ローン利用を促すため一定期間金利を減免して低く設定された金利)が設定されたローンや、利率32/28型変動金利(ARM)ローン(当初2年間は低めの金利が設定され、3年目以降の28年間は国債利回りに一定のスプレッドをのせた変動金利型の住宅ローン)は、同じ1のティーザー金利や利率32/28型ローンに、手数料なしで借り換えられる筈でした。ところが現在、借り入れ可能なローンは7近い利率の固定金利ローンになってしまい、ティーザー金利などはどこにも見当たりません。議会、政府、そしてFRB高官たちもモーゲージ・オリジネーターそしてモーゲージ債の買手にさえもに対して、慎重になり、良質のローンだけを実行するよう、警告しています。これは、数年前には調子に乗りすぎていた資本家の、全く身勝手な理屈です。2006年にはカリフォルニア州アーバインのニューセンチュリー社(2007年4月に破産申請した大手サブプライム・ローン会社)の駐車場に止まっているBMWが関心を引くことはありませんでしたが、今やその駐車場ではプリウスさえも見かけることはなく、代わってワシントンで怒れる政治家を数多く見ることができるようになったわけです。

 

したがって、感染源特定のために押さえるべき場所として適切なのは、巧みにごまかされたベア・スターンズ社傘下のヘッジ・ファンドではなく、今後予定されるサブプライムの金利改定であり、それが住宅価格に与える最終的な影響です。これら住宅等の資産を裏付けに、金利感応度の高い資金を基盤としているこの経済にとって、2007年以降、この点は決定的に重要になります。延滞がデフォルトにつながり、それにより住宅価格が下落すれば、経済には問題が発生します。そして、27日間で終わったパリス・ヒルトンの収監とは異なり、この影響は長い期間存続する可能性があります。チャート1はサブプライムARMにおける延滞率の上昇を図示したものです。

 

 

いうまでもなく、延滞率の上昇は最終的にデフォルト率の上昇につながります。現在、サブプライム・ローンの7がデフォルト状態にありますが、この割合はあたかも裏庭のトマト畑にはびこる雑草のように、執拗に上昇するでしょう。クレジットに対して慎重な目を向けてきた私に言わせれば、それは太陽が西に沈むのと同じように確実なことです。ただし、デフォルト率がどれくらい上昇するかはわかりません。この点については次のように見てみましょう。現在のデフォルト率7%(合計損失34%)を使うと、レバレッジ水準の高さからみて、サブプライム・ローンをベースとしたトリプルB格の投資適格CDOを保有する、かなりの投資家が投資資金をすべて失うことになります。この場合、帳簿上の架空の額面価値がどうあれ、ゼロに100をかけてもゼロにしかなりません。サブプライム・ローンの合計損失が10に達すると、シングルA格のトランシェも損失発生の危機に直面します。トリプルAはどうでしょうか?重要な点はこの有害物質が数千億ドルにも昇ることであり、CDOやベア・スターンズ社のヘッジ・ファンドに組み込まれているかどうかが重要になるのは、その清算のタイミングの点だけだということです。人の死や税金と同じように、これも避けられない事実です。サブプライム・ローン問題はそれだけが分離・独立した出来事ではありませんし、ニューヨークタイムズ誌の一面に数日にわたって報じられておしまい、というものでもないのです。さらに、この問題は金融デリバティブ工学研究室の小さなシャーレの中にとどまるものではなく、最終的には資本市場の裁定を通して、米国の住宅市場とは全く無関係に思われる市場のリスク・スプレッドにも影響を与えることになります。ブラジル・レアルは米国のサブプライムと何か関係があるでしょうか。関係があるとすれば、それはヘッジ・ファンドの多くで同じポジションが取られている、ということであり、こうしたヘッジ・ファンドは、慎重さの観点から、もしくは、存続するための必要に迫られて、リスク・バジェットを削減することになるであろうという点です。米国経済への影響はどうでしょうか。言うまでもなく米国経済も影響を受けます。向こう1218ヵ月間にわたり、新築住宅建設はもちろんのこと、個人消費も落ち込みを見せるでしょう。要するに、この数年の住宅市場の繁栄を支えてきたのは、魅力的なサブプライム・ローンであったわけですが、今やそれは無くなってしまった、ということです。大事な点ながら往々にして見逃されてしまうのは、流動性の縮小という冷たい北風は、ハイイールド債、銀行ローン、そしてトリプルA格の資産担保コマーシャルペーパーといった他の資産でも感じられるだろう、ということです。

 

現在のところ、以上のような見方はあまり広がっていないようですし、真の「危機」の兆候は未だ現れていないようにも見えます。また、このような動きは、それが行き過ぎない限りは、まさにFRBが求めていたものであるとも言えましょう。すなわち、安易な与信が減少し、流動性は過剰な状態から、より合理的な水準に落着いてくる、ということです。しかしながら、PIMCOは向こう6ヵ月の間に、FRBが利下げという形で、景気減速に対する保険をかけるだろう、という見方を継続しています。そうなると、先月号でご紹介した、今年の楽観的な長期的テーマについてはどうなるのかという疑問も出てくることでしょう。PIMCOが中長期的には堅調な世界景気を予測していることに変わりはありませんが、先月号で指摘したように、米国の住宅市場の悪化は向こう1年程度にわたって米国の景気短期金利に影響を与えると考えています。PIMCOの見方はこれまでと一貫しており、揺らいではいません。但し、その感染源をベア・スターンズ社で見つけられることは99%ないでしょう。その代わりに、サブプライム・ローンによってファイナンスされた、ラスベガスやイリノイ州ロックフォード、フロリダ州マイアミの住宅市場に目を向けるべきでしょう。この問題は、ウォールストリート(金融界)が後押しし、煽り立ててきたものですが、究極的には、何百万もの、膨大な数の不当に高い住宅や担保資産という形で、米国のメインストリートの中に存在するのです。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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