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Investment Outlook
ウィリアム・H・グロース | 2004年2月
最後の自警団
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このところ、債券市場の自警機能について、耳にすることがなくなりました。債券市場の自警団は、数年前ひっそりと姿を消し、今ではその役割を忘れてしまったのか、それとも、インフレではなくデフレが社会の最大の敵になったこの時代に、その機能を果たすことができないことに慣れてしまったかのようです。確かに、かつての債券市場の自警機能がもてはやされた時代には、この機能が本来持っている力以上の評価を受けていたと言えるでしょう。本来、自警機能を果すのは、資金の貸し手ですが、この機能が高く評価され始めた数十年前には、債券投資家が自らの思いを託す、TIPSやリアル・リターン・コモディティ・ファンドといった商品は存在しませんでした。当時あったものは、債券か現金であり、現金の価格は、自警団を率いて社会の平和を守るローンレンジャーとも言うべきFRB議長が決定していました。そして、議長以外のすべての参加者は、馬にまたがり、彼の後について大声を上げ、空に向かって拳銃を撃ちながら、投げ縄でインフレという害獣を捕獲しようとしていました。しかし、私たちはある意味演技をしていたと言えます。自警機能を果たしていたのは、「ミスター自警団」とでも呼ぶべきポール・ボルカーその人であり、やがてその職務は、グリーンスパン現議長に引き継がれました。ただし、グリーンスパン氏の場合は、白馬にまたがって颯爽と登場するローンレンジャーというより、バーニー・ファイフ(昔のテレビ番組に出てくる、東海岸の田舎町を守る神経質な保安官)のように見えるのですが。半分冗談めかして、こうした例えを使ったのは、ボルカー氏が活躍した大西部は、今グリーンスパン議長が守るべき社会とはまったく異なるのだということを、皆さんに知っていただこうと思ったためです。前議長も現議長とも、インフレのコントロールと健全な経済の維持という2つの責務を負っていることに変わりありません。しかし、グリーンスパン議長が現在向き合っている経済は、ボルカー氏が白馬にまたがって大活躍した1979年から87年の経済とは全く異なるものなのです。グリーンスパン議長が向き合っているのは、グローバル化が進んだ経済であり、そこでは米国の雇用が賃金の安いアジアや中南米における雇用に取って代わられ、その周りを悪い気が取り囲んでいます。また、インターネットや携帯電話、高速データー通信といった技術的驚異に満ちた世界でもあります。人類が月に降り立つことは2度とないかもしれませんが、この地球上では確かに驚くべき事態が進行しているのです。こうした変化により、この経済の保安官や自警団長に対する認識は完全に変わってしまいました。現在では、グローバル化が進んだ世界における国内の自然失業率、テクノロジー色の強い経済における持続可能な生産性の水準、そしてこうした要因が融合して、インフレと経済成長というFRBの2つの中心的責務に与える影響などを考えることが必要とされます。2004年のこの世界で自警団の団長を務めることは、簡単なことではありません。

また、これまでのInvestment Outlookで指摘したとおり、現在ではボルカー前議長が1980年代初頭に実施した政策のように、急激に金利を引き上げて、経済を叩きのめしてしまうリスクを取ることはできません。経済は、80年代の「斜陽の時代」よりも順調に発展しているように見えるかもしれませんが、その基盤は80年代よりもはるかに弱いのです。その理由は、民間部門だけでなく、公共部門も含めて幅広い分野で債務の水準が高いことにあります。ローンレンジャーが引退し、バーニー・ファイフが取って代わったことには、それなりの理由があるのです。現在の経済には、多くの影が存在するため、今求められているのは、自らの影にも気を配るような慎重な人間だと言えます。ボルカー前議長の時代から20年の間に生じた変化のうち、グローバリゼーションのリスクとテクノジーの急激な進歩以上に重要な変化は、米国経済の中心が製造業から、サービス業、そして金融へと変化したことです。純粋に言うと、その変遷や、背景にある論理については異論があるかもしれませんが、いずれにしても、当時と現在の最も重要な違いは、FRB自警団が守るべき3つの重要な要素のうち、企業収益と雇用の2つ(3番目がインフレ)が、今では主に債務の金額とそのコストによって決められるという点です。だからこそ、私たちは金融を基盤とした経済に生きていると言えるのです。私たちが住んでいる町は、1984年当時の大西部の町ドッジシティではなく、1994年当時と比べても様変わりした町なのです。84年や94年には、米国が生み出すモノは、世界の競争相手が生み出すものよりも優れていました。しかし、現在では米国が生み出すモノは当時よりも少なく、それをゼロ金利ローンの力で販売している状況です。また、ドッジシティの近郊の住宅地も、姿を変えました。30年の固定金利ローンで住宅を購入し、毎月元本を返済することで、自らの資産が徐々に増えるのを待つのではなく、現在では、変動金利や金利ゼロ%ローンを利用して、年に2度もローンを借り換え、それによって積み上げた価値を「テイクアウト」によって手にし、支出に回してしまうのです。まるで金曜日の夜に、気楽にケンタッキーやバーガーキングに出かけるかのようにです。そして、あのGEが米国企業を代表する存在だとすると、次に紹介する例は、米国経済が変貌した証となるものです。1980年代の段階で、GEの利益の92%は製造部門が生み出したものでした。しかし2003年には、同社の利益の50%近くを、金融子会社が生み出しています。そしてこの金融子会社の業績は、借入と借入のコスト、そしてスワップ市場を活用して長期金利を1%少々の短期借入に転換する能力に大きく依存しています。

私は、GEに噛み付いたり、冗談半分でバーニー・ファイフとグリーンスパン議長を比較したりして、メディア向けの材料を提供しようとしているのではありません。グリーンスパン議長は公僕として、その職務に真剣に取り組んでいます。彼は、インフレでなく、デフレと戦う現代の自警団を自任しており、2002年には、功績をあげました。GEは立派な企業であり、1世紀近くの間「進歩」を続けています。しかし、手を携えてオズの城に向かうドロシーとその仲間達のように、議長も、GEも、そして私自身やPIMCOも、表面が金ではなく債務とレバレッジで覆われ、金利低下により常に保守が必要な「イエローブリックロード」を歩んできたのです。つまり私は、ボルカー前議長こそ実質的に最初で最後の自警団だったかもしれないと考えているのです。グリーンスパン議長やGE、そして私自身はどうかですって?自警団と呼べるでしょうか?私たちは、いずれにしても、金融を基盤とした経済に住んでいる。そうでしたね。金融を基盤とした経済をグリーンスパンは祝福し、GEは利益の源泉とし、PIMCOは有効活用してきました。ポートフォリオで、1000億ドルものモーゲージ証券を保有することにより、住宅ローンの借り換えを支えてきたのは誰でしょうか。金利0%の自動車ローン?LIBORプラスの利回りで資産担保証券を購入して、金利0%の自動車ローンを支えているのは誰でしょうか。GEのスワップでしょうか。PIMCOも、金融を基盤とした経済を支えてきたのです。

しかし、読者の皆さん、あらゆる批判を別にして、私は前もってこの物語はハッピーエンドにならないと申し上げておかねばなりません。未だ期は熟していないかもしれませんが、最終的には「真昼の決闘」が行われることになります。現在の経済は、繁栄を続けるために、低コストの資金がますます必要になる、金融を基盤とした経済であるため、この「ますます必要になる」や「低コスト」といった修飾語が、「必要性が低下する」や「高コスト」といった言葉に置き換えられる時に、このゲームは終了します。次の2つのチャートについて説明しましょう。

 

 

チャート1と2は、金融を基盤とした経済を目に見える形で示しています。この2つのチャートは、過去数十年間の米国の金融の伸びを示したものです。チャート2が示す通り、GDP比の債務比率は、過去20年に急上昇し、現在では、1930年代の大恐慌のわずかな期間に記録した過去最高の水準と肩を並べています。この比率が上昇した背景は、20年代の好況の影響があることは間違いありませんが、この後に続いた景気後退期に、GDPが26%近くも減少したことも大きく影響しています。現在の債務やその分布は、当時よりもかなり進化しています。政府も企業も消費者も、自由に資金を借りることができます。そして、それぞれの債務はまとめられ、ストリップスや、IO/PO、CMO、CDOに分割されます。さらにこうして証券に形を変えた債務をレポに出すこともできます。私たちの繁栄は、一見したよりも多くの方法によって、支えられています。その理由が何であっても、誰の責任であっても、つまりPIMCOが買おうが買うまいが、グリーンスパン議長が祝福しようがしまいが、あるいはウォール街が押し付けようが押し付けまいが、とにかく私たちは巨額の債務を抱えているのです。それは誰も否定できません。そして、現在の経済はその中で発達してきたという事実も否定することはできません。しかし、現代の経済は、債務があるからこそ繁栄を続けてこられたのか、そしてそれは今後も続くのかという点については議論があります。新時代派の基本的な主張は、確かに私たちは巨額の債務を抱えているけれど、これは私たちが経済社会として、賢明な選択をしてきた結果なのだというものです。すなわち、借入資金で生産性の向上に投資したり、技術革新に取り組んだり、もしくは政府が世界中のテロ攻撃から国民の生命を守るろうとしてきた結果なのだという主張です。また彼らは、現在の金利水準は低いため、こうした債務の返済が不可能になることはないと主張するでしょう。

これに対する反論として、いわゆる自警派は、コンシュマーリズムや、わずかな期間しか価値のないモノを買う今の時代の風潮について指摘するでしょう。彼らは、私たちの投資が賢明ではなかったと主張します。たとえば、利用されていない光ファイバーケーブル網や、数年前の馬鹿げた「ドットコム企業」の乱立がそれを証明していると言うのです。そしてその締めくくりとして、共和党のブッシュ政権と共和党議会は、予算にいかなる限度も設けることができないようだと指摘するでしょう。本当に人類をもう1度月に送り、火星にも送り、その他の星の探査も進めようとするのであれば、5000億ドルの財政赤字など、手始めの一歩に過ぎなくなる可能性もあります。実際のところ、CBOは、今後10年間で国家債務は2兆ドル増加するとの見通しを示しています。

どちらの言い分が正しいのでしょうか。どちらにも、耳を傾ける点があると思います。ただ、少なくとも、債務の増加ペースが止まった場合、すなわち、チャート2のトレンドラインの傾斜が急激に反転した場合、経済は減速するか、低迷するか、もしくはそれ以上に悪くなることは、明らかでしょう。GDP比の債務の水準が、チャートが示す1980年代の水準と同じだったとしても、消費、住宅購入、テクノロジーへの投資、財政赤字、そして成長率は、現在の水準よりも大幅に低くはならないと主張できる人はいるでしょうか。私たちは債務漬けになっているのであり、これが金融を基盤とした経済なのです。

それが問題でしょうか?今の状態をただ続ければよいのではないでしょうか。新時代派は、これまでは問題は生じなかったと主張することでしょう。債務がGDPの400%や500%になったからといって何がいけないのでしょうか。バーナンキ理事が以前語った通り、必要があれば、ヘリコプターマネーを大量にばら撒けばいいのではないでしょうか。では、何がいけないのかを解説しましょう。債務の水準と債務比率には上限があります。金利が上昇すると、債務が急増している経済では、その債務返済コストにより、最終的には経済自体が立ち行かなくなります。債券市場の真の自警団とは、債券や、モーゲージ証券、もしくはここ数年に登場した新たなタイプの証券を購入するということが、インフレ調整された金額と、多少の上積みを手に得られると期待して、誰かが苦労して稼いだ資金を、別の誰かに貸し付けることに他ならないと知っている人々を指します。資金の貸付とはインデックスを模倣した投資をすることではありません。また、スプレッドが縮小すれば、だまされやすい他の犠牲者に売り渡すことを前提にして、人気のある新発債を購入することでもありません。生み出したトータル・リターンのマイナス幅が、全競争相手の90%よりも少なく、マネーマネージャー・ランキングの上位10分の1に入ったとほくそえむことでもありません。また、当然のことながら、年間2000万-3000万人の中国国民や、日本人にまで仕事を与えようとする意図を隠し持ってドル建て債を購入することでもありません。こうした投資家は賢明かもしれませんが、自警機能を果たすことはできません。債券市場の自警団は、融資をし、インフレ調整された適度なリターンを要求し、将来の見通しが不透明になった場合には、その代替を求めます。私が言いたいことは、この決して終わりそうにないGDP比の債務の増加に対して、いずれ誰かが「ノー」と言うということです。それはPIMCOかもしれませんし、PIMCOと似た考え方を持つ人かもしれません。通貨の変動やインフレによる減価に嫌気がさした外国の債券投資家かもしれません。また、新たなLTCM型の危機に肝を冷やしたハイイールド債、エマージング市場債、レバレッジド・ヘッジファンドのリスクテイカーかもしれません。誰が「ノー」と言い始めるのかを正確に言いあてることは困難ですが、いずれ誰かが「ノー」と言い、ヘリコプターマネーをばら撒くかどうかには関係なく、少なくとも、ボルカー議長が自警団を組織した1980年代初頭以降経験したことがない景気の落ち込みとリセッションがやって来るのです。そう、真昼の決闘です。

 

これまで、この「金融を基盤とした経済」についてのお話を、債務の増加と、この動きに乗ろうとする貸し手に限定してきました。これに対して、私たちの現在の繁栄の背景にあるもう1つの要因は、債務の伸びが加速したこの期間中、チャート3に示した通り、借入のコストが低下し続けたことです。そう、次のテーマは生産性です。

金融を基盤とした経済では、これこそが生産性です。すなわち、生産1単位あたりの労働コストではなく、債務1単位あたりの金利が低下し続けたことが、生産性の上昇なのです。長期実質金利は、1980年の推計9%から、現在では2.5%に低下しました。ここで、さきほど紹介した0%ローンと歴史的低水準にある住宅ローン金利について思い出してください。こうした要因がなければ、どれだけの消費が可能だったでしょうか。その答えが「現在の消費ほどは多くない」となることは間違いありません。もしくは「今よりもはるかに少なかった」となるかもしれません。私の言いたいことは、利回りはこれ以上大きく下がらないということです。実質金利がマイナスであれば、眠気眼の債券自警団も、「いずれ」はより高い金利を求めるでしょうし、夢うつつのFRB議長も「いずれ」は金利の再調整を余儀なくされるでしょう。また、半分眠ったような外国の中央銀行も、より高い実質金利を得られるために、今よりも確実に資産を防衛できる通貨バスケットに「いずれ」はスイッチするでしょう。

実質短期金利がマイナスから若干のプラスに上昇すると(PIMCOの長期予想)、このトレンドの転換により、金融を基盤とした経済における債務の生産性の上昇は停止することになります。簡単に言うと、この転換により、債務者の返済額は実質ベースで増加し、個人消費、住宅建設や購入、設備投資、財政赤字などが影響を受けることになります。実質金利の低下という「追い風」は、穏やかな逆風に変わるというわけです。そして経済は減速します。弱体化するかもしれません。しかし、そのタイミングはわかりません。常に批判的な悲観派の運用マネージャーやエコノミストにとって、苛立たしいことに、この「いずれ」は、Xファイルで取り上げられる超常現象のように「そこかしこにある」ことが多いのです。それでも、この「いずれ」は、真昼の決闘が近づくにつれ、警戒が必要になることを示しています。

私がすぐに結論を示すことを希望する読者、もしくは私よりも先に結論を導き出そうとする読者にとって、この「真昼の決闘」の例えは、PIMCOが使う言葉の中でも理解することが難しいかもしれません。私はこれまで、「リフレ」が不可避であることを主張してこなかったでしょうか。TIPSと商品を推奨してこなかったでしょうか。平均よりも短いデュレーションにして、中期債に投資してキャリー取引で利益を得るべきだと主張してこなかったでしょうか。私は、そう主張してきました。しかし、FRB議長や大統領によるリフレを目指した試みは、経済成長の点でリフレに成功することを前提としていません。将来の経済成長のペースは、本当に難しい問題ですが、政府当局によるリフレを目指した明確な取り組みが、経済成長を生み出すわけではありません。過去のケインズ主義の成功とヘリコプターマネーをばら撒くとの約束を信じる人は、米国経済や世界経済が、政府によるてこ入れを支えにして、最終的に安定した長期的成長を達成できると信じています。しかし、私は疑問だと思っています。ボルカー前議長と同じく、ケインズも、今よりも単純な製造業と農業を基盤とした世界でその力を発揮しました。金融を基盤とした経済では、債務の増加と債務のコストが重要になります。そして本当の監視役である貸し手、つまり資金運用ゲームや運用コンテストの参加者としてではなく、インフレ調整した金額と多少の上積みを手に入れることを期待して資金を融資する貸し手は、債務の拡大に終止符が打たれることや、債務のコストがリスクを反映した形で上昇することを求めるでしょう。どちらの要求も経済を減速させるものです。こうした結末に向かうのであれば、リスク市場は、まさに「リスク」にさらされます。そして、米国債利回りは、リフレの失敗と債務デフレの台頭により、上昇ではなく最終的に低下する可能性があります。確かに、これはまだ先のことです。しかし、この話の核心は、大勢の自警団員を、常識を剥ぎ取った上で再生させること、そして彼らが持つ「ノー」という力が必要だということを言っているのです。

ウィリアム・H・グロース
マネージング・ディレクター

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