「成功するための秘密とは、他の人間が知らないことを知ることだ」。 ‐ アリストテレス・オナシス
ゴルフとは、常に高揚感と絶望との葛藤です。土曜の午後のラウンドで良いスコアが出た日には、帰宅した際に妻が口にする、「今日はいかがでした?」というおざなりの問いかけにも、気分良く「ついに秘密を見つけた気がするんだ!」と答えることができます。しかし、1週間後のラウンドでひどいスコアを叩くと、絶望感の中で「あの秘密を見失ってしまったようだ」と答えることになります。ゴルフを上手くプレーする秘密はTV番組「デスパレートな妻たち」の一話よりも短い間のうちに現れては消えていくものです。極端な場合、13番ホールと14番ホールの短い時間にも、現れ、消えていくことがあります。そして、仮に見失った秘密を再度見つけることができたとしても、いざスイングを始めようとする時には、頭の中に詰め込まれたこれら一連の秘密が役に立つことは少ないものです。「左腕をまっすぐに、視線は下に向け、1時の方向に向かってスイングし、フォロースルーは大きく」と頭で考えても、それを一度にすべて実行することは不可能です。結局のところ、「何も考えずに打つ」ことが一番良い結果につながるように思えるのですが、そうなると、せっかくの秘密も大したものではなかったということになるのかもしれません。そして、ショットよりもパットはさらに謎なのではないでしょうか。1メートル半ほどの難しいパー・パットを打つ際のプレッシャーに比べれば、全国放送のテレビ番組に出演することや、数多くの聴衆を前に講演することなど、何ということはありません。右に外すこともあれば、左に外すこともあり、十分に打ち切れないこともあります。ゴルフではすべてのショットが同行するメンバーを幸せにするとの格言がありますが、そうだとすると、私などは滅多にお目にかかれないくらいの慈善家ということになるのでしょう。何しろ、自分以外のメンバー全員をにっこりさせた上に、帰りには皆のポケットを暖かくしてあげるのですから。ゴルフの本当の秘訣は禁煙に通じるものがあります。どちらも始めないことです。
ここ数年の債券市場における最大の不思議は、FRBによる300bpもの利上げにもかかわらず、中長期金利が低水準にとどまっている原因が何かという点にあります。間もなく退任するグリーンスパン議長はこの不思議を「謎」と呼び、グリーンスパン氏に代って議長の座に就くバーナンキ氏は2005年初頭の講演で「世界的な貯蓄過剰」にその答えを求めました。実は、バーナンキ氏がクラブヘッドのカバーを外してこのように主張しはじめるかなり以前から、PIMCOは既にティーオフしてこの謎に取り組んでおり、その取り組みは世界的な総需要不足とそれが世界の経済成長率を抑制する影響について徹底的に分析した2003年の長期経済予測会議まで遡ることができます。しかし、その時点ではG-7の投資支出が減少し、余剰資金が還流することによって、イールドカーブのフラット化が続くことや、長期金利が安定することの意味を論理的に展開するまでには、残念ながら至りませんでした。しかし、現在では当社だけでなく、より多くの運用機関やエコノミスト、そしてFRBの調査スタッフなど、多くの人々にとっても、金利は複数の合理的な理由により低下したのであり、そうした要因は今後当面の間、存続するということが明らかになってきています。具体的に言いますと、
1) 経済のグローバリゼーションのなかで、アジアやOPEC諸国が国内需要の充足よりも輸出品の供給を優先させる重商主義モデルを採用し、蓄積された外貨準備が世界の債券市場へ還流したこと。
2) 欧米の企業が投資を抑制し、キャッシュフローを留保していることによる、世界的な貯蓄過剰の加速。中国における投資リターンはG-7経済と比較してきわめて高いため、欧米企業の投資に対する消極的な姿勢を責めるわけにはいきません。
3) 年金等におけるALM即ち、資産・負債管理の重視に伴う長期債への需要と、中央銀行の政策運営における透明性の向上がもたらしたリスク・プレミアムの低下とにより、定量化は困難であるが、世界的にイールドカーブの長期セクターにある程度低下圧力がかかった可能性があること。
グリーンスパン議長の言う謎の回答を見つけるためのこうした試みを生産的と呼べるとすれば、それはこの問題を取り上げたリサーチとリサーチに投入された人的資源の量という観点からみた場合のみになるでしょう。まるでノーベル賞がかかっているかのように、企業による支出の抑制に力点を置いたレポートがあるかと思えば、ALMやリスク・プレミアムの動向を重視したレポートがありますが、おそらく大多数のレポートはバーナンキの主張した世界的な貯蓄過剰理論を支持したと思われます。これらの主張はあたかも債券市場の秘密、すなわち「賢者の石」は自分たちだけが持っていると言わんばかりに、個々の要因の全体性を認めようとしていないように思えますが、私はそうあるべきではないと考えます。鋭敏な投資家であれば、おそらく上記のすべての要因が通常の景気サイクルを超えた持続性を持つこと、そしてそれにより、今後数年間は利回りが低水準にとどまることを認めるに違いありません。グローバリゼーションや人口動態、中央銀行の政策運営における透明性向上といった流れが逆転する可能性は低く、今年そうであったように、2010年でも利回り水準を低く抑える働きをすることでしょう。だからこそPIMCOを始め債券運用を一任された投資家は、ITバブルに沸いた時期や、中央銀行の政策運営の透明性が今よりも低かった1980年代に「適正」と考えられた6%の水準まで利回りが上昇することを待つことなく、お客様の資金を4.5%の10年債に安心して投資することができるのです。
さて、次期FRB議長となるバーナンキ氏は、米国と世界における半ば恒久的な債券利回りの低下について、やや難解な指標を分析することにより取り組んできました。
次のグラフはかかる9年先の1年物米国債実質フォワード・レートの推移を示したものです。この金利はいつでも足元のイールドカーブを元に計算して求めることができますが、この金利がリスク・プレミアムの低下というよりも将来に対する期待をどの程度反映しているのかについて測定することは困難です。それでも、バーナンキ氏は今年3月、将来の1年物名目短期金利に対する市場の予想値は過去数年間で最大1.25%低下したと言い切りました。そして、その後、名目短期金利は直近の過去6ヵ月間でさらに50bp低下しています。バーナンキ氏はその最大の理由が世界的な貯蓄過剰にあり、これは長期にわたって続く可能性があると示唆しています。
PIMCOでは、この謎の大きさについて、さらに踏み込んで分析を行ってきました。当社は、先に述べた世界的な傾向全体が原因となって、米国と世界の債券市場では名目および実質のフォワード短期金利がこれまでに200bp程度低下しており、今後数年間、こうした利回り水準が標準的になる可能性が高いと考えています。しかし、そうだとすると現在のFRBの金融政策は、一般的な分析に基づく評価よりも大幅に引き締めの度合いが強いといえます。私の考えでは、現在の4%の短期金利は以前の6%に相当する水準であり、2000年の引き締め局面のピークとなった6.5%と比較して、わずか50bpの差しかないところまできているということです。米国の現在の短期金利が緩和気味であり、特に長期金利は景気刺激的であると主張するエコノミストの見解を耳にするたびに、私は困惑を覚えてしまいます。次のチャート2が示すように、2001年以降、金融・財政両面からの大規模な景気刺激策が採られてきたにもかかわらず、現在の回復局面はGDP成長率で見る限り過去20年の平均に近いものであり、さらに言うと、雇用に関しては過去の回復局面の平均を下回っています。現在までの利上げ幅は300bpに達し、利上げが始まってからの期間は既に17ヵ月に及んでいます。この利上げ幅と期間は過去の標準的な金融引き締め局面と並ぶものですが、その点からすると2006年には景気が減速し、FRBは利上げを停止し、同年中には緩和局面に入ると予想することが妥当でしょう。ALMの動きが加速しない限り、イールドカーブの長期セクターの利回りが大幅に低下することはないかもしれませんが、1~5年セクターは今後12ヵ月間で最大100bpの利回り低下の可能性があると思われます。このシナリオにとってリスクとなるのは、中国をはじめとする輸出国が、余剰資金を世界の債券市場にではなく国内に投資するようになることですが、そうしたリスクが顕在化するのは、何年も先のことになるでしょう。
さて、それでは予想される低利回りへの移行にどのように対処すべきなのでしょうか。隠れた思惑があるとの懐疑的な見方もあるようですが、PIMCOにはほとんど秘密がありません。かつてオハイオ州立大学のフットボール・チーム、バッカイズは「重戦車のように着実に3ヤードをゲインする」と称されましたが、私は当社が同じような評価を受け、歩みを阻もうとする力に対して敢然と立ち向かう運用会社であるとの評価を受けることを希望しています。次に示すのは、数週間前、社内に配布したメモのコピーです。
******手書きメモ*********** インベストメント・コミッティーへ 戦略の再確認 FF金利の転換点に備えるために;
******手書きメモ***********
インベストメント・コミッティーへ
戦略の再確認
FF金利の転換点に備えるために;
(1) カーブの短期に重点を置いたブレット型戦略
(2) 米国に集中
(3) 米ドル ↓
(4) デュレーション ↑
(5) クオリティ ↑
転換点はいつか? WHG ***********************
転換点はいつか?
WHG
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こうしたポートフォリオが2006年に優れた成果を収めることができるかどうかの鍵を握るのは、故オナシス氏の言った「他の人間が知らないことを知る」ことではなく、投資市場やエコノミスト、次期FRB議長などが、徐々にではあっても、必ず確信するようになることを知ることであり、その方向に向けて戦略をとっていくことです。現在の短期金利は低くなくむしろ高い水準であるといえ、来年の今頃までには世界各国の中央銀行が、緩和局面へと移行していることでしょう。そして、インフレが落ち着いている中で米国経済と世界経済が減速するという点からすると、この金融緩和への転換は、イールドカーブの短期セクターや、平均よりも長いデュレーションのポートフォリオ、そして高格付債を重視した戦略にとって追い風となるでしょう。この予想が私の下手なゴルフのようにならないことを願います。債券市場では、たとえ誰もが知っていることであっても、秘密を見つけたら、それを見失ってはいけません。そうでなければ成功は望めません。トーナメントのリーダーであり続けようとする限り、目指すものはバーディーであり、ボギーは許されません。そして、出来ることなら、1メートル半ほどの難しいパットを残さないことです。フォア!私たちは秘密を見つけたと思っています。
ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター
ピムコジャパンリミテッド105-0001東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズオフィス18階金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第382号加入協会/(社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場の各セクターへの投資にはリスクが伴います。国債は利払い及び元本償還の約束はしますが、ポートフォリオの時価価値はその保証の限りではありません。自国通貨建て債券以外への債券投資には投資対象各国の経済及び政治情勢に起因するリスクが伴うことがあり、新興成長市場への投資にはかかるリスクが増大することがあります。運用を行なう資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。2007年(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。