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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2006年8月
歴史の終わりと最後の債券上昇局面
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「人生にとって重要なのはその過程であり、到達した場所ではない」という言葉をよく耳にしますが、私にはこの言葉がほとんどの部分で真実をついているように思えます。宝くじで大金を手にした人は、わずかな間、浪費の喜びに浸ることができるかもしれません。しかし、そこに至る過程でしたことといえば、セブン・イレブンの宝くじ売り場に足を運んだことくらいであるため、夢の宝くじに当選したこと以外に感情の爆発や感動が得られるとは考えられません。それよりも、人生を通して繰り広げられる数多くの「宝くじ」に参加した方がよいでしょう。つまり、突如として降ってわいた大きな幸運を手に入れるよりも、2歩進んでは1歩下がり、苦労しつつ坂道を登っていくギリシア神話のシシュポスのように、一進一退を繰り返す方がよいということです。経験としてみた場合、個人的には過去の成功それ自体を懐かしむよりも、人間関係や家庭、そして職業人生を築き上げることの方がはるかに価値のあることだと思えます。神は世界を6日間で作り上げ、7日目に休息を取られたといわれます。しかし、その7日目にはきっと天上の安楽椅子で身を休めながら、月曜日の朝から土曜日の夜までの仕事の楽しさを思い返していたことでしょう。

 

この思索を矮小化するわけではありませんが、本当のことを明かしてしまうと、私がこの「過程対到達点」という命題について確証を得た直近の例は、新しいiPodとプレイリストの作成でした。若い読者の方々にとって、iPodの出現は、人間にとってテクノロジー面における小さな一歩でしかないと思われることでしょう。しかし、私には人類にとって大きな一歩というべき発明であるように思えたのです。私にとって、iPodを起動し、終了させるだけでもかなり大変なことだと感じられましたし、今でもそれは変わりません。それゆえ、携帯電話の形をしたこの機械の内部に数百枚ものCDライブラリーを作り上げることなど思いもつかないことでした。ところが、私の妻は創造的変化が好きで、それにより若さを保っています。その妻が先月、私にアップルのマッキントッシュとiPodをプレゼントしてくれました。妻と私は地元のマック・ストアに足を運び、十分な時間を費やして、数百枚に上る私のCDコレクションを手の中に納まるこの小さなマシンに移す方法を学んできました。そして、実際にやってみると、これが予想外に楽しい作業だったのです。ただし、念のために申し上げると、楽しかったのは音楽を聴くことではありません。実際には、まだその時間が取れずにいるのです。楽しかったのはプレイリストの作成です。どの曲をプレイリストに残し、どの曲を消去するかを決め、マックに取り込み、それをiPodに転送したわけですが、これは対象をふるいにかけ、不要なものを除去し、必要なものだけを凝縮して1つにまとめ上げる作業であり、2歩進んでは、テクノロジーの壁にぶつかり、1歩下がる作業でした。そして、現在までに2000曲に上るプレイリストを作り上げ、とりあえずの到達点にたどり着いたといってよいでしょう。つまり、実際にこの2000曲をすべて聴くことはできないのです。iPodに取り込んだ音楽を寝ている間も聴くことができれば、それも可能かもしれませんが、それは無理な話です。しかし、この経験がとても楽しいものであったため、私はスティーブ・ジョブスやビル・ゲイツ、あるいは別のテクノロジーの革命の名人たちの次なる発明を応援しようと決めました。そうすれば、私も「到達点」に至ることなく、「経験」を繰り返すことができるわけです。人生とは時に楽しいゲームになる場合もあるということです。

 

ここ最近の債券市場における私の「経験」は、iPodのプレイリスト上で繰り返し再現したいと思うものではありませんでした。過度に緊張し、何日にもわたって眠れない日々が続きました。市場の転換点ではそうした状況が起きるものであり、今回も例外ではありませんでした。私は77日にブルームバーグTVとロイターで、金利がすでにピークを打ったと考えていることを明らかにしましたが、あの発言が多少性急であり、無謀であったかもしれないことは、言うまでもありません。今回も以前に物議を醸した「ダウ5000ドル」と同じ結末が待ち受けているかもしれません。しかし、マスコミに登場する時には、自分を抑えられなくなることがあるのです。ただし、「債券市場の下落局面は終わった」と、かなりぶっきらぼうな言い方をしましたが、PIMCOでは膨大な時間を費やしてこの判断を得たことを申し上げておきましょう。PIMCOの投資適格債運用の責任者であるマーク・キーセルや、サウミル・パリクやラーフル・セクサリアといった新進気鋭のPIMCOのプロフェッショナルが作成し、私のトレーディング・デスクに山と積まれた資料が、この判断に至るまでに費やされた膨大な時間を物語っています。それが何かを証明するというわけではなく、私たちはすべきことをしたということです。この結論についてご説明する前に、まず申し上げておきたいことは、債券市場の下落局面の終わりとFRBの利上げ打ち止めが必ずしも一致するわけではないということです。実際に、多くの場合、債券価格は最後の利上げの数ヵ月前に底入れします。これはFRBが景気とインフレに先手を打とうとすることを市場が織り込み始めるためです。

 

このプロセスは多くの点でケインズの言う美人投票を連想させるものです。ケインズの仮説によると、美人投票で誰が勝つかを知りたければ、候補者ではなく審査員の顔に注目すべきです。債券市場はFRB理事達の表情を読もうとするだけでなく、FRBの将来の行動を予測しようとします。そして、過去6ヵ月間について、私自身が認めざるを得ないように、市場の読みは正しいこともあれば、誤っている場合もあります。2006年に入って以降、私はFRBが利上げを打ち止めにするという予測を示してきました。この予測は時期尚早でしたが、現在のサイクルにおいて、債券市場の下落局面が終わったと断定したことは 今回が初めてであり、そう断定することは美人投票とはかなり異なるプロセスです。

                

                   

 では、なぜFRBは利上げを打ち止めにすべきであり、債券市場は7月上旬に底入れしたといえるのでしょうか。最大の理由は過去数年間にわたった425bpもの短期金利の引き上げと、それに付随して生じたイールドーカーブの上昇は景気を減速させ、インフレを押さえ込むために十分な水準に達しているためです。国内経済は依然として堅調であり、世界経済は活況に沸き、コアCPIの上昇が加速している中で、こう断定することはかなり大胆だといえますが、PIMCOが循環的視点に立って行った分析は、この判断が妥当であることを物語っています。アジアとユーロ圏の成長が米国の輸出を引き付ける役割を果たしていることは間違いありませんが、主として利上げが住宅市場に与える影響と、それが消費支出と経済活動に与える二次的影響を考えると、米国の利上げサイクルは完了したと判断することができます。

FRBの利上げと住宅市場および国内経済の関係を明確に判定するため、PIMCOは変貌を遂げつつある複数の関係に注目しています。その中には、通常12~18ヵ月の先行期間が存在する、FRBの金融政策と経済活動との重要な結びつきも含まれています。FRBは24ヵ月前に利上げを開始しており、そこからすると景気はすでに減速しているはずであり、実際にそうなっています。個人消費や雇用に加え、資本支出の伸びにも減速傾向がみられます。これは景気後退を示すほどの減速ではありませんが、年末にかけて、実質GDPで2%程度、もしくはそれよりも低い成長率になることを示しています。景気後退に陥るか、回避できるかは債券市場の転換点で直面するきわめて微妙な判断になります。過去の景気循環の歴史からは、景気に急ブレーキがかかるわけではなく、1速、もしくは2速にシフトダウンする中で債券価格が底入れし、FRBの利上げが完了することがわかります。

 

しかし、特に今回のサイクルで際立っていたのは住宅価格の上昇傾向でした。これにより、消費者には精神的な資産効果が生じ、通常の場合よりも多くの借り入れと支出が可能になりました。それゆえ、PIMCO(そしてFRB)は景気とインフレ、そして債券市場の行方を占うため、住宅市場の動向に特に強い関心を寄せてきました。そして現在の住宅市場は良好とは言い難い状況にあります。PIMCOでは、この1年近くの間、専門のアナリストが全米各地の不動産業者とコンタクトを続け、各地の住宅市場の動向についての情報を入手してきましたが、こうしたアナリストからの報告によると、多くの地域で実際に住宅価格の下落が発生しています。これは景気やインフレ、そして金利動向に重大な意味をもつものです。全米不動産協会がつい先日発表したレポートも、全国的に住宅価格の前年比伸び率がほぼゼロになっており、今後はマイナスになるとみられることを裏付けるものとなっています。

 

住宅が強い影響力を持っている今回の景気サイクルを分析するにあたり、PIMCOが中心に据えた資料の1つが20059月に発表されたHouse Prices and Monetary Policy: A Cross-Country Study住宅価格と金融政策国際的調査と題されたFRBの研究結果でした。65ページに上るこの資料は米国を含めた18ヵ国における過去35年間の住宅サイクルを分析したものです。内容が広範囲にわたるため、ここでその詳細を取り上げることはできませんがそして、1つの資料に過度に依存することはできませんが、その中のきわめて重要な2つのパラグラフを紹介します。

 

我々は実質住宅価格が正循環的であり、景気サイクルのピーク近くで最も高い水準をつける傾向があり、多くの場合、景気サイクルがピークに達する前には、経済活動の堅調な伸びが長期にわたって持続し、それにより生産が潜在的水準を上回り、インフレ圧力の台頭が見られるようになることを確認した。そして、実質住宅価格は最高点を過ぎた後、約5年にわたって下落し、最高点に達するまでに上昇した分の多くが失われることになる。実質GDP成長率は住宅価格がピークをつけた後、1年程度の間、減速し、個人消費と投資の伸び率にも同様の傾向がみられる。

 

多くの場合、住宅価格が大幅に上昇する前には金融政策の緩和局面があり、FF金利は住宅価格が最高地点に達する約3年前に上昇に転じている。その後、金利はGDP成長率の減速に合わせて、ピークから急激に低下している強調部分は筆者

 

       

 

FRBが過去に発表した膨大な分析の多くは信頼性に乏しいものでしたが、この分析における統計的相関と結論の多くは現在の米国の住宅ブームにとって、重大な意味をもつものであり、不気味であることは確かです。すなわち、FF金利は住宅価格がピークに達する20067?)3年前に20037上昇に転じました。また、GDP成長率は堅調であり、インフレ圧力の台頭が見られ始めています(2006年上半期)。そしていうまでもなく、チャート3が示すように、今後に関するきわめて重要な結論として、金利はその直後に転換することになります(2007年上半期)。

 

                   

 

 平均すると、短期金利は住宅価格がピークを形成してから400bp以上低下しています。これは住宅や株式、債券市場といった資産価格を再活性化するために、世界各国の中央銀行の金融政策が果たす必要な機能です。

 

上記のFRBの調査資料に加え、私はさきほど、私のトレーディング・デスクに積み上げられた数々のPIMCOの調査分析について言及しました。そのうちの1つである、米国債やモーゲージ債、社債の利回りに「埋め込まれた」平均クーポンとFF金利の関係に対する分析は、Investment Outlook20061月号で取り上げました。そして、それ以外の分析も、経済統計や先行指標からみて、今回のサイクルにおけるFRBの利上げが打ち止めになることを示しており、そうした分析のほぼすべてが、今年6月から7月が重要な変曲点であることを指し示しています。

 

77日の私の発言が「ダウ5000ドル」の繰り返しになるかどうかは、いずれ分かることです。予測という作業は簡単なものではありません。フランシス・フクヤマ氏が1989年に発表された有名な著書『歴史の終わり』で展開したように、預言者を気取ってみたとしても、世界は日々刻々と変化するものであり、イスラム急進主義を提唱するよりも速く批判を浴びる可能性があります。そのため、しっかりとした鎧を身に纏い、批判に備えることにします。私の行く先にそれとは異なる運命が待ち受けているとすると、今回のInvestment Outlookのタイトルは実に興味深い主張をしているということができます。つまり、債券価格の上昇局面は今回で最後になり、ほぼすべての債券アクティブマネージャーが1981年以来経験してきた歴史はこの先数年で終わることになるという主張です。利回りが2003年につけた史上最低水準を下回るかどうかは現段階で予測し難いですし、また、これが債券の最後の上昇局面になるという主張は現実的ではないかもしれません。フクヤマ氏の著作の題名のように、これは真実の描写というよりも、むしろ注目を引くためのヘッドラインと言えるかもしれませんが、しかし、重要なことは、米国が、社会保障、医療制度、そして外国人の保有する米国債といった、将来の巨額の債務に対処する方法を模索するのに合わせ、こうした予想が最終的にはリフレーションとインフレーション、そして、2009年以降のいずれかの時点における債券価格の下落を意味するだろうということです。しかし、これは来月のInvestment Outlookのテーマです。実を言うと、来月分のInvestment Outlookもすでに書き上げているのです。とりあえず、今の段階では緩やかながら、その後は上げ足を速めるだろう、私達にとって「最後」の債券上昇局面を楽しむことにしましょう。これはすばらしい経験となるはずであり、それが持続している間は、素晴らしい到達点になるはずです。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

 

 

 

1 (www.federalreserve.gov/pubs/ifpd/2005/841/ifdp841.pdf)

 

 

チャート

 

チャート1

タイトル:先を織り込む

米国100年債利回り

グレーでハイライトした部分はFRBが利上げを行っていた期間を示す。

出所:FRB、メリル・リンチ

 

チャート2

タイトル:要注意

中古一戸建て住宅価格中間値

20066

出所:全米不動産協会、20067

 

チャート3

タイトル:実質住宅価格、名目政策金利、インフレ ‐ 1985年のピーク前後の動向

CPIインフレ率*

実質住宅価格

名目政策金利

X軸:住宅価格がピークをつけた時点からの四半期数

Y軸:ピークからの乖離幅(%)

* 4四半期の変化率

出所:FRB

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