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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2006年2月
カーブ
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グリーンスパン議長にとって最後となる連邦公開市場委員会が開催されることから、今回のInvestment Outlookの冒頭では、30年近くにわたって米国の経済運営に携わってきたこの大御所を称え、その引退を惜しむべきかもしれません。もっとも、この人物に対する評価は、これまでの歴史をどのように捉えるか、もしくは将来をどのように予想するかによって、米国経済を金融危機の淵から救い上げた人物にもなるでしょうし、反対に、金融危機の淵に追い込んだ人物ということにもなるでしょう。さて、そのグリースパン議長についてお話したいことはあるのですが、今回は偶然にも議長と全く同じ時に去っていく、私達にとって忘れ難いもう1人の人物について語りたいと思います。この人物、すなわちモハメド・エラリアンの名前は議長ほど知れ渡っているわけではないかもしれません。そして、世間一般の方々にとって、彼がPIMCOを去る衝撃はグリーンスパン議長引退の衝撃ほどは強くないでしょう。また、当然のことながら、議長の引退に比べてメディアに取り上げられる機会も多くありません。しかし、彼がPIMCOを去り、ハーバード基金に移ることは、このニューポート・ビーチのPIMCO本社や、世界中のPIMCOのオフィスに勤務するもの全員にとって、議長の引退と同じか、それ以上に重い意味を持つことになります。誰もが彼を失うことを残念に思うことでしょう。私たち社内の人間からみても、またお客様からみても、彼がエマージング債を始めとする債券運用において、最高のパフォーマンスを上げつつある時に去っていくことは明らかです。彼がIMFを辞め、PIMCOに入社したのは約7年近く前のことでした。それ以来、彼は他の人間が並ぶことのできないほど優れた業績を残してきました。彼はオックスフォード大学で学んだ正統的なエコノミストであり、その卓越した能力を当社に持ち込んでくれましたが、入社した当時には金融市場における日常的なトレーディングに関するノウハウを持っていなかったことも事実です。彼は最終面接の場でビル・トンプソンと私から「トレーディングのノウハウは習得可能」と言われたことを覚えているようです。ただ、40歳近くなった人間にとって、これはかなりの骨の折れる作業だったことでしょう。しかし、彼はトレーディングのノウハウを見事に会得し、エマージング市場国が債券を発行しているだけでなく、そうした債券に価格があることの意味を理解すると、その直後から、世界的にもトップ・クラスの「アルファ」を生み出してきました。おそらく、私たちにとっていつまでも忘れることできないものであり、間違いなく、彼の成功を支えてきた秘訣であったのは、彼の勤労意欲です。夜の9時や10時に、一日の仕事の締めくくりとしてブルームバーグで私宛にメッセージを送ったかと思えば、翌朝4時にはもう、ブラジルの新発債の寄り付き状況について、最新の情報を発信していることも珍しいことではありませんでした。当然のことながら、この数ヵ月間は彼の関心がハーバードでの新たな挑戦に徐々に移ってしまい、それに伴ってPIMCOでの仕事に対して熱意が失われることもやむなしと思われました。しかし、彼に限っては、そうした気配すらみせることがありませんでした。アメリカン・フットボールの世界で史上最高のワイドレシーバーと呼ばれ、常に全力で取り組むことで有名であったジェリー・ライスさながらに、資産運用業務における彼の熱意は時を経るにしたがって、さらに強くなることを、モハメド自身が証明してみせたといえます。こうした人物はどこで何をするにしても、間違いなく成功を収めることでしょう。お決まりの言葉になりますが、それを承知であえて言いたいことは、PIMCOにとって、彼を失うことが重大な損失であり、彼を迎え入れることができたハーバードにとっては最高の補強になるということです。彼は他にも思いつく限りの賞賛を受けて然るべきでしょう。これからも頑張れよ、モハメド。神の祝福があらんことを。君を失うことが残念でならない。

 

また、PIMCOのインベストメント・コミッティーに対するモハメドの多大な貢献がなくなることも残念で仕方ありません。彼はここ数年、グローバリゼーションとそれ伴う資金フローにについて、当社の考えをまとめ、それをさらに精緻なものとする重要な役割を担ってきました。PIMCOではグリーンスパン議長のいう「謎」が、過去に発生したミステリーではなく、将来の不確実性だと考えています。もっとも、この謎を生んだ21世紀初頭の金融の相互作用について、完全に理解している企業やエコノミストは存在しません。しかし、当社はこの謎について、米国でも世界でも、債券市場の中長期セクターの利回りが景気循環と連動せずに低下することと捉えることが妥当であり、その結果として、現在の米国のイールドカーブはほぼ完全に水平になっていると考えています。そして、現在のイールドカーブの水準について、依然として景気に対して刺激的と評価する向きがある一方で、(PIMCOを含め)引き締め色が強くなっていると評価する向きもあります。今回のInvestment Outlookで分析したいのは、このように対立する双方の見解の是非ではなく、現在のグローバリゼーションや資金還流の傾向が持続すると想定した場合に予想される将来のイールドカーブの形状です。先週のインベストメント・コミッティーにおいて、モハメドは最後の言葉として、米国の貿易赤字がGDP比2~3%に改善したり、急激に増加してGDP比10%を超えたりするような、経済・金融面におけるファットテールがないものとして、世界をみるべきとの忠告を残しました。「第2次ブレトンウッズ体制における釣鐘型のカーブの中間に位置すると想定した上で、ポートフォリオのデュレーションやカーブ、クレジットに対するエクスポージャーをどのように取るべきか」と問いかけたわけです。これに対するコミッティの回答は次の通りです。現在、当社のポートフォリオではデュレーションをきわめて慎重な水準に維持しており、信用に関して悲観的な見方をしているものの、将来のイールドカーブの形状にはFRBが近いうちに到達する利上げの終着点が反映されると共に、現在4.5%程度の水準で平坦な形状となっているイールドカーブの形成に寄与してきた、外国中央銀行による中長期セクターへの資金流入が持続するとの想定が反映され、それ自体が不透明感を低下させる源泉となるものです。そして、イールドカーブの形成における世界的な資金フローの重要性を認識することは、イールドカーブの将来の動きを予測する際にきわめて重要になります。これまでに刊行された学術的研究は、ほぼ例外なく流動性と将来の短期金利およびインフレ率に対する予想がイールドカーブの動向を決定づける要因として重要であるとしています。FF金利がいずれ上昇することが予想される場合、カーブは右肩上がりとなり、中長期債の利回りは短期金利の上昇に対するクッションとして、上昇することになります。FRBが金利を引き下げると予想される場合、イールドカーブは平坦になり、場合よっては右肩下がりになる可能性もあります。こうした学問的理論が最近になって通用しなくなったと言っているのではありません。しかし、重要性を増す世界的な資金フローという変数の後塵を拝する可能性があるのです。こうした資金フローは、通貨や資産の価格が大きく下落する可能性がありながらも、米国の資産を保有しようとする外国人投資家の動向に強く左右されることは間違いありません。しかし、モハメド・エラリアンが彼ならではの婉曲的な表現で指摘した通り、米国に還流されるこうした資金フローの多くは「非営利経済主体」によるものです。彼が言わんとしているのは、こうした経済主体の動きが運用のパフォーマンスよりも、経済によって左右されるものであり、彼らは債券価格の変動に対する関心が低い一方、増加を続ける国内の黒字から安定した水準の所得を生み出すことと、自国経済における高水準の雇用を生み出すことに強い関心を持っているということです。現在、バーナンキ新議長がかつて言った「偉大なる安定」の恩恵により、一見すると、経済成長やインフレ、金利が落ち着いていると考えられるため、高い利回りを求めて、各国の中央銀行が以前よりも長期の債券に手を伸ばそうとすることは当然の成行きに思えます。これをはっきりと実証しているのが次のグラフと表です。このグラフと表は外国人、特に外国中央銀行による中長期の米国債の買いが以前よりも存在感を増しており、圧倒的な力になっていることを示しています。そして、このグラフと表は「外国人」、特に「外国中央銀行」による米国債の保有比率が、短期の割引国債よりも10年までの中長期国債で高くなっていることを示しています。

 

 

 

 

 

外国の「非営利経済主体」が米国の(そして世界の)イールドカーブの形成に及ぼす影響が強まっているとの見解に同意でき、さらに、将来もこうしたフローが大きな障害もなく持続すると考えるのであれば、重大な結論ともいえる次のような考えに到達するはずです。すなわち、今後のイールドカーブは景気サイクルのあらゆる局面で、過去よりも平坦な形状を示すことになるとの見方です。これは景気が悪化し、それに応じて中央銀行が金融緩和を進めても、短期金利が長期金利よりも低くなることはないと言っているわけではありません。反対に、私は21世紀の資本主義が右肩上がりのイールドカーブを拠り所としており、右肩上がりのカーブは銀行や規制適用外の銀行ヘッジファンドを始め、数多くの金融機関が構造的な利益を得るために利用できる短中期金利の裁定機会をもたらすものであると考えています。遅かれ早かれ(おそらくは早い時期に)イールドカーブは米国経済と世界経済の繁栄を持続させるために必要な右肩上がりの形状となることでしょう。しかし、準備資金が高い利回りを求めて債券市場に還流されるため、過去のカーブの膨らみが解消され、以前よりも平坦な形状となる可能性があるということです。

 

また、当社のポール・マカリーがこれをディスインフレーション現象と捉えたように、イールドカーブに関するこうした現象を過去の歩みと今後の目的地、双方の観点からみることも重要です。事実、準備資金を還流させる政策には今後も変化が少ないと仮定した場合、このカーブの長期セクターにおける高い利回りを活用してきた過去の「歩み」は基本的に終わりだということに気づくはずですこれとは別に、ALMや年金基金の動きは新たな歩みとなるかもしれませんが、今回のInvestment Outlookにおける分析の目的からするとこうした動きまだ中立となりますつまり、これが終着点だとすると、将来の金利の動きは非営利経済主体ではなく、FRBやその他の政策当局によって決まることになるわけです。カーブが平坦な場合、こうした「経済主体」にとっては、カーブの特定の年限を選好するインセンティブがありません。そのため、FRBやECBなど、中央銀行が決める短期金利がすべての年限の金利水準を左右し、カーブ全体がこれまでよりも、平行な動きをする可能性が高まります。さらに、過去の水準と比較するとイールドカーブの相対的なボラティリティが変化し、モーゲージ債や過去に発行された金融デリバティブなど、オプションと関連する金融商品の価格を変動させる可能性があります。

 

今回のInvestment Outlookの締めくくりとして、将来のイールドカーブの形状について、2つの見解を示すことにします。2006年の年末にかけて米国債のイールドカーブの形状は、 から、 に変わる可能性がきわめて高いと思われます。その後、米国でもALMに関する法規制の導入が具体化し、それが年金基金による債券運用にとって支配的な影響を及ぼし始めると、カーブの形状は過去の ではなく、 となる可能性が高いでしょう。資本主義ではキャリーが必要になるため、短期セクターは右肩上がりの傾斜となることが求められます。一方、年金給付資金を手当するための人口動態上の要請により、長期セクターではイールドカーブが右肩下がりになるでしょう。そして全体的なカーブはほぼ全体に平行して上下することが多くなり、カーブの水準やボラティリティ、短期セクターの傾斜は経済成長率やインフレ率の安定度に応じて変化することになります。謎が解消されたと考える人にとって、将来にわたってアルファを生み出す機会を得るにあたり、この最後の文章には、あまりに多くの疑問点が含まれていることでしょう。この迷路のような状況を乗り切るにあたり、新たな舵取り役として、逸材を手に入れたハーバードにはお祝いを申し上げましょう。当社は戦略的思考をもつ人材を増やすことで、この難局を乗り切っていくことにしましょう。ゲームは始まり、そして続いていきます。直球だけでなく、カーブも打てるバッターが誰なのかを見極めようではありませんか。
 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。



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