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Fed Focus
ポール・A・マカリー | 2005年8月
グリーンスパン議長の転換点
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ポール・マカリー氏曰く、議長最後の議会証言により資産価格を目標とした政策運営が明らかになる。キャサリン・ウェリング*

調子はいかが、ポール?
まあまあです。講演を依頼されたので、ミズーリ州中部のオザークまで1泊2日の日程で出かけ、昨夜10:30に帰ってきたばかりですがね。ここからオザークまで行くのは並大抵のことではありませんでした。まずは飛行機でダラスまで行き、ダラスで別の路線に乗り換え、飛行機を降りてから2時間もクルマを飛ばしてようやくたどり着くことができたのです。結局、水曜日の朝にここを出て、木曜日の晩に帰ってきたのですが、この2日間のほとんどを移動に費やした気がします。ただし、出張自体は有益でしたけれどね。


とても良いお客様から招待されたのですね。

ミズーリ州や市の年金基金がすべて参加する年に1度の会議があったのです。この会議に参加された基金の中には当社のお客様も複数いらっしゃいましたし、その中には大手のお客様もいらっしゃいました。私はこの会議の基調講演を依頼されたのです。要するに、「宜しく頼むよ」というわけです。それに、ミズーリ州のあのあたりに出かけるのは今回が初めてだったものですから。


ご自分の若かりし頃の南部訛りを思い出したのではないですか。
そうですね。25年か30年前に私が育った田舎のことを思い出しましたよ。

 
インタビュー

 ポール・マカリー氏はPIMCOのFedウォッチャーを務めながら、数十10億ドルの短期ファンドを運用しつつ、景気にもその鋭い視線を向けています。また、未明の時間にペットのウサギと会話し、その内容を文章にまとめることでも知られています。ここ最近、


マカリー氏は家族の一員として犬を迎えることを検討していることを明らかにしました。しかし、先週、このインタビューを行った際には(7月15日)、グリーンスパン議長最後のハンフリー・ホーキンス証言のことで頭が一杯だったようです。グリーンスパン証言はマカリー氏の予想と異なる部分もありましたが、FRBの政策目標の重大な転機を迎えるという彼の読みは見事的中したのでした。 
                   
- キャサリーン・M・ウェリング

*ウェリング女史は、Barron’s誌の元シニア・エディターで、調査サービス会社Weeden & Co.LPを設立し、その経営に携わっています。連絡先は、welling@ weedenです。

イラストはチャーリー・パウェル氏の許可を得て転載しました。

ということは、本当に小さな子供の頃というわけでもないということですか。さて、話を現代に戻しましょう。今回の出張中にも、予想されるグリースパン議長の退任について、あれこれと考えを巡らせたことと思います。それだけでなく、この件については新しいペットを探されている最中にも、随分とお考えになったのではないでしょうか。
7月号のFed Focusを発表して以来、読者の方から寄せられる反響には驚いています。毎月、Fed Focusを発表すると、読者からは多くのメールを頂戴します。私の意見に賛成だとして、褒めてくださる方もいますし、私の主張には納得がいかないとして、お叱りを頂戴する場合もあります。ただ、今月読者から頂戴したメールの大半は犬の性質やさまざまな犬種の長所や短所について書かれたものでした。数多くの読者が犬を飼おうとする私の判断に手を貸そうとして下さったわけです。実際のところ、以前から犬を飼うのはどうだろうかと考えることはありました。しかし、モルガン・ル・フェイ(表紙左上の絵で氏が抱いているウサギ)がいるので、実際には難しいだろうと思っていたのです。ところが、独立記念日に我が家にやってきた友人たちによって、その考えが変わりました。彼らは2頭の小型犬を連れてきたのですが、この2頭はモルガンととても仲良くしてくれたのです。

それは素晴らしい。我が家のラブラドール・レトリーバーとは随分と違いますね。
まあ確かにモルガンはフェンスで囲まれた運動場の中にいて、犬たちはフェンスの外にいたのですがね。


我が家のケイシーだったら、フェンスなど関係なかったことでしょう。
幸い、この2頭の犬たちはそうではありませんでした。それどころか、2頭のうちの1頭がフェンスに近づいてフェンスの網目越しに鼻を突っ込み、モルガンと鼻をこすり合わせるという、なんとも驚くべき瞬間を目にすることができたのです。これには考えさせられました。こうして私が考えたことが、Fed Focusの中核に入っていくための導入部になることはよくあることです。


前回のFed Focusでは、ペットに関する悩みがそうでした。あなたはそこから、グリーンスパン議長の言う長期金利の謎という「犬が猟をしない」理由を見事に説明してみせました。
そして来週(7月21日および22日)はさまざまな理由からグリースパン議長にとって重大な転換点になります。何よりも、議長にとって、半年毎に行われる定例の議会証言は来週が最後となります。

議長が本当に退任するとすればですが。
そう、議長は任期の満了に伴って退任し、レーム・ダック(任期切れを待つ)状態で現在の地位にとどまることはないというのが前提となります。ホワイトハウスは議長に対して現在の職に留まるよう要請することができますからね。ワシントンポスト紙がその可能性を報じたのは数ヵ月前のことでした。しかし直感からすると、私はそうはならないと思います。それにはいくつかの根拠があります。何よりも、私にはグリーンスパン議長自らがレーム・ダック状態になっても、その地位にとどまろうとするタイプの人間とは思えないのです。議長留任の可能性を期待する人々は、グリーンスパン議長が来年の5月、もしくは6月までその職にとどまると、マーチン元議長が持つFRB議長としての最長記録を更新することになることをその根拠の1つに挙げることが多いように思えます。しかし、議長がその職にとどまろうとする理由はこれくらいしか思いつかないのも事実です。

ホワイトハウスにはグリーンスパン議長の性格やこれまでの実績といった問題を離れ、レーム・ダック状態にない議長がFRBを率いるようにする義務があると思います。そして、新議長への移行プロセスを秩序だって進め、その一環として十分な準備期間を設けることも、同じくホワイトハウスへの義務だと思うのです。私が思い描く最高のシナリオはこの秋にグリーンスパン議長の後任選びが本格化し、議長の任期が切れる前に、正式に後任が決まるというものです。つまり、今回の議会証言は、グリーンスパン議長にとって最後のハンフリー・ホーキンス証言になるということです。


有終の美を飾る機会だとも言えますね。
通常の状況下ではそうなるでしょう。そのため、前後の状況が重要になるのです。


しかし、あなたは他のいくつかの点から、今回の証言は重要な転機になるとおっしゃいましたね。
今回の議会証言が有終の美を飾るだけでなく、重要な転機にもなると考えられるのは、この証言からグリーンスパン議長が景気と不動産市場の関係について、現在どう考えているのかを知ることができるはずだと思われるためです。


景気と不動産市場の関係ですか?その2つの間には相互作用があるのでしょうか。

理論的に言うと、この1年間、FRBが金融政策を引き締めてきた目的は次の2つにあります。第1の目的は金融政策を正常化させ、緩和から中立に戻すことにあり、第2の目的は循環的なインフレ圧力の兆候に対して先制攻撃を加えることにありました。確かに、最近の各種データを見ると、商品価格は下落し、それを受けてPPIの原材料価格や中間財価格も下落に転じ、さらにPMI物価指数が50に低下するなど、インフレ圧力の芽が取り除かれたことは明らかです。また、きわめて底堅いドルにしても同じです。つまりインフレを示す従来からの指数に注目した場合、「一体どこに問題があるのだ」という反応が出るのは無理もないことです。現在、インフレは全く問題ではないのです。FRBは、6ヵ月前にはインフレ圧力が芽吹き始めていたものの、こうした芽はすべて摘み取ったと言い切ることができます。そのため、FRBは今後も利上げを続けるためのインフレという大義名分がなくなってしまいました。しかも、FRBはこれまでに短期金利を1%引き上げ、3.25%にしていますが、これは短期金利としてはかなり大幅な上げ幅だと言えます。したがって、以前に懸念されたインフレ圧力という問題はすでに解消されているわけです。

 

なんとまあ、見事な説明ですね。
ありがとう。FRBは名目短期金利と実質短期金利の双方を大幅に引き上げてきました。そして、さらに重要なことはイールドカーブが大幅にフラットニングしてきたことです。つまり、こうした点を考え合わせると、論理的に、今後利上げは必要ないという結論が得られるはずです。実際のところ、グリーンスパン議長が来週の議会証言でそう発言することは究めて道理に適ったことだと思います。難しい点としては、ここ数ヵ月、議長が全体をさまざまな角度から分析しながらも、不動産市場の「フロス(泡)」について言い続けてきていることです。察するに、議長は「バブル」という言葉を口にすることができないのだと思います。


彼の辞書には無い言葉なのですね。
議長にとって、この言葉を口にすること自体が難しいのでしょう。例えるなら、バプティスト派の信徒にとって大声でビールを注文することが難しいのと一緒です。その言葉を口に出すのがためらわれるのですね。しかし、議長はこの問題について、かねてから発言しています。議長はこの現象が全国的なバブルではないと主張しています。しかし、彼は一方で、2月以降、例の「謎」について発言してきました。そこで、従来重要とされた指標がすべて、これ以上の引き締めが必要ないことを示しているにもいかかわらず、議長が「そうした指標よりも自らの判断を優先し、引き締めを継続する」ことを明確にするかどうかが重要なポイントになります。議長がそう発言した場合[実際に、そう発言しました]、市場はこれをFRBが政策運営に資産価格のターゲティング、すなわち長期債価格と不動産価格の目標設定をしたことを示すものだと捉えることでしょう。[水曜日の議会証言の後にマカリー氏に尋ねたところ、「自分で蒔いた種は自分で刈り取らなくてはならない」という簡単なコメントを頂きました]。

だからこそ、今回の議会証言は大変な注目を集めるでしょうし、重要な転換点になると考えられるのです。基本的に、今回の証言では議長がインフレ圧力を示す従来の景気循環指標(すべての指標が問題ないことを示しています)を目安とした政策運営から、事実上、もしくは明示的に(この場合、転換点の重要性がさらに高まります)この2つの資産価格を目安、すなわち目標とした政策運営に宗旨替えをしたかどうかが明らかになるはずです。これは今回のハンフリー・ホーキンス証言における重要なポイントです。

ついでに申し上げると、私たち国民の代表である議員は長期債価格についてあまり質問せず、長期金利について質問します。しかし、長期金利と長期債価格は表裏一体の関係にあるという事実からすると、議員の質問に唖然とさせられることも少なくありません。不可解なほど高い長期債価格を語らずして、不可解なほど低い長期金利を語ることはできません。つまり、グリーンスパン議長が「長期金利をさらに上昇させるために利上げを行うつもりだ」と言ったとすれば、それは実質的には「長期債価格をさらに下落させるために、利上げするつもりだ」と言うに等しいわけです。これが資産価格を目標とした政策運営です。


その通りですね。しかし、あなたも良くご存知のように、ポピュリズムの観点からすると、政治家にとっては債券市場に関わる一部の人を代表して懸念を表明するよりも、長期金利の上昇について語る方がはるかに心地よいのではないでしょうか。
確かにそうですね。さらに言うと、議長に対する議員からの質問は常に金融政策以外に関することです。

 

滑稽なことですね。
FRBの新議長率いる新体制が最終的に立ち上がった際には、議員からFRB議長の本来の職務に関する質問が出るようになってほしいと願わざるを得ません。それにしても、これは面白い現象ですね。私が業績評価を受ける際に問題になるのは、私が本来の職務をどのようにこなしているかですから。


まったく不可解な話です。

その通りですね。たとえば、業績評価の場において、サケの半身を焼く時間は2分が適正か、3分が適正かといった質問を受けることはありません(我が家では頻繁にバーベキューをやるので、本当はサケの焼き方にも一言あるのです。ただ、ビル・グロースには私がサケをうまく焼けるかどうかは、興味がないのです)。しかし、グリーンスパン議長の議会証言では、議長の本来の職務に関する質問が出ることは滅多にありません。その代わりに、財政政策を始め、議長の本来の職務とは関係のない質問を議長に投げかけています。重要なことは、議会が議長に対して何を尋ねようと、議長が資産価格を政策目標にするのであれば、議長はその事実をはっきりと認める方法を考えるか、明確に認めることはせず、言い訳や大義名分を見つけ出す必要があるということです。これが最も重要なポイントです。株式バブル当時について思い起すと、議長は「私にはカモが見えない」と言いながらも、実際にはそのカモがやっていけなくなるまで、利上げを続けました。


つまり、「大グリーンスパン」は彼自身が認めていたよりも多くのことが見えていたというわけですか。
当時、議長は従来の各種循環指標を理由に、引き締めを正当化することができました。特に、議長は資産効果が供給よりも需要を刺激し、それにより失業率を低下させる働きをしていると語っていました。当時は失業率が4%台前半だったことを覚えているでしょう。


そうでしたね。そして議長はそれを口実に引き締めを実行しました。

株式市場を間接的に狙い撃ちにするために、議長は「雇用可能な労働者のプールの利用が過度に進んでいる」と発言したのです。これは議長が株式市場も必要以上に低い失業率も政策運営の目安にはしていないと発言した際、彼が作り出した言い回しです。議長は利用可能な労働者のプールの縮小を懸念していました。この言い回しは私のお気に入りでした。


確かに気の利いた言い方でした。それに、議会の内外に対して説得力のある言い方でしたね。
その通りです。この言い回しは「雇用者数が多過ぎる」という、FRB議長としてはきわめて言いにくい内容を、巧みに表現したものです。


たとえ、妥協だとしてもね。しかし、この言い回しはたとえワシントンであっても、晦渋な言葉を用いれば政治的に発言しにくい真実を口にしなくても済むという、政治家にとっては都合の良い証拠となっています。
これはまた随分と大胆な発言ですね。今度、土曜日の午後にバーベキューをする時には、是非裏口に向かって、「利用可能な成人用飲料の量が縮小しているようなのだけれど」と言ってみてください。おそらく、「ビールが足りないのかい?」という簡単な返事が来ることでしょう。


それよりも、きっと「さっさと買いに行って来い」と言われることでしょうね。しかし、今あなたがおっしゃったことは非常に重要なことですし、直感的に理解できるものです。グリーンスパン議長は経済の不透明性を上手く利用しているのですね。
どうなのでしょうか。私ならば雇用に関して、理屈抜きで「ビールが足りなくなっているんだ」と言うことでしょう。ただし、現在の状況は当時と異なっており、失業率は当時よりも1%高くなっています。そしてより重要な点として、前年比で見た年間賃金変動率はまるで死人の心電図を測定したかのように、全く動いていません。


完全な横ばいだということですね。

そして、そうした状況が短い間に変化することはないでしょう。一方で、現在GDPに占める企業収益の割合は過去30年で最高の水準にあるという事実があります。つまり、資本は生産性上昇がもたらす分け前を過剰に得ていることになります。これは間違いありません。これまで生産性は大幅に上昇しました。一方、賃金が短い期間に変動することはなく、GDPに占める企業収益の割合は過去30年で最高の水準にあります。


つまり労働者は搾取されているということですか。
そう言うこともできるでしょう。ただし、それは価値判断の問題です。私としては、自らを節度あるポピュリストと称している以上、価値判断については慎重になっています。しかし、現実問題として、労働市場がきわめて逼迫しているため、FRBは雇用の創出に歯止めをかけるべきだと主張することは難しいですね。


確かに、現在の労働市場を逼迫していると評することには無理があります。今回の景気回復では雇用の創出に出遅れが目立つというのが本当のところです。
とはいえ、過剰に多い新規雇用は金融政策を引き締めるための従来からの大義名分です。どこかの誰かが職を確保し、さらには昇給まであるかもしれないというのは、許されないというわけです。


そうなってしまうとインフレ圧力が生み出されるためですね。

その通りです。しかし、GDPに占める企業収益の割合が数10年ぶりの高い水準にあり、さらに生産性に対するこうしたプラスの構造的ショックの恩恵について議論されている状況では、インフレ圧力が台頭する可能性を論証することはきわめて困難です。論証できる人がいるとすれば、それはグリーンスパン議長以外に考えられません。なぜならば、議長の場合には、それが可能なほど「賢い」からです。この点について、私は議長に心から敬意を表します。これは議長に対する批判ではなく、賛辞です。あるいは、一市民としては批判しながらも、同じアナリストとしては賞賛していると言ってもよいでしょう。コールドダック(スパークリング・バーガンディとシャンパンを混ぜて作った飲み物)をドンペリニオンだと信じ込ませることができる人は、どうあっても賢いのです。


それとも、騙される方が悪いのかもしれません。
さてどちらでしょうか。もしくは、両方が悪いのかもしれません。しかし、真面目に言うと、生産性の伸びの成果を労働者が手にしていかという疑問はきわめて適切な公共政策上の問題です。そして、正当なマクロ経済上の問題でもあります。公共政策の観点からすると、私たちはこれまで、長期的な生活水準の上昇を決定づけるのは生産性の向上にあると言いつづけてきました。

確かにそうですね。潮が満ちれば、すべての船が持ち上げられるという理屈ですね。
その通りです。以前からグリーンスパン議長が繰り返し言っているように、このところの生産性の伸びはきわめて強いものでした。しかし、こうした生産性向上の恩恵は実質賃金の上昇にまで及ぶことはありませんでした。そのため、公共政策上、「それは何故なのだろうか」という疑問が生じます。


それで答えは?
その答えは、現在の労働市場が事実上、グローバル化されていることにあります。言い換えると、米国の労働需要の限界的価格を設定するのは米国の労働者ではないということです。


品質向上や享楽的生活の追求といった実体のないもののおかげで、米国の労働者が手にするドルの価値は以前よりもはるかに上昇したのだから、米国の労働者の生活水準は向上したという、こじつけのような議論を耳にしたことがあります。
そう、それはコールドダックの栓を抜き、その代わりにコルクを詰め込んで、良質のシャンパンだと言い張るようなものです。言い張ろうとすることは可能です。しかし、労働者と資本の間のGDP分配は公共政策上の問題であり、民主主義社会において哲学的に重要なものです。そして、より現実的な視点から、GDPの分配が労働者から企業にシフトすることはマクロ経済面においてきわめて重要になります。なぜならば、現在、企業セクターは現金の支出に対してひどく慎重になっているためです。これは総需要不足の問題を生じさせるものです。要するに、消費性向の低いセクターに対するGDPの分配を増やしているのですから、それによって経済が自律的に拡大することを期待することはさらに難しくなるわけです。これはケインズの言う倹約のパラドックスにも通じるところがあります。


おっしゃるとおりですね。そう考えると、非常に気の重い話ではあります。
あくまでも例ですが、極端な例を1つ挙げると、GDPの100%がマイクロソフトの利益に化けたとすると、総需要に関する問題が生じます。これはマイクロソフトがそれだけの資金の支出先を見つけることができないためです。この点について、マイクロソフトの実際の行動はきわめて合理的であり、特別配当などを実施しています。しかし、こうした特別な支出は必ずしも消費性向の高い人々に支払われるわけではありません。


すると、ブッシュ減税の方が良いというわけですか。

その通りですね。もう1度先ほどの例に戻りましょう。ビル・ゲイツ氏はマイクロソフトから特別配当を受け取ると、それを彼の財団に寄付しています。私はゲイツ氏のそうした行動に拍手を送り、高く評価しています。しかし、そうやって支出された資金が総需要に変わっていく流れという観点からみると、やはり漏れがあるのです。


おっしゃる通りです。
経済の中の所得の分配を上流にシフトさせるほど、総需要の流れにおいては漏れが大きくなります。このGDPの分配に関する問題、言い換えると、労働者が生産性の向上に見合った成果の分配を受けられるかという問題は、公共政策上の問題であると同時に、マクロ経済上の問題であり、私は是非この点について、グリーンスパン議長の意見を聞きたいと思っています。率直に言って、議長はきわめて賢明な方ですし、これが重要な問題であることを理解されていると思いますので、この点について意見を表面したとしても不思議ではありません。たしかに、私たちエコノミストは経済における本質的に持続不可能な物事について語ることが少なくありません。しかし、この問題、すなわち労働者が生産性向上の成果を受け取ることができないのだとしたら、どうやって長期にわたり総需要を効果的に維持することができるのだろうかという問題はきわめて重要です。特に、こうした状況から現実にはきわめて偏った所得の分配が生じているため、この問題は重要なのです。


そして長期的に偏りはひどくなる一方です。
この点からすると、おそらく本人はそう思っていなかったでしょうが、究極のケインジアンと呼べるヘンリー・フォードの言葉が思い出されます。「自動車を作っている人間が、自ら作る製品を購入できるだけの所得を得られないとすれば、我が社の事業は大変な問題を抱えることになる」。


その通りです。大量生産は大衆がその製品を買うことができければ意味をなしません。
ヘンリー・フォードが実施した1日あたり5ドルの賃金は、史上最大のケインジアン的発明だといえます。この基になったの、きわめて単純な知恵です。それは「自動車を作っている人間が自動車を買うことができず、富裕層の数には限りがあるとすれば、私はどのように会社を成長させられるだろうか」という問いに対する回答です。


これぞ賢明なる利己心ですね。
そうです。ヘンリー・フォードは労働者が賃上げに値すると考えたから、賃金を5ドルに設定したわけではなく、そうしなければ、自動車が売れないと考えたからです。確かに、彼が正確にどのように考えたのか、そのプロセスを知ることはできませんが、彼の思考の本質はここにあります。そして、現在の経済全体を見るにあたり、この考えは今でも有効です。突き詰めていくと、労働者は自らの労働の成果を購入可能でなければなりません。ここ数年の間に実際に起きたように、労働者が所得を失い、失われた所得がその代わりに停滞している部分に流れるのだとすると(現在はこれまで数十年にわたってみられなかったほど、企業が多くの資金を保有しています)、資本主義経済が持つダイナミックな還流特性は強い制約を受けることになります。できることなら、グリーンスパン議長にこの点について語ってほしいものです。あるいは皮肉を込めて言うと、義務的経費の増加や減税は義務的経費の削減や増税で補うことを規定したペイ・アズ・ユー・ゴー原則を再び導入する必要性を、議長は証言時間の大半を使って議会に語りかけることも可能です。


人民元の適切なバリュエーションについて意見を表明する前に、ですね。
その問題は大変な注目を浴びていますので、当然持ち上がるでしょうが、議長はきわめて難しい状況にあります。めったにないことですが、この点については議長に同情を禁じえません。有能なエコノミストであれば誰もが理解しているように、議長も米中貿易の形態を変えてしまうような大幅な人民元切り上げはないことを理解しています。


もちろん、そんなことはないでしょうし、あったとしたら大変な切り上げ幅になってしまうことでしょう。
適切な言い方かどうかわかりませんが、無意味なほど大きくなるでしょうね。それは、何よりも米国と中国との賃金格差がきわめて大きいためです。世界では労働力のグローバリゼーションが進行しており、以前には世界経済における労働力とされなかった何億人もの人々が世界の労働力に加わっています。私たちはこうした人々の労働によって生まれる製品を輸入することにより、こうした労働者を私たちの経済に取り込みつつあると言えるでしょう。

米国はこうした労働力と競争することはできません。これがこの取引の真実です。米国がおかしな方向に進み、国民に対して中国製品の購入を認めず、この国の生活水準を低下させるのだと言わない限り、中国に対する経常赤字と貿易赤字は現在の水準近くにとどまるでしょうし、場合によっては拡大するでしょう。グリーンスパン議長はその点を見事に表現しましたし、繰り返し申し上げれば、私は議長がこの問題について、ありのままの真実を語って欲しいと願っています。

議長はまた、中国との関係に何らかの影響を与えるようとしても、それは限界的なものにならざるを得ないと言っています。つまりアウトソース先を労働力が割安な別の場所、たとえば、中国の隣のベトナムに移転させることです。理論的に言うと、多少の移動は可能かもしれません。しかし、それは限界的な部分に過ぎず、安価な労働力を得る国を変更しているだけだということを強調したいと思います。つまり、世界の労働力が米国の労働力よりも安いという事実は変えようがありません。これは動かしようのない真実です。しかし、結局はシューマー上院議員が提出した、第2次スムート・ホーリー保護貿易主義法としか呼びようのない法案の成立を阻止できるかどうかが重要になっています。


何とまあ。
私にとって皮肉に思えるのは、グリーンスパン議長とスノー財務長官が数週間前にまさにそう言っていたことです。シューマー議員が法案を手に待ち構えているという事実により、ブッシュ政権、そしてグリーンスパン議長も間接的に、中国に対して「何かすべき」との要求を続けざるを得なくなっています。経済にとって、シューマー法案が大変な悪法であることは誰の目にも明らかであるとしても、この法案の影響力はなくなりません。


政治的な影響に関しては、かなり限定的でしょう。しかし、懸念すべきは経済に影響を与える可能性ですね。
その通りです。この点からは、ニクソン元大統領が当時の「現実路線」について語った言葉が思い出されます。ニクソン氏は「世界の外国政策に関して言うと、こちらの頭がおかしいかもしれないと敵方に思わせることは有効だ」と言っています。


少なくとも部分的には、彼自身もおかしかったというのは、なんとも皮肉な話ですが。
重要な点は、これこそがあのシューマー法案を使って、米国が事実上行っていることだということです。つまり、世界に対して米国は自分の銃で自分の足を撃ち抜くほどおかしくなっているかもしれず、そうしようとした場合には、誤って世界の足を撃ち抜いてしまうかもしれないと、世界に知らせしめているのです。そうすることにより、米国は「申し訳ありませんが、おかしなことにならないうちに、お宅の通貨を少し切り上げていただけませんか」と要求することができるのです。これが現在の駆け引きの姿です。そのため、この問題が表面に浮かび上がってくることは間違いありません。しかし、私はグリーンスパン議長がこの問題全体について何も目新しいことを言わないことを望んでいます。なぜなら、通貨に関する声明は世界の金融外交に関する声明であること明らかであり、それは財務省の専管事項だからです。


ワシントンではいつからその2つを区別するようになったのでしょう。
確かに、グリーンスパン議長は以前、この件に関して真実を語ったことがあります。馬鹿なことをしない限り、それは意味のない音に過ぎず、実際に馬鹿なことをしでかした場合にのみ、重大な問題になると言いました。彼は自らの立場をきめて明確にしました。しかし、この点が今後どうなるのかは興味深いところです。かなり良質な取材源からの情報を基に、現在マスコミでは9月に予定されている胡錦濤国家主席の訪米を前に、アメリカがおかしくなってしまうことを予防する簡単な薬を中国が与えるのではないかという観測記事が踊っています。[中国は木曜日に、まさにそうした行動に出て、通貨バスケットに対して人民元を切り上げました]。


そうお考えですか?国家主席にとって、中国で服従の印と解釈されかねない行動を取る理由はありません。
彼は困難な状況にあります。中国は発展途上国ですが、以前ほど貧しくありません。中国は主権国家であり、他国はその事実に対して敬意を払うべきだと考えていることでしょう。また、中国が7000億ドルの外貨準備を保有しているという事実に対しても、他国は敬意を払うべきだと考えている可能性もあります。つまり中国は扱いづらい頑迷な国というだけではありません。地政学的に言うと、中国は主権国家として他国から尊敬される権利がありますし、他国にそれを求めることができます。また、中国が現在進めている開発計画と、それが中国自身と世界の双方とって互いに利益になっているという事実に対して、中国は尊敬されてしかるべきです。

中国は事実上、世界の資本主義に対する供給サイドからのプラスのショックとなっています。私にはこれが素晴らしいことに思えます。実際のところ、真顔でそれを否定することは、誰にとっても容易ではありません。中国は社会主義経済から資本主義経済への移行段階にあります。そしてこの移行を推進するためには、自国の各種資源を世界的な市場で受け入れられる分野に移動させる必要があります。しかし、中国には市場によって方向づけされた資源を有した経験も歴史もありません。それゆえ、中国が資本主義経済国家として成熟するためには、資本主義社会から学ぶ必要があります。それこそが、今まさに中国が実践していることです。巨大な外貨準備を積み上げることは、世界の資本主義を学ぶために中国が支払っている授業料のようなものなのです。そして、中国は実際に素晴らしい学習効果を上げています。

中国の輸出産業に配置された労働者は世界が希望する価格で製品を生産していることは明らかです。それが資本主義というものです。この裏側では、外貨準備の蓄積とそれによる顧客への売り手金融の提供というプロセスにおいて、中国は富を蓄積し、それが事実上、外国からの直接投資を引き付ける担保となっています。しかし、中国はそのきわめて高い貯蓄率を仲介することが巧みではなく、現実にはかなり稚拙だと言えます。中国はこれまでも常に貯蓄率がきわめて高い国でした。従来、中国は国有銀行システムを通して、そうした貯蓄をきわめて非効率的に利用してきました。こうした状況を踏まえると、現在中国が行っていることは多くの点で、貯蓄仲介機能のアウトソースと言うことができます。一方では、貯蓄の多くを利用して輸出産業の顧客に対して売り手金融を提供しています。中国の輸出産業は資本主義社会で戦わなくてはならないため、顧客に対する売り手金融を提供することは大いに意味のあることです。

他方で、中国は売り手金融を提供するにあたり、巨額の外貨準備を積み上げ、それが実質的に世界の資本家による中国への直接投資を後押ししています。そして、そうした資本家は利益を追求しているため、その行動を律しているのは世界の市場価格になります。つまり、中国はこうした2つの面で世界の資本主義価格決定メカニズムとつながっているのです。中国は素晴らしいシステムを採用していると言えましょう。


あなたが中国の煽りを食った米国や欧州の失業者ではないからそう言えるのかもしれません。
確かに、このシステムには、世界的な賃金低下圧力を生み出すなど、外部性があります。しかし、一方では世界の購買力を上昇させるという側面もあります。中国の戦略は中国自身にとって大いに意味があるのです。最終的に、問題は中国の戦略が付加価値の低い職業において、必然的に米国の労働者の価格を決定することになるという事実に帰結します。したがって、米国の労働者はそうした競争の源からの保護を求めるでしょう。「市場で競争できない場合、ワシントンで競争せよ」というわけです。


それはこの国の悪い伝統の1つですね。
仕方のないことではあります。ただし、マクロエコノミストとして言わせてもらえれば、随分と無茶な言い分だとは思います。政治アナリストとして言えば、政界が保護貿易主義者の要求に敏感に反応する理由は理解できます。ただし、理性的に考えれば、ワシントンの住人を含め、多くの人がそうした要求は矛盾していると結論づけるだろうと考えています。問題となるのは、こうした政治プロセスにおいて、保護主義のメリットは単一争点を重視する有権者に発生するのに対し、保護主義のコストはさまざまな経路を通して、消費者全体に拡散することです。たとえば、消費者が支払う砂糖の価格が世界の水準よりも高かったとしましょう。しかし、それを理由に、単一争点の有権者に転換する消費者がいるでしょうか。確かに消費者としては面白くないかもしれません。しかし、消費者が気づかない間に、保護主義が原因で世界的な水準よりも高い価格を支払わされている製品は他にも数多く存在するはずです。保護主義のコストとは拡散されたコストであり、それを許容できる大衆は単一争点を重視する有権者に転換することはありません。しかし、政治的な文脈からすると、保護主義はそれによって守られる人々がその事実を理解しており、それにより単一争点を重視する有権者になるという点で、きわめて魅力的なものになります。


政治家というのは支持者を一人でも多く増やしたいものですからね。
私は政治家が保護主義を支持するような発言をしたとしても、それはその政治家が精神的に破綻していることを意味するわけではないと、周りの同僚たちに言っているのですよ。いや、精神的に破綻しているかもしれません。ただ、そうした発言をしたからといって、それが精神的に破綻している証拠となるわけではないということです。そうした発言はその政治家が再選を目指す理性的な人間であることを示しているに過ぎません。それだけのことです。理性的な政治家であれば、単一の争点を重視する投資家を可能な限り多く味方につけたいと思うものです。


つまり、物事を深く考えない人をひきつけるためには深い考えは必要ないということですね。
これはまた手厳しい。私が言いたいのは、政治家とは理性的に行動する人種だということです。精神的に破綻していようがいまいが、それは変わりません。まったく別の問題なのです。そこで、政治家が理性的に行動しているという事実を取り上げて、その政治家に道徳心が欠如している証拠だと決め付けることはできないということです。それゆえ、私は保護主義をひどく恐れているのです。私がワシントンの政治家であり、2年毎、もしくは6年毎の再選を目指す理性的人間だったとすると、同じことをするでしょう。車輪から金属音が聞こえてれば、油を差すでしょう。それは金属音が単一争点を重視する有権者からの叫びだからです。この問題について、私が強く懸念しているのはその勢いです。今後数週間、もしくは数ヵ月に以内に、この勢いが沈静化してほしいものです。そうなれば、今後数年間、根本的な変化は発生しなくなります。敵側に頭がおかしな奴だと思われることは良い戦術かもしれませんが、頭がおかしいことを証明する材料を与えようとは思わないでしょう。


さて、グリーンスパン議長に対しては、他に不動産バブルに関する質問が出ると予想されます。
グリーングパン議長にとって最後となる議会証言における最大のテーマは「議長、あなたは不動産価格を政策運営の目標にしようとしているのですか」となると、想像しています。[マカリー氏が見通していた通り、議長は利上げを継続すると発言し、この問いに対して明確な回答を与えました]。その次に、「議長、中国についてはどうでしょうか」となり、その後に、財政政策に関して数多くの質疑応答があるでしょう。2月の議会証言では大統領が提案した社会保障制度改革案に質問が集中しましたが、グリーンスパン議長はその問題にかなり踏み込み、大統領を支持しました。もちろん、当座の間、個人勘定のために社会保障税の一部を流用する大統領の計画は現実化することはないように思われますが。

 

そういう言い方もできますね。
私はブッシュ案が直ぐに成立しないことに抗議しているのではありません。そう抗議している人がいるでしょうか。私は制度の健全性を維持することと、現在私たちが手にしている中で最も重要な公共の安全網を民営化することの間には、違いがあることを米国民がすばやく理解したのだと考えています。また米国民は制度の健全性を維持するための答えとなる所得連動制を間接的に受け入れ、所得連動制の1つの形として、累進インデックス方式を容認すると考えています。これぞ、社会全体に広がる確定給付年金制度の健全性を維持する方法です。反対に、社会保障税の一部を流用して、個人勘定に回すという考えは、制度の健全性とは全く関係がないものです。そうなると年金制度の根本的な特性が変化することになりますが、米国民はそれに対して「ノー」と言ったのです。私にはその理由が理解できます。米国民は社会保障制度に備わる保険としての特性を好んでいるのです。「保険」とはすでの社会保障全体を表現する言葉となっており、人々はそれが年金だけとどまらないことを理解しています。つまり社会保障制度とは保険制度なのです。大半の米国民が抱えている最大の心配事は生きている間に資金が底をつくことです。


その通りですね。
アナリストの観点からすると、社会保障制度は国民全体の心配事をプールして、それを国民自身に拡散することにより、国民一人一人が生きている間に年金給付がなくなる懸念を解消することが可能にしています。これは全体として社会にとってプラスにはたらくものであり、生きている間に資金が底をつくリスクを社会全体で引き受けるものです。そして私は米国民が直感的にそれを理解しているのだと思います。また、米国民の大半は資金運用が自らの本来の仕事ではないことを直感的に認識していると思います。もちろん、この2つを分けて考えることはできないかもしれません。しかし、私がこの仕事に関わってきた長い経験からすると、多くの米国民は金融に精通しているとは言えません。あなたもご自分の経験からそう思われることでしょう。一方、米国民は基本的に、社会保障の民営化は生きている間に資金が尽きるリスクをプールする保険のメリットを奪い去ってしまうものであることを理解しています。そして、社会保障の民営化は結局、社会全体にとっての重荷となることを理解しています。それは国民一人一人が「生きている間に資金が尽きてしまうリスクをこれからは自分自身で引き受けなくてはならない」と判断するためです。


そうなると貯蓄率は上昇し、個人消費は減少します。
論理的に考えると、そうした帰結が予想されます。民営化が社会全体にとって大変な重荷となる理由は、私たちが現在、そうしたリスクをプールしていることにあります。これは米国の個別銀行が破綻するリスクを、連邦預金保険公社(FDIC)を通してプールしているのと同じことです。FDICによる預金保険を廃止すれば、社会全体にとって重荷となります。それは本来の仕事に使うべき時間を費やして、銀行の経営陣が適切な経営をしているかどうか、確認することが必要になるためです。


直感的に言うと、その答えは「ノー」ですね。
その代わりに、社会全体の観点からすれば、FDICの保険は望み得るフリーランチに最も近いものであると、国民全員が納得していると私は考えています。確かに預金保険にはモラル・ハザードの問題がありますし、それは広く知られるところです。しかし、モラル・ハザードは市民社会の潤滑油であり、社会全体のリスクを一箇所にプールしようする場合、モラル・ハザードの発生は避けられません。


わくわくしますね。是非、フォックス・ニュースやその他の番組で「モラル・ハザードは社会全体の潤滑油」だと言ってみてください。その後の大論戦をじっくりと楽しませていただきます。
しかし、本当のことなのです。社会としてリスクをプールし、それに保険をかけるのであれば、私たち国民は(私たちの政府を通した)保険提供者として、モラル・ハザードに対抗する枠組を規制面から作り上げる義務があります。それがモラル・ハザードに対処する方法です。たとえば、FRBが銀行を監督する大義名分はそこにあります。「お宅の銀行は大きすぎて潰せないのですから、あなたの行動に関して、あれこれ言わせてもらう権利があるのです」といった具合です。きわめて明快な論理ではありませんか。


そして直近の例でいくと、シティコープに対して、社内の整備が終わるまで買収を控えるようにとの指導があった理由もそこにあるわけですね。
それは個別の問題ですが、全般的に言えば、社会的リスクをプールすることによりモラル・ハザードが生まれるのであり、それに対処するためには規制面のツールが必要になります。社会保障に関して言うと、生きている間に資金が尽きるリスクをプールすることにより、さまざまなモラル・ハザードが生じます。そして、そのうち最大のものは富裕層に二重のメリットが生ずることです。この理屈は単純です。生きている間に資金が尽きることのない人々と定義される富裕層にとっても保険による保護が適用されます。この点からも所得連動制を導入する理由はあると思われます。


それでも、あなたは議長が数多くの難しい質問に答えることにはならないと予想しているのですね。
はい、私は今回の議会証言が友好的な雰囲気になる可能性が高いと予想しています。覚えていますね、議会は議長を崇拝しており、今回の証言は議会にとって偶像を崇拝する最後の機会になるのです。


つまり、議長にとって厳しいものにはならないというわけですね。
その通りです。しかし、ポートフォリオ・マネージャーとしてのきわめて現実的な観点からは、議会での質疑応答において議長に対して次のような質問が出ることを願わざるを得ません。「あなたは今後どのように運営されるつもりでしょう。これまでにあなたは金利を大幅に引き上げ、その結果、わずかなインフレ懸念が解消されたことを示す明らかな証拠を手にしています。議長、この2つの事実を踏まえ、あなたはいつ政策が緩和的であるとの評価を撤回し、利上げを打ち止めにするのでしょうか。これまでに連続9回の利上げが行われてきました。それは正しい利上げだったとしましょう。しかし、今後についてはどうでしょうか。現在手にしている材料を考慮しても、あなたは利上げを続けるおつもりですか」。簡単なことではありませんか。


議長に異論がある場合はそうでもありませんが。
私は議長がこうした事実について、そのどちらにも反論することはできないと思います。議長は短期金利を大幅に引き上げ、循環的なインフレ圧力の芽を摘んできたのですから。


それには今でも疑問があるのではないでしょうか。直近のFOMC議事録を始め、どこを探しても、グリーンスパン議長がインフレへの警戒を解く準備を完了したことを示す兆しはありません。
「道徳心が改善するまで、お仕置きは続く」ということです。


確かに。
そうなると、問題は例の「謎」に関する問題に帰結します。グリーンスパン議長への質問は「議長、債券市場はFRBの政策がすでに緩和的とは呼べないことを示しています。議長はご自分の政策を緩和的と称することを、いつお止めになるのでしょうか。ドルもまた、FRBの政策がすでに緩和的とは呼べないことを示しています。そして商品価格もFRBの政策がすでに緩和的ではないことを示しています。議長、あなたはいつそれを示すのでしょうか。つまり、あなたは市場が誤っていると言うのを、いつやめるのでしょうか」。


あなたは直近のFed Focusにおいて、議長の言う「謎」を巧みに解明してみせました。結局、議長はほぼ一貫して市場に追随してきたのであって、市場を先導してきたわけではないということですね。
もし議長が「金融緩和はほぼ完全に解消された」と発言すれば、それは喜ばしい限りです。議長は1994年の利上げ局面の中のある地点でこうした発言をしています。しかし、その時点で利上げが完了したことという意味ではありません(議長は緩和が解消されたとの発言に続いて、引き締めが必要だと宣言しています)。しかし、現時点で、市場が知りたいのは「議長、あなたは緩和政策の撤回を完了したのですか」ということです。その後で、これとは別の議論として、引き締めに向かう根拠があるかどうかを討論すればよいのです。例えて言うと、ビールを引っ込めることと、その代わりにひまし油を出すことは全く別だということです。その間には中立という領域があります。そこではビールも、ひまし油も出てこない領域だと言えます。


しかし、何が中立なのか、誰もわからないのではないでしょうか。
その通りです。ここで言えることは冷えたビールだと思ったものがひまし油だったとしたら、それはきわめて不愉快な経験になるということです。そこで、グリーンスパン議長最後の議会証言で明らかになる現実的な問題は、彼が勝利を宣言するかどうかです。現在、発表されている材料は議長に勝利宣言するだけの余裕があることを示しています。商品価格は下落し、賃金の伸びは低くとどまり、PPIの原材料および中間財価格は下落し、直近のPPIやCPI統計はほぼ例外なく低水準で落ち着きを示しています。そしてドルは強く、イールドカーブはフラットニングしています。つまり、議長が望みさえすれば、議長はこう言えるだけの沢山の材料があるということです。「1年前、デフレ・リスクを封じ込めるために実施した緊急的金融緩和を取り除くと申し上げた。事実、我々はデフレ・リスクを取り除くことに成功した。そして、デフレ・リスク対処するために必要であった緊急的金融緩和を撤回した。このため私は、デフレ・リスクに適切に対処し、そしてデフレに対処するために用いたツールを撤回することができたと自画自賛できる。私は奇跡を成し遂げたのだ」とね。議長にはこう宣言するだけの余裕があります。ただし、重要な問題は、議長は不動産市場を注視しているのでしょうか。私にはわかりません。


注視しているとすれば、勝利宣言はありませんね。
私は議長が勝利を宣言すべきだと思います。しかし、私の考える議長のあるべき行動は、彼がどう行動するのかを予測する私の職務とは全く関係がありません。つまり、こうした状況でこそ、私は機敏に反応しなくてはならないのでしょう。


とりあえず様子見ですね。ただし、ここ南カルフォルニアでは不動産市場が高騰していますが。
オレンジ郡の不動産市場は明らかにバブルです。しかし、私はFFレートというマクロ的ツールを使ってミクロの問題に対処すべきではないと考えます。この考えはあなたもご存知の、6年前の私自身の考えと良く似ています。当時、私はNASDAQ100のうち10銘柄の株が全体の動きを決めている状態に対処する最適な方法は委託証拠金を引き上げることだと主張しました。そうすることによって、FRBがバブルを感知していることを示すことができたのです。同じように、頭金なしのローンや所得水準の審査がないローンなど、この種のあらゆる住宅ローンが不動産市場のバブルを支えています。私にはこうしたローンが良いものだと思えないのです。FRBにとって貸手に対してこうしたローンを停止せよと命ずることは容易いはずです。


これは意外ですね。グリーンスパン議長が住宅金融の技術革新を賞賛したのは、それほど昔のことではなかったはずですが。
たとえそうであったとしても、投機的要素に流動性を提供しているのが住宅金融業界の創造性であることは間違いありません。そしてそれに対処する必要がある場合、ミクロ的ツールを使うべきであり、ミクロ的問題に対処する際の適切な方法とはそうしたものです。そして、議長が繰り返し言っていたように、不動産バブルがあるとすれば、それはミクロの問題です。つまり各地に固有の問題であり、投資用の住宅購入に関する問題です。バブルは投資用マンションにあります。議長は、これが全国的なバブルではないと強調しています。しかし、全国的なバブルでないとすると、それに対処するために全国的なツールを使う必要があるでしょうか。不動産バブルが各地固有の問題であり、場所や住宅の種類によって異なる様相を示しているのであれば、外科的ツールを用いるべきです。希望とは湧きあがってくるものです。


つまり、あなたは議長が今後も市場叩きを続けることを懸念しているのですね。
実際、今回においては、株式市場のバブルの時とは異なり、私は限界的な部分で、議長がミクロ的ツールを使うことを積極的に検討する可能性について、ある程度楽観視しています。


それはなぜでしょうか。
それは今回の場合、議長はFRBのとった対応が銀行システムの健全性と安全性に関連していると真顔で言うことができるためです。事実、当局は銀行に対して融資基準を厳格化せよとの指導をすでに発しています。つまり、借手が生存していることを示す不確かな材料だけに基づいて融資を実行するというのは、あまりに行き過ぎであると、銀行に対して言っているのです。実際、市場では現在、新たなローンが登場しました。それは「うそつきローン」とも呼ばれるものです。これは借手の所得を証明する書類を一切必要としないローンです。


今や、それが融資の実態ですね。
いずれにしても、こうしたローンの大半はプールされ、世界の資本市場で売却されるため、融資を実行した銀行にリスクが集中することはありません。しかし、いかなる場合であっても、グリーンスパン議長にとっては1999年当時に株式の委託証拠金引き上げを正当化するよりも、銀行制度に対するリスクがあることを理由に不動産投機を抑え込むためのミクロ的ツールを使うことの方が容易であることは間違いありません(これは銀行に対して融資基準に注意するよう命じた警告が示す通りです)。株式の委託証拠金引き上げを実行すれば、議長は株式市場の投機的要素を攻撃していることを認めたことになります。議長はそうした実績を残したくなかったのです。議長は株式市場の下落局面を作り出した元凶として、人々に記憶されることを嫌がり、自らに汚点をつけることなく調整が起きることを希望したのです。それゆえ、実現する可能性は必ずしも高くないでしょうが、グリーンスパン議長にとって、ミクロ的ツールの利用を検討することは6年前よりも簡単なのだと言えます。


しかしながら、718日に共和党によって公開された合同経済委員会委員長(ニュージャージー州選出、共和党ジム・サクストン下院議員)に宛てたグリーンスパン議長からの手紙はFRBがミクロ的ツールの採用を検討することを頑なに拒んできることが示されています2
そうですね、その手紙の中でグリーンスパン議長はNASDAQバブルの際に株式の委託証拠金を引き上げることを支持した人々を再度手厳しく批判しています(だからこそ、私は彼が議長職にある間、ジャクソン・ホールに一度も招待されたことがないのでしょう)。これは私個人にとっては重大事ですが、それよりもさらに重要な問題は、議長が現在の状況において、不動産市場の「フロス」に対処するために規制上のツールを利用することに後ろ向きであることを、この手紙が示していることです。

これに対して、私が返すことのできる唯一の言葉は議長自身が1996年9月24日に発した言葉です。「委託証拠金を引き上げることにより重大な懸念が拡大する可能性がある。バブルが何であれ、それ排除したいのであれば、委託証拠金の引き上げが機能することは間違いない。しかし、私はそれが他にどういった影響を及ぼすのか、確信が持てないことを懸念しているのだ。」


そして、公式の場で不動産価格が高すぎると発言することは、株式市場が不当に高い水準まで上昇したことを認めるよりも、さらに反アメリカ的であるように思いますが。
その通りです。不動産市場にフロスがあると発言することで、議長は一般的な米国民が保有するポートフォリオの中の最大の資産を事実上、狙い撃ちにしていることになります。現在、およそ70%の米国民が住宅を保有しています。つまり、不動産市場を攻撃することによる議長への怨嗟の声は株式市場のバブルを攻撃した場合に聞かれたであろう声よりも大きくなる可能性があるということです。これは 政治的に微妙な問題です。そのため、議長にとって米国民が自らの居住用として保有する住宅を攻撃対象から外すことが選択肢の1つとして考えられます。議長はこう言うことができるはずです。「確かに私はフロスや投機を目にしている。しかし、それは責任ある市民が家族と暮らす住宅においてではない。フロスや投機があるのは投資用住宅市場であり、投資用マンションの市場である」と。

これは実際に正しいのです。投機が発生しているのはそうした部分です。そして、投資用住宅市場やマンション市場で投機が発生している理由は、こうした取引には移動が必要とされないことにあります。グリーンスパン議長が何度も言っている通り、居住用住宅市場で投機が発生することは簡単ではありません。誰もが住む家を必要とするからです。しかし、投資用住宅やマンションの場合、購入して6ヵ月後に買い換えることも可能です。そこで、議長は住宅のみを対象としたミクロ的ツールを使う可能性があります。これは私にとって重要な問題です。議長が住宅だけを対象としたミクロ的ツールを使うのか、それとも植木の鉢に水をやるのに、消防車を出動させるのか、議長の証言が終わるまで、それを知ることはできません。


こうした点から、ポートフォリオ・マネージャーとしてはどうするつもりですか。
債券マネージャーにとって、もしくは株式マネージャーにしても同じでしょうが、簡単な選択肢が数多くあるわけではありません。FRBがいつ利上げを止めるのか、もしくは、何を理由に利上げを止めるのか、わからないためです。私にしてみると、利上げを停止する理由の方が、利上げを停止する正確な水準よりも一層重要に思えます。私はPIMCOの若い社員たちによく言って聞かせるのですが、数字を捕まえるだけでは不十分なのです。その数字の裏にある流れや背景を捕まえることが必要なのです。長期的にみると、市場は数字自体よりも、流れや文脈を重視するためです(短期的には、流れや事実関係に関係なく数字自体を重視しますが)。しかし、長期の、将来を見据えた市場が気にしているのは、現在の流れがインフレ圧力を示す従来の景気循環指標に反応しているのか、それとも、債券市場の「謎」や不動産市場の投機を打破しようとしているのかという点です。この2つは全く異なる流れです。どちらになるのかについて明確な答が得られるまでは、債券ポートフォリオは中立で、しかも警戒気味にすべきと思われます。ただし、これはベアになることを意味しているわけではありません。そして、FRBが不動産市場を注視している限り、FRBの利上げが過剰になるリスクがあり、そうなった場合にはさまざまな分野で巻き添え被害が出ます。つまり、消防車を出動させて鉢植えに水をやろうとすれば、その付近一帯が巻き添えで水浸しになってしまい、モップで水を吸わなくてはならなくなるということです。


そして、植木も買い換えないといけなくなります。
その通りです。多くの場合、巻き添え損害の後片付けが行われている間は、ひねくれ者の債券市場にとってひと時心温まる時間になります。そこで、FRBによる舵取りの誤りがひどくなるほど、一方で債券市場の面白さは増すであろうという単純な理屈からして、あまりに慎重なポートフォリオにすることもうまくないと言えるでしょう。


ありがとう、ポール。

キャサリーン・M・ウェリング
2005年7月22日
http://welling@weedenco.com
許可を得てwelling@weedenから転載

1 Fed Focus 7月号『自宅にウサギを、仕事場には犬を』
2 http://www. house.gov/jec/hearings/testimony/109/ag06-09-05questions.pdf

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