エマージング・マーケットとは
エマージング・マーケットとはいわゆる発展途上国・経済地域を指し、主にアフリカ、東欧、ラテンアメリカ、ロシア、中東および日本以外のアジア諸国が含まれます。発展途上国の定義は必ずしも画一的なものではありませんが、例えば世界銀行では、一人当たりGNI(国民総所得)の水準を元に高~低所得国の各分類を発表しています。1 エマージング・マーケット債とはこうした発展途上国の政府およびその他公営・民間企業が発行した債券です。発行通貨は外貨(米ドル、ユーロ、円等)建て、自国通貨建てともにあります。海外投資家の投資対象としては外貨建て債務が主流でしたが、ここ数年では自国通貨建て債務への投資も注目が高まっています。
エマージング・マーケット債券の主要ベンチマーク・インデックス
エマージング・マーケット債券の主なベンチマークにJPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス (Emerging Market Bond Index:EMBI)のシリーズがあります。以下の表はJP モルガンが算出しているEMBIプラス、EMBIグローバル、EMBIグローバル・ディバーシファイドの3つのインデックスをそれぞれ比較したものです。主な相違点は、EMBIプラスは国債のみを組入れ対象とし、EMBIグローバルは準国債(公営企業等)も対象としています。また、EMBIグローバル・ディバーシファイドは、EMBIグローバルの組入れ対象国について、一ヶ国あたりの組入れ比率を実質的に制限する仕組みを取り入れ、より分散効果を狙ったものとなっています。
(図1)EMBIプラス、EMBIグローバル、EMBIグローバル・ディバーシファイドの比較
自国通貨建ての代表的なインデックスにはJPモルガン・エマージング・ローカル・マーケッツ・インデックス・プラス(Emerging Local Markets Index Plus:ELMI+)およびJPモルガン・ガバメント・ボンド・インデックス-エマージング・マーケッツ(Government Bond Index – Emerging Markets:GBI-EM)のシリーズがあります。ELMI+は主に為替フォワード、預金、T-Billといった自国通貨建て短期金融資産で構成されています。デュレーションは非常に短いため、金利リスクはほとんどありません。リターンは主にエマージング通貨の変動によります。一方、GBI-EMシリーズは自国通貨建て債券から構成されているため、残存期間およびデュレーションは長く、通貨リスクのみならず金利リスク(デュレーションリスク)をとるインデックスです。
エマージング諸国ファンダメンタルズの改善
エマージング諸国の経済ファンダメンタルズは過去数年に大幅に改善しました。1994年のメキシコ危機、1997年のアジア通貨危機とその後のロシア、ラテンアメリカへの危機伝播、など、エマージング諸国は過去、マクロ経済ファンダメンタルズにおける不均衡(経常収支赤字、財政収支赤字)や外資依存の高い債務管理の脆弱性、また政情不安などの要素も加わり、数回に渡り危機的な状況を経験しました。しかしながら、ここ数年のエマージング諸国ファンダメンタルズは大幅な改善をみせています。危機後の財政規律の高まりと好調な輸出がもたらした経常収支の改善により外貨準備が大幅に増加しています。また、こうしたファンダメンタルズの改善を反映して、エマージング諸国の格上げが相次ぎ、エマージング諸国の格付けのうちもはや40%以上が投資適格(BBB格以上)となっています。
(図4)外貨準備高の推移

出所:JPMorgan, Bloomberg
注:ウクライナのデータは2005年末
(図5)格上げ格下げ比率

出所:Moody’s, JPMorgan, PIMCO
(図6)エマージング・マーケット債券格付け分布
JPモルガンEMBIグローバル・インデックス格付け分布(時価総額ベース)

出所:JPMorgan
エマージング・マーケット債券投資の魅力
エマージング・マーケット債券は、先進国の高格付け債券より相対的に高い利回りが魅力となっているほか、経済ファンダメンタルズの改善による価格上昇効果も狙うことが可能です。更に、エマージング・マーケット全体が危機的状況に陥るリスクは80年~90年代よりも低下してきているといえるでしょう。前述のとおり、経済・財政政策運営の健全性が高まったことによるファンダメンタルズの改善および潤沢な外貨準備等、外的ショックに対するクッションが以前よりも厚くなってきていることから、例えば、一部の地域における混乱がエマージング市場全体に伝播するリスクは従来に比べ低下しているとみられます。また、エマージング・マーケット債券と先進国債券、株式等の資産クラスと相関が低いことも、投資の分散効果を高める上で有効な資産クラスとなるでしょう。もっとも、エマージング諸国のファンダメンタルズは過去数年間において著しい改善がみられるというものの、全てのエマージング諸国のファンダメンタルズが良好という訳ではなく、依然として財政、政治状況に問題を抱える国もあります。また、ここ数年のファンダメンタルズの改善度合いを上回る割高な水準まで買われている債券も存在すると考えられます。従って、エマージング・マーケット債券投資に当たっては、国別のクレジット選択の重要性が、今後一層高まることが予想されます。

出所:JPMorgan
1 世界銀行では、年間一人あたりGNIが875ドル以下の国を低所得国、876ドル以上3,465ドル以下を下位中所得国、3,466ドル以上10,725ドル以下を上位中所得国、10,726ドル以上を高所得国と分類。
2 但し、各国諸規制により、全てのエマージング現地通貨市場が投資可能というわけではありません。後述のJPMorganによるエマージング自国通貨建てインデックスにおいても、十分な投資アクセスのある国および通貨に組入れを制限しています。