信じられないかもしれませんが、これまで述べてきた男と女の違い、まったく違う視点、そして全く異なる世界というテーマは、債券市場にも・ てはまるものです。つい最近債券市場が暴落したある日、会社のすぐ近くにあ るサンドウィッチ屋に向かって軽い足取りで歩いていた時のことです。通りすがりに誰かがこう言いました。「顧客に莫大な損失を負わせた割には、元気そうじゃないか」。この言葉に対して、私は自信をもって、こう切り返しました。「でもマーケットには勝っているさ」。うぬぼれでしょうか。それとも気に留めていなかったのでしょうか。そうかもしれません。ただ、この見ず知らずの人の言葉は、絶対リターンの考え方を反映したもので・ ったのに対し、私が発した言葉は、相対リターンの考え方を基盤としたものだったと言えます。この人と私は、全く異なる視点でこの日の市場を見ていたのです。言うなれば、絶対空間を主張したニュートンと相対性理論を展開したアインシュタインのように、全く異なるものの、どちらも相手を完全に否定することができないのです。つまり、どちらの見方も間違いではないということです。毎日毎日何十億ドルもの損失を出し続けることができないことは確かです。しかし、債券市場のリターンが長期的にはプラスとなること、そしてPIMCOは競合他社よりも多く市場のパフォーマンスを上回ることにより、顧客に付加価値を提供していることを知れば、私が歩く姿を見て無責任だと思った人たちも、納得することでしょう。
次に、今回のInvestment Outlookでは、ダンスパーティーに誘う電話やサンドウィッチ屋での1件から発展し、債券運用にニュートン的な方法とアインシュタイン的な方法とが・ ること、そしてそのどちらを選択することは完全に投資家の考え1つであるものの、その選択により、リスクと長期的リターンが異なってくることを説明することにしましょう。この問題は、アクチュアリーが「タイム・ホライズン・プレミアム」と呼ぶ、時間的な長さの違いによって、かなりの部分を説明することができます。投資家は、債券ポートフォリオのデュレーションを、債務の想定デュレーションとマッチさせようとすることが多いため、タイム・ホライズンが短いマネー・マネージャーや投資家は、価格の変動性が高いことを理由に、デュレーションの長い債券ポートフォリオのリスクは高いと考えるのに対し、タイム・ホライズンの長いマネージャーや投資家は、再投資リスクを理由に、デュレーションが短いポートフォリオのリスクは高いと考える傾向に・ ります。債券への投資を選択する限り、後者のグループは、私が「絶対デュレーション」空間と呼ぶ世界に住むことを好むのに対し、前者のグループは「インデックス・デュレーション」空間に住むことを好みます。ほとんどの債券は、「インデックス・デュレーション」空間でアクティブ運用されており、その基準として、米国の場合には、リーマン・アグリゲート・インデックスが最も一般的に用いられていますし、このインデックス以外にも多くのインデックスが、国内債のベンチマークや、グローバルな債券のベンチマークとして利用されています。こうしたインデックスのデュレーションは、年金基金の債務を正確に反映するには短すぎるかもしれないという懸念が・ りますが、それは正当な懸念です。しかし、この点は今回のInvestment Outlook のテーマではありません。今回で取り上げようとしているのは、全く異質の2つの債券世界、すなわち相対的にデュレーションの短い「リーマン・インデックス」空間と、それよりもデュレーショが長く、想定上は無限大ともなる「絶対デュレーション」空間についてです。投資家がどちらを選ぶかによって(そして最終的にはこの中間になるのでしょうが)、不思議なことに、堅実に債券ポートフォリオを運用する方法が異なってくることを示すことが私の目標です。
リーマン・インデックス対絶対デュレーションの空間管理は、どちらを選択するかによって債券マネージャーの・ らゆる業務に影響を与えます。まず言うまでもなくデュレーションそのものの選択、またカーブやセクター(社債対国債、国内債対外国債など)、クオリティの選択などに影響を与えます。ここでは問題の核心をはっきりと示すためにイールドカーブに焦点を・ てることにします。最初に、かなり驚くべきことを申し上げましょう。ウォール・ストリート・ジャーナル紙を見ると、現在の30年債利回りは5.0%程度になっていますが、リーマン・インデックスのデュレーション空間では、30年債はわずか2.2%のリターンしか生みません。なぜそうなるのでしょうか。世界が異なると、債券の生み出すリターンがなぜ変わってしまうのでしょうか。この一見すると・ り得ないような相違が生じた原因は、インデックス空間においてホライズンやデュレーションが限定されていることにあ ります。その上、現在の短期金利がきわめて低水準であるために、この差が拡大しているのです。インデックス空間において、可能な限り多くの30年債を組み入れつつ、リーマン・アグリゲート・インデックスと同じ4.2年のデュレーションを持つポートフォリオを作り上げることを想像してみてください。ここでは、債券マネージャーが、デュレーションが一定のポートフォリオを構築する場合、組み入れる債券の年限によってリターンが異なるということを示そうとしているのだということを覚えておいてください。この場合、ポートフォリオには4.2年のデュレーションという制約が・ るために、30年債を資産の30%までしか組み入れることができず、残りの資産は、利回りがわずか1%程度のマネーマーケット商品で構成されることになります。この組み合わせにより、次の表1に示されている通り、デュレーションが4.2年で、利回りがわずか2.2%のポートフォリオとなるのです。
この表でも、表中の平均でも、30年債の利回りに変更はありません。米国政府は、5.0%の利回りを払い続けています。しかし、リーマン・インデックスのデュレーション空間で30年債を買うことを選択したマネージャーは、利回りの低いマネーマーケット商品を大量に組み入れなくてはならず、市場が動かないと仮定すると、このポートフォリオを12ヶ月間保有した時のリターンは、わずか2.2%になります。この分析結果は、保有する30年債が1本で・ ろうが、5000本であろうが、変わることはありません。リーマン・インデックスのデュレーション空間では、それぞれの30年債が2.2%のリターンを生み出します。同じ方法によって、10年債と5年債を用いたポートフォリオの分析を行ってみると、このきわめてスティープなイールドカーブ環境において、当然獲得できるはずのロールダウンによる付チ的リターンを考えなくても、10年債で・ れば2.8%、5年債であれば3.2%のリターンを得ることができます。残存期間の短い債券で構成されるポートフォリオであ れば、30年債で構成されるポートフォリオの場合よりも債券を多く組み入れて、リーマン・インデックスと同じ4.2年のデュレーションを得ることができるため、このインデックス・デュレーション空間における「イールドカーブ」は、通常目にするものとは、かなり異なる形状になります。*
ここで説明を終了したとしても、有益であることは確かでしょうが、完全とは言えません。今回のInvestment Outlookでは、リーマン・インデックスのデュレーション空間で保有されている債券のリターンと、通常のイールドカーブの想定から導き出されるリターンが異なることを示してきました。一方で、絶対デュレーション空間とそこで生み出される高い利回りは、一部の投資家にとってますます重要になりつつ・ ります。こうした投資家とは、価格変動リスクよりも再投資リスクの方が自らのポートフォリオへの影響が大きいと考える投資家であ り、年金プランにおいて、8%や9%、10%という債務の割引率をヘッジするために高いリターンが「必要」なマネージャーや顧客の多くが、この中に入ります。これは、部分的にヘッジファンドの領域で・ り、同時にレバレッジの有無にかかわらず、長いデュレーションによって、そうした高いリターンを生み出すために債券を用いようとする投資家の世界です。こうした世界では、リーマン・インデックス空間において、30年の米国債利回りのリターンを2.2%まで引き下げた1%の短期金利を利用して、絶対デュレーション空間のリターンを大幅に引き上げることが可能です。調達金利が1%で、債券の利回りが5%だと想定すると、100%30年の米国債で構成され、3倍のレバレッジをかけたポートフォリオでは、13%のリターンを生み出すことが可能になります。しかし、この場合のデュレーションは、上の表2に示した通り、なんと42年にもなります。
一方で、5年債で構成されるポートフォリオにレバレッジをかけて、デュレーションを同じく42年にまで伸ばした場合、価格に変動がないとすると、そのリターンは(ロールダウンによるリターンの押し上げがないとしても)19%になるという、これまた驚くべき結果を導き出すことができます。つまり、5年債は株式をアウトパフォームすることができるわけです。この2つ以外に、他の年限についても検証することにより、絶対デュレーション空間でも、インデックス空間で得られたイールドカーブと全く同じ形状で・ りながら、リターンの水準がはるかに高いイールドカーブを作り出すことができます。
リーマン・インデックス空間であろうと、絶対デュレーション空間であろうと、たとえデュレーションが無限大の空間で・ っても、新たに得られたこの逆U字型をした2つのカーブを使って、米国債のあ らゆる年限について、新たなリターンの「カーブ」を示すことができます。下のチャートでは、30年債の利回りとデュレーションの関係を示しましたが、当然のことながら、5.0%の利回りは、30年債の実際のデュレーションで・ る14年と交わっています。言うまでもなく、こうした「利回り」は、どれも確定したものではなく、短期の調達(もしくは運用)金利の変動の影響を受けることになります。FRBが短期金利を現在の1%の水準から利上げた場合、現在の状態が永遠に続くこと、もしくは少なくとも半永久的に続くことを全体に作り上げられたポートフォリオは、予想に反した動きをみせるでしょう。このポートフォリオでは、デュレーションが14年以上の部分すべてでリターン低下するだけでなく、レバレッジをかけたデュレーション分だけ、損失が拡大することになります。
債券投資家は、こうした点すべてから何を学ぶことができるでしょうか。なぜ「リーマン・インデックス」と「絶対デュレーション」という全く異なる空間の説明が必要なのでしょうか。こうした問いに対していくつかの回答を示すことができます。第1に、「絶対デュレーション」ポートフォリオが生み出す二桁のリターンからは、現在の借入に依存した経済の将来像をうかがい知ることができます。90年代のような高いリターンを自動的に得ることができると信じて疑わない投資家や事業会社、金融機関の場合、そうしたリターン達成するためのデュレーションやレバレッジが過剰になっているか、そうでなくてもかなり高い水準となっており、その結果、リスク量も過剰、もしくはかなり高い水準になっています。42年のデュレーションを持つポートフォリオでは、現在の金利環境においても、13%から、場合によっては20%以上もの高いリターンを達成できる可能性が・ ります。しかし、カーブ全体の金利が50bp上昇すれば、12ヵ月間ですべてのリターンは消滅してしまいます。もし金利が250bp上昇すれば、投資元本がすべて吹き飛んでしまい、銀行の口座には1銭も残りません。現在の経済は、250bpの金利上昇ですべてが吹き飛ばされるほど高いレバレッジがかかっているわけでは・ りませんが、レバレッジがかかっていることは確かです。まず銀行は、資産と資本の割合が10対1になっています。ヘッジファンドも同程度のレバレッジをかけています。政府機関の場合にはレバレッジがさらに高くなります。彼らの資産のデュレーションが長くなるほど、金利が上昇した場合に経済が崩壊に向かう危険性が高くなります。短期の調達金利が1%で・ る間は、こうしたレバレッジをかけているプレイヤーの誰もが利益を上げることができます。しかし、グリーンスパン議長がその調達金利を上げた場合、新たなバブル崩壊の危険に晒されることになります。そして今回弾けるバブルは、米国経済そのものなのです。
第2に、中期セクターのリターンは、長期セクターのリターンを下回るように思えますが、リーマン・インデックス空間の投資家にとって、中期債のリターンは長期債を上回ります。わずか1%と、きわめてリターンの低いマネーマーケット商品の影響で、長期債の生み出すリターンは大幅に低下します。リーマン・インデックスをベンチマークとするポートフォリオにおいて30年債が生み出すリターンが2.2%だとすると、30年債が中期債をアウトパフォームするためには、5年債と30年債のスプレッドが年間60bp近く縮小しなくてはなりません。それはデフレの火を消し止めるために「バーナンキ型消火器」、すなわち「非伝統的手段」という奥の手が使われる場合か、逆にFRBが短期金利を大幅に引き上げる場合だけになるでしょう。しかし、どちらにしても、そうなる確率は高く・ りません。今後数年間、中期債はリーマン・インデックス空間であっても、「絶対デュレーション」空間であ っても、利回りとリターンという観点から最も望ましいセクターとなるでしょう。読者のみなさんが、これこそ銀行やヘッジファンドが現在行っている「キャリー取引」の複雑な論理的根拠で・ ると判断するのであれば、それでも構いません。いずれ、こうしたポジションは損失を被る時が来るでしょう。ただし、FRBが緩和的政策を継続し、かつ実質金利が低水準にとどまっている間は、こうした取引から利益を獲得できるはずです。
3番目として、最近のPIMCOのイベントにおいて、あるお客様から頂戴した質問を紹介しないわけにはいかないでしょう。その質問とは、「現在のように、インデックス・ポートフォリオのリターンが低い場合、私たちは何をすべきでしょうか」というものでした。この方は、レバレッジを用いない運用スタイルによってPIMCOが生み出すリターンが、4-5%程度で・ り、(これは私の推測ですが)株式市場のリターンもそれと変わらないとすれば、どうすれば必要リターン目標を達成することができるのかということを聞きたかったのでしょう。私は、PIMCOが新たに開発した、実質リターンの・ づけのある商品インデックス戦略や、デュレーションを42年ではなく、0に近い水準に維持することを目指したPIMCO独自の絶対リターン戦略が、この方にとっての選択肢になると答えました。しかし、こうした戦略を採用せず、4-5%のリターンが当たり前の世界で、投資家やファンドが二桁のリターンを生み出そうとすれば、現在の1%という低い調達金利を活かして、リスクとレバレッジ水準を高める以外に方法は・ りません。「PIMCOはそちらの方向に向かうのでしょうか」。プランの資産を債務とマッチさせるために、デュレーションの目標値を10年超に伸ばすことは1つの方法です。実際に、ここ数年、かなりのお客様がこうした対応を取られました。長い間、ピーター・バーンスタインは、ファンドの真のベンチマークやインデックスは、そのファンドの債務と結びついているべきもので・ り、「市場」と結びつくべきものではないと主張してきました。しかし、PIMCO全体が、1つの巨大ヘッジファンドのようになるのでしょうか。そうでは・ りません。そうした運用は、PIMCOのスタイルやリスク選好と相容れないものですし、当社の長期的展望とも相容れないものです。PIMCOにとって最良の選択は、自らの領域に専念オつつ、最先端の技術革新を追究し、当社の基盤を支える哲学を忠実に守ることで・ り、それにより現在の環境でもポートフォリオのリターンを向上させることができるのです。レバレッジ比率を過度に高めた借入に依存している現在の経済において、当社と当社のお客様が利益を得る最も良い手段は、実現性の高いシナリオにおいて高いリターンを生み出すと予想される中期債に集中することです。こうした戦略に加えて、その他の戦略の中から、以前述べたTIPSを組み入れたリフレ・ヘッジと多少のエマージング市場債を融合させることにより、ここから数年間、PIMCOの世界とお客様の世界が異なったものになることはないでしょう。
William H. Grossマネージング・ディレクター
ピムコ ジャパン リミテッド105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-28虎ノ門タワーズ オフィス18階 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号加入協会/ (社)日本証券投資顧問業協会、(社)投資信託協会ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれていますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。債券市場の各セクターへの投資にはリスクが伴います。地方債はその時々により利益を生むこともあ れば税務負担を生じさせることもあります。モーゲージ債や社債は金利の変動の影響を受けることが・ ります。米国債以外への債券投資には米国以外の経済および政治情勢に起因するリスクが伴うことがあ り、新興成長市場への投資にはかかるリスクが増大することがあります。新興成長市場の証券は流動性が比較的低くなることが・ り、通貨価値の変動や政治状況によるリスクに影響を受けることがあります。リーマン・ブラザーズ・アグリゲート・ボンド・インデックスは、米国の課税対象となる債券領域を代表する、実際に運用のなされていない市場インデックスです。デュレーションは債券の価格センシティビティーを計測するもので、年数で表されます。TIPsと称される、米国政府により発行されているインフレ連動債は元本価値がインフレ率に定期的に調整される債券です。運用を行なう資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額により異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。 2007年(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味します。