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Global Central Bank Focus
ポール・マカリー | 2008年1月

熱き時、熱きモーメント

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(著者のペットであり、早朝の話し相手でもあるウサギ、バンバンとの会話より)

ポール・マカリー(以下「PM」):おはよう、バンバン。遊んでいるところを邪魔して悪いのだけれど、ちょっと付き合ってほしいんだ。今年も来年の世界経済と金融市場についてお話しする時期がやってきた。

バンバン以下「BB):あら、何のことかしら。今までそんなことをしたことはないじゃない。どうしたっていうのかしら。

PMそうだ、君は知らなかったね、バンバン。これはね、仕事でも日常生活でも、ずっと私のパートナーだったモルガン・ル・フェイと6年前から続けてきた年末の恒例行事なんだ。モルガンは昨年3月に、9年の生涯を閉じて天に召され、その数週間後に君がやって来た。もちろん、君はモルガンの代役というわけじゃない。誰もモルガンの代わりにはならないし、君は君だからね。君はとても楽しい子だし、モルガンが2歳の時よりもやんちゃかもしれない。君を家族の一員として迎え入れたことは、とても良かったと思っているよ。

BB私もここで暮らすことができて嬉しいわ。ところで、あなたのことをモルガンのように「マック」ではなく、ポールと呼んでもいいかしら?モルガンと違って、私はボーイフレンドをファーストネームで呼ぶようにしているの。

PM構わないよ、バンバン。結構だ。何と呼ぼうと構わないが、この書斎にいる間はきちんと決まった場所でトイレをしておくれよ。

BBいいでしょう。そういえば、私がこの家に来た頃と比べると、あなたはこの数ヵ月、書斎で過ごす時間が増えた気がするのだけれど。何か仕事で悩み事でもあるのかしら。

PMそういうわけじゃないんだ。もっとも、楽な仕事ではないがね。問題はミンスキー・モーメントなんだ。これは滅多にお目にかかれるものじゃなく、私も25年近いキャリアの中で、45回しか経験したことがないものだ。

BBいいでしょう、お望み通り、お話に付き合ってあげるわ。もう一度、そのミンスキーとかいう人について、説明してくださるかしら。それに、ミンスキー・モーメントだなんて、どうしてその人の名前がついた時間があるのかしら?今は私の時間だと思っていたのだけれど。

PM口を慎みなさい、バンバン。ミンスキー教授は1996年に亡くなっている。だから、彼についてお話する時にはまず崇敬の念を示さないといけない。そして、教授が提唱した金融不安定仮説(FIH)を大いに尊重しなくてはならない。この仮説は現在、収縮過程に入った不動産価格と不動産向けクレジットの二重のバブルを含め、資本主義特有の膨張縮小サイクルを見事に説明している。そして、膨張から縮小に転換する時をミンスキー・モーメントと呼んでいるんだ。

BBそれにしても、なぜ資本主義特有の膨張縮小サイクルというのかしら。資本主義はあのスミスとかいう人の言う見えざる手によって動かされているのでなかったかしら?そして、市場は効率的で、あなた達の言う「価格発見プロセス」を通して、さまざまなものの適切な価格を常に見つけ出すことができる場所ではなかったのかしら?

PM君が今、言ったことはほとんどの場合、正しいのだけれど、そうではない場合もあるんだ。実際、資産運用において、最も面白く、高い収益を上げられるのは、スミスさんの言う見えざる手が明らかに機能していない時なんだ。ミンスキー教授のFIHはスミスさんの言う見えざる手がいつ、どのようにして壊れてしまうかの枠組みを示したということもできるね。

BBちょっと待って、資本主義の欠陥に関する本を書いたのは、あなたにとってのヒーローであるジョン・メイナード・ケインズさんだったと思っていたわ。特に、あなたが私に繰り返し読んで聞かせてくれた第12章はそうだと思っていたのだけれど。

PM良く覚えていたね、バンバン。ケインズさんは広く知られる通り、マクロ経済学の生みの親であると同時に、偉大な行動経済学者でもあった。アダム・スミスの見えざる手はミクロ経済学に他ならないといえるけれど、そのミクロ経済学の束縛を破った人こそ、ケインズさんなんだ。

ケインズさんは個人にとって有益なことが、必ずしも個人の集合体であるコミュニティにとっても有益とは限らないことを実証してみせた。これは誤謬、あるいは集計のパラドックスとしても知られているね。また、合理的であれ非合理的であれ、資本主義経済の原動力となる投資の主要な決定要因が「見込み」であることも実証し、それを「アニマル・スピリット」と呼んだんだ。

BBその「アニマル・スピリット」について、一言いいかしら?それはあの憎々しいコヨーテ達のことなの。コヨーテときたら、夜中に集団でゴルフ・コースを徘徊して、森に住んでいる私の同類達を捕まえては、あの恐ろしい叫び声をあげるでしょ。あの声で私は目を覚ますのよ。奴らをどうにかしれくれないかしら。

PM分かった、何とかしよう。君が外の小屋か、私の書斎で安全に過ごせるようにして、君を守ってあげるよ。ただし、動物を撃つのは違法だし、そもそも私は狩りが好きじゃないんだ。だいたい、私は今まで一度たりとも銃を所有したことがない。だが、良い点を指摘してくれたね。一部の動物には集団で行動する傾向があるけれど、資本主義経済でも人は同じように集団で行動する傾向がみられる。そして、その傾向があるからこそ、ミンスキー教授のいうFIHが成立するんだ。

BBつまり、資本主義者は怯えている誰かを寄ってたかって痛めつけて、快哉をあげるというのかしら。

PMいや、そういうわけじゃない。もっとも、債券トレーダーにそうした性質が見られることは確かだがね。ミンスキー教授の言うFIHの本質は安定が不安定をもたらすということにある。これは資本主義下では安定が続くと、人々はそれが永遠に続くような気になり、以前には見られなかったほど高いリスクの債務構造が作り上げられ、それが安定を脅かすことになるためだ。

BB何だか、あなたのお友達のピーター・バーンスタインさんがいつぞや書いた、ヘーゲルとかいう人の理論みたいね。その人は確か、テーゼとアンチテーゼの対立がジンテーゼにつながると主張したのよね。

PMそう考えることもできるね。ただし、ピーターは私よりもそういう言葉を使って、物語を作り上げることが上手だけれどね。ミンスキー教授のFIHのテーゼは無限、もしくは永遠の安定を見込むことであり、このテーゼに基づいて、資本主義下の人々の取得するレバレッジが上昇の一途を辿ることがアンチテーゼであり、それが最終的にミンスキー・モーメントと呼ばれるジンテーゼを生み出すということだね。

BBつまり、それが住宅市場に起きたということかしら?人々は住宅価格が永遠に上がり続けると見込み、それに基づいて、過大な債務の借入れを行なったということかしら。

PMまさにその通りだ。実際に、ミンスキー教授はミンスキー・モーメントに至る過程で3種類の債務があると言っている。そして、モーゲージ金融市場はミンスキー教授の予想した経路をほぼ正確に辿ってきた。私はこれを順ミンスキー過程と呼んでいるんだ。第一の形態はミンスキー教授がヘッジ単位と呼ぶ、きわめて安定的な債務だ。言っておくが、この形態の債務はヘッジファンドと何か関係があるわけではなく、債務単位の呼称に過ぎないからね。これは借り手のキャッシュフローで元利金の返済が十分に可能な債務を指しているんだ。

従来、モーゲージ分野のローンはこの形態だった。私の両親が借りたローンもそうだし、私がかつて借りていたローンもそうだった。返済期間は通常、30年に設定されていて、借り手は毎月、利息と元金の一部を支払い、最後の支払いが終わると、抵当権が抹消され、住宅は100%借り手のものになる。つまり債務の「ヘッジされている」形態だね。

BBでも、少々退屈じゃないかしら?

PMそうとも言えないよ。私が子供の頃には、近所や教会で「ノート・バーニング・パーティー」という集まりが開かれることがあった。これは人々が家族や友人を招いて、住宅ローンの完済を祝うためのパーティーで、その名前通り、ノート、つまりローン契約書をパンチボウルに入れ、それに火をつけてお祝いしたものさ。実際に、このノート・バーニング・パーティーを1日でも早く開くことができるよう、毎月決まった金額の2倍を返済していた家庭も少なくないんだ。決して退屈ではなく、それを楽しみにしていたんだね。

BBビル・クリントン風に言うと、何を楽しいと感じるか次第ということね。それで、順ミンスキー過程の中で次にリスクの高い債務の単位は何になるのかしら。

PMそれは投機単位と呼ばれている。住宅価格の安定的な上昇に対する人々の確信が高まり、先ほど君が言ったように、ヘッジ単位が退屈と考えられるようになると、こうした債務が現れる。ミンスキー教授は技術的な観点から、この投機単位を借り手のキャッシュフローで利息の支払いは可能であっても、元金の返済には不十分なローンと定義した。つまり、こうしたローンは償還時に借換えが必要になる。

モーゲージの世界では、こうしたローンを利息のみを支払うという意味でIOと呼び、ローンの償還時に当初の元本額が一括で返済されることになる。こうしたローンの借り手は借換え時に少なくとも3通りの投機をしていることになる。それは金利が上昇しないこと、ローンの条件、特に頭金に関する条件が厳格化されないこと、そして、おそらく最も重要な点として、住宅価格が下落しないことだ。

BBつまり、こうした借り手はノート・バーニング・パーティーを開くより、モーゲージ・ブローカーといつまでもお付き合いすることがお好きってわけね。

PMそういうことだ。ただ、ミンスキー教授が指摘するように、信用がヘッジ単位から投機単位に変化すると、恐れというものがなくなる。この過程が原資産に対するレバレッジを利用した需要を増大させ、それによって価格は押し上げられることになる。こう考えてごらん。人々はXドルの借り入れを行なっても、ほとんどの場合、頭の中では毎月Yドルの支払が必要なローンを借りると認識している。この毎月の支払い額をこのあたりでは月間経費と呼んでいるね。

これを住宅ローンにあてはめると、投機的借り手はヘッジ的借り手よりも多額の借り入れが可能となることを意味する。なぜなら、利息のみを支払い、元本を長期間、返済しない投機的借り手の場合、月間支払額がヘッジ的借り手よりも少なくなるからさ。

それゆえ投機的借り手は所得水準が同じでも、ヘッジ的借り手よりも高い価格の住宅を買うことができる。したがって、住宅ローンの限界的な借り手が投機的借り手になるに伴い、住宅価格が押し上げられ、一括返済が行なわれる前に、住宅の価値が下落するリスクは小さくなるんだ。

BBまさに錬金術ね。しかし、それが通用するのは投機的借り手が無限に存在して、価格が押し上げられ、この人たちが取った投機リスクが全体として正当化される場合に限られるわ。これはバブルだと思えるのだけれど。住宅の買い手は無限ではなく、人口構成によって決まるものでしょう確か、3月だったと思うけれど、あなたはこの住宅一次取得者をプランクトンと呼んだわ。このプランクトン集団がいなくなると、バブルは終わるってことかしら?

PM実際には、プランクトン理論1を考え出したのは私の上司であり同僚でもあるビル・グロースさんなんだ。もう20年以上も前のことだけれどね。もっとも、君の理屈は正しく、ミンスキー教授のテーゼ、すなわち、安定は最終的に不安定をもたらすという考え方とも合致する。この場合には、住宅価格の値上がりが一貫して続くという期待と、プランクトンの住宅取得能力の現実とが最終的に対峙することになる。しかし、この流れはそこで止まるわけじゃない。順ミンスキー過程には最後の一歩があるんだ。

BBそれは何かしら。プランクトンがいなくなれば、その過程が終わるのではないのかしら?

PMエコノミストとしても高く評価できるフォレスト・ガンプ流に言うと、愚か者は愚かなことをするから愚かなんだ。上品にいうと、人間の本質は変わらないということかな。人間とは本質的にバリュー投資家ではなく、モメンタム投資家だ。人は安く買って高く売るよりも、価格が値上がりしているものに飛びつく傾向がある。

BBしかし、それは変ね。特に、プランクトンの数と能力とに限界があって、それが認識されている場合には理屈に合わないじゃない。マトモな人間は家を買うときに、自分と同じ金銭状況にある人が支払い可能な額よりも高いお金を出そうなんて思わないでしょう?

PMいいかい、バンバン。ここでは理屈ではなく、人間の本質について話しているんだ。この2つはまったくの別物なんだ。アダム・スミスの見えざる手は人間の腕の先にぶら下がっているのが現実だし、人間はバリュー投資家ではなくて、モメンタム投資家だ。さらに、生まれながらに貪欲であり、自らの賢さを買いかぶって痛い目にあうものさ。これはババ抜きようなものだ。誰もが自分は他のプレイヤーよりも少しだけ賢く、最後にババを掴むことはないと考えている。

BBわかったわ、そういうことにしておきましょう。何しろ、あなたたち人間は時におかしなことをするものね。ウサギと経済を語るというのもその一つじゃないかしら。ところで、このゲームはポンジー・スキームと呼ぶのではなくて?

PMその通りだ、バンバン。そして、ミンスキー教授もそれを完全に理解していた。彼のいう順行過程の最後に出てくる債務単位はポンジー・ユニットと呼ばれる。これはキャッシュフローではローンの利息を支払うことができず、長期間に元本の返済が全くおぼつかない借り手と定義されている。

BB