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近年では金融イノベーションとグローバリゼーションという2つの要因により、資産のリターンを予測することが大幅に難しくなりました。過去10年間で2度発生した国内のバブルは、レバレッジを利用したマネーの力と、価格に鈍感な外国の黒字が米国金融市場に還流する力の強さを証明しています。1990年代終盤の株式バブルはテクノロジー面における紛れもないイノベーションをルーツとしたものでしたが、株価を最高値まで押し上げる原動力となったのは信用創出であり、それを支えたのは1997~98年の金融危機後、アジア諸国が積み上げた黒字の世界的な還流でした。同じように、その存在が確認されたといってもよい現在の住宅バブルを大きく膨張させてきたのも、きわめて低い金利の米国債とモーゲージ債市場に流入する年間1兆ドル近い資金と、価格が手の届かないほど高い水準となった住宅を誰もが購入できるようにしてきた革新的で「おかしな」住宅ローンの登場でした。このように、最近の債券や株式、不動産市場の動向は、バリューを測定する過去のモデルや実体経済の成長そのものではなく、価格に対して比較的鈍感で、レバレッジを活用した資金フローに影響される部分が大きくなっています。1999年には25倍という途方もない水準のPERが疑問視されることなく、予想のつかない資金フローと投資家の熱狂とにより、PERは2001年に35倍まで上昇しました。2003年から2006年中盤にかけて、425bpもの大幅な短期金利の引き上げが行われたにもかかわらず、4.5%を中心とした10年債利回りのレンジが変わることはありませんでした。これはFRBを当惑させたものの、大量の投資資金を保有する外国中央銀行にとって、金利水準は問題ではありませんでした。この外国からの資金還流は人工的な低利回りを作り出し(おそらく50~100bpであり、近年のFRB事務局による数々のレポートや講演がそれを裏付けています)、それにより住宅価格は持続不可能な水準に押し上げられ、全米レベルでみると、6ヵ月前にようやくピークを打ったと推計されます。
このため、現代の投資家は以前とは逆方向に分析を進めることが必要になります。もしくは、1から数え始めて100に到達するのではなく、100から1に至る、これまでとは逆の計算が必要になると言えるかもしれません。これはまるで酔いが回るまで、壁に並んだ100本のビール瓶を1本ずつ順に回し飲みしていくかのようです。しかし、ビールであろうが、500万ドルの値札がついたニューポート・ビーチの住宅であろうが、ここで私が申し上げたいことは、資産価格は以前のように実体経済だけで決まるわけではなく、資産価格が実体経済を決める場合もあるということです。実体経済は資産価格によって動かされており、資産価格は源泉の点でも、構成の点でも、持続性の点でも過去とは異なる資金フローの影響を受けています。かつての経済学は「消費と投資と公共部門+輸出入」分析から入り、金利水準と株価の予想に進んだものですが、現代の経済学は、企業による自社株買い、国際的な外貨準備フロー、そしてこの2つの先回りをする、もしくはこれを有効活用しようとするヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティ投資のポジショニングを分析するものへと姿を変えたと言うこともできます。そして、これは単に、リスクを取ろうとする意欲、すなわち投資家の国籍と関係のない「熱狂」を分析するにとどまるものではありません。企業は過去最高に近い水準の利益を使って自社株買いを進めていますが、その理由は自社の企業価値の向上に熱心だからというわけではなく、その資金の使途が他にないことにあります。同様に、外国中央銀行やオイルダラーの保有者の強い動機となっているのは、自国通貨の上昇に歯止めをかけることや、中東における地政学的判断です。
投資家にとって、資金フローが資産価格に与える影響を実証する最も重要な例として、21世紀に入ってからの米国の貿易赤字のペースがあります。この期間には株式バブルと住宅資産バブルそれぞれの絶頂期が含まれており、この金融新時代の幕開けを示す最適な期間であるといえるでしょう。実際のところ、貿易赤字に関しては外国人投資家が米国に投資しようとするから生じるのか、それとも米国の消費者が外国製品を購入しようとするから生じるのかという、因果関係が明確ではない側面がありますが、それでも、貿易赤字が米国の債券市場と株式市場に送り込まれる年間8000億ドル近い資金の一因となっていることに異論はないでしょう。この8000億ドルという水準は現在の連邦財政赤字の3~4倍に達する水準であり、これだけの資金フローがなかった場合、債券価格と株価は現在の水準を大幅に下回っていたと考えられます。そして、一般的な認識とは逆になるかもしれませんが、拡大する経常赤字は、そこから生み出される流動性が株式や債券の購入に投じられているため、米国の資産価格を下支えし押し上げています。チャート1は21世紀に入ってからのこうしたダイナミックなポンプの傾向を示しています。
注目すべき点として、貿易赤字は2001年に月間100億ドル(年間1200億ドル)規模の改善を示しましたが、これとほぼ同じ時期に株価は20%下落しており、債券価格は景気後退が進行していたにもかかわらず、横ばいとなっています。実体経済が株式と企業収益に影響していたことは確かですが、資金フローが持つ力も明らかであり、債券市場に関してはほぼ確実にそう言うことができます。株式市場に関しても、疑念がないわけではありませんが、そう考えることが可能です。外国のキャッシュフローが1200億ドル減少したことにより、株式市場と債券市場、双方で「今回はこれまでと違うぞ」という警戒感を増幅させたと思われます。しかし、2002年になると、貿易赤字は悪化基調に戻り、それに合わせて、株価は回復し、債券市場では謎めいた現象がみられるようになりました。すなわち、バーナンキ議長の言う「世界的貯蓄過剰」が貿易赤字の拡大を通して、主として米国の金融市場に還流され、それが不自然に高い債券価格と低い金利水準をもたらしました。そして、バーナンキ議長の言う「過剰」の影響は現時点でも存続していると考えることができます。これは、正常とは言い難いながらも根強く残る右肩下がりのイールドカーブが以前発揮した、資産価格と実体経済に対する循環的な抑制効果がほとんどみられないためです。
上記のヒストリカルな分析は主観的なものであり、「サンプリング・エラー」が生じやすいものですが(エコノミストはモデリング期間が短すぎると弁解することでしょう)、その一方で、有無を言わせない説得力も備えています。すなわち、「銀行」の資金が増えれば資産価格は上昇し、預金が減少すると資産価格は下落する、もしくは上昇幅が縮小するものです。しかし、終わりのない金融イノベーションに加え、投資家の側に巨額の資金を投じてまでも追加リスクを取るろうとする意欲が強いため、この分析の妥当性が分かりにくくなっていることは間違いありません。想像を絶するほど多様なあらゆる金融デリバティブがこの数年で急激に成長し、それにより住宅保有者は住宅価格の上昇を活用することが可能になり、金融機関はリスク・スプレッドを圧縮することが可能になりました。そして、流動性の上昇と金融システム全体において顕著にみられるリスク分散を基盤として、ほぼすべての資産の価格水準が高水準で恒久的と感じられるほどの安定をみせています。この恒久的な安定を市場は疑問視していないようですが、私は疑問を持っています。したがって、この数年で「フロー」の影響が強くなったにせよ、それだけですべてが決まるわけではないことも間違いありません。リスク・テイカーが「参入する」ことを決めれば、そこには貿易赤字の多寡とは関係のない、24時間営業のカジノが待っているのです。
この重要な注意点を念頭に置き、近年の資産価格に明らかな影響を与えてきた、増大するキャッシュフローのもう1つの源泉について分析を進めましょう。それは企業収益とその急激な増加です。2001年の景気後退以降、企業収益は急激に増加し、チャート2が示すように、GDPの5.25%から9%近い水準まで上昇しました。税引き後で4000億ドル以上となる企業収益の増加は(これは同じ期間の米国の貿易赤字の増加分とほぼ同額)、通常であれば工場や生産設備に再投資されるはずですが、今回はそうではありませんでした。
アジアが限定的ながらも、より魅力的な代替手段を提供したことにより、「予期せぬ利益」の大半は自社株買いに利用されました。チャート3は2003年以降の四半期ベースでみた自社株買いを示していますが、このチャートからは平均して年間3000億ドル近い(驚異的な)増加が株式市場を通して、金融資産価格を下支えしてきたことがわかります。
企業の自社株買いと、貿易赤字の拡大を通した債券市場と株式市場への資金流入を合わせると、2001年の景気後退が終わって以降、米国の資産市場に注入された購買力は平均で年間1兆ドル程度になります。ヘッジ・ファンドを始め、レバレッジを用いるあらゆる種類の参加者は、この貿易赤字と自社株買いが「プット」として機能することを認識し、それを活用したため、この2つの源泉だけからもたらされる、確定不能であるものの、慎重に推計することが可能なポンプにより、年間数兆ドルの購買力が加えられていると言えます。こうした資金を借り入れ、それが一層強力でレバレッジ水準の高いCDOやCPDO、そして頭金がゼロで済むあらゆる種類の「おかしな住宅ローン」といった金融資産に投資されてきたと考えると、過去数年間の資産市場が好調となり、このレポートの冒頭に書いた言葉が物語るように、今日の資産市場におけるバリューの分析が困難になる理由を理解することができるでしょう。価格の決定にあたってはファンダメンタルズではなく、価値に鈍感なフローと投機的レバレッジの役割がますます重要になっているのです。
しかし、ここに来て逆風が吹くようになっています。もしくは先ほど比喩として紹介した100本のビールの多くはすでに壁から取り出され、消費されて、資産市場は完全に酔っ払ってしまい、これ以上大幅な価格の上昇が不可能な地点に達していると言い換えることも可能かもしれません。酔っ払いはいずれ千鳥足で家に帰り、ベッドに潜り込み、少なくとも何時間かは眠りに落ちることになるものです。いくつかの情報源が壁の中からビールがなくなってしまっていることを示唆していますが、その第一がチャート1に示される最近の貿易赤字の反転です。この改善の一因は過去12ヵ月間にほぼ一貫してみられたドル安傾向と、それが輸入を抑制する効果にありますが、最大の原因は2006年8/9月以降の石油価格の下落にあります。次にPIMCOのアナリストであるラミン・トルーイによる見通しをご紹介しましょう(チャート4)。これは複数の石油価格を想定し、その場合に予想される貿易収支の動向を示したものです。
このグラフからわかる通り、最近にみられた1バレル20ドルの原油価格の下落は年間1000億ドル程度、貿易赤字を減少させます。これにより、債券市場と株式市場では、ほぼ同じ額の流動性が縮小することになり、付随するレバレッジが解消されると、さらに大きな金額が市場から姿を消すことになります。それでも米国市場には依然として7000億ドル程度の購買力が流入するという主張もあるでしょう。しかし、レバレッジを基盤とした経済において、資産価格が上昇するためには流入する流動性の拡大が続く必要があり、流入額が減少してはならないのです。石油価格が55ドル前後のレンジにとどまった場合、市場からアルコール度のきわめて高い流動性が消失する影響が顕著になるでしょう。
脆弱性の第二の源泉は企業による自社株買いの停止です。チャート3が示すように、自社株買いはすでに横ばいから減少に転じ始めています。ピーター・バーンスタイン氏は先日発表した1月のレポートの中で、GDPに占める企業収益の割合はこれまでと同じペースで拡大し続けることはできないと示唆しています。バーンスタイン氏はこう書いています。「他の誰もがこの扇情的な動きの一部に与ろうとするだろう。従業員は賃上げを求め、顧客は値下げを求め、政府は税負担を引き上げることになる」。バーンスタイン氏の予想が向こう数年間を睨んだものであることは間違いありませんが、今回のInvestment Outlookの最後のチャートとなるチャート5からは、より短期的な影響があることが感じられます。
企業収益は実質GDPと(より重要な要因として)名目GDPの伸び率に強く影響されます。先月号のInvestment Outlookで取り上げましたが、チャート5が示すように、名目GDP成長率が今後数年間で4~5%のレンジに低下すると企業収益に影響が生じ、最終的には自社株を購入する能力に影響が及ぶことになります。チャート5は今後数年間の名目GDP成長率が5%になるとすると、GDPに占める企業収益の割合が最大で2%程度低下する可能性があることを示しています。そうなると、近い将来、自社株買いの規模は1000億ドル程度削減される可能性があるということになります。
話が随分と長くなってしまい、これまでの分析で、私自身の思考回路にも酔いが回ってきているかもしれません。しかし、以前とは異なる源泉のキャッシュフローとそれに伴うレバレッジが近年の資産価格の上昇を支えたことを論証してきたのですから、ビールがなくなった時にどういった事態が起きる可能性があるかを分析することが必要になるでしょう。壁には何本のビールが残っているでしょうか。現代の金融本位のカジノでは次々と新たなイノベーションが生み出されているため、残りのビールの本数を正確に知ることは困難であり、ほぼ不可能とも言えます。それが現代の金融市場の特性です。しかし、グリーンスパン前議長が2005年8月に語った通り、「ここ数年、世界的な経済活動の測定には、多様な種類の資産のキャピタルゲインとそれをファイナンスする債務が強く影響」してきました。金融イノベーションとその結果として生じるレバレッジに21世紀の債務創出が反映されており、米国の貿易赤字と企業の自社株買いが資産のキャピタルゲインを支えた一因だとすると、資産価格の決定には、経済成長自体だけでなく、資金フローとそのレバレッジの果す役割がますます大きくなっていると考えられます。壁にはまた何本かのビールが残っているかもしれませんが、私はここから慎重に臨みたいと思います。酔っていなくても、リスク市場(債券の期間プレミアムを含む)が一直線に歩くことはありません。FF金利は2007年上半期中は動かないでしょうが、株式やクレジット・スプレッドそして中長期債は、やがてふらふらと弱含んでいく可能性があると思われます。
ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
ピムコ ジャパンリミテッド105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズ オフィス18階 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。 本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場の各セクターへの投資にはリスクが伴います。国債は利払い及び元本償還の約束はしますが、ポートフォリオの時価価値はその保証の限りではありません。モーゲージバック債は期限前償還リスクを伴います。社債においては発行者がその履行義務を必ず果たすとの保証はありません。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、さらに流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を蒙る可能性もあります。運用を行なう資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2007年(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。