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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2006年3月
言葉を飾る人々
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先日、私のところに大統領経済報告のコピーが届けられました。表紙には巨大なハクトウワシが描かれ、視力の衰えたベビーブーマー世代でも読みやすいように配慮した大判のものです。この装丁に関しては、賛辞を呈したいと思いますが、この中で使われている言葉は賞賛に値しないものです。この報告書は真実を綴ったものや、真実の一部だけを抽出したものではなく、法廷で宣誓される「真実を、すべての真実、そして真実だけを述べる」ことができていません。この報告書は大統領経済諮問委員会(CEA)の前委員長であり、新たにFRB議長に任命されたバーナンキ氏が提出したものですが、その内容は銃をまっとうに撃つことができず友人を誤射してしまっただけでなく、真実をまっとうに語ることも苦手のような、あのチェイニー副大統領が執筆したのではないかとも思える代物です。米国経済の行方に「大量殺戮兵器」が隠されていたとしても、この報告書からそれを見つけ出すことは容易ではありません。この報告書では、世界が直面する問題や人口動態上の問題をほのめかしている部分があることは確かです。しかし、米国民の優れた伝統である創意工夫や勤勉さによって克服できない、もしくは解消されない問題や、魅力ある米国への「投資」を手に入れるために互いを踏みつけにしているかのような諸外国の投資家については触れられていません。「kindness of strangers」といったテネシー・ウィリアムズ風の目を引く言い回しや「living on borrowed time」が示唆するような、近いうちに危機的事態に遭遇する可能性についても、何ら言及はありません。反対に、この報告書では米国が流入する資本を将来の経済成長を促進するために利用する限り、7,000億ドルもの経常赤字は「永久に」続く可能性があると主張しています。しかし、私にはその「将来の経済成長を促進するために利用する」という部分こそが、決定的なポイントだと思えるのです。米国はこれまで、将来の経済成長を促進するために、流入する資本を使ってきたのでしょうか。今後もそうあり続けるのでしょうか。また、それは可能なのでしょうか。あるいは、かかる資本は現時点で手当できていない将来の債務のためにとっておかなくてはならないのでしょうか。米国の今の好景気は将来につけを回したからなのではないでしょうか。そして、未来の債権者は、低金利とドル高という米国に有利な条件で、債務を返済することを認めてくれるのでしょうか。委員会はこうした疑問にあまり答えず、率直に真実を語ろうとしませんが、読者の皆様のご賢察通り、私はこれらの疑問に向き合います。このレポートでは、今年の大統領経済報告の中の関連する箇所について以下のとおりまとめてみて、それから読者の皆様のご判断を仰ぐこととしましょう。

 

教育
後ほどあらためて取り上げますが、米国は高齢化するベビーブーマー世代に対して各種サービスを提供する必要性と、その原資を確保する必要性に直面しています。委員会は報告書の第2章で米国の労働者の技能について取り上げ、誰の目にも明らかな主張を展開しています。すなわち、教育こそが将来そうしたサービスを提供するために必要な経済成長を支える重要な要素であり、「米国は目まぐるしく変化する世界経済のなかで繁栄する労働力を生み出すことができる」と主張しています。しかし、そこから数ページ後には、チェイニー風の言い回しで、「米国は教育水準を大きく上昇させ得る余地がある」との見解が示されています。この「上昇の余地がある」という言葉は、「落第」を見当はずれな形で婉曲に表現したものに他なりません。チャート1には数学と理科の国際テストにおける米国の順位を示しました。特に、高校3年生修了時のテスト順位には米国の競争相手である日本やアジア諸国が除外されており、この時点の順位に相対評価で成績をつけるとすると、正直にいって米国民の成績は「D+」となるでしょう。まさに「上昇の余地がある」とはよく言ったものです。つまり、米国の順位はこれ以上悪くなりようがないところにあるわけです。私達ベビーブーマー世代の老後がこうした若者達の肩にかかっているのだとすると、なんとも暗鬱とした気分になってくるではありませんか。

 

 

社会保障と私的年金
委員会の報告書はベビーブーマー世代の高齢化という避けられない事態に対し、米国民が適切に準備を整えているかどうかという点になると、混乱をきたしているように思えます。報告書はある箇所で「『老後に対する妥当な備え』とは何を意味するのだろうか」と自問しています。そして、報告書は、それが望ましい生活水準を維持するために必要な富の蓄積を意味するとしていますが、それを踏まえた上で、米国民は老後の生活に十分な将来の富を確保できているのだろうか、それとも米国民が「望ましい」と考える給付水準が過剰で、備えが十分にできているといえないのだろうかという問いかけをしています。「率直に語ること」ができない委員会にとって明白なことは、報告書の冒頭に掲載されている「最近の新聞報道は、米国民は貯蓄を止め、民間および公的年金の急激な減少のリスクに晒されていることを示している」という点です。言論の自由とはありがたいものはありませんか。委員会はこうした懸念には、実際に「ある程度の根拠がある」というだけで片付けているのです。委員会はその75ページ後の経常赤字を長々と否定する文章の中に埋め込まれた1つのチャートでその証拠を示しています。それがチャート2です。このチャートは新聞報道が正しいことを示していると思えます。米国民(消費者、企業、政府)はまさに貯蓄を停止しており、米国の貯蓄率は教育と同じように、国際社会の最下層に位置しています。委員会が言うように、貯蓄こそ将来の民間および公的年金の健全性とって不可欠なものだとすると、この事態に緊急に対処する必要があります。大至急、処置を施さなくてはなりません。

 

 

 

医療費支出

医療費の問題に関しては、報告書はまさに国民を欺こうとしていると思えます。報告書は医療費支出が裁量的支出に近いものであると主張しています。つまり、医療に対する支出はシボレー®からBMW®にグレードアップすることや、バドワイザーからハイネケンに代えるようなものだというわけです。報告書はこう記しています。「米国社会が富裕になると同時に、高齢化していくと、増加する米国民の所得に占める健康に対する支出の割合は引き続き上昇する可能性が高い」。この「高齢化」という部分に異論はありません。しかし、きっかけがあれば、また、より効率的な制度があれば、増加する所得を医療費に積極的に割り当てるようになるという考え方には疑問があります。そして、その後の「全体として医療費への支出は、米国民をより健康かつより長生きにする、という優れた価値をもたらす」という部分にも異論があります。耳を疑うような言葉です。委員会は肥満や糖尿病の増加による危機について、耳にしたことがないのでしょうか。入退院を経験し、その「優れた価値」とやらが本当に実現されるかどうかを確認したことはないのでしょうか。委員会が独自に作成したチャートと今後20年間の見通しを検証してみましょう(チャート3)。医療費支出は1965年にGDP6%を占めるに過ぎませんでしたが、現在はGDP16%に上昇しており、これが20年後には23%に達します。真実を語ろうとする場合、この支出をまかなう方法として、どういった方法が提言できるでしょうか。

 

 

経常赤字

委員会の想像力が如何なく発揮されているのが第6章です。経常赤字として知られる常習的な病弊を取り上げながらも、その章に「米国の資本勘定黒字(!)」と名づけている理由はどこにあるのでしょうか。黒字という方が赤字よりも聞こえが良いということでしょうか。こうした資本流入が米国のリスク調整後の高リターンに対する外国人投資家の投資意欲を示しているのであれば、なおのこと、結構だというわけです。おわかりでしょうか。こうした事態が生じた原因は米国民の過剰消費にあるのではなく、米国の生産性がきわめて高いことにあるのであり、それゆえ外国人投資家は資金を米国に「押し込んでおり(と、このレポートの著者は言っています)」、米国民はその報酬を享受し、買いきれなくなるまで、買い物を続けざるを得ないというわけです。確かに委員会は米国民がその報酬の一部を貯蓄に回し、資本勘定の黒字を減少させるべき、と言っているかもしれませんが、その一方で、委員会は内需を拡大する必要があるのは、中国や他のアジア諸国であると主張しています。この章ではどこを探しても米国の経常赤字を示すチャートが掲載されていません。その代わりに、経常収支のミラーイメージを見た目のよいチャートで示しています。それがチャート4で示した「資本純流入額」です。さらに、委員会は米国民が経済成長を促進するためにこうした投資(支出)を続ける限り、この資本流入(赤字)は永遠に続くと断定しています。

 

 

さて、ここまで来ると、銃の腕がよほど未熟でない限り、次の点に狙いを定めることができるでしょう。すなわち、将来、年金や医療(及び軍事費)の対GDPでのシェアが大きく上昇していくのだとすると、このような負担や経済成長を促進するための資金はどうやって手当できるのでしょうか。そして、数学や理科の成績が今後も「D+」のままだとして、米国が競争力を持っているセクター、すなわちテクノロジー・セクターにおける付加価値や生産性の面で優位性を保つことができるのでしょうか。現代の米国、そして現在の政治には「誇張」がつきものですが、誇張することなくざっくばらんに、そして率直にこの疑問に答えるとすると、それは不可能です。それは単に米国が自分で何とかできる範囲を超えてしまっているからではなく、貯蓄を使い果たし、競争力を失い、そして教育面での遺産を食い潰してしまっているからです。米国は弱くなり、アジアをはじめとする諸外国は強くなったというわけです。米国は繁栄の源を見失い、諸外国は米国民がかつて備えていた勤勉さを真似ることを学びました。委員会はこれを解決する方法として、貯蓄を増やし、教育水準を高め、自由貿易を促進し、競争力のある税制を維持するという適切な提言をしています。委員会もここでようやく率直な物言いをしてくれたわけです。しかし、これは米国にとってあまりに盛りだくさんである上、経済面および地政学面で世界の指導的立場にある米国に取って代ろうとする国々が、長期的にそれを受け入れることが必要になります。そのため、現実においては、米国の対応は易きに流れることになると思われます。つまり、通貨価値の切り下げ、インフレによる長期年金債務の軽減、そして増加する医療費支出を捻出するための個人及び企業の税負担引き上げです。こうした色彩が強くなると、米国の金融市場には厳しい局面が訪れることになるでしょう。そのため、世界的に分散投資を進めることが賢明であると言えるのです。率直な物言いをお許しください。しかし、そうすべき時が来ていると思われませんか。

 

 

ウィリアム・H・グロース

マネージング・ディレクター

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