先日、思慮深い古くからの友人から、このような示唆に富むアドバイスをもらいました。「他人に優しくした方が良い。君が出会う人すべては何かを戦っているのだから」。人生はまさに戦場です。もっとも、私を含め、多くの人にとって、戦いの武器は子供が投げあうマシュマロや水風船であって、手榴弾やM-16自動ライフル銃ではないかもしれません。しかし、たとえそうであっても、誰もが皆、苦しんでいます。この世に生まれ出ることは苦しかったに違いなく、この世を去ることもまた、苦しみであり、その間に起きることにしても同じです。中世ペルシアの詩人オマール・ハイアームが詠った「食べて、飲んで、楽しむ」喜びが、失うことの痛みや自らの衰え、運命の圧倒的な力といったものに押し流されてしまうことは少なくありません。こうした中、優しさはひと時の癒しをもたらしてくれる薬であり、それはアドバイスをくれた思慮深い友人も同意してくれることでしょう。そして、私がこれまで出会った中で誰よりも優しいのが妻のスーです。慈善活動と関わっているからではなく、彼女が日常の中でみせる尽きることのない優しさが、私にそう感じさせるのです。機会があれば、彼女の親友になりたいという人は数多くいることでしょう。著名な人もいるかもしれませんが、多くの人はウェイターや修理工を始め、時に陽気な外見とは裏腹に、普通以上に大変な戦いをしている普通の人々が大半でしょう。スーの優しさはこうした人々が心の内に秘めている絶望を癒す暖かさをもっているのです。
私は彼女の姿から、他人に優しくするには自らの内に向かう時間を他者への微笑みかけに使うことが必要なのだと学びました。たとえば単なる挨拶ではなく、心底から「いかがお過ごしですか」と尋ね、人の話に耳を傾けることです。時間があれば、善行を積み、共感や思いやりを忘れないこともそうです。また、優しさは別の形をとる事もあります。たとえば、ポリオ・ワクチンを開発したジョナス・ソーク博士や、医師や教師を始めとして、個人の利得を超えて他者へ手を差し伸べようとする人は皆、優しさに溢れています。愛情をもって家庭を築くことも優しさのひとつです。カトリーナの被害者やアフリカの人々を支援するために募金をすることも優しさです。要するに、優しさは一様ではありません。しかし、重要なことは優しさを持ち続けることです。カトリーナの被害を受けたニューオリンズであれ、紛争の続くアフリカのスーダンのダルフールであれ、そしてここカルフォルニア州のニューポート・ビーチであれ、誰もが戦っているのです。私もスーに倣って、今までよりも笑顔を多くみせ、忙しい中でも他人の意見に耳を傾けるようにし、債券運用の分野で得た名誉に加え、他人の痛みを理解できるという評価を最終的にもらえることを目指したいと思います(手の届く範囲を超えているのかもしれませんが)。皆さんもご一緒にいかがでしょうか。
金利市場は優しい場合もあれば、冷たい場合もあり、それはシェークスピア風に言うと「借手であるべきか、貸手であるべきか」、どちらの視点からみるかによって変わります。この数年、多くの住宅保有者は素晴らしい時間を得ることができました。金利水準は世紀の変わり目につけたピーク時から低下し、住宅ローンを借りる誘惑に抗し難くなるほどの低水準になりました。そして、住宅は金の成る木に化け、借換えや資産価値の活用、数多くの不可思議な住宅ローン商品の登場などにより、消費者の手元には現金がもたらされました。以前にもこのInvestment Outlook で取り上げた通り、過去4年にわたる米国経済と世界経済の回復を主導してきたのは住宅に代表される各種の資産でした。そして、「フロス」の大部分を支えたのは、実質政策金利を歴史的な低水準まで引き下げたり(FF金利)、米国長期債に外貨準備を還流させてきたりした(第2次ブレトンウッズ体制)世界各国の中央銀行です。他にも「取れるうちに取る」という資本家的な傾向を帯びてきた一般の市民も「フロス」を支えてきました。この2つが融合することで景気拡大がもたらされましたが、この景気回復は住宅価格の上昇や利用可能な資産価値の存在、そしてまるで終わりがないかのような金融技術の発展の連鎖に突き動かされ続ける消費に大きく依存しています。
思慮深く、経験豊かな人は、こうした資産が強固な基礎をもたないまま生まれたもの、つまり「砂上の楼閣」であることを理解していますが、この砂の城がいつ波に押し流されてしまうのかという点だけは明確な答えがありません。Investment Outlook 9月号で取り上げたように、先月、グリーンスパン議長はついに警鐘を鳴らし、リスク・プレミアムに注文をつけました。その後 、FRBは電子媒体を通して、2件の調査資料が発表しました。この資料は住宅バブルが弾けるタイミングや現在の見掛け倒しの繁栄がその輝きを失うタイミングについて、光をあてたものです。この資料を取り上げる前に、まず住宅バブルが弾ける、つまり泡(フロス)が掬い取られていく順序を整理してみましょう。そしてその後に、今紹介したFRBの研究結果について分析します。
1) 住宅価格の上昇が減速するか、もしくは停止するか、もしくは一部地域で下落に転じるのは:
A 一次購入者にとって、新たに住宅を購入することがメリットよりも、重荷となる水準まで金利が上昇したとき。B 規制面での軽度な圧力により、不可思議な貸出の金額が減少し始めるとき。C 投機家がバブル終焉の匂いを嗅ぎつけたとき。
2) その後、時を置かずして住宅の資産価値の引き出しが減少。
3) 住宅という金の成る木からホーム・エクイティ・ローンが2万5000ドル、5万ドル、10万ドルといったお金を生み出さなくなり、個人消費と米国経済全体が減速。
4) FRBはゲームを振り出しに戻すために、利下げを実施。
こうした順序には疑問の余地がなく、回避することはほぼ不可能であり、今風の言い方をすると「スラムダンクシュートのように確実」だと断言できます。ただ、こう言い切ることで、別の見解をお持ちの方が不愉快な思いをされないことを願うばかりです。いずれにせよ、私は皆さんの利益のために、こう申し上げているのです。一方、私が断言できないのは、こうした事態がいつ発生するのかという点です。この点こそがきわめて重要な変数なのです。ただ、この点については、先ほど紹介したFRBの調査資料がその手がかりを与えてくれるかもしれません。
連邦準備制度理事会は「住宅価格と金融政策:国際的研究」と題された調査資料841号を先日発表しました。このプロジェクトは主要18ヵ国の住宅市場の動きを1970年から追ったものです。この調査資料では住宅価格に対して影響を与える数多くの要因を取り上げており、その中には、人口構成や金融規制緩和(不可思議な住宅ローン)も含まれていますが、最も重要な要因として金利を挙げています。68ページに及ぶこの文書の要点は次の通りです。住宅価格は金利の後を追います。金利(短期の名目金利と長期の実質金利)が低下すると、実質住宅価格は上昇します。金利が上昇すると、実質住宅価格は低下します。こうした結論はこの調査資料がなくても、常識的に理解できるでしょうが、FRBがこうした見解にお墨付きを与えるにあたって、この研究が助けになっていることは確かです。もちろん、保証の限りではありませんが。そしてその裏づけとしてFRBが用意したのが、次に示すチャートです。これは1985年を境にその前と後の18ヵ国の住宅価格と政策金利(FF金利)の関係を示したものです。
この資料は、これから紹介する私の見解のように断定的な結論を示していませんが、私の目には以下が明らかであると映っています。実質住宅価格は中央銀行の利上げが始まってから平均して4~6四半期後にピークを打っており、その間に約200bpの利上げが行われています。利上げはその後も2四半期続き(過剰な利上げ)、1サイクルにおける合計の利上げ幅は300bp程度になっています。研究対象になっている多くの国では米国に比べ、住宅市場が短期金利の影響を受けやすいことに注意しなくてはなりませんが、特に注目すべき点は、FRBが現在までにほぼ5四半期にわたり、合計275bpの利上げを実施してきたことです。つまり、現在は過去35年間の統計が示す、実質住宅価格が反転する平均地点にいるということです。
別の研究は現在の短期金利の水準が一次購入者の多くを市場から排除し始める水準であることを示しています。一次購入者の場合、ぎりぎりの予算で住宅を購入するため、変動金利ローンを利用するケースが増えているからです。購入可能指数は主に住宅ローン金利に大きく左右されますが、この指数は15年ぶりの低水準となっており、さらに当局からの圧力が反映される銀行の融資姿勢も消極化しています。現在、「副業」を念頭に置いた投資用の住宅や転売用マンションの購入が新規住宅購入の20%以上を占めていますが、投機家にしてみると最近は枕を高くして寝ることが難しくなっています。依然として上昇を続ける短期金利が与える強い影響力と相俟って、私が想定するフロス解消シナリオの第1の条件が満たされる日はそう遠くありません。
先ほど、第2の条件として住宅の資産価値利用の減少を取り上げましたが、これを明確に示しているのがグリーンスパン議長自身(および、FRBのジェームス・ケネディ氏)による2005年9月の分析です。グリーンスパン氏にとってFRB議長に就任して以来、自らの名を冠した分析を発表するのは今回で2度目です。この事実は住宅ローンによってファイナンスされた資産価値の活用に注目したこの分析の重要性を物語っていると言えるでしょう。グリーンスパン議長は、いかにも彼らしいスタイルで、明確な結論を示すことなく、次のチャート3に示される事実を並べています。
議長の分析によると、住宅保有者が上昇する住宅の資産価値を担保に昨年1年間に借入れた金額は6000億ドルに達しており、これを可能にしたのが、過去数年間にわたって年率10%近いペースで上昇を持続してきた住宅価格でした。この6000億ドルという金額は個人の可処分所得のほぼ7%に相当します。グリーンスパン議長はこのうちどれくらいの割合が支出に回されたのかを推計することを慎重に差し控えていますが、民間のエコノミストの試算や一般常識からすると、少なくとも50%、おそらくはそれ以上が支出に回ったと考えることができます。銀行に預金をするためにあえて借入をする人がいるでしょうか。借入は支出するために行うものです。そこで、支出に回った分を控えめに50%と推計した場合でも、このチャートは住宅の資産価値の活用が米国のGDP成長率を過去数年間にわたり、年間0.5~1.0%押し上げてきたを示しています。住宅価格が過去数年と同じようなペースで上昇しなくなると、資産価値を活用することは難しくなります。ゴールドマン・サックスがオーストラリアなど、米国と同じように住宅資産を基盤としている経済について行った調査分析によると、資産価値の引き出しが減少に転じると、小売売上高は最大で4%落ち込みます。今週発表された英国の消費関連指標も同様の結論を示しています。グリーンスパン議長は先週の講演で、「住宅ローン金利が上昇した場合、ローンの借換えによるキャッシュアウトは減少し、それにより、資産価値の活用が減り、おそらくは消費支出の伸びも減速する」と発言しています。先ほど、住宅市場に今後見られる展開として示した第2と第3の条件はおそらく今後3~6ヶ月の間に現実のものとなることでしょう。
米国経済がどの程度減速するのかは数多くの要因によって決まります。たとえば、石油および天然ガスの価格動向、中国の「奇跡の成長」が続くかどうか、そしてもちろん米国の金利水準もその1つです。そして、米国の金利水準自体は、FRBの政策と、外国人投資家による米国債と米国社債に対する投資意欲によって決まります。しかし確実に言えることは米国の住宅市場における「フロス」が絶頂を過ぎようとしているということです。つまり、バブルがバブルでなくなる日は近いということです。2006年、もしくは2007年に米国の実質住宅価格が下落した場合、景気後退を回避することはきわめて難しいでしょう。一方、金利の上昇により住宅価格の上昇ペースが妥当な水準に落ち着くだけで終われば、GDP成長率が1~2%程度に落ち込むだけで済む可能性もあります。しかし、いずれの場合であっても、グリーンスパン氏の後任のFRB新議長は、2006年中盤に利下げをせざるを得なくなると思われます。つまり、今はまだ恐ろしい形相をしている中央銀行がこの先12ヵ月の間に意図して優しさに満ちた行動を取るというわけです。中央銀行は利下げを行い、資産を基盤とした経済を生き長らえさせ、叱咤激励することになります。最終的にそれが本当の優しさであったと評価できるかどうかは別問題ですが、圧倒的な力をもつこの状況の前では少なくとももう一度、利回りを低下させることが必要になるのです。
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