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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2006年9月
割り込み
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小学校4年生くらいの子供にとって、トイレに関するジョークは常にとても楽しいものですが、その中には子供たちがトイレの順番待ちの列を作るようになり、列の中で何か気の利いたことを言わないと間が持たなくなって以来、何世代にもわたって受け継がれてきたと思われる「割り込み」に関するジョークもあります。実を言うと、私自身、割り込みをしてしまったことがこれまでに何度もあります。たとえば、映画館では必死になって最前部に割り込み、混雑した高速道路の出口では「遅刻しそうだから」と言い訳しながら割込んだこともあります。ただし、これまでに私が行った最大の割り込みは1944年4月13日、すなわち、私が誕生した日の割り込みです。無論、これは私自身が意図して行った割り込みではありませんが、この割り込みにより、私は多大な利益を受けてきました。この日に生まれたことにより、私は数千万人のベビーブーマー世代の前に割り込んだといえます。この時点ではまだ誕生していないベビーブーマーは人口統計上、1946年から65年まで伸びる人口構成上の「列」であり、米国史上最大の子供世代となり、その後10代としても、20代としても、そして最終的に熟年世代に達しても、米国の歴史上、最大のマスを形成してきました。ベビーブーマーの最初の世代よりも数年早く生まれたため、私は彼らよりも若干楽に生きてくることができました。ベビーブーマー世代と比較すると、私の世代は大学の入学者数が同じでも、受験志願者数は少なく、就職時の競争も彼らの時ほど厳しくはありませんでした。そして彼らの世代よりも数年前の1971年に3万ドルで家を買うことができました。そして、私の子供達もベビーブーマーの子供達よりも1世代上であるがゆえに、私と同じような利益を享受してきました。そして、ベビーブーマー世代が手を出すよりも前に株式やミューチュアル・ファンド、そして言うまでもなく債券を購入し、無意識のうちにベビーブーマーの前に割り込んできたといえます。1940年代前半生まれの私たちが最高の世代かどうかはわかりませんが、少なくとも最も幸運な世代であったということができます。ただし、本音をいうと、妻と一緒にいられるのであれば、生まれ年の幸運を手放し、ジェネレーションXやYの世代であっても構いません。若さとは何にも代え難いものだからです。

長蛇の列の前に割り込むことは、何かを欲している、もしくは必要としている人々が列をなしているという明白な事実を認識することです。ベビーブーマーにとって、過去数10年にわたり、その「何か」は「モノ」であり、ほぼすべての「モノ」がその対象となりました。この世代による消費財と贅沢な暮らしに対する飽くことのない欲求が米国経済の推進力となって、米国経済を牽引してきたのです。ベビーブーマーが存在しなかったとすると、米国経済のみならず世界経済も今のような姿にはならなかったことでしょう。彼らは住宅を購入し、さらにはセカンド・ハウスを購入しました。2台のクルマを所有し、さらには郊外をドライブするために、四輪駆動のオフロード車まで買い込んでいます。また、大画面TVを買ったかと思えば、その次には薄型テレビに手を伸ばし、現在は携帯テクノロジーの誕生により、超小型画面まで手に入れました。ベビーブーマー世代は、人類の欲求が尽きることはないとする理論を証明する最良の事例です。ベビーブーマー世代がクレジットカードを利用できる年齢に達して以来、米国経済を主導してきたのはサプライ・サイドではなく、ディマンド・サイド経済学であり、それが米国をさらに豊かにしていると考えられます。ベビーブーマー万歳!私も彼らがもたらした恩恵を享受した1人であることは、先ほど申し上げた通りです。

しかし、風向きは変わるものであり、さらにいうと季節は移り変わるものです。この長く続いたベビーブーマーの夏に生い茂った緑の葉は、今まさにその色を変えようとしています。60歳を目前にして、ベビーブーマーの関心はオフロード(off-roading)車から、荷を降ろし身軽になる(off-loading)こと – すなわち退職 – に向かい、責任の移転、下の世代に対する不安、そして病院での行き届いた看護に移っています。もっとも医療に関しては、頭では分かっていても、潜在意識の中では、依然として自分に無縁のことであり、自分達よりもずっと上の世代のためのものだと感じています。しかし、ベビーブーマーが意図する「スリム化」を達成することは、最も楽観的にみた場合でも難しい命題であるといえます。なぜなら、ベビーブーマーは人口構成上の「マス」、すなわち長蛇の列であり、彼らよりも少ない若い世代からモノとサービスの提供を受けることが必要となります。つまり、ベビーブーマー世代の取り分が多くなるほど、下の世代の負担が多くなるというわけです。

おかしなことに、これは、お金、すなわち社会保障予算では解決できない問題であり、解決を図るには、子供を増やし、合法、違法に関わらず、移民を増やすことが必要になります。しかし、新たに誕生する子供が労働年齢に達するには20余年が必要であり、米国は後戻りできない地点をずっと以前に通り過ぎています。また、広く知られる通り、移民の受入は政治的に注目を集めている問題であり、近い将来、合理的な結論や対策が決まる可能性は高くありません。このように、ベビーブーマー世代は巨大であるがゆえに、ベビーブーマーが老いた時には誰が彼らの世話をし、支えていくのかという世代面の難題に直面することになると考えられます。先日のニューヨークタイムズ紙のジョン・ティアニー氏のコラムでは、南カルフォルニアに住むファウナ・ケインというご夫人の言葉が紹介されました。ケイン夫人は「周りの人は誰も先のことなど考えていないわ。神様が面倒をみて下さるのではないかしら」と述べています。しかし、奇跡が起きない限り、面倒をみてくれるのは神ではなく若い世代と考えられるのです、ケイン夫人。ところが、医療制度を支え、不自由のない年金を支払い、さらにはアジアとの競争に真正面から立ち向うに十分な数の若い世代がいないのです。そのため、何かが犠牲にならざるを得ません。経済学者であるボストン大学のローレンス・コトリコフ教授は資金的な面だけをみても、医療費および年金に関連する米国民の負債は資金手当されていない部分だけで80兆ドル、何とGDPの7倍に達しているとのことです。

                                          

解決不能と思われる「労働力」不足に直面する中で、政府が支払いを約束している金額が答えになると考えることが夢物語であることは言うまでもありません。このため、会計制度の変更や、将来の支払いの「契約」を、政府による「債券」の積み重ねで行なうという社会保障制度の「修復」が、殆どお笑い沙汰に見えるのです。労働力不足は労働力を増やすことによってのみ解決可能であり、そのためには米国民の退職年齢を60代後半まで延長し、社会保障給付の削減が必要になることはほぼ間違いありません。一方、ベビーブーマー世代を支える労働者の増加に過度の期待を寄せるべきではありません。ケイン夫人、神は自らを助ける者を助けるのです。そして、今後10年の間には、自らを助けることになる人間がはるかに多くなることでしょう。私たちはこの新たな難題に古い手法で着手することになり、社会保障給付を遅らせるか、単に“老後の蓄え”が期待に達しないという理由から、60歳以上の就労の奨励に取り組むことになります。次のチャートは潜在的な医学生の数が減少することを示したものです。このチャートは今後数10年間、ベビーブーマー世代が世話になる外科医の平均年齢が高くなり、そのために若い外科医に比べて、手術の際の安定した腕前を期待することができなくなるかもしれないことを物語っています。それに対抗する唯一の手段は病気にならないことかもしれません。

                                

この人口構成上の難題に対し、国内で資金的解決を図ることが可能と夢想する人は素晴らしい想像力をお持ちなのでしょうが、常識に欠けているといわざるを得ません。ベビーブーマーが住宅を売却して、それを年金と医療費に充てればよいと考えた場合、必然的に「誰に」、そして「いくらで」売却できるのかという疑問が生じることになります。ベビーブーマーが自宅はともかく、セカンド・ハウスを売却するにしても、その受け皿となるジェネレーションXやジェネレーションYは数が少ないのですから、きわめて基礎的な需要と供給の関係により、この世代間移転が円滑に進むには価格の下方調整が必要となります。現時点では手が届かないと考えられる一次取得者向け住宅が、移民や将来の一次取得者にとって現実に手の届くものとなる必要があるということです。同じ論理は国内の株式や債券を始め、ベビーブーマーが老後の資金として、それぞれが当てにしている資産にもあてはまります。全体としてみた場合、ベビーブーマーはこうした資産を人口構成比率の小さい、不確定的な購入者に売却しなくてはなりません。こうした状況から抜け出す「うまい方法」を考えつくことはほぼ不可能といってもよいでしょう。

この「うまい方法」として、米国は太平洋の向こう岸からの施しが続くことを願い、彼らに跪くことにより、向こう30年にわたって、少なくとも逆マーシャル・プランを利用することが可能なのではないかという考え方が浮上します。ベビーブーマー世代の消費ニーズや一部のケースで必要となる医療は、人口構成におけるベビーブーマー世代の比率が高くない地域が吸収することができます。これに該当するのが、日本と中国を除いたアジア諸国や中南米諸国です。しかし、ここから10年の間には、アジアとリオ・グランデ川の南岸の諸国は外向きの重商主義的な輸出主導政策とは対極に位置する内需重視の内向きの姿勢に転換している可能性が高いでしょう。現在見られるようにベビーブーマー世代による借入を支える力は消滅し、借入コストの上昇に加え、ドルの下落によって、輸入品の価格は上昇することでしょう。

リスのように冬の到来を感じ取り、厳しい冬を乗り切るための木の実を集め、蓄えておくことができればはるかに良かったでしょう。今となっては「国内」だけで資金的問題を解決することは妄想に過ぎませんが、米国民が貯蓄し、その貯蓄を国外に投資していれば、いずれその投資を回収し、それにより生活水準を維持することが可能であったでしょう。しかし、実際には、かつて人口構成が全く異なっていた時代の共和党のヒーローを手本とした大統領が現れ、高所得層向け減税を拡大し、過剰な消費を推進することを選択しました。先ほど紹介したケイン夫人と同等の意識しか持たないこの人物は、将来について考えるのではなく、過去を手本とし、レーガン時代の税制を真似ることを選択しました。レーガン政権の政策は80年代にはきわめて妥当なものでしたが、21世紀に入り、高齢化するベビーブーマー世代が将来の問題になる時代にはそぐわなくなっています。しかし、この大統領は子供が黒板に書かれた文字を暗唱するのかのように、同じ言葉を繰り返しているのです。そう、彼の父親から2期目を奪った「増税はしない」というあの言葉です。そして、彼の回りは、彼と同程度の先見性や勇気しか持ち合わせていないスタッフで固められています。現ブッシュ大統領はイラク以外でも歴史にその名を残すことでしょう。

出生率の引き上げを図るには遅きに失し、新たな労働力を国外から迎え入れることは政治的に難しく、ベビーブーマー世代の冬は急激に近づきつつあり、手持ちの資産では負債の支払いが不可能であることを認識するほどの理解力も持ち合わせていない。今の状況はまさに八方塞がりです。目先のことに捉われ過ぎており、市民に対して将来の危機を警告できない政府に何ができるかを考えると、私は「割り込み」だと思います。通貨を切り下げ、経済をリフレーション、もしくはインフレショーンに向かわせ、それでは実質的な富が作り出されないため、過ぎ去りし豊かな日々を象徴するレーガン大統領の言葉である「丘の上に輝く町」を繰り返すことにより、これまでが最良であったのだということを市民に確信させることです。今回のレポートの冒頭で認めたように、私達の一部が最良の時を過ごしてきたことは確かです。しかし、人口動態は変化し、バランスを変えつつあり、今後は少なくなる蓄えがこれまでよりも公平に配分されるようになります。企業収益がGDPに占める割合は過去最高に近づいていますが、選挙におけるポピュリスト的抵抗を回避するため、企業収益に対する税率は最終的に引き上げられるでしょう。そして、最初で最後の頼みの綱となる消費者として行動するベビーブーマー世代によって将来の富の大半がすでに食い尽くされたか、利用されることが決まっていることを投資家が認識するにつれ、民間部門が創出する富の将来価値を現在価値に割り引いたものである米国株式は、ぐらつき、弱含むことになると考えられます。

実りは少なくなるのです。

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

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