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Investment Outlook
ビル・グロース | 2007年12月

影は知っている

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網の目のように複雑に絡み合ったサブプライム問題はこの数ヵ月、それに見合う以上の犠牲者を生み出しています。被害を受けている住宅保有者が数十万人多くなったのは無論のこと、本来であれば「ジャンク・モーゲージ債」と呼ぶべきであったにもかかわらず、巧みなマーケティングにより、もっともらしい名前を与えられたこの商品の開発や、パッケージング、保証、販売、購入に関わった人々にも被害が及んでいます。100年前にギルバート&サリバンは「スキムミルクが生クリームに化けている」と警告しましたが、「SIV」や「CDO」と呼ばれる金融コンデュイットに組み込まれた現代のサブプライムも、優良資産の証であるトリプルAの衣を纏ってきました。金融機関は見事に一杯食わされ、結果として、全員がそのツケを支払う羽目に陥りました。デフォルトは増加しており、ドルは下落しています。そして、あのグーグルの株価ですら下げています。きっと、何かがおかしくなっているに違いありません。

 

実際に、おかしくなっているのです。私たちが目の当たりにしている事態は本質的に現代的銀行システムの崩壊に他なりません。このレバレッジ融資が複雑に絡み合った現代の銀行システムを理解することはきわめて難しく、バーナンキFRB議長ですら、8月中旬にヘッジ・ファンドのマネージャーを呼び、状況説明を求めたほどです。PIMCOのポール・マカリーはこの構造を「影の銀行システム」と表現しました。それはこのシステムが長年にわたって影に身を潜めてきたからであり、規制に縛られることなく、魔法のような不可解な方法により、サブプライム・モーゲージが作り出され、ウォール街の専門家にだけしか説明できない3文字の名前をつけられたコンデュイットにパッケージ化されていきました。

 

以前にも取り上げた通り、この影のシステムと、世界中を駆け巡るそのデリバティブ商品が信用の民主化に寄与したことは確かです。ごくわずかな人だけでなく、多くの人々が借入れコスト低下の恩恵を受けられるようになり、それに伴って、生産性の向上と広範囲にわたる分散化がもたらす落ち着きと安定が経済成長を加速させ、企業収益を押し上げてきました。しかし、人間の常として、それが行き過ぎてしまい、サブプライムというスキムミルクが腐臭を発し始めました。

 

現代的銀行システムの崩壊を腐臭のするスキムミルクに例えることは若干行き過ぎと感じられるでしょうか。確かに中央銀行は救済に乗り出し、金利を引き下げています。また、ポールソン財務長官はシティバンクやその友人達の状況を落ち着かせるため、「スーパーSIV」の考え方を持ち出し、さらには住宅保有者が住まいを失わないよう、サブプライム・ローンの金利を凍結する救済計画を提案しています。実際にこうした動きがあることは事実ですが、割安な融資やSIVの救済以上に必要と思われるのは、脆い地盤の上に築かれた影の銀行システムに対する信頼感の回復です。数兆ドルに達する資産担保コマーシャル・ペーパー(CP)を裏付けとするコンデュイットの基礎はトリプルAの格付であり、この格付こそ、コンデュイットに対する投資が安全であること、すなわち、これがスキムミルクではなく、最高級のクリームであることを、小声、いや、大声で叫んできた張本人です。現在、サブプライムによって、このシステムは脆弱化し、信頼感が損なわれています。それゆえ、FRB75bpの利下げを実施しただけで、このシステムに対する安心感と投資意欲が回復すると期待することには無理があります。CP市場は1ヵ月あたり、数千億ドル単位で縮小しており、世界各国の中央銀行は影の銀行システムに対する巨大なストレス・テストに直面しています。8月にはカントリーワイドや英国のノーザンロックで一夜にして「取り付け」が発生したことが映像付きで大きく報道されましたが、これは本来の銀行システムの影の部分で起きている深刻な事態とは比ぶべくもありません。信用収縮とそれに付随する資産の毀損は、あたかも伝染性の細菌性疾患のようなペースで拡散しています。

 

誰も実態をその目で見ることのできない影の「取り付け」から「預金」をどのように守ればよいのでしょうか。単刀直入に言うと、こうした事態は私たちの懐具合にどのような影響を与えるのでしょうか。常識的に考えると、将来どこで損失が発生する可能性があるかを理解するには、影が形成される局面において、パフォーマンスが特に良好であった投資対象が何だったかを探れば良いはずです。その第一に挙げられるのが住宅価格であることは明らかです。住宅価格は全国レベルで既に5%下落しており、おそらくは今後数年間でさらに10%程度下落すると思われます。これに肉迫しているのがサブプライムに対するエクスポージャーのある金融株であり、雇用と可処分所得の落ち込みによる影響を受ける消費関連株がその後に続きます。影のシステムによる黒魔術により、こうした資産は優れたパフォーマンスを達成してきましたが、今度はその呪いによって、黒魔術を信じたすべての人の資金が吸い取られることになります。重要な点は、犠牲となる投資対象の中に、この国の通貨であるドルの強さと将来性が含まれることです。外国から巨額の資金が米国市場に流入したことに伴って、SIVCDOはドルを非現実的な水準まで押し上げることに寄与してきました。現在、ドルに対する信頼感は低下し、1ドル紙幣に描かれたジョージ・ワシントンを見限り、ユーロや円、その他ドル以外の通貨に対して、この目で見えても映像として残すことの出来ない逃避が進行しています。弱い通貨ではなく、強い通貨に投資した方が購買力を高められる可能性が高いという事実は、投資家が資産を守るために理解すべき第一の原則です。

 

また、影の力の低下に伴って、債券投資家は対米国債で数々の魅力的な裁定の可能性を提供するさまざまな関係の変化を目の当たりにしてきました。ほぼすべての債券に対して市場が疑心暗鬼になる中、米国債は「質への逃避」により、最も高いパフォーマンスを達成してきました。しかし、主役に躍り出た米国債とは親戚ともいえる間柄であるにもかかわらず、フレディマックとファニーメイが数十億ドルに上る損失の計上を発表したことで、政府機関債は市場で敬遠されてきます。政府機関債に次いで質が高いと思われるのはスワップであり、ここには引き続き、世界の最優良大手銀行が提示する銀行間貸し出し金利であるLIBORの水準が反映されていますが、イールドカーブのほぼ全体で米国債に対するスプレッドが70bp以上に達しています。政府機関が保証するモーゲージ債には想定されるボラティリティの上昇が反映され、その利回りは米国債を150175bp上回ります。つまり、米国債利回りが著しく低下したにもかかわらず、米国の他の高格付債市場にはそれが反映されていないということです。FRBの利下げによって、米国債利回りは低下しましたが、それ以外の市場、すなわち米国企業の収益や住宅保有者および消費者の家計に直結しているセクターの利回りはほとんど変わっていません。現在のFRBによる金融緩和がいずれ力強い景気拡大につながることは間違いなく、それは遠い将来のことではないと主張する向きは時流を見失っているか、ブルームバーグの画面を見ていないのだと思われます。リスクが高まる金融環境において、影の銀行システムの縮小は米国債以外の証券のリスク・プレミアムを押し上げており、今後も高いリスク・プレミアムが求められるでしょう。FRBはこの状況に歯止めをかけるため、FF金利を着実かつ大幅に引き下げる必要があります。

 

FF金利の最終的な到達点は国内の経済情勢によって決まり、国内の経済情勢には住宅価格の方向性と水準が影響します。バーナンキ議長と彼の脇を固めるさまざまな意見を持つFRB理事達は、杖を手に、危険な道のりを手探りで進まざるを得ません。彼らは完全に視界を閉ざされたわけではありませんが、過去に同じような例はなく、それが重大な障害になっています。過去に似たような例があれば、そこから理想的なFF金利水準が推定され、手探りで進む必要はなかったことでしょう。ただし、理論的な指針は存在します。現在、FF金利先物には、今回の利下げ局面の最終地点として、2008年の遅い時期にFF金利が3.25%に達するとの予想が織り込まれていますが、理論的指針はこの読みの正しさを裏付けること、もしくはその誤りを明確にすることに貢献するものです。伝統的な思考の支持者は、この指針として「テイラー・ルール」を持ち出すことでしょう。テイラー・ルールは実質GDPとインフレにおける「潜在的」水準と「目標」水準との乖離を基にした公式により、中立のFF金利を求める理論です。こうした水準は可変的かつ主観的なものであるため、確定的な単一の数字が得られるわけではありませんが、妥当な想定に基づくと、中立のFF金利は「4%を中心とした一定のレンジ」となります。FRBは落ち込む景気を刺激するため、中立を下回る水準にFF金利を引き下げざるを得ないと仮定した場合、FF金利先物に織り込まれた3.25%の予測は的外れとはいえないと考えられます。

 

私自身は、このレポートの冒頭で取り上げたレバレッジで覆われた影のシステムの進化を基にした常識的な結論を、過去の利下げ局面における実績と組み合わせた手法を採用しています。まず、過去を振り返ると、リセッション、もしくはリセッションに近い局面で、FRBは「実質」ベース、すなわちインフレ調整後のFF金利をほぼ例外なく、1まで引き下げています。そのため、コアPCEの水準を2とすると、現時点で想定されるFF金利の妥当な最終地点は3になります。第2に、インフレとGDPに対する景気循環の影響が高まる時期と後退する時期を含んだ十分な長さの期間を取り、この間のFF金利とコア・インフレ率のスプレッドを単純に平均することで、簡単に「中立」の実質FF金利を算定することができます。こうして求められた過去の実質FF金利は、この10年間で特徴的にみられた、インフレを引き起こさない適度な経済成長を持続させるために必要な実質FF金利の水準といえます。この論理はテイラー・ルールに組み込まれた論理に近いものです。

 

この手法を使って求めた過去8年間の平均実質短期金利は1.5です。常識的に考えて、この1.5の実質金利は複雑な影の銀行システムを擁する現在の金融を基盤とした経済に命を吹き込んできた金利水準です。したがって、この1.5の金利は、将来にわたって影の銀行システムが機能し続けるために必要な中立金利と考えられます。そうだとすると、現在の経済の勢いを持続させるためだけでも、2のコア・インフレ率と1.5の実質FF金利から、少なくともFF金利を3.5に引き下げることが必要になります。そして、リセッションに近い景気を活性化させるためには、3%かそれ以下に引き下げることが必要になると考えられます。

 

前向きに将来を見据えた債券投資家は、影の銀行システムがレバレッジと割安な資金を基盤としており、このシステムの内部崩壊を食い止めるには、FF金利を2003年の水準に近づけることが必要になる可能性を認識すべきです。2003年に、FRBはデフレに対して保険をかける意味もあって、FF金利を1%台に引き下げました。今回、同じ金利水準が再現される可能性は高くないと思われますが、FF金利の最終的な水準を3.25%と予想している現在のFF金利先物市場の読みも正しいとはいえないと考えられます。市場では影を離れ、明るい太陽の下での健全な銀行経営と資金運用に回帰する取り組みが続くでしょう。そして、それに伴って、FF金利は3%、もしくはそれ以下に低下することになると思われます。2008年は何かと騒がしくなりそうです。是非、その備えを怠りなく。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

 

今回のIOの一部はフォーチュン誌における筆者のコラムに掲載されました。

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