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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2006年5月

米国はGMと同じ道を辿るのか

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かつて「GMにとって良いことは米国にとっても良いことである」と言われたこともありますが、ここでその言葉を繰り返すつもりはありません。また、これを読み換えて、「GMにとって悪いことは米国にとっても悪いことである」と主張するつもりもありません。大多数の米国民は、米国の自動車産業がかつてのように米国の経済活動において圧倒的な力を持っているわけではないこと理解しています。そして、自動車産業が長期にわたり外国との競争に晒されてきており、経営陣や労働組合による過去数10年間にわたる一連の誤りが積み重なったことが今の苦境につながっていることも理解しています。それが良いか悪いかは別として、現在の米国経済は製造業ではなく、サービス産業と金融に拠って立っています。冒頭に紹介した言葉は、かつてGMの社長を務めたチャールズ・ウィルソン氏の言葉ですが、これを現在の状況に合わせて言い換えると、「マイクロソフトやシティグループにとって良いことは米国にとっても良いことである」となるのではないでしょうか。もっとも、両社の首脳が実際にそう公言することはないと思われますが。

 

しかし、GMが衰退する米国の製造業の象徴的存在であることを別にしても、炭鉱夫が有毒ガス検知のために坑道に持ち込むカナリアよろしく、GMが米国経済全般が今後直面する状況を一歩先に経験しているのだと理解することは重要であると思います。GMが犯してきた過ちは米国が犯してきた過ちに似ており、GMが抱える問題は、米国がいずれ抱えることになる問題です。現在、GMに関して数多くの報道がなされていますが、それは将来の米国の姿に重ね合わせることができます。つまり、今後数ヵ月や数年間のGMの動向をフォローすることは、いわば2006年6月時点で2010年のウォール・ストリート・ジャーナル紙を読むことにも似ていると考えられます。ただし、本稿ではGMと米国経済の類似点を細部にわたって1つ1つ説明するのではなく、この両者の間の驚くべき類似性と考えられる帰結について要点をまとめ、表形式で次に示します。そして、その後に私の結論を示すことにしましょう。

 

米国とGMが抱える問題点には類似性があり、両者が実際に運命を共有しているとすると、両者を結び付けている最大の要因は、競争力を失った現在の労働コスト構造と将来の膨大な医療費および年金債務の負担であると考えられます。他の自動車メーカーや他の国に同じような問題がないというわけではありませんし、実際同じような問題に直面しています。しかし、ここでGMと米国を比較している理由は、これまで長きにわたって、この両者が強大な力を有していたことと、このためGMと米国が困難な現状への対応策をとることは、投資市場に大きな影響を与えると考えられることにあります。GMが坑道のカナリアだとすれば、その命が長く続くことを祈りたいものです。しかし、今後さまざまな出来事が待ち受ける坑道の奥深くで鳴くカナリアの声には、米国経済に関するさまざまな意味が込められていることを忘れるべきではありません。

 

労働コストの競争力低下と、資金調達の目処が立っていない将来の過大な債務は、GMと米国経済双方に共通した特徴であるため、こうした状況に対処して生き残りを図り、最終的に繁栄を取り戻そうとするGMの取り組みは、米国自身の取り組みでもあるのです。次の図表に記載した内容には私の推定も含まれていますが、運用に関して、いくつかの重要な結論を明らかにするものです。

 

 

 

1)   GMは現在、高い労働コストに対処しようとしていますが、これと共通する政策として、米国は将来、通貨の下落によって同じ効果を得ようとする可能性があります。企業の場合には、従業員や組合と直接交渉し、賃金や各種手当の引き下げを図る必要がありますが、国家、特に資本主義的性格の強い国家の場合には別の方法が採られます。賃金の引き下げを図る企業と同じ方向を目指す国家は、財政政策もしくは金融政策により通貨を下落させることにより、全く同じ効果を得ることができます。こうした政策を採ることにより、米国製品の価格は競争相手となる他国の製品に比べて安くなります。米国民にとっての世界的な購買力という点からすると、ドルの大幅な下落は実質賃金の低下につながります。つまり、競争力の回復を図るためには、最終的に実質賃金の低下が必要になるのです。私が強調したいのは、GMが採用した、労組との協約を見直す形での生き残り戦術(協約の見直しが困難であることは現在、GMの部品供給業者であるデルファイの再建手続きに如実に示されています)は、いずれ財務省とFRBによる米国の経済政策を通して、模倣される可能性が高いということです。最終的に、米国が公に掲げてきた「強いドル政策」の看板が下ろされ、公言はされないものの、その意図を明確に理解することができる政策が採用されることでしょう。そして、FRBは公然と、もしくは公式な声明によってではなく、かなりの期間にわたって実質金利を以前より低水準に維持することにより、そうした政策への支持を表明することになるでしょう。財務省とFRBによるこのワン・ツー・パンチは経済学の世界では「競争的通貨切り下げ」として知られており、競争相手となる重商主義的意図をもった国がこれを歓迎するかどうかは微妙なところです。しかし、いずれ米国では主としてアジアの競争相手国と比較した大幅な賃金率の見直しの実施が必要であり、そのためにはこうした政策が必要になります。

 

2)    GMと米国の経済の最も重大な類似性は、医療費と年金の分野において資金手当の目処が立たない巨額の債務を抱えていることにあります。伝えられるところでは、現役および退職した労働者のためにGMが支払う現在と将来の医療費は、GMが販売する自動車1台あたり1500ドルに上っており、その合計額は600億ドルに達しているということです。おそらく全米国民の将来の医療費債務の合計は、数10兆ドルという規模になることでしょう。

 

また、GMの年金債務と米国の社会保障債務も同じような状況にあります。現在、GMの年金基金に積立不足はありませんが、想定された運用リターンが達成できなかったような場合には、いずれ巨額の拠出が必要となってきます。GMのCFOフリッツ・ヘンダーソン氏は「当社のバランスシートには社会保障システムが深く絡み付いている」と認めています。現在ある米国の社会保障制度は原則として世代間賦課方式による資金負担によって成り立っているため、米国のバランスシートは債務サイドに大きく傾いています。

 

こうした将来の医療費や社会保障支出の原資をどのように手当てすることができるでしょうか。双方の分野において条件を変更する法制度の改正以外に(そうした改正が近い将来行われることは間違いありません)、基軸通貨国が過剰な債務の重荷から逃れる方法は、インフレ、通貨の切り下げ、そして増税となります。

 

米国が将来の債務という重荷を回避するためのもう1つの方法は、GMが各モデルの魅力を高め、現在の自動車購入者への訴求を強めようとしているのと同じような形で、解決への道を切り開くことです。それは相対的な生産性の伸びの加速や技術革新の推進、教育の充実によって実現可能です。ただし、他の国も同じ理解をしており、米国の「品揃え」が少なくなれば、貯蓄の増加を通して資産の「拡大」や債務の縮小をはかることは難しくなります。競争相手となる諸外国が力をつけ、米国の製造業とサービス業の基盤が徐々に空洞化していくと、米国の主要輸出品は、利回りを相対的に高くすることにより他国よりも魅力的にすることができる米国債になります。実際に、米国が「品揃え」を一新することよりもGMが商品ラインを一新することのほうが容易でしょう。

 

そして、将来、こうした債務の保有者(現在、もしくは将来の債務の保有者か、納税者である企業や国民)が生贄の子羊になると考えられます。古代ローマ時代、人々は金貨や銀貨の端を少し削ってから支払うことを思いついたと言われますが、これと同じように、将来インフレ率が上昇すると債務の元本は少しずつ目減りしていくため、高いインフレ率を容認する傾向について、投資家は考慮する必要があります。そして、近い将来には増税も控えています。さらに、FF金利を競合他国に比べて低く抑えることや、世界的な政策協調によって通貨が切り下げられれば、米国の債務を保有する外国人にとって決定的な打撃となりましょう。中国や日本、OPECなど、大量に米国債を保有する外国人投資家は将来、2通りの方法で損失を蒙ることになります。すなわち、米国のインフレにより投資した元本が目減りする上に、ドルの下落により、こうした投資家の世界的購買力の実質ドル価値が低下することになります。実際には、米国民もこうした打撃を受けるのですが、世界的な購買力の低下は国内における短期的な資産の値上がり(住宅や株式)によって覆い隠すことが可能です。

 

これまで述べてきた政策を米国が実行した場合、運用に与える影響は重大です。ただし、私が言っているのはあくまでも目先の話ではなく、今後長期的に予想される事態であることをご理解ください。インフレの上昇、個人所得税や法人税の増税、ドルの下落といった要因は、米国や世界の投資家の資金がドル資産離れを起こし、医療費や年金の債務負担が少なく競争力豊かな経済、具体的にはGDP比でみて貯蓄率や投資が高水準にある経済に向かうことを意味しています。こうした状況に対処する方法として、米国資産を売り、アジアの現地通貨建ての資産を買うべきと申し上げれば十分でしょうか。それとも、ますます難しくなる投資環境においては、十分な柔軟性と優れた展望を持つ世界的な資産運用会社を採用し、優れた運用の成果を享受すべきと申し上げるべきでしょうか。

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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