すごい効き目の魔法の薬を差し上げましょう(60 年代後半に青春時代を過ごした方なら良くご存知の、普通なら見えないものを見せてくれるあの薬です)。「リフレ」に向かう経済は、結局のところ債券投資家にとって不利なものです。それでも、リフレの「リ」の部分、すなわち経済が「再び」拡大していく局面では、まず中央銀行による利下げが行われるため、債券価格と債券のトータル・リターンが押し上げられます。FRB は、FF 金利を、2001 年年初の6 %の水準から、おそらくは今回の金利サイクルにおける最低水準となるであろう現行の1 %まで引き下げてきましたが、リフレの最も「おいしい」部分が凝縮されているのがこの期間です。利下げが始まって以来、債券市場のリターンは合計で26 %、年率換算して8 %を上回る水準に達しており、債券価格の上昇分は、合計リターン26 %のうち6 %を占めました。しかし、中央銀行が目指すゴールに到達してしまうと(誰の目にも明らかなように、現在の1 %の水準は、絶対的な最低水準であるゼロのすぐ近くです)、債券を保有する投資家にとっては最悪の局面が訪れます。投資家の受け取る実質金利が低くなるだけではありません(実際に、現在の環境では、実質金利がマイナスになっています)。投資家は、金利が上昇し、債券価格が下落する日が来ることを覚悟しなくてはなりません。投資家にとって、1 %の短期金利は、忌々しいものです。また、リフレによる長期金利の上昇により、キャピタル・ロスを生むことがほぼ間違いない、4.8 %の30 年債利回りも忌々しいものです。実際のところ、米国債の投資家が今後4 ~5 年の間に受け取ることができるリターンとしては、1 %の短期金利と、中長期債の保有によって得られる約1%のリスク・プレミアムを合わせた2%程度のものになると考えられます。では、この2 %のリターンを前にして、債券投資家は何をなすべきでしょうか。
2 月と3 月のInvestment Outlook (『最後の自警団パート1 』および『パート2 』)は、ある意味で、こうした問いに答えようとしたものでした。この2 つのInvestment Outlook では、TIPS を用いてインフレ・ヘッジ商品を保有する利点と、リフレに向かっている国の低い短期金利が生み出すロールダウン/ キャリーを得るために、そうした国のイールドカーブの短中期セクターに投資することの利点を、それぞれ個別に説明しました。今月号では、「三方塞がり」とも呼べる、「リフレ」局面における債券ポートフォリオのデュレーション・ポジションを中心に議論を展開したいと思います。ここで言う「三方塞がり」とは、デュレーションを短期化しても、長期化しても、もしくは何もしなくても、債券ポートフォリオにとって厳しく難しい状況だということです。この難しい状況の打開策は、デュレーション・エクスポージャーを取る国を厳選することです。すなわち、リフレに向かっている国(米国や日本)に対するエクスポージャーを減らし、政策当局の姿勢が慎重な国(ユーロ圏や英国)のエクスポージャーを増やすことです。そうすることにより、世界的なリフレ環境において、債券を保有することで生じ得る痛みを軽減することができ、場合によってはその痛みを全く感じずに済むかもしれません。何よりも、一部の国では、国債利回りが米国債利回りを上回っています。それに加え、相対的にリフレが進行していないため、将来の価格下落を最小限に抑えることができます。たとえば、米国の10 年債利回り3.85 %に対し、ドイツの10 年債利回りは3.92 %となっています。また英国の10 年物ギルト債利回りは、4.75 %と、米国債利回りを100bp 近く上回っています。要するに、私が推奨するのは、危うい環境にある米国のエクスポージャーを減らして、英国やユーロ圏のエクスポージャーを増やすことです。すなわち、ABT ポートフォリオ(”Anything But Treasuries( 米国債以外の) ”ポートフォリオ)を構築すべきです。そして、ババ抜きのババのような米国債は、日本や中国のように、合理的な投資判断よりも国内の成長を優先する国に掴んでもらえば良いのです。
このように、中長期の米国債を保有することが、「ババ」を掴むことに近いということは、一目見てわかるわけではありません。国内のインフレ率が1 ~2 %で、10 年債利回りが4 %の状況では一見投資妙味があるように見受けられますが、実は特に好機ともいえないのです。なぜならこの状況より唯一ひどいのは、インフレ率が0 %で10 年債利回りが1.7 %の日本だけだからです。一方、日米以外の国では、これから説明するように、債券投資の魅力は相対的に高いと言えます。それを実証する、常識的に考えても妥当なデータを下のチャートに示しました。債券投資家は、各国の金利と、その国の名目GDP との間には、かなり高い相関があることを知りつつも、この基本原理を忘れてしまうことがよくあるものです。
この関係の強さは、金融政策が引き締め局面にあったか、緩和局面にあったかによって変わりますが、この相関には経済的な論理性があり、過去の歴史からも検証できるものです。チャート1 に示した25 年間の歴史では、ドイツと米国の10 年債利回りが、それぞれの国の名目GDP 成長率を、平均して150 ~250bp 上回ってきたことを示しています。この関係が、ディスインフレ色の強い(つまり実質短期金利が高くなる)金利環境で生じたものであり、さらに1991 年の東西ドイツの統合で、ドイツのGDP が押し下げられていることは確かです。それでも、米国とドイツの比較が示す相違は、一目瞭然です。何たる違いでしょうか。下のチャートのように、債券利回りと名目GDP の格差を、名目GDP を示す青の基本線と、赤線との格差として捉えると、現代のドイツ、つまり現代のユーロ圏では、債券利回りが、名目GDP 成長率を上回る状態が続いています。さらに、現在の10 年債利回りは、青線が示す、債券利回りと名目GDP 成長率の25 年間の平均スプレッドを32bp 上回っています。これに対して、米国はまったく逆の状況にあります。米国の10 年債利回りは、名目GDP 成長率を約200bp 下回っています。これは過去の平均スプレッドよりも356bp 低い水準です。確かに、現在ドイツの成長率は上昇する兆しをみせており、今後12 ヵ月間に米独の格差は縮まることでしょう。しかし、「GDP 比の利回り」でみると、ドイツは米国を378bp も上回っています。あなたなら、どちらの国に投資しようと思いますか?
もう1 つ、魔法の薬を差し上げましょう。チャート2 は、10 年の国債利回りと、GDP 比の経常収支の関係を比較したものです。チャート上の直線は、PIMCO が引いた最良適合直線です。この直線は、2003 年年末時点における国債利回りと経常収支の統計的相関を明示したものです。この図は、年間の経常収支が赤字の国は、黒字国よりも高い金利を支払わざるを得ないことを示しています。地政学的状況や、外貨準備高に対する評価が、こうした数字に影響を与えることは確かですが、その一方で、この相関関係は、2003 年に限らず、過去数十年にわたって、常に存在してきたのです。
この相関が存在するのであれば、ある国の債券の魅力を、最良適合直線からの距離で測ることができます。ドイツ(図中では、EU )の場合、そのわずかな経常黒字に対して、金利はまさしく適正水準にあります。一方、米国は、このモデルが示す適正水準を100bp 程度下回っています。こうした状況には、外貨準備や地政学的状況が強く影響しており、最良適合直線からの距離では債券の魅力を測れないと考える方は、是非チャート2 の右側の図をご覧ください。この手法で評価した場合、2004 年3 月の米国債利回りは、最良適合線からのマイナス幅が過去最大に近いことを、この図は物語っています。この原因の1 つは、日本と中国の米国債買いであり、もう1 つは、通常であれば経常赤字国に必要とされる通貨の防衛を全く考慮することなく、FRB が金利を歴史的低水準にしていることであるのは、間違いありません。この2つ要因のうちのどちらかが変化すれば、米国債利回りは上昇します。これに対して、ドイツと英国の場合には、債券にバリューがあることがはっきりしており、そのために将来の下落の可能性は米国よりも低くなります。
今月を含めて3 回にわたって続けてきた『債券自警団』では、リフレ環境において、PIMCO が最適と考えるリスク・リターン戦略について解説してきましたが、これを締めくくる前に、もう1 つ付け加える点があります。2 月のInvestment Outlook は、リフレが資産バブルを作り出す可能性があり、それが弾けた場合には、デフレに見舞われ、米国債利回りは、中心的シナリオで予想する上昇ではなく低下するという危険性について警告して締めくくりました。ここで、もう1 つ、魔法の薬を差し上げましょう。PIMCO では、このシナリオが現実化する確率は高くないものの、こうした危険性があるのは確かであるため、先行きがはっきりするまでは、デュレーションを市場平均近くに維持すべきだと考えています。そこで、デュレーション・エクスポージャーを国外に移せば、実際のデュレーション目標を変えることなく、こうした危険性に備えることができます。
さらに、割高な米国債は、この国外重視戦略に今後どの程度の上げ余地と下げ余地をもたらすのかを簡単に解説することも有益でしょう。つまり、米国債を売り、ブンズ債、もしくはギルト債を買うことで、投資家はどの程度の利益を得られるかという問題です。チャート1 では、過去の水準と比較して、米国債は100 ~150bp 割高であることが示されていますが、これを価格に直すと、相対的な損失は7 ~10 %になります。さらに、イボットソン・アソシエーツの『Stocks, Bonds, Bills, and Inflation 』と、ディムソン、マーシュ、スタウントン著『Triumph of the Optimists( 邦題:証券市場の真実) 』では、1 世紀近くにわたるデータから、次のような結論を導き出しています。過去100 年間には、デフレの時期や、2桁のインフレ、政府が金利を管理した時代などもありましたが、その100 年間の米国の長期実質金利の算術平均は、約2.9 %になります。これに対して、現在TIPS が示す30 年の実質金利は1.9 %です。インフレやインフレ期待に関する複雑な謎解きゲームに没頭しなくても、この100bp の差が、上の分析結果と一致することは一目瞭然です。この割高とされる米国債が10 年債利回りベースで最終的に5 %に上昇するかどうかの鍵となるは、(1 )FRB がFF レートを経済により中立的な水準に引き上げるか、(2 )中国がドルに対する人民元の通貨ペグを廃止するか、(3 )日本が「管理変動相場」ともいえる、大量の米国債買いによる円の押し下げをやめるかどうかの3 つといえます。現時点で、市場に直接影響を及ぼす可能性があるのは(3 )でしょう。また、おそらくは金曜日に発表される雇用統計が、(1 )に何らかの影響を与えることでしょう。しかし、米国債の調整が完了するまでの間、債券自警団や投資家は、米国債へのエクスポージャーを減らし、国外に投資して、所期のデュレーション・エクスポージャーを取るABT 戦略を遂行することで、米国債に投資するよりも優れたパフォーマンスを手に入れることができるでしょう。
ウィリアム・H・グロースマネージング・ディレクター
ピムコ ジャパン リミテッド105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズ オフィス18階 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場の各セクターへの投資にはリスクが伴います。地方債はその時々により利益を生むこともあれば税務負担を生じさせることもあります。国債及びその他政府発行債券については適時の利払いが保証されていても、市場リスクを減じるものではなくまたファンドの受益証券については保証されておりません。モーゲージ債や社債は金利の変動の影響を受けることがあります。金利が上昇すれば債券価格は一般的に下落し、民間の保証人ないし保険が確実なものとの保証はありません。ハイ・イールド債、すなわち低格付債への投資は一般的に高格付債よりも高い元本リスクを有します。米国債以外への債券投資には米国以外の経済および政治情勢に起因するリスクが伴うことがあり、新興成長市場への投資にはかかるリスクが増大することがあります。TIPS と称され、米国政府により発行されているインフレ連動債は元本価値がインフレ率に定期的に調整される債券です。従って米国政府は償還時の元本価値がその時々のインフレ率に調整されることは保証するものの、市場変動による時価価値への影響はその保証の範囲内ではありません。デュレーションは債券の価格センシティビティーを計測するもので、年数で表されます。MMF (マネー・マーケット・ファンド)はFDIC (連邦預金保険会社)またその他の政府機関により保険ないし保証されているものではありません。MMF が1 シェア当り1 ドルの投資価値を保持しようとしていても、そのファンドに投資することにより損失が発生する可能性があります。運用を行なう資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2007年(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。