賢明な人であれば口をつぐみ、ジュディス・ミラー記者を外して自らを律したニューヨーク・タイムズ紙を始め、拡大するメディアによる報道に下駄を預けることでしょう。大衆はジョージ・ソロス氏のような財を成した資本家が公共政策の専門家であるかのように振舞うことに眉を顰めるものです。そして、ことによるとこのInvestment Outlookもそれと同じだとみなされているかもしれません。しかし、私はそうした専門家ではなく、幸いにも過去30年の間に数多くの読者の支持を得て、ホームページ上で債券市場について語ることを許された債券マネージャーに過ぎず、時に債券市場以外のテーマについて、自らの見解を表明しているに過ぎません。しかし、PIMCOの他の経営幹部やお客様の見解が必ずしも私と同じだとは限りません。PIMCOには外交政策に対する見解がありませんが、私にはあります。私の考えは共和党寄りであるものの、機密情報やインサイダー情報を持たない一般的な米国民の政治的主張に他ならず、かつての名優、ウィル・ロジャースが言ったように、私の知っていることはすべて新聞に書いてあることです。それでも、ドゥービー・ブラザーズの曲の歌詞のように、「僕は盲目じゃないし、目の当たりにしているものが気に入らない」のです。ドゥービー・ブラザーズはそれを歌で社会に訴えようとしましたが、私の場合はネットでそれを訴えているというわけです。
現代史において、2期目に入ったほぼすべての大統領がスキャンダルに見舞われ、最近ではすべてのケースで悪名高き特別検察官が任命されていることは興味深い事実です。そうなってしまう一因は権力の思い上がりにあるのかもしれませんが、スキャンダルに対する野党の決まりきった対応は、大統領に4年の任期を保証している米国の民主主義プロセスの産物に他なりません。米国では欧州のように、問題が発生した場合に政権が総辞職に追い込まれ、議会が解散され、新たな政権が作られるというプロセスを踏むことができないため、それに代るものとして特別検察官制度を活用し、選挙によって軌道が修正されるまでの2~3年の間、支持を失った政権を無力化しているのだといえます。クリントン政権もそうであり、大統領は弾劾まで受けることになりました。レーガン氏はイラン・コントラ事件で力を失い、ニクソン元大統領に至ってはその職を追われました。そして次はブッシュ・ジュニアの番なのです。
言うまでもなく、ブッシュ・ジュニアが難しい立場に立たされている原因はCIAの秘密工作員であったバレリー・プレーム氏の名前を漏らしたのが大統領補佐官のカール・ローブ氏だったのか、それとも副大統領補佐官のスクーター・リビー氏だったのかにあるわけではありません。その原因はイラク戦争にあり、おそらくは米国の現状全般に対する不満の高まりとも関係があるといえます。つまり、世界のリーダーとしての地位に対する国民の認識の変化や国内の富の分配における不均衡に関連しているわけです。イラク戦争、カトリーナ、高騰する天然ガス価格、そしてあらゆる問題に対する特効薬として共和党が固執している減税に対し、一般国民は明らかに不満を感じているのです。こうした不満が「プレームゲート」とも呼ばれる今回のCIA秘密工作員身元漏洩事件を生み出したといえます。国民の不満の中心には戦争があります。つまり、開戦の大義名分が偽りであったこと、イラクで憲法が承認されたにもかかわらず、安定化に目に見える進展がないこと、そして米軍撤退に向けた予定が明確にならないことに米国民は苛立っているのです。
イラク戦争に対する私の立場は開戦前に広く報道されており、もう一度ここで繰り返す必要はないでしょう。私がイラク戦争についての見解を最後に発表してから2年あまりが経ちましたが、その間にも幅広い注目を集め、少なくとも私の目には大統領やその側近だけでなく、保守派、リベラル派を問わず、批判力のない議会やマスコミからも多くの批判を受けたことは明らかです。それでも大量破壊兵器(WMD)が発見されなかったという事実が変わるわけではありません。それを認識することによって変わるべきものは、将来に対する私たちのアプローチであり、このアプローチに対し、選挙で選ばれた行政府や立法府にある程度の信頼を寄せ、第4の権力とも呼ばれるマスコミがその使命を果たしていると信じていた一般国民を含め、あらゆる角度からこれまで以上に厳しい監視の目が注がれるようになることを願わずにいられません。米国にとって今必要なのは、政権をかばおうとしたジュディス・ミラー氏のようなジャーナリストではなく、政権に手厳しい批判をするフランク・リッチ氏のようなジャーナリストであり、「無難な」ジョン・ケリー氏のような政治家が減って、「草の根」運動を基盤として自らの主張を堂々と繰り広げたディーン元バーモント州知事のような政治家が増えることです。私は共和党であれ、民主党であれ、将来の採るべき行動を主張し、2006年に始まる選挙戦で米国民に対して選択肢を提示することができる正統的な大統領候補を探すべきだと考えています。イラクにおける政策変更の可能性を積極的に呼びかけ、自らの党とこの偉大なる国から将来的な問題を取り除くためには、少数の声高な圧力団体のみならず、多くの国民の声なき声からも非難されるリスクを積極的に取ろうとする意思のある指導者が米国民には必要なのです。
さて、外交政策に関する主張はこのあたりで切り上げて、本来のInvestment Outlookに戻ることにしましょう。現在、次期FRB議長に指名されたバーナンキ氏がどのような舵取りをみせるのかに注目が集まっています。私はバーナンキ氏を好意的にみており、特にインフレ目標に対する彼の考え方を高く評価しています。この考え方が正式な政策として採用された場合、中期から長期の債券利回りを低位安定させる働きをするはずです。中央銀行がインフレ目標を公式に採用している英国や、公式ではないものの、事実上これを採用しているユーロ圏では、インフレ率と長期債利回りがともに米国の水準を下回っています。こうした低い利回りを生み出した背景には、ユーロ圏の場合、景気要因があり、英国の場合、会計基準があることは確かですが、インフレ目標が必ずしも磐石とはいえない貨幣価値に対する信任を高める働きをして、それに寄与したことは間違いありません。
バーナンキ新議長と債券市場の行方にとって、鍵となる変数はきわめて多いため、それをすべて総合し、絶対的な見通しを見つけ出すことは困難です。コア・インフレ率、もしくはエネルギー価格の影響を受けたインフレ率、外国人投資家による米国債や社債の買い、米国の住宅バブルの行方、そして新旧両議長による利上げの終着点といった要因が強く影響することになります。FRBはこれまで短期金利を中立に戻し、借入コストを正常と思える水準にする作業を15ヵ月にわたって続けてきました。PIMCOはこの数年間、FRBによるこの歩みを分析にするにあたり、中立性を示す最も適切な基準として、FF金利からインフレ率を差し引いて求められる実質短期金利に注目してきました。過去の例からすると、中立となる実質短期金利は2%から3%の間であり、そこから導かれる名目FF金利は4.5%から5.5%の間となります。しかしPIMCOは、今回は状況が異なると主張してきました。米国経済は高水準の借入に拠って立っているため、以前に比べて金利変動に対する感応度が高くなっているというのがその理由です。この「今回は異なる」という仮説を計量経済モデルの点から実証することは容易ではありません。状況が急激に変化したため、モデル化できる過去の実例がほとんどないのです。そのため、最終的には論理に頼らざるを得ません。そして私の論理からすると、借入水準の高い経済において支払い利息に対する感応度が高くなることは当然だと思われます。しかし、現在の水準から50bp以上の利上げがあれば、この仮説の妥当性が疑われることになることも確かでしょう。現在、市場はグリーンスパン議長退任までの間に少なくとも2度にわたり25bpの利上げがあると予測していますが、足許の実質短期金利はPIMCOが2年近く前に利上げの終着点として予想した水準近くにあります。現在、2007年1月償還のTIPSの実質利回りは1%になっています。これは今後14ヵ月間の推計される実質FF金利の水準が、以前にPIMCOが予測した水準に近いものであることを意味しています。実質金利がこの水準に達したことで、経済には大幅な減速の兆候が見え始めています。しかし、カトリーナの影響により、グリーンスパン議長にとって今後数ヶ月間の視界は不良になり、現在の実質短期金利に対する中立性評価を困難なものにしています。このため、先月号のInvestment Outlookで取り上げたように、消費者や企業の景況感に関連した指標ではなく、住宅などカトリーナの影響をあまり受けていないセクターを分析することが妥当だと考えられます。そして、バブル的色彩を帯びた沿岸地域にみられる不動産価格の下落の気配は、現在の実質金利と名目金利が景気を減速させ始めていることを示す兆候と呼べる可能性があります。
FRBが暗闇を手探りで進んでいる中、これまでの説明でも納得いかない方は、簡単に歴史を振り返るとよいでしょう。1983年以降、これまで6回の引き締め局面がありましたが、利上げ局面1回あたりの平均利上げ幅は250bpであり、その平均持続期間は利上げ開始から12ヵ月間でした。今回の利上げ局面のスタート地点となった1%のFF金利はデフレ回避のための「緊急避難措置」であり、FRBがデフレの明らかな脅威を感じていなかったとすれば、スタート地点は1.5%か1.75%となっていたと考えられるでしょう。しかし、たとえそうであっても、4.25%のFF金利は循環的な利上げが、ダラス連銀のフィッシャー総裁の言う「野球の8回」に差しかかっていることを示すものであり、この11月から12月には、利上げ幅の点でも、利上げが継続した時間の点でも過去の平均に並ぶことになります。またエコノミストや運用マネージャーはチャート1に示したイールドカーブのフラット化の有効性を認識しています。現在、10年の米国債利回りと2年の米国債利回りはほぼ等しくなっていますが、この2つが同じ水準になる局面では景気が減速し、FRBは利上げの終着点に達しているか、終着点を目前とした地点にいることが一般的です。数ヵ月以上にわたる長短金利の逆転は、頑固なインフレを経済全体から取り除く必要のあったボルカー前議長の時代だけでみられた現象です。
過去の例から現在の利回り水準がピークに近づいていることを証明する試みとして、最後に紹介するのは5年物米国債利回りの推移を示したチャートです。ここには金利上昇や「謎」といったものの影響が示されています。この5年物米国債利回りは私が注目する指標の1つですが、動きが明確になるまで時間がかかり、FRBによる利上げを直接的に示すものではないため、運用の世界では省みられないことが多いのも事実です。チャート2からはボルカー時代を除き、金融引き締めと中期債利回りの上昇サイクルが1~2年となり、その幅は200bp程度になることが一般的だったという結論を導くことができます。今回の利回り上昇サイクルは開始以来すでに27ヵ月が経過し、その幅は230bpに達しています。過去の例からすると、これは景気を減速させるに十分な時間と幅であり、借入水準の上昇とエネルギー価格という外的ショックを考慮すると、小型のリセッションを引き起こすに十分な時間と幅であるということもできるでしょう。概して景気の減速は5年債利回りが上昇を開始してから18ヵ月後に発生していますが、今回のサイクルも例外ではなく、鉱工業生産やサービス関連指標はほぼ1年前にピークを打っています。2006年の米国の経済の成長率は2%かそれを下回る水準になるとみられますが、そうなればFRBは利上げを打ち止めにし、2006年中には金融緩和に転換することになるでしょう。バーナンキ新議長にとってはそれが初めての政策転換となるでしょうし、FRBに与えられた2つの使命であるインフレ目標と経済成長の達成を全うしようとする彼の意思を示す指標となることでしょう。
私は外国政策の専門家ではありませんが、光栄なことに債券市場の第一人者だとされています。しかし、それでも過去に執筆したInvestment Outlookを読み返しては歯がゆい思いをすることも珍しくありません。それゆえ、今回のInvestment Outlookにも通常と同じように慎重に臨みたいと思います。私が過去に書いたInvestment Outlook