5%の必要性
英語版のInvestment Outlookはこちらをクリックしてください。
FRBはその力を失っているのでしょうか。世界の金融市場は巨大な流動性を作り出し、弱々しいFRBを嘲笑っているのでしょうか。より丁寧な言葉で言い換えると、バーナンキ議長は引き続き米国経済とインフレをコントロールし続けることができるのでしょうか。それとも、議長もご多分に漏れず、アジアやBRICS諸国の外貨準備の還流やオイルダラーの再投資、そしてヘッジファンドや投資銀行の非情なまでの利益追求に翻弄されているのでしょうか。これが的外れな疑問でないことはおわかりでしょうし、この疑問に対する答えには、運用マネージャーが2007年、そしてそれ以降も利益を追求していく中で、その助けとなる情報が含まれている可能性があります。また、FRBも自らが時としてアーノルド・シュワルツネッガーではなく、ニコール・リッチーに似た存在であることを認めています。要するに、「世界的貯蓄過剰」という言葉を作り出し、その言葉を使って米国(そして、暗に世界中)の中長期金利があるべき水準よりも最大で1%低くなった理由を説明したのは、他ならぬベン・バーナンキ議長だったわけです。利回りに無頓着な参加者の手を経て米国の対外赤字が還流することにより、米国やその他世界中のほとんどのイールドカーブの形状はほぼ恒久的に変化したということができますが、私には、2007年のFRBがここ数年よりも強い力を持っており、FF金利のあるべき水準に対するFRBの判断が今後数ヵ月間や数四半期間の債券および株式市場のパフォーマンスの鍵を握っていると思えます。アジアの中央銀行は再投資リターンよりも為替の水準を重視しており、オイルダラーの保有者は米国の10年債利回りの妥当な水準が4.7%なのか、5.7%なのかという議論に加わるよりも、資金の安全な避難先と考えられる債券市場に、急拡大する富を寝かせておくことの方に関心があり、多国籍企業は巨額の手元資金を設備投資に使うことに依然として慎重です。こうしたことから、主要な市場参加者の中で、価格に特別に敏感な参加者はFRBだけであると考えることができます。ゴルディロックス経済(3匹のクマの家に入り込んで、熱すぎず冷たすぎない、ちょうどいい温度のスープにありついた童話の主人公の少女の名前にちなんで名づけられた、インフレなき経済成長)にとって妥当な金利水準が5.25%だとすると、金利は5.25%にとどまることになります。5.25%の金利がインフレを加速させるのであれば、金利は上昇し、失業率を押し上げるのであれば、金利は低下します。そして、クレジット市場における価格に最も敏感な参加者はFRBであるため、北極星が何世紀にもわたって船乗りたちの道標となってきたのと同じように、他の金利の上昇や低下を先導するのはFRBであり、民間の市場参加者ではありません。では、2007年末にFF金利の水準はどうなっているでしょうか。
私は、米国住宅市場といったミクロの議論や、米国経済と世界経済の連動性の低下による影響等の問題を突き詰めることもさりながら、現在の5.25%の短期金利を名目GDP成長率と比較して、この金利水準がどの程度引き締め的であるかを検証することの方が、この疑問に対する有効な分析であると考えています。今日では、米国の名目GDPの水準に関心を払わない運用マネージャーが少なくありません。実際のところ、商務省が四半期ごとのGDP統計発表時に配布するプレス・リリースの中でも、名目GDPの数値が登場するのは第8もしくは第9パラグラフあたりからで、時には文中で名目GDPに関する記述がない場合もあります。しかし、ある国の資本収益率を反映し、債務の支払い能力を適切に示すのは、実質GDPではなく、名目GDPです。ほぼすべての金融商品の利回りは実質部分にインフレ要素を加えたものであるため、経済成長について分析する際と同様、債務の支払能力を名目ベースで評価することには根拠があるのです。そうすることにより、たとえば、デフレ的環境が債務の積み上がった現代の経済に強い悪影響を与える理由を理解することができます。実質ベースでみると経済は成長しているかもしれません。しかし、名目成長率がゼロを下回ると、債務負担は増加し、金融市場を内部から崩壊させる流動性の罠につながる場合があります。
FRBにとって名目GDPの水準はきわめて重要であります。それを下回るとリセッションが醜悪な姿を現わしかねないような名目GDPの水準、これは明示的であるとともに、緩やかに変化する水準でありますが、この名目GDPの水準を長期に亘って割り込むようなことがないようにFEDは努めることが求められています。チャート1は、1980年代の名目成長率が1桁台後半か、場合によっては2桁に達することが一般的であったのに対し、ディスインフレの台頭によって、過去15年程度の米国経済の平均名目成長率が5%近くに低下したことを物語っています。この5%が「標準的」水準となったため、国債、モーゲージ債、社債の利回りはこの水準を中心に位置するようになり、リーマン・ブラザーズ米国総合インデックスの現在の利回りは概算で5.30%程度になっています。5%は経済成長の速度であり、債務のコストでもあるのです。つまり、この2つは共存しており、経済が均衡している場面では互いに支え合う関係にあります。しかし、名目成長率が5%を大幅に上回る場合や(この場合にはインフレが加速すると考えられます)、5%を大幅に下回る場合には(通常は実質成長率の低下を示唆します)、問題が生じることになります。名目成長率が数四半期にわたって、いずれかの方向に動く場合、FRBも同じ方向に動き、インフレを鎮静化するために金利を引き上げるか、実質成長率と雇用を支えるために金利を引き下げることになります。FRBは通常、名目経済への対応を求められますが、FRBがそれに対応すると、リーズアンドラグズ、即ち時間的なズレにより、12~18ヵ月後に経済は転換し、それがまたFRBに影響を与えるといった形で、この鶏と卵のような、終わりなき因果関係は続いていきます。チャート2は、名目経済成長率が5%を割り込んだ2001年1月、FRBが即座に反応して金利を引き下げ、それにより1年ほど後に景気が回復したことを示しています。この時の「リセッション」は短期間かつ穏やかなものであり、実質成長率は3四半期にわたり、若干のマイナスにとどまりました。しかし、忘れてはならないのは、この時の名目成長率が3%近くに留まった、即ち、債務を履行するために必要な米国経済の標準的名目成長率である5%から、2%乖離したわけです。そのため、FRBは大々的な対応を取ることを余儀なくされ、最終的に翌日物金利の目標水準を1%に引き下げました。同じように、過去数年間の回復局面では、名目GDP成長率が7%に達したことから、FRBはインフレ的な反応を抑止するために400bp以上の利上げを行いました。
実質成長率の低下に加え、FRBがインフレ期待の抑制に成功していることから、2006年第3四半期の名目GDP成長率は年率で3.8%の水準にとどまりました。確かに、FRBは1四半期の数字だけで政策判断を下すわけではありませんが、住宅市場や個人消費の減速、そしてインフレ率の低下が名目経済成長に影響を与える中、向こう12ヵ月間のFF金利はどうなるのかを考えてみましょう。私のみるところ、2007年には、2%前後の実質成長率と2%前後のインフレ率により、名目成長率は4%になると考えられます。これは一部の、特に実質GDP成長率の水準だけに注目している人にとって、ゴルディロックスと評価できるのかもしれませんが、平均で5%超の債務のコストが組み込まれた、資産価格の上昇に依存した経済を支えるには十分ではありません。FF金利が低下せずに、名目成長率が4%に低下した場合、株価と住宅価格は下落する可能性が高いといえます。チャート2は、FF金利が名目GDP成長率よりも1%以上高い水準にあり、その結果、4%以下の名目成長率となった期間があったことを示しています。過去15年間で、こうした例は1990年、95年、2001年(チャートで*印がついている部分)の3度あり、いずれも株価の下落か、実質住宅価格の下落、もしくはその両方を伴っています。この理由は、資本のコスト(FF金利)が資本の収益率(名目GDP)を上回ると、レバレッジに依存している資産(株式や住宅)はマイナスのキャッシュフロー、もしくはより限定的なキャッシュフローによる悪影響を受け、限界部分で清算されることにあります。このダメージを最小化するため、FRBは1996年には名目成長率を100bp下回る水準に資本コストを引き下げ、1993年と2003年の場合には、最大で250~500bpの利下げを行ったのです。今後12ヵ月間に米国経済の名目GDP成長率が4%に向かうとすると、過去の分析からは最終的なFF金利の水準が3%、もしくはそれ以下になる可能性があることがわかります。
1990年代初めに比べると現在は大きく変わっており、また、過去5年でみても、かなりの変化があったことは確かです。バーナンキ議長のいう貯蓄過剰は利回りを過去の標準的水準から100bp程度低下させただけではなく、それを生み出したグローバル化した経済は、今日まで、米国の住宅と消費がもたらす影響をあまり受けずに独り歩きしているようにみえます。そのため、世界の経済成長(そして米国の輸出需要)が米国の名目GDP成長率を緩やかに押し上げるとみる向きもあるでしょう。それでも、5%成長が必要であるにもかかわらず、2007年の成長が4%程度にとどまるとすると、FRBは経済成長と主要な資産市場(主として住宅)を再度刺激するため、向こう6ヵ月以内に一連の利下げを行うことになると考えられます。おそらく、2007年に注目すべき極めて興味深い点は、年末のFF金利の水準よりも、この一連の利下げにより、米国経済が必要とする5%成長をうまく回復できるかどうかでしょう。住宅所有者が餌に食いつかず、資産市場に典型的にみられる好不況の循環を繰り返すのであれば、世界の成長シナリオにかかわらず、FF金利の期待水準はさらに低下することになります。
PIMCOは2007年12月までにFF金利が4.25%に達し、5年債および10年債利回りはおそらくそれよりも25bp高い水準にとどまると予想しています。この金利低下はその幅だけでいうと、過去の債券ブル相場と比べるべくもありませんが、このブル相場は必ずしも2007年12月31日で終わるわけではありません。米国経済の名目成長率は過去に例がないほど、資産価格の上昇に依存したものとなっているため、FRBは資産価格を上昇させるために必要である限り、金利を引き下げるでしょう。これは、米国が債務を支払うために必要となる5%という極めて重要な水準に名目成長率を回復させる試みであり、PIMCOも他の市場参加者と同じようにこの金利低下過程を興味深く観察することにします。FRBはその力を失ったのでしょうか。確かに以前に比べると、その力は低下したかもしれません。しかし、民間の市場参加者の関心が他に向いているため、少なくとも2007年については、FRBが市場を動かす唯一の参加者となる可能性があります。そして、FRBが今後6ヵ月以内に利下げを行えば、米国債券のブル相場は新たな力を得ることになるでしょう。
ウィリアム・H・グロース
ピムコ ジャパンリミテッド105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズ オフィス18階 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。 本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場の各セクターへの投資にはリスクが伴います。債券は利益を生むこともあれば、税負担を生じさせる場合もあります。国債は利払い及び元本償還の約束はしますが、ポートフォリオの時価価値はその保証の限りではありません。モーゲージバック債は期限前償還リスクを伴います。社債においては発行者がその履行義務を必ず果たすとの保証はありません。通常ハイイールド債への投資には、高格付の債券に比べて、より大きなリスクを伴います。自国通貨建て債券以外への債券投資には投資対象各国の経済及び政治情勢に起因するリスクが伴うことがあり、新興成長市場への投資にはかかるリスクが増大することがあります。リーマン・ブラザーズ・アグリゲート・インデックス(LBAG)は米国内で発行された投資適格債の全体的な値動き示す合成インデックスです。合成指数に直接投資することはできません。運用を行なう資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2007年(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。