ミッション・インポッシブル?
『おはよう、長期経済予測会議にお集まりの諸君。世界経済は低インフレの中、好調を保っているようであり、株式市場と商品価格は上昇している。しかし、諸君達が名づけた「安定的不均衡」は、拡大する世界的不均衡の是正を目的とした政策転換の影響を受けやすくなっていると思われる。さて、そこで今回の任務だが、向こう3年から5年の経済と金融市場の動向を予測し、あわせて、ボラティリティを抑えながら運用競争を勝ち抜いてもらいたい。なお、このテープは(そして場合によっては市場も)10秒後に自動的に消滅する』
ピー、ガガガガ…
私には、ついつい大げさな表現をしてしまう癖があり、また、いつもInvestment Outlookに相応しいテーマを探していることは確かですが、5月上旬にニューポート・ビーチのPIMCO本社で開催された今年の長期経済予測会議の幕開けには、まさにこうした雰囲気が漂っていました。『ミッション・インポッシブル』のテーマ曲が流されたわけでもトム・クルーズが登場したわけでもありませんが、いざ「任務」にとりかかってみると、今後数年間の市場環境におけるこの任務の遂行は、まさにインポッシブルと思われるほど困難なものかもしれないことを、会議に参加した275名全員が認識しました。チャールズ・ゲイブ氏、クライド・プレストウィッツ氏、マーク・ガートラー氏、そしてアラン・クルーガー氏など、今回の会議にゲスト・スピーカーとしてお招きした方々からは、世界各国の中央銀行の政策変更と、金融引き締めのペースおよび最終的な終着点を取り巻く大いなる不透明感に注意すべきとの指摘がありました。合計900件近いグラフに加え、学生の論文風にいうと、3ポンド近くの重さとなったPIMCO内部の調査資料は、世界経済や金融市場に影響を与えるであろう人口動態や地政学の動向、更には、ポピュリズムの潮流までカバーしていました。しかし、そうした影響はどのような形で、そしてどれぐらいの強さで及ぶのでしょうか。私の言わんとするところは、もう御理解頂けたかと思いますが、今回の長期経済予測会議に課せられた任務は容易なものではなく、それゆえに、その内容をまとめることも簡単ではありません。もっとも、ご心配には及びません。映画に喩えて言えば、映画館の椅子に深々と身を沈めて、ポップコーンをほおばりながら、PIMCOが2006年の長期経済予測をまとめるまでの過程を、どうぞお楽しみください。そして、皆様がPIMCOの予測を活用して、利益を挙げられることを願います。さあ、導火線に火をつけました。私達の任務が幕を開けようとしています。
長期的動向の検証と最新の状況
ここ数年、PIMCOの長期経済予想はグローバリゼーション、テクノロジーにおけるイノベーション、そしてPIMCOが世界的総需要不足と名づけた状態を重視したものでした。PIMCOが挙げたこの3つの要因が融合することで、ディスインフレ色を帯びたそこそこの経済成長が生み出され、世界の債券市場に穏やかながらも最終的には上昇相場をもたらすと予想しました。PIMCOは10年物米国債の将来の利回りレンジを3~4.5%と予想し、ユーロ圏では構造的な失業問題と成長抑制要因となる人口動態が原因で、同地域の国債利回りは米国債よりもわずかに低くなると予想しました。また、日本経済の回復は依然として期待することができず、映画に例えて言うと「次回の上映」を待つ必要があると思われ、そのために日本の翌日物金利は0%近くに止まると予想しました。しかし、現実には今回の長期経済予測会議、すなわち比喩的に言うと「映画の上映」に至る過程で奇妙な事態が発生しました。世界的にインフレが低水準に止まる一方で、数年にわたる住宅ブームに後押しされた米国の消費、中国の巨額の投資支出、そして日本や数々の「新興」諸国に対するプラスの波及効果により世界的に経済成長が加速し、その見返りとして中央銀行だけでなく民間の投資家までもが、高い実質利回りを強く求めるようになりました。10年物米国債利回りは5.20%まで上昇しており、PIMCOの予想レンジを外れています。ジェネレーションY風の言い方をすると、「いけてない」予想であったかもしれません。
以前に申し上げた通り、PIMCOの穏やかな予想は世界的な「安定的不均衡」の継続を前提としたものであり、この「安定的不均衡」は世界的な総需要の不足と、いわゆる第2次ブレトンウッズ体制が持つ補正メカニズム、すなわち、1990年代後半のアジア通貨危機のような非常事態を回避するための保険として、BRICs諸国やOPEC加盟国が外貨準備を積み上げ、その外貨準備が世界の債券市場に還流されるというメカニズムは、ある程度長期的な均衡が取れていると思われました。これは失礼。脚本はもう少し簡潔な文章にする必要がありますね。さもないと、観客の皆様は席を立ってしまわれることでしょう。
PIMCOは次のように考えました。世界的な生産の中心は貯蓄率の高い地域、すなわちアジアに移っていました。その結果としてこうした国々が手にした、バーナンキFRB議長の言う「過剰貯蓄」は、「保険」となる外貨準備を積み上げ、さらには自国通貨の上昇に歯止めをかけるために米国とユーロ圏の債券市場に還流すると考えられました。その主役と目されたのが中国ですが、日本もまた、この「実質的」通貨切り下げ競争の一翼を担っていました。こうして出来上がった状況は全ての当事者にとって、メリットのあるものでした。アジアは国内経済を成長させる必要があり、日本は長年のデフレから脱却する必要がありました。そして、米国は住宅市場と資産市場の活況を持続させるため、外国製品と外国の資金を安く輸入する必要がありました。また、ユーロ圏にもそのメリットは及びました。
この「安定」は、それに伴う数多くの不均衡を生み出しました。その1つが世界の過剰貯蓄の80%に相当する金額を米国が消費しているという事実であり、これを反映しているのが8,000億ドルに上る米国の経常収支赤字です。それでも、この安定が損なわれる可能性は低いと考えられました。中国や日本がその目標に近づくまで、すなわち、中国の場合には内需のバランスのとれた、自律性のある経済が作り上げられるまで、そして日本の場合にはその辞書からデフレの文字が完全に消えてなくなるまで、この安定が持続すると思えたのです。
しかし、この居心地の良い体制が生み出してきた力強い成長それ自体が、現在の形でこの体制が存続することに対する脅威となっています。穏やかながらも加速するインフレに直面し、日本とECBは先の見えない利上げを開始しており、米国のFRBも依然として利上げ途上にあります。この利上げは米国の金利水準に対する上昇圧力となり、それが住宅ブームに対する脅威となっています。これは消費減速の前触れとなるものであり、米国の消費が減速した場合には、それがアジアやユーロ圏の経済に悪影響を与えることはほぼ確実であり、景気減速のドミノ現象が起きるかもしれません。さらに、グリーンスパン前FRB議長が数ヵ月前に警告した通り、BRICsやそれに準じる諸国による米国債やグローバル債券の保有は、いずれ飽和状態、もしくは限界的水準に達することになります。そうなると、実質資産の購入、もしくは国内投資が限界部分で決定的な影響力を持つ可能性があります。先日、中国が発表した国内成長5ヵ年計画と、過去数ヵ月間の身元不明の買手による商品価格の上昇には、この飽和状態が反映されている可能性があります。つまり、アジアの高成長と米国、ユーロ圏、日本の割安な資金は恒久的に与えられたものではないということです。第2次ブレトンウッズ体制は第3次ブレトンウッズ体制に変化しつつあるのかもしれません。加えて、昨年に債券利回りの低下という謎をもたらした潜在的な要因の1つである世界的な企業の過剰留保は、資本家の投資意欲が回復し、投資支出がかかる過剰留保の一部を吸収するにつれ、限界的には減少していく可能性が高いと言えます。
ただし、2002年以降、債券利回りを最大で100ベーシス、人工的に低下させてきたと推定される「謎」の半分程度は、主として世界経済の力強い成長と第2次ブレトンウッズ体制を基盤とする余剰資金の流れの中断によって、解消されました。この揺り戻しにより、10年の米国債利回りは5.20%、10年のドイツ国債利回りは4.10%となり、日本国債利回りは2%に向けて上昇しています。加えて、世界経済の強い成長、いや、より正確には強い成長が「安定的に」続くことに依存しているリスク市場は好調を持続してきました。多くの場合、リスク・スプレッドとこうしたスプレッドのボラティリティは過去最低の水準にあり、レバレッジは過去最高水準にあります。市場は堅調な経済成長が継続するだけでなく、予見可能な限り、穏やかに堅調な成長が持続することを織り込んでいるかに思えます。トム・クルーズも安心して、観客の皆さんと一緒に自ら主演した映画を最後まで楽しめることでしょう。
新たな動き
しかし、このような声も聞こえてきます。『いや、そうはうまくはいかないのだよ、トム・クルーズのように振舞う会議の参加者諸君(あくまでもこれは喩えです・・・PIMCOは、オフィス内で癇癪を起こして騒ぎ立てたり、ソファの上を飛び跳ねたりすることは認めていません)。君達に与えられた任務は始まったばかりなのだ』。実際、2005年に「謎」として具現化された長期債利回りが、近時緩やかに反転したことは、投資家や資本家にとって極めて魅力的である現在の安定的不均衡に対する脅威となりかねない、数多くの変化の1つに過ぎません。振り返ってみれば、安定的不均衡の顕著な特徴の1つは、中央銀行の政策金利における「不均衡」にありました。FRBとECB、日銀は短期金利をかなりの期間にわたり実質ゼロ、もしくはマイナスの水準に据え置いてきました。そして、現在でも資産価格と経済成長に対する刺激効果は依然として消失していません。日米欧の短期金利は、以前のようにテーラー・ルールによって示される水準に向かっていますが、そのペースが速すぎたり、引き締め過ぎたりした場合には、かかる均衡に向けた動きが、却って不安定をもたらしてしまう可能性があります。PIMCOでは、日本の個人投資家や世界の機関投資家による0%の借入金利を前提とした「円キャリー取引」がほぼすべての金融市場における利回りの低下とリスク・スプレッドの縮小に重要な役割を果たしてきたと考えています。0%だった借入金利は現在、ある程度上昇してきているため、金融市場はいずれその影響を体感することになります。ゲストとしてお招きしたチャールズ・ゲイブ氏が指摘された通り、低金利に依存した資産価格の上昇が支える経済は、所得を基盤とした経済よりも脆弱です。昨年、このInvestment Outlookでは長期経済予測を説明した際に「ポンプ」という言葉を用いましたが、主に家計部門と金融部門のレバレッジの増加による資産価格の上昇をポンプとした米国の経済成長は、まさにゲイブ氏が指摘された通りと言えるでしょう。ゲイブ氏はさらに、(1)金融政策、(2)保護主義、(3)税制、(4)規制、(5)戦争という5つの分野を挙げ、そのいずれかで変化が起きた場合には、資産価格に長期的な影響が及ぶことは歴史が証明していると指摘されました。
ゲイブ氏が示した5つの分野のうち、先に指摘したように、第1の項目である金融政策の変化が起きているとすると、第2の項目となる保護主義も、現在、生じている幾つかの問題に影響を与えていることは、まず間違いありません。ドバイ・ポーツ・ワールド社による米国港湾施設の運営権取得問題や、中国企業による米国石油大手ユノカル社買収問題に対して米国政府の最近の判断は、チャールズ・シューマー議員などが提案している法案に表れているように、保護主義の台頭という花火の打ち上げにつながる導火線かもしれません。同時に、米国は保護主義に向かう流れの元凶となる可能性があると指摘する向きは、外国中央銀行が過去何年にもわたり、自国通貨の為替「操作」を通して、それぞれの保護主義的政策を進めてきたという事実を思い起こすべきです。米財務省は長きにわたって、中国が人民元の固定相場制を放棄するよう圧力をかけてきましたが、この動きは現在、政策に影響を与える機関として、G7とIMFを組み込もうとする動きに発展しようとしており、1980年代のプラザ合意やルーブル合意を彷彿とさせるものでもあります。
80年代のこの2つの重大な決定は、控えめに言っても、米ドルの為替レートを変動させることになりましたが、ここ数週間でも、同じような動きが生じました。PIMCOは保護主義と、そして保護主義の脅威に対する反応とが、現状を脅かす不安定要因になる可能性があると考えています。世界が米国の経常収支赤字と米国の過剰消費の修正に寄与するドル安を必要としていることは確かです。そして、ドル安によりアジアからの輸入が減少し、現在の「不均衡」の修正が可能になるでしょう。しかし、まず為替保護主義が台頭し、それに続いて、政策当局による急激過ぎる政策転換が行われた場合、もしくは市場の見えざる手が急激に機能した場合、資産価格のボラティリティが上昇し世界の均衡を揺るがす不安定要因となるリスクがあります。この行方を左右するのは、人民元の切り上げに関する中国の判断です。より分かりやすく言うと、ドルの下落ペースや周期的な反騰のペースに注意する必要があります。為替のボラティリティが世界経済に与える影響は数日で消滅する場合もあれば、数年にわたる可能性もあるのです。
スペースの関係上、ゲイブ氏が指摘された5項目のうち、第3から第5の項目ついて、詳細に取り上げることは控えますが、現在および将来の戦争、政府の規制、そして税制に関連した政策転換には数多くのリスクが存在することを認識することは重要です。その最も良い例がイラク問題やイラン問題と、それが石油価格に与える影響です。さらに、PIMCOは今後数年にわたり、ダイナミックな自由市場経済の見えざる手よりも、ポール・マカリーの言う、政府による目に見える政策という拳骨のほうが、限界的な部分でますます強く影響するようになる、との見方を変えていません。ブッシュ政権の減税政策は2008年までは変わらないと思われますが、その後に民主党政権や民主党議会が誕生した場合、現在の不平等を、よりポピュリスト的政策に修正しようとするリスクがあります。ポピュリスト的な動きは南米でも進行中であり、それはベネズエラやボリビア、エクアドルなどでみられる資源の国有化に向けた動きに反映されています。繰り返しますが、地政学的な分裂や戦争、政府による規制や政策の転換のペースと変化の度合いは潜在的に不安定要因となる可能性があります。言い換えると、均衡に向かう動きは市場が不安定にならないよう、できる限り明確にする必要があります。
投資への示唆
このレポートの冒頭で示したように、我々の任務は単に安定的不均衡の複雑性を分析することを目的としているわけではなく、金融市場の動向を予測し、ボラティリティを抑えつつ、競争に勝ち抜くことを目指しています。これまで示した分析は基礎として必要なものでしたが、ここから先は今後の方針を明確にしてまいります。
まず最初に、PIMCOは長期経済予測をディスインフレ・シナリオからリフレ・シナリオに変更したわけではないことをご理解ください(簡潔に書くようにとの要請がありましたので一言で申しましたが、ちょっと簡潔すぎたかもしれません)。保険や年金の積立不足を解消し、債務を均衡させるための日米欧による潜在的なインフレ政策が長期経済予測会議における重要なテーマとなるのは、おそらく2008年くらいになるのではないでしょうか。今のところ、グローバリゼーションやテクノロジー面の進歩による生産性の向上、そして先ほど指摘した資産価格の不安定さを増す政策の影響が持続することにより、世界のインフレ率はほとんどの地域で1~3%の穏やかな水準でレンジ内の動きを続けると推定されます。米国で、そしておそらくは日本でも採用される可能性のあるインフレ目標は、債券市場が果たす古くからの自警機能と融合し、全体的なインフレに対する警戒感を和らげることになるでしょう。PIMCOは、今後数年以内に、米国が通貨や商品、住宅に関連した影響を受け、景気後退に陥る可能性が高いとみていますが、米国の景気が後退し、その影響により世界経済が減速した場合に予想される最も妥当な帰結は、穏やかなインフレとなります。
インフレを的確に予想し、それを精度の高い実質金利分析と組み合わせることにより、優れたポートフォリオ戦略を作り上げるという使命を果たすための基盤を作ることができます。これには読者の方々も同意してくださることでしょう。ただし、最も不透明なのは、世界の実質金利の部分です。先ほど申し上げた通り、ここ数年間存在していた謎は部分的には解消されたと考えられますが、そうなると、この謎がいずれ全面的に解消され、実質金利が正常化していく、と予測したくもなります。しかし、縮小したとは言え、依然として解消されない世界の貯蓄過剰を前にして、PIMCOはそう予測することに二の足を踏んでいます。さらに、中央銀行はこれまで引き締めサイクルおいて、慎重な姿勢を保ってきましたが、それは今後も変わらないと考えられます。米国が16回連続で25ベーシスづつの利上げを実施してきたことや、依然として亀の歩みのようにゆっくりと利上げを進めるECBのアプローチから、そうした慎重な姿勢を感じ取ることができます。もし中央銀行の姿勢が積極的であれば、その地域の通貨は必要以上に強くなる可能性が高くなり、現在の実質的な通貨切り下げ競争政策と正反対の帰結をもたらすことになります。そう考えると、世界の実質金利はスポットであれ、フォワードであれ、かなりの低水準にとどまることになるでしょう。おそらくPIMCOが長期予測の対象とする期間の平均で2%程度(日本はさらに低水準)に留まり、カーブは徐々に右肩上がりの形状を示していくことでしょう。ただし、中央銀行が「透明性」についてのスタンスを変えない場合は、カーブは平常の状態よりも平坦になる可能性もあります。ただし、この最後の点については、舵取り役がグリーンスパン氏からバーナンキに変わった直後であり、バーナンキ氏は未だ危機の洗礼を浴びていないことだけを考えても、慎重にみていくことが必要です。じっくりと観察しようではありませんか。
これまで取り上げてきたインフレと実質金利、そして期間プレミアムに対する分析を総合すると、2006年から2010年までの長期的な時間枠について、次のような予想レンジを得ることができます。
昨年の予測からの継続テーマに、世界の金融システム全体に積み上がったレバレッジがありますが、これはいずれかの時点でリスク指向の高い市場(株式、ハイイールド債やエマージング債、CDO、住宅価格など)にとっての脅威になるでしょう。チャールズ・ゲイブ氏は金融市場を厳しく律するのは金利ではなく、金融危機であると主張されました。過去の金融危機は金融引き締めと結びついていることを考えると、金利は金融市場を律しないとする氏の意見が正しいかどうかは分かりませんが、現在、金融市場に節度が求められていることについては疑いの余地がありません。市場のあらゆるセクターでリスク・スプレッドが歴史的な低水準となっているという事実は、水平化が進行した(そして、クライド・プレストウィッツ氏が指摘したように、現在はアジアに傾斜した)今日の世界経済が、安定した高水準の成長を問題なく達成可能であるとの確信を反映していると言えます。資本主義の歴史を紐解くと、平常であれば均衡が保たれている「創造的破壊」環境であっても、過剰投資と過剰レバレッジ、マーケットメーカーや投資家の情緒的反応によりファンダメンタルズの悪化が加速すると、均衡が破られる可能性があります。現在、PIMCOは運用資産をさまざまなリスク・カテゴリーに分散させていますが、今後もそうした運用を続けていきます。しかし、世界の市場、特に米国市場において、リスクに対するリターンが低水準であることを考えると、資産を配分したリスク・カテゴリーの1つ1つのクオリティを比較的高い水準に維持しなければ、責任を果たしたということはできないでしょう。
通貨に関していうと、相対的なオーバーバリュエーションの観点から米国を選び出すことは、若干遅きに失したかもしれません。しかし、PIMCOはこれまで数年にわたり、ドル安を支持しており、投資家の皆様はそれにより利益を得ることができました。
PIMCOは、米国の過剰消費とマイナスに近い貯蓄に表れている不均衡を是正するプロセスには、この2つの状況を反転させるためのより強いインセンティブが必要になると考えています。こうした「インセンティブ」はたとえ外部からもたらされたものであっても、ドル安と同時に、米国の資産価格が世界の他の地域よりも相対的に低くなることつながります。短期的な反対の要因がない限り、PIMCOのポートフォリオではドル以外への国際分散がさらに進むことになるでしょう。
PIMCOはまた、お客様や読者の皆様がアセット・ミックスを引き続き分散し、商品(コモディティ)に対しても、ある程度資産を配分すること推奨したいと思います。「ちょっと待ってくれ、コモディティは数パラグラフ前で重々しくも警告したリスク資産の典型ではないか」とおっしゃられるかもしれません。その通りです。そして、世界的な景気減速や資金の流れの反転はコモディティにとって好材料となるものではありません。しかし、現在は、我々は資源不足と、資源を巡る争い(一部は実力行使を伴う)、に象徴される、世界の大きな流れの中にいます。「中国が欲しがるものを中国よりも前に買うべし」。これが、ここしばらくの間、利益を得るための金言となっており、コモディティは依然として中国の購入リストの最上位に位置しています。ただし、ここ当面の間については、そう言えないかもしれませんが。
さて、トム・クルーズは素敵な女性を腕に抱き、にっこりと微笑んでいます。今回の『ミッション・インポッシブル3』でも彼は不可能を克服し、任務を完了したのでしょう。しかし、言うまでもなく、PIMCOの任務については、そう簡単に結論を下すことはできません。PIMCOに対する評価が明確になるには今後数年を要します。PIMCOはこの難しい使命を果たしつつも、お客様の皆様からご信頼頂き、皆様のご資産の運用をお任せ頂いているという幸運に恵まれたことを、引き続き真摯に受け止めて参ります。これは重い責任ではありますが、その責任を果たすことこそが、PIMCOの、この資産運用ビジネスにおける存在理由であります。改めて厚く御礼申し上げます。そう言えば、10秒後に自動的に消滅するはずのテープはどうしたとおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。あれは映画の中の話であり、PIMCOの任務が記録されたテープとデータはこの先も永く、繰り返し再生されて