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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2007年4月
厳しい現実
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人生はつの巨大な、テレビの生番組、リアリティ・ショウになってしまったように思えます。或いは生番組が人生になってしまったのでしょうか。どちらが現実で、どちらが幻なのでしょうか。それとも、現実と幻とが2本の手と2本の足を持つ生命体というコンピュータと、プラズマディスプレイとキーボードを持つコンピュータという2種類のコンピュータを経由して収集された情報から形成される単一意識へと、形を変えてしまったのでしょうか。たとえば、私のマックのスクリーンセーバーには真夜中に捉えた月のクレーターの拡大写真から、想像を絶する美しさをみせる回転する超新星まで、この銀河系やその先の宇宙のさまざまな写真が入っています。誰もがこうしたものが「外界に存在」することを「知って」いますが、同時にそれらが「機械の中」にもあると言うことも出来ましょう。人里離れたウォールデン池のほとりに住み、自然観察の日々を過ごして「森の生活」を著わしたヘンリー・ソローのように、私も深夜に外を散歩しながら自然を肌で感じることもできますし、また、宇宙物理学者のカール・セーガンのようにコンピュータのマウスを動かして、別の視点から自然を眺めることもできます。しかし、そのどちらが現実かを判断することは容易ではありません。どちらも私の意識の中に一連の「小片」として入っていく映像であることに変わりはないからです。「外界の存在」が現実であり、「機械の中」の存在がスクリーン上に表示される画像に過ぎないという常識的な判断の基になっているのは、私の過去の経験だけなのです。生まれてこのかた、1台のコンピュータがあるだけの部屋の中で暮らし、一切部屋の外に出ることがなかったとすれば、私の認識は反対方向に傾いていたことでしょう。

 

実在するモノ、生活はウォールデン池のほとりにあるのと同様に、『2001年宇宙の旅』のスーパーコンピューターHALの中にもあるのでしょうか。現代化がその方向に進んでいることは確かです。現在ではインターネットを通して、数多くのメタバース(仮想空間)にアクセスすることが可能ですが、そのつにセカンド・ライフというバーチャル・ワールドがあります。セカンド・ライフでは、単にコンピューター・ゲームという遊びを超えて、別の人生を自ら作り出すことができます。この世界の住民はアバターとして表示され、この仮想空間の中で、他のアバターとコミュニケーションすることや関わり合いを持つことが可能です。住民はこの世界を歩き回り、他のアバターと共同生活を営み、起業し、住宅を買うことが可能です。つまり、一言でいうと、「外界」で可能なことは何でもできるのです。Financial Times紙によると、今後セカンド・ライフに積極的に関わっていくことを表明したIBMのスポークスマンは次のように述べています。「この世界の住人は現実の人間です。人々はアバターを見て、アニメーション映画を見ていると思うこともあるでしょう。しかし、そうではありません。すべてのアバターの裏側には1人の人間が存在します」。ご自分の人生をやり直したいと考えることはありませんか。その場合には、セカンド・ライフを試してみてはいかがでしょう。別の仕事に就き、別の家を買うだけでなく、「私の妻を引き取ってくれ」と言ったコメディアン、ヘンリー・ヤングマンさながらに、サイバー空間で新たな伴侶を見つけることも可能です。仮想世界における成功、幻の幸せがすぐそこにあるかもしれません。ただし、何とも分かりにくい話ではあります。旧い世界の人々であれば、画像に触ることができないのだから、これはゲームに過ぎないと切り捨てることでしょう。しかし、新たな世界に生きる人々ならば、すべてのものは単に意識に流れ込む情報の一片に過ぎないのだから、これは現実だと言うことでしょう。ソローのウォールデン池にコンピュータはなかったでしょうが、現代社会ではコンピュータが広く浸透したために、人生の謎、そして生活とは何かを定義付けるものは一層複雑になりました。

 

こうした複雑性は米国住宅市場における資金調達においても明らかです。かつて、住宅ローンを借りるためには「20の頭金」が必要とされていましたが、そうした現実はサブプライムローンやオルタナティブAといった、頭金無し等何でもありのサイバー空間に姿を変えてしまいました。これをセカンド・ライフと言わずに何でしょうか!米国の家計の持ち家比率は21世紀に入って以降、65から69に上昇しましたが、その一因は住宅ローンを簡単かつ割安に借りることが可能になったことにあります。こうした住宅保有者はアバターではなく、現実に生きる米国市民です。彼らは、提出書類を簡略化した「ロー・ドック」や証明書類を提出しない「ノー・ドック」というローン申請方法を有効活用したのかもしれませんし、金融機関からの「完全な開示」書類の要求を避けて、自己申告だけでよい「ライアーローン」を借りたのかもしれません。もしくは、FF金利が1%であった2003年の借入ブームに乗ったのかもしれません。いずれにせよ、重要な点は、こうした市民が住宅を購入し、他人の資金を利用して富を得て、アメリカン・ドリームの実現に向かい、ずっと幸せな生活を営むことができると考えたことです。しかしながら、少なくともその一部の人々にとって、その願いを実現することはそれほど簡単ではないように思われます。全米不動産業協会が発表している住宅価格は、過去15ヵ月間に全国で2%下落しており、今後より一層悪化するだろうという懸念が渦巻いています。そして、その懸念が現実のものとなる可能性はきわめて高いでしょう。

 

しかし、住宅に関する問題は喧伝されるサブプライムローンの延滞や、デフォルトの急激な増加にあるわけではありません。もちろん、損失の償却やCDOの価格下落、そしてサブプライムローンを主力商品としていたオリジネーターやサービサーの企業破綻が、すでに足腰の弱っている米国経済にとって、支援材料にならないことは確かです。しかし、抵当権行使に伴う損失が既存のローンの残高に占める割合は限定的であり、ほとんどの住宅保有者は依然としてかなりの含み益のある住宅を保有しています。現在の米国住宅市場のこうした現実を目にし、アナリストを始め、予想を生業とする人々は最悪期を脱したと主張しているのです。彼らはサブプライムの危機は隔離された問題であり、米国経済のごく一部を占めるに過ぎないと主張しています。

 

しかし、将来の経済成長を危うくしているのは、ローンの損失ではなく、そうした損失が生み出す帰結の一つといえる与信条件の引き締めです。与信に対するこうした慎重姿勢は、過熱したブーム、サイクルの最終局面における、ある意味で典型的な反応です。そして、今回のサイクルの熱狂度をから10までの尺度で示せと言われた場合、ほとんどの回答は最高水準の10になることでしょう。誰でも住宅ローンを借りることが出来たのは、債務者の信用力に問題のあるローンはCDOの中に覆い隠して、そのCDO、例えば0.25の預金金利より高い利回りを求める投資家や、あまり洗練度の高くない海外の投資家等に売ってしまうことができたからなのです。しかし、これとは別に、カーター政権が導入した1980年預金金融機関通貨統制法にも似ている動きが一部で進行中です。近年の野放図な融資状況について、マスコミが大々的に取り上げるに伴い、貸し手は新たな規制の導入を懸念し、限界部分で追加的融資に消極的な姿勢をみせるようになるでしょう。非従来型ローンの伸びは2005年年初から2006年半ばまでの18ヵ月間に2倍になりましたが、その後はマイナスに落ち込んでおり、チャート1が示す通り、融資機関が慎重な姿勢になったことに疑いの余地はありません。

 

 

インターネット上では、融資全体に占めるサブプライムおよびオルタナティブ・モーゲージ・ローンの割合に関して、喧々諤々の議論が繰り広げられています。この点は確かに重要ではありますが、この点ばかりに囚われると、融資基準の厳格化と規制の強化によって今後数年間の住宅市場の見通しが変わるという決定的に重要な結論が見えにくくなります。過去の限界的購入者は抵当権の行使を回避するために住宅の売却を余儀なくされ、同じように、将来の限界的購入者には住宅の購入が難しくなります。住宅価格がどれだけ下落すれば需要と供給が均衡するのか、また、均衡するまでにはどれくらいの時間がかかるのかについて、確たる答えは誰にもわかりませんが、それを推計しなくてはならないとすると、かなりの部分を借入金利と住宅価格の水準に基づく住宅取得能力から判断することになるでしょう。チャート2は、住宅価格上昇率の点で正常と呼べる最後の年になった2003年時点の住宅取得能力を回復するには、住宅価格かモーゲージ金利(もしくはその両方)の低下が必要であることを示しています。同年以降、住宅価格は年間10%以上の上昇が当然のようになりましたが、ロバート・シラー教授の推計によると、過去の平均水準は4~5%程度にとどまっています。この数字で判断する限り、住宅は15~20%程度割高であると考えることができます(3年間 X 年間5%の超過的上昇)。チャート2もほぼ同じことを物語っています。即ち、モーゲージ金利が低下しない場合、以前と同じ住宅取得能力を回復するには住宅価格が20%下落する必要がありますが、もし、金利が低下すれば、住宅価格の下落は小幅で済むことになります。

 

 

チャートは主観的であり、また、時間に左右されるものですが、住宅価格と金利の間に決定的に重要な関連があることを示しています。PIMCOは住宅とその行方を気にかけていますが、それは主に住宅が利回りに影響を与えるためです。FRBは住宅保有者に対して、若干ながら痛みを感じさせようとしている可能性があり、過去数四半期にわたり、まさにそのような事態が生じています。一方、住宅の価格が二桁も下落すれば、ほぼすべての中央銀行が望まない帰結を招く可能性があります。このため、住宅価格の予想は自動的に金利の予想を伴うことになります。PIMCOが推計した数値を示すチャートによれば、住宅価格の二桁の下落を回避するためには、いずれモーゲージ金利が60bp以上低下しなくてはならないことがわかります。現在はこれから住宅を購入する買い手ではなく、抵当権を行使した売り手や、先行きに絶望した売り手が価格の動きを支配しているため、金利が現在の水準に長くとどまるほど、住宅価格に対する下落圧力は強くなることになります。先月号のInvestment Outlookで指摘した通り、FRBは住宅だけでなく、さまざまな資産価格を意識していますが、鍵となるのはやはり住宅です。住宅市場の動向は、今後の住宅担保借入のトレンドを決定するものであり、それゆえ、個人消費の今後の行方を占うにあたって非常に重要であるのです。

 

この迫り来る厳しい現実を割り引いて考えたい方もいらっしゃるかもしれませんし、旧い世界の人々のように、自分が触れることや触れてもらうことができないものは決して現実ではない、とおっしゃるかもしれません。しかし、そうではありません。私の言葉を信じられない場合には、20059月に書かれ、計18カ国の過去35年間の住宅市場全体と各国別の住宅サイクルをカバーしたFRB自身による分析(『Monetary Policy and House Prices: A Cross-Country Studyを精査してみてください。PIMCOPIMCOのお客様にとって、この研究から導かれる重要な結論は、米国の住宅価格がピークを打ち、その後3年間、実質ベースでピークを下回ると予想される場合、FRB利下げを行うだろうこと、そして、低迷する米国経済を活性化させるため、利下げは向こう数年にわたる大規模なものになるだろう、ということです。勿論、堅調な世界の経済成長(この研究の想定条件ではありませんが)によって過去との類似性が弱まり、ボトムの水準が高くなる可能性はありますが、私がオフィスの外で日々、見て、触れることのできる住宅価格は、私のコンピュータの画面上の債券利回りと一体になって、未だに終わりが見えない、現在の債券の強気相場についてのリアリティ・ショウを作り出しています。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

 

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本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2007年

(注) PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。



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