前回のボンド・ベーシックス「PIMCOのリスク管理(1)~金利リスクの管理」では、PIMCOが債券ポートフォリオにおける金利リスクをどのように管理しているか、をご紹介しました。金利リスク以外のリスク要因としては、まず、国債以外の債券セクターをポートフォリオに組み入れている場合は、それら非国債セクターポジションと国債対比の利回り格差の動きが挙げられます。また、外国債券を含むポートフォリオの場合は、金利のみならず外国為替変動に対するリスク管理も必要となります。今回のボンド・ベーシックスでは、債券ポートフォリオにおける金利リスク以外のリスク管理について説明します。
非国債セクター債券保有によるリスクの考え方
例えば、社債に投資をする場合、ポートフォリオは「金利リスク」(金利変動によるポートフォリオ価値変動リスク)に加えて、社債保有による「信用リスク」(社債の元利返済に対する信用度合いが変化することによりポートフォリオ価値が変動するリスク)を負います。つまり、社債は一つの債券で金利リスクと信用リスクの二つの要素を有するため、ポートフォリオの管理においても二つの側面から管理する必要があります。
まず、金利リスク部分については、社債についても国債と同様、それぞれの債券にはデュレーションがあるため、デュレーションで計測、管理ができます。PIMCOでは、ポートフォリオのデュレーションを各セクター毎に分解し、どの債券セクターからどのくらいの金利リスクをとっているかを把握することができるモデルを自社開発しています。
図表1はその例で、時価加重ベース(DWE: Duration Weighted Exposure)で、デュレーション年限による区切りを横軸、それに対して国債、社債、といった債券セクター毎の構成要素を縦軸に示しています。ここで、例えば、ポートフォリオ全体のデュレーション5.3年のうち、投資適格社債から1.3年分、更に、デュレーションのレンジ毎に、例えば、3年~5年のレンジにおいては、ポートフォリオ全体で1.1年のDWE、うち、投資適格社債からは0.2年のDWEをとっていることがわかります。

もちろん、上記のようなマトリックスのブロックをさらに掘り下げて、最終的には個別の債券のデュレーションを確認することもできますし、マトリックスの縦軸、横軸のセクター種別の区切りやデュレーション年限区切りを変更するなど、運用する債券ポートフォリオの特徴に合わせて設定することも可能です。
また、図表2のように、ポートフォリオのデュレーション・ポジションをまず地域別に区切り、更にそのうち米国(米ドル建金利)部分をクローズアップして、米国の中でどのセクターからどのくらいの金利ポジションをDWEベースでとっているのか、という管理も行っています。
次に、社債保有により発生する信用リスクについては、通常、その社債の利回りと国債の利回りの差(スプレッド)に反映されていると考えられます。元利払いについてデフォルト・リスクが高いと考えられる社債には、そのリスクに見合ったプレミアム(代償)を債券投資家は要求するため、利回りが高くなります。

社債と国債の利回り格差が縮小するとき、社債の価格は国債以上に上昇した(ないし国債ほど下落しなかった)ことを示し、社債は国債に対して相対的にアウトパフォームしたといえます。一方、社債と国債の利回り格差が拡大するとき、社債の価格は国債以上に下落した(ないし国債ほど上昇しなかった)ことを示し、社債は国債に対して相対的にアンダーパフォームしたことになります。


PIMCOでは、この社債スプレッドの変化によりポートフォリオの価値がどの程度変化するか、という指標である「社債スプレッド・デュレーション」を算出し、リスク管理に用いています。
社債スプレッド・デュレーションについてまとめると、以下のようになります。

従って、アクティブ運用において、運用者が社債スプレッド縮小を予想する場合、ベンチマークに対して社債をオーバーウェイト(対ベンチマークでプラスの社債スプレッド・デュレーションのポジション)し、逆に社債スプレッド拡大を予想する場合、ベンチマークに対して社債をアンダーウェイトします。
上記のようなスプレッド・デュレーションによるリスク管理は、社債以外にも国債利回りに上乗せされた利回りで取引されるセクター(スプレッド・セクター)について用いられています。例として、モーゲージ・スプレッド・デュレーション、スワップ・スプレッド・デュレーション等があり、社債スプレッドと同様、モーゲージ債と国債のスプレッド、スワップ金利と国債金利のスプレッドの動きによって、それらを保有するポートフォリオの価値がどのように変化するかを示す指標です。
なお、PIMCOでは、社債の信用リスク評価にあたっては、格付け会社の格付けのみに依存せず、社内クレジット・アナリストによるリサーチを徹底させているほか、その他モーゲージ債、資産担保証券(ABS)、インフレ連動債、エマージング債、地方債など各債券セクターにスペシャリストを配し、それぞれに特化したリサーチおよびリスク分析モデルを開発しています。また、社債保有にあたっては、各銘柄について流動性の観点からPIMCO全体での保有額管理を行っているほか、スワップなどのデリバティブ・ツールの利用にあたっては、カウンターパーティー・リスクの管理を行っています。
通貨リスク
ポートフォリオにおいて外国債券に投資を行う場合に発生するリスクは二つに分けることができます。一つはその債券の「金利リスク」、もう一つは「通貨リスク」です。例えば、日本の投資家が米国国債に投資する場合、米国債金利が変動するリスクと、通貨としての米ドルの価値が対日本円でどのように変化するか、という二つの要因があり、これら二つのリスクを分別して管理する必要があります。
まず、金利リスクについては、ボンド・ベーシックス「PIMCOのリスク管理(1)~金利リスクの管理」でご紹介したとおり、各地域別の金利ポジションについてデュレーション(およびDWE)によって管理します。
一方、通貨リスクについては時価ベースで管理を行います。為替変動によるポートフォリオ価値の変化は、各外国通貨に対する時価ベースでのエクスポージャーと、その通貨の為替レートの変化率を掛け合わせることで計測できます。
従って、日本の投資家が、円資金を全て米ドルに変換して米国債に投資する場合、そのポートフォリオは100%米ドル建てとなりますから、投資家が抱える通貨としての米ドルのポジションは100%です。もし米ドルが日本円に対して1%上昇すれば、(金利など他の条件に全く変化がない場合)日本円ベースの評価で、そのポートフォリオの価値は1%上昇します。
次に、外国債券ベンチマークに対するアクティブな通貨戦略ポジションを考えてみましょう。図表5では、例として、ベンチマークを構成する通貨が米ドル50%、ユーロ50%となっています。もしポートフォリオの運用者が、米ドルはユーロに対して5%上昇すると予測した場合、ドルの通貨ポジションをベンチマークよりも多く、例えば米ドルを55%、ユーロを45%、といったポジションを構築することが可能です。ここでは、ポートフォリオはベンチマークよりも米ドルを5%オーバーウェイト、ユーロを5%アンダーウェイトしています。

もし、市場が運用者の予想通りに動き、米ドルがユーロに対して5%上昇すれば、ポートフォリオがベンチマークよりも米ドルを5%オーバーウェイトしていた戦略はプラスです。
この通貨戦略によるポートフォリオのベンチマークに対する超過収益は、5%×5%=0.25%(25bps)となります。
以上のように、外国債券に投資するポートフォリオのリスク管理において、金利変動によるリスク要因と為替レート変動によるリスク要因は異なるものであり、これらを分別して管理することは非常に重要です。
まとめ
PIMCOがポートフォリオにおけるリスク要因をどのように分析・管理しているかについて、前編では金利リスク、本編においてはセクター・リスク(スプレッド・リスク)、通貨リスクといった債券ポートフォリオ・リスク指標をご紹介しました。
なお、推定トラッキング・エラーについては、PIMCOにおいても計測モデルを自社で構築しておりますが、推定トラッキング・エラーの数値にリスク管理を依拠するというよりはむしろ、これまでご紹介したような複数のリスク指標をベースにした上で、推定トラッキング・エラーを補完的な指標として利用しています。また、PIMCOの推定トラッキング・エラー計測モデルにおいては、まさに、デュレーション、カーブ・デュレーション、スプレッド・デュレーション、通貨ポジションといった主要なリスク・ファクターに分解し、各ファクターからどの程度のリスクをとっているか、すなわちポートフォリオ全体のトラッキング・エラーに対する各リスク要因の寄与度を確認できるようにしています。
今回ご紹介したリスク指標はPIMCOのポートフォリオ管理における代表的なものですが、これ以外にも、PIMCOでは様々な種類の投資対象に適した管理モデルを数多く自社開発しております。また、市場の発達や市場構造変化に対しても機動的にリスクモデルの開発・改良の対応を行い、“ブラック・ホール“すなわち、運用者が意図しないリスクを回避することに努めております。リスク管理モデルの開発は、計量分析を専門とするファイナンシャル・エンジニア・チームが担当しており、実際に運用を行うポートフォリオ・マネージャーが把握したいと考えるリスクをより的確に管理するためのモデルを構築し、ポートフォリオ・マネージャーをサポートしています。新しいタイプの債券発行や投資のツール開発等、債券市場自体が変化を遂げるなか、常にお客様のポートフォリオにおけるリスク要因をより適切に管理するためのインフラ整備は、PIMCOにおける最も重要な取組みの一つです。
本編は、PIMCO LLC “Risk Measurement at PIMCO”をもとに編集したものです。
1 但し、価格変化はキャピタル・ゲインないしロスを示すものであり、債券のトータル・リターンはこれに利回りによるインカム・ゲインを加えたものとなります。従って、仮に社債と国債のスプレッドが拡大し、社債のキャピタル・ロスが国債よりも大きい(ないしキャピタル・ゲインが国債よりも小さい)としても、社債の利回りによって得られるインカム・ゲインがそれ以上に高い場合、トータル・リターンは社債のほうが国債よりも高くなることがあります。