1. LDIとは何でしょうか?
多くの機関投資家には、将来支払わなければならない債務があります。年金基金が支払う退職給付や、保険会社が支払うことになる障害給付金などがそうです。このような将来の支払義務に備え、年金基金、保険会社その他の金融機関は、各種資産に投資し、その資産のリターンから将来の債務を支払おうとします。債務に対してリターンが十分ではない場合には、不足分を補填するために資本を拠出しなければなりません。
金融機関が債務に対応する方法として、負債のキャッシュフローと一致するキャッシュフローを創出する資産(通常は債券)のポートフォリオを構築するという方法があります。たとえば、年金基金は、毎年100ドルのクーポンが支払われる債券に投資することにより、年間100ドルの負債に対応することができます。
しかしこのキャッシュフロー・マッチングは、ほとんどの金融機関で利用されていませんでした。このアプローチを取ると、通常は、超過リターンを獲得できる可能性がなくなってしまうからです。この方法に代えて、金融機関の多くは、自社の資産にリターン目標を設定し、株式、債券その他の資産クラスを混合したポートフォリオを構築することでそのリターン目標を達成するか、それを超えることを目指しています。この資産対応アプローチでは、ポートフォリオが、市場のベンチマークや類似ポートフォリオに対してどれくらい優れたパフォーマンスをあげたかが成功の目安となります。
本来、金融機関の負債とは何の関係もない市場ベンチマークや類似のポートフォリオをアウトパフォームすることは資産の目的ではありません。LDIは、資産配分の焦点を、負債に対応するという、資産の真の目的へ戻すことを可能にします。したがって、LDIアプローチの特徴は、負債と直接関係のないベンチマークに対してではなく、その金融機関の負債に対してポートフォリオのパフォーマンスが評価されることです。
負債に対してポートフォリオを評価することで、キャッシュフロー・マッチングと資産対応アプローチの利点の一部を保ちながら、それらに付随する主な欠点にも対処できる可能性があります。第一に、厳格なキャッシュフロー・マッチングとは異なり、LDIには、ポートフォリオをアクティブ運用し、債務への対応以上のリターンを得ることができる可能性があります。これは、資産対応アプローチの重要な利点です。第二に、資産対応アプローチとは異なり、負債対応戦略ポートフォリオのリスクとリターンは負債に対して直接評価されます。
したがって、負債対応アプローチは、債務に対してポートフォリオから十分なリターンが得られなくなるというリスクに対して、より優れた管理を行うことができます。これはキャッシュフロー・マッチングの主要な利点であり、資産対応アプローチの主要な欠点です。
2. LDIに共通する特性
LDIは柔軟性の高い戦略なので、ポートフォリオは、金融機関における、要求される超過リターンとリスク許容度とによって様々な形態をとることができます。しかし、負債対応ポートフォリオを設定する第一のステップは、負債の特性を理解することです。
それぞれの金融機関の負債はさまざまですが、すべての負債には1つの実質的に共通する特性があります。それは、金利が低下すると負債が増大し、金利が上昇すると負債が減少するということです。したがって、金利の低下は、金融機関が自社の負債に関連して直面する最大のリスクといえるかもしれません。このリスクをヘッジするために、負債対応アプローチを実行している多くの金融機関は、債券を利用します。債券は通常、金利が低下すると価格が上昇するため、負債対応ポートフォリオでは最も一般的な構成要素となる傾向があります。
二番目の共通点は、ほとんどの負債が長期だということです。負債は長期になるほど、金利の変化に対して敏感になります。たとえば、金利が低下すると、支払期限が30年の負債は、支払期限10年の負債よりも、大きく増大します。同様に、長期債も、金利の変化に対してより敏感です。したがって、LDIのもう一つの共通の要素は、ポートフォリオに保有される債券は長期債になる傾向があるということです。
一般的に長期債が利用されることを別とすると、負債対応ポートフォリオは、金融機関によって非常に多様な形態をとることができます。たとえば、インフレに敏感な負債を保有している金融機関は、インフレ・リスクをヘッジするために、インフレ連動型債券を採用することができます。また、負債に対応させてポートフォリオのボラティリティ許容度を高くすることも可能です。そのため、負債対応ポートフォリオにオルタナティブ資産や、レバレッジ、絶対リターン戦略などを採用することもできます。
3. LDIへのシフトの原因は何でしょうか?
金融機関をLDIに向かわせている要因はいくつかあります。それらの中で最も大きな理由はおそらく、従来型の資産対応戦略を採用していたために、多くの年金制度や他の金融機関が負債に対して赤字になったという事実だと考えられます。
下記の図表は、金利の低下と株式のリターンが小幅なプラスまたはマイナスになったことを原因として2001年と2002年に世界的に発生した、年金の退職給付債務(PBO)資金の減少を示しています。Towers Perrinのデータによると、ユーロ圏のPBO資金調達比率は、2001年初めの120%超から2006年第3四半期には約84%となっています。米国と英国では2001年から2002年にかけて、資金余剰から不足への同様のシフトが起こりました。
年金の資金調達比率は、金利の上昇と株式市場のリターンの改善のおかげでここ数年幾分改善しています。しかし、多くの年金基金は2001年から2002年にかけて被った損失からまだ完全に回復していません。この経験は、LDIに向かう重要なきっかけとなりました。

米国と欧州の年金の赤字は、規制当局に資金調達要件と年金会計基準の厳格化を促す重要な要因となりました。オランダは、nieuw Financieel Toetsingskader (nFTK)の採用によってこの変化を主導してきました。これは、年金と保険の規制当局が年金制度と生命保険会社に対して支払い能力その他に関する厳格なテストを課す新しいガイドラインです。
このテストでは、負債と資産の金利感応性(「デュレーション」で測定されます)のミスマッチと、ポートフォリオ資産のボラティリティを特定することができます。さらに、取引所に上場されている欧州企業が従う国際財務報告基準(IFRS)には、企業年金制度の会計に関する新たな要件が導入されました。その結果、オランダの年金制度は急速にLDI戦略に向かって動くことになったのです。その後、欧州全域の企業もその方向に向かって動いています。
また、年金の赤字によって多くの企業が年金制度に利益を拠出するよう要求されました。そのため、企業の経営陣、投資家、そして格付機関は、特に大型の年金制度を持つ企業に対しては、リスク源としての負債により大きな注意を払っています。LDIによって負債に付随するリスクを減少させることができる可能性があるため、負債対応アプローチを実施するには至らないまでも検討する企業が増加しています。
4,結論
LDIは、金融機関の投資におけるパラダイム・シフトです。金融機関は長い間、投資戦略の成功を、ポートフォリオの目指すべき目的とは直接関係ないマーケット・ベンチマークに対して評価してきました。現在、規制当局、投資家、格付機関、企業経営陣に促されて、ますます多くの機関投資家が、負債に対してポートフォリオのパフォーマンスを評価するLDI戦略を実行することで、負債に付随するリスクを軽減しようとしています。