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Global Central Bank Focus
マカリー / トルーイ | 2007年11月

適正外貨準備:依然として重視すべきか

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常に欲しいものが手に入るわけじゃない。けれど、努力すれば
必要なものは手に入れることができるだろう

-ミック・ジャガー(1969年)

 

中央銀行は常に望むものを手に入れられるわけではない。事実、経済理論からすると、中央銀行が望むものを手に入れようとすることには危険を伴う場合がある。中央銀行が一時的に失業を低下させるため、足元のインフレ率の上昇を容認して、短期的なフィリップス曲線のトレードオフを活用する誘惑に駆られる可能性があることを示した発展性のある研究結果がある。こうした中央銀行の行動は将来の高水準かつ自己充足的なインフレ期待を生み出すことになる11970年代終盤から1980年代初頭にかけて先進国を襲った高インフレは、この見方を明確に裏付ける証拠である。中央銀行は現在、「時間不整合」の罠を十分認識している。この「時間不整合」こそ、現代の中央銀行がインフレを常に支配下に置くことを重視している理由の1つである。

 

しかし、10年前にアジア諸国が学んだように、中央銀行に必要なものは低インフレだけではない。1997年中盤、危機に襲われたほとんどの国でインフレは低下していた2。しかし、固定為替相場制を採用していたこともあって、多くの国が経常赤字を計上しており、さらには対外短期債務が拡大していた。流入していた資本が急激に反転したことで、期間構成のミスマッチが深刻化し、固定為替相場制は崩壊した。そして、企業や金融セクターの債務の多くが外貨建てであったため、広範囲にわたって債務不履行が生じた。

 

アジア金融危機の教訓は何冊もの本にすることが可能であり、実際にアジア危機を検証した数々の書籍が刊行されている3この危機の教訓をリストにした場合、その上位には固定為替相場制の脆弱性と金融セクターに対する包括的な監督の必要性が来ることであろう。また、金融市場に混乱が発生した場合に流動性バッファーを提供できるよう、中央銀行が十分な外貨準備を保有することの重要性も上位に来るに違いない。アジア危機の本質は、流動性危機であったのか、それとも債務履行を巡る危機であったのかについて、長い間、議論が戦わされてきた。しかし、多くの学問的研究は潤沢な外貨準備を保有する国が金融危機の打撃を受けにくいことを示している4

 

本稿は以下の3点を目的としている。第1の目的は中央銀行が保有する外貨準備に関して、「適正外貨準備」という概念の進化を検証することである。第2の目的は今日の適正外貨準備という概念の妥当性に注目し、各種の適正外貨準備指標を用いて、現在のエマージング諸国がどのような状況下にあるのかを確認することにある。そして、第3の目的は現在のグローバルな経済金融システムにおいて、外貨準備を蓄積するコストとその制約について分析することにある。

 

適正外貨準備という概念の進化

適正外貨準備という概念を評価するための第一歩として、外貨準備を保有する理由を明確にする必要がある。外貨準備を保有する最大の理由は、それぞれの国の国際収支のファイナンスに予期せぬ障害が生じた場合に備え、事前に流動性の源泉を確保しておくことにある。利用可能な外貨準備があれば、為替レートや、国内消費、投資などの面で、大規模で深刻になりうる変化を引き起こすことなく、国際収支の不足分を一時的にファイナンスすることが可能になる。例を挙げると、外貨準備を保有していない国が、もし、主要輸出品の急激な価格下落に見舞われ、しかも緊急の資金調達が不可能だという場合、貿易収支を資本フローによってファイナンス可能な水準に維持しようとするため、為替レートが大幅に下落し、GDP成長率は低下することになろう5外貨準備を保有していれば、為替レートと実質GDP成長率に対する国際収支ショックの影響が軽減され、マクロ経済の変動を低下させることができる。そして、一般的にはこの変動性の低下によってもたらされるより優れた安定性が投資の拡大を促進し、長期的な成長見通しの改善につながる。

 

適正外貨準備とは本質的に、各種の国際収支ショックが発生した場合に、緩衝材として機能する外貨準備の規模であるといえる。このため、グローバルな経済・金融システムの進化に伴い、外貨準備の適正水準を規定する要因に関するエコノミストの見解は変化してきた。国際収支に対して起こり得るショックの本質が変化するに伴い、適正外貨準備の算定基準も変化している。

 

1次ブレトンウッズ体制期、そしてその後も長期にわたって、資本規制は広い範囲で存続し、国境を越えた資本移動は限られていた。それゆえ、ブレトンウッズ体制下では、国際収支に対するショックは主として貿易収支から生じ、適正外貨準備もこの観点から算定されていた。具体的にいうと、外貨準備はファイナンス可能な輸入の月数から算定され、最低基準を3ヵ月とすることが一般的であった。

 

1990年代になると、この適正外貨準備に関する概念の欠点が明確になった。1980年代に始まった資本規制の自由化により、国境を越えた資金フローは急増した。資本勘定フローの急激な反転は、ほとんどのエマージング諸国の国際収支に対する潜在的に最も重大なショックとなり、資本勘定に関連した変数を利用して定義された適正外貨準備の算定基準が確立されるに至った。

 

その中の代表的指標が、対外短期債務に対する外貨準備の比率である。ここでは「短期債務」を向こう12ヵ月間に返済期日が到来する債務と定義している(発行当初の償還期間とは無関係)。対外短期債務の100%相当を外貨準備の最低基準としたのがグリーンスパン・ギドッティ・ルールである。このルールは支持者が最も多く、経験的な裏付けのある適正外貨準備概念である6

 

他にも、国内市場からの資本逃避、すなわち、国内証券の売却と売却資金の外貨転換をファイナンスできる外貨準備の規模に注目した資本勘定基準がある。このアプローチでは、国際収支に対する圧力が対外短期債務から発生する予定された資金流出のみならず、国内資本市場における投資家ポジションの清算によっても生じる可能性があることが認識されている。

 

国内資本市場に関連した指標を2つ挙げると、広義のマネーに対する外貨準備高の比率と、外国人投資家による国内株式保有額に対する外貨準備高の比率がある。輸入月数や対外短期債務指標と異なり、この2つの指標はフロー指標というよりもストック指標である7。それぞれの指標が示す適正水準は、国内のマネー・ストック、もしくは外国人による株式保有の一部が清算され、外貨に転換された場合に生じる資金流出をファイナンスできる外貨準備の水準を反映しようとしたものである。広義のマネーの最低水準は通常520%とされ、変動為替相場制の場合、このレンジの下限が適正であり、固定為替相場制の場合には上限の数字が適正とされる。また、外国人による株式保有の適正値は30%とみなされることが一般的である。ただし、現実に危機が発生しても、この水準に匹敵する資金流出が生じたことはほとんどなく、危機により、各国通貨建てでみた株価下落が残存ストックの価値を低下させることになる。

 

この他にも取り上げるべき適正外貨準備に対するアプローチがある。その第1が「バリュー・アット・リスク」、もしくは関連する「保険ベース」フレームワークである8。このアプローチは本質的に、国際収支に対するショックを確率現象と捉え、外貨準備がそれに対する保険として機能すると考える。保有すべき保険の規模、すなわち外貨準備高は、保険の保有に伴う(減少する)限界利益と(増加する)限界コストが一致する水準になる。実際の計算は国際収支の変動に関する経験的データを利用し、危機と関連する帰結に「不効用」値を割り当て、外貨準備を保有するコストに関する指標を得る。このアプローチは理論的な厳正さに加え、中央銀行が外貨準備の目標水準を判断するにあたって直面する基礎的問題を明確にできるという点で魅力的である。欠点はその複雑さと、各種の帰結に対して「効用」値を割り当てる難しさ、そして過去のボラティリティに対する依存である。このアプローチは透明性が低く、そのため、このアプローチによって得られる結果に占める「ブラックボックス」的要素が強くなる。

 

もう1つのアプローチはマイケル・ドゥーリー、デビッド・フォルカーツ・ランドウ、ピーター・ガーバーの3氏が提唱した革新的かつ強い影響力を持つ第2次ブレトンウッズBW II体制の概念と関連するものである9BW IIの趣旨は、過小評価された為替レートを維持することを目的としたエマージング諸国による為替介入を、合理的かつ持続可能な発展戦略と位置づけることにある。いうまでもなく、この為替介入に伴って、エマージング諸国中央銀行が保有する外貨準備は増加する。BW IIの枠組みでは、この外貨準備が文字通り、外国人投資家に対する「担保」となって、外国人によるエマージング諸国に対する直接投資(FDI)が促され、そうした国の経済発展プロセスがさらに進むことになると考えられる。

 

しかし、この見解の後半部分にはいくつかの問題がある。第1に、現実問題として、民間への投資で問題が生じた場合は無論のこと、国家破綻の場合であっても、一般的には中央銀行が保有する外貨準備を差し押さえることができない。第2の問題として、外貨準備の蓄積傾向(たとえば、アジア諸国による巨額の米国資産購入)とFDIの傾向は必ずしも一致するわけではない(アジア向けFDIの大半は日本を含むアジア地域内から)。第3に、外国人投資家に対する不明瞭な保護を設けている国の場合、外貨準備を担保として利用することにある程度の妥当性はあるが、外国投資と所有権保護に長い歴史を持つ国の場合、説明が困難である10このようにBW IIは、中央銀行が特定の外貨準備目標を定める理論というよりは、なぜ中央銀行が為替レートの目標水準を設定するのかを解明する理論と位置づけることができる。この違いについては後ほど詳しく取り上げる。

 

こうした理由から、本稿ではこの後、これまでに紹介した適正外貨準備の算定基準を取り上げる。次のセクションでは外貨準備がエマージング諸国の現在の適正基準に照らして、どのような水準に達しているかを探る。


現在の適正外貨準備

近年、エマージング諸国の外貨準備が目を見張るペースで増加してきたことは衆知の事実である11。図表1は代表的な国々の状況を示したものである。2007年第1四半期時点で、エマージング諸国の合計外貨準備高は2.7兆ドルに達し、2001年末の7200億ドルと比較すると、ほぼ4倍増となっている。この増加分の約半分を中国が占めている。しかし、図表1が示すように、外貨準備高の増加は広範囲にわたる。

 

従来の適正外貨準備の算定基準からみると、現在のエマージング諸国はどのように評価できるであろうか。表12007年第1四半期のデータを利用して、各国の外貨準備状況を示したものである。この表からは、ほぼ全てのエマージング諸国の外貨準備が従来の適正基準で妥当とされる最低水準を大幅に上回っていることが分かる。事実、全ての指標の中で最低水準を下回ったのはトルコの対外短期債務に対する外貨準備高の比率(85%)と、南アフリカの外国人株式保有額に対する外貨準備高の比率(22%)だけであった。個別の国がそれぞれの適正基準の最低水準をどの程度、上回っているかについては、図表2adに示している。

 

また、全体として、アジア諸国の外貨準備カバー比率がアジア以外のエマージング諸国よりも大幅に高いことも明らかである。表1にはアジア諸国とそれ以外の諸国それぞれについて、カバー比率の中間値を示している。輸入月数では5.6ヵ月対3.9ヵ月、短期債務比率は340%対154%、外国人株式保有では172%対122%となっている。広義のマネーに対するカバー比率の中間値は双方とも30%であった。

 

 

 

    

  

 


     

  



         

  

出所:IMF国際資金統計、国際金融協会、Joint External Debt Hub, Haver Analytics, IMF国際収支統計、PIMCO。


個別の指標以外にも、上記の各種のリスクに対し、複合的視点からみた適正外貨準備状況を示す指標に注目することもできる。表2の左列は個々の国について、最も厳格な適正外貨準備最低基準に対する外貨準備の比率を示したものである。たとえば、韓国の場合、最も厳格な指標は対外短期債務である。短期債務に対する100%のカバー比率として算定した最低外貨準備所要額は1300億ドルになる。これに対し、輸入金額の3ヵ月分は970億ドル、外国人株式保有額の30