金利スワップ取引は、ボンド・ベーシックス「金利スワップの解説(1)~金利スワップの仕組み」で述べたように、キャッシュフロー特性をコントロールするツールとして一般的に用いられているのみならず、債券運用においても非常に有効なツールとなっています。本編では、債券運用における金利スワップの活用についてご紹介します。
債券保有の代替
まず、金利スワップは債券投資の代替手段として利用することができます。最も一般的な金利スワップの形態は固定金利と変動金利(LIBOR)の交換ですが、金利スワップ取引においてスワップ金利(固定金利)を受け取ることは、固定利付債券を保有するのと同様の効果があります。
例えばある投資家が手元にある1億円を投資するとき、元本1億円、固定利率3%(年率、利払いは半年毎)、償還期限3年の債券に投資する場合のキャッシュフローは図1-1のようになります。すなわち、当初1億円の元本を支払い、半年毎にクーポンを受け取り、満期で元本が返還されます。

上記債券投資と同様の金利エクスポージャーを金利スワップによってとる場合、まず、想定元本1億円、固定利率3%(年率、利払いは半年毎)、期間3年の金利スワップを組み、半年毎に固定金利(3%)を受け取り、変動金利(LIBOR)を支払うポジションを組むことになります。更に、金利スワップの利用に際しては、当初、元本の払込が必要とされないので、手元に残ったキャッシュ1億円を短期運用(LIBORで運用)すれば、投資家のキャッシュフローは図1-2のようになります。

上記のとおり、金利スワップを組んだ場合の投資家のキャッシュフローは、変動金利(LIBOR)の支払いおよび受取りのキャッシュフロー(緑色の棒グラフ)が相殺して、結果として図1-1のように現物債券を保有する場合と同様のキャッシュフローとなります。
従って、固定スワップ金利を受けることは、固定利付債を保有する(ロングする)のと同様のキャッシュフロー効果をもたらします。また、逆に、固定スワップ金利を払うことは、固定利付債を空売りする(ショートする)のと同様のキャッシュフロー効果をもたらすことになります。(但し、上記の例のような同年限の債券と金利スワップのデュレーションが全く同じとなるわけではありません。)
このように債券保有の代替として金利スワップを用いることができれば、現物債券のみが利用可能な場合に比較して、より精緻な債券ポートフォリオ構築が可能となります。なぜなら、運用者がポジションをとりたいと思う年限に必ずしも流動性の高い現物債券が存在しておらず、また、現物債券が割高であっても、流動性の高い金利スワップを用いることにより運用者が意図するポジションを確実かつ効率的にとっていくことができるからです。また、後述するとおり、1年先の1年の金利等、現物では取りにくいポジションをとることも金利スワップであれば可能です。
なお、現物債保有と金利スワップ利用の違いは、上記にもあるとおり、現物債券の場合は購入時に購入資金が決済されるのに対し、金利スワップの場合は想定元本の交換がないため購入時にキャッシュの支払いが必要でない点です。ここで、スワップで金利エクスポージャーをとりながら、手元に残った資金を別の現物債券あるいは株式など他の資産にも投資することにより、レバレッジをかけることも可能ですが、PIMCOでは原則としてかかる手元資金は現金同等資産(CP等のデュレーション1年以下の債券)に投資することによってスワップのエクスポージャーを担保し、レバレッジを回避します。
スプレッド戦略
次に、債券ポートフォリオにおいては、金利スワップを用いたスプレッド(利回り格差)戦略を組み入れることができます。例えば、スワップ金利と国債利回りの差を「スワップ・スプレッド」と呼び、このスワップ・スプレッドが拡大ないし縮小することを狙った戦略を構築することができます。


ある年限においてスワップ・スプレッドが縮小するときには、同年限のスワップ金利をロングする(金利スワップ取引で固定金利を受ける)ポジションが(同年限の)国債保有をアウトパフォームします(図2-2)。従って、現在のスワップ・スプレッドが過度に拡大しており、今後縮小すると思えば、スワップ金利をロングする戦略をとります。逆に、ある年限においてスワップ金利と国債利回りの差が拡大するときには、スワップ金利をショートする(金利スワップ取引で固定金利を払う)戦略がプラスに寄与します(図2-3)。従って、現在のスワップ・スプレッドが過度に縮小しており、今後拡大すると思えば、スワップ金利をショートする戦略をとります。

これは、社債のスプレッド取引と同様の概念です。すなわち、社債投資において、社債利回りと国債利回りのスプレッドが縮小する場合、社債が同年限の国債をアウトパフォームしますし、社債と国債のスプレッドが拡大する場合は、社債が国債をアンダーパフォームします。
なお、PIMCOでは、こうしたスワップ・スプレッドのリスク計測に「スワップ・スプレッド・デュレーション」を用いています。スワップ・スプレッド・デュレーションがプラスであれば、スワップ・スプレッド縮小時に利益となるポジションを表します。例えば、スワップ・スプレッド・デュレーションがプラス1年であれば、スワップ・スプレッドが1bps縮小したときに1bpsの利益(1年×1bps)が得られるポジションを示します。逆にスワップ・スプレッド・デュレーションがマイナスであれば、スワップ・スプレッド拡大時に利益となるポジションを表します。例えば、スワップ・スプレッド・デュレーションがマイナス1年であれば、スワップ・スプレッドが1bps拡大したときに1bpsの利益が得られるポジションを示します。
3.将来の金利水準分析~フォワード・スワップ・レート
スワップ金利はその流動性の高さから市場の指標金利として用いられますが、市場が織り込む将来の金利水準を分析する上でも重要なツールとなっています。例えば、先渡スワップ金利(フォワード・スワップ・レート)とは、将来のある時点から一定期間にわたって金利スワップを組むときの固定金利を指します。つまり、1年後にスタートする1年間の金利スワップを現時点で組むとき、その固定金利が3%であるとすると、「1年後スタートで期間1年間のフォワード・スワップ・レートは3%」と表すことができます。そして、これには市場が織り込む、1年後から1年間の金利水準が反映されていると考えられます(例えば、2006年12月における、2007年12月から2008年12月までの金利)。
フォワード・カーブには市場が織り込む将来の金利見通しが反映されていると考えられますが、そのカーブの形状から、市場の予測している金利水準が妥当なものであるかを判断し、市場が過度に将来の金利の変化を織り込んでいると考えられる部分、または市場が十分に織り込んでいないとみられる部分を捕捉し、それに対する投資戦略ポジションを構築する材料となります。
例として、仮定の米国とカナダのフォワード・スワップ・カーブを描いたものが図3です注1。ここで、両国間のスワップ・レートは7年~10年ゾーン近辺で乖離が大きくなっています。運用者が、両国の経済ファンダメンタルズなどからみて7年~10年ゾーンの米国金利はカナダ金利に比較して低すぎる、と判断したとすれば、米国金利をアンダーウェイトし、カナダ金利をオーバーウェイトして、両国の金利水準が収斂していくことで収益を得ることを狙った戦略を取りたいと考えるでしょう。
市場が織り込む将来の金利水準は通常の利回り曲線でも見ることは可能ですが、通常の利回り曲線は、現在からスタートする場合の利回りであり、将来の一時点からの金利水準ではありません。そこで、このようにフォワードベースのスワップ金利を用いることで、市場による将来地点における金利の予測水準を、より精緻に捉えることが可能です。

注1:上記グラフは、戦略の概念を説明するためのものであり、実際の市場環境とは異なります。
注2:上記グラフにおける「7年-8年」は、「7年後スタート、8年後までの1年間のフォワード金利」を示します。
さて、上記の例において運用者が実際にカナダと米国のスワップ・カーブ上の歪みを捉え、その歪みが修正されることによる超過収益の獲得を狙うには、7年後から10年後まで3年間の米国金利をアンダーウェイト、カナダ金利をオーバーウェイトするポジションを構築する必要があります。すなわち、7年後スタート3年間の金利スワップで、カナダ金利を受け取り、米国金利を払うスワップを組みます。もしこのような超過収益獲得のためのポジションを現物債券のみで構築しようとすれば、カナダ10年債のオーバーウェイトと米国10年債のアンダーウェイトをとることも可能ですが、この場合、運用者が本来取る意志のない、現在から7年先までのカナダ、米国の金利エクスポージャーをも同時にとることになってしまいます。そこで金利スワップを利用することによって、運用者の意図をより的確に反映する精緻な戦略構築を可能にすることができます。
まとめ
上記のように、金利スワップは債券運用においても、債券保有の代替、またスプレッド戦略をとるためのツールとしてポートフォリオに組み入れることができるほか、将来の金利水準をより精緻に分析し、戦略に取り入れることを可能にするツールとして活用することができます。更に、一つの金利スワップを組むことで複数の戦略をとることも可能です。例えば、国債ベンチマークに対して運用を行う場合、年限が5年の国債を保有する代わりに5年の金利スワップを組み、固定金利を受け取る(ロング)ポジションをとることで、同年限の金利戦略エクスポージャーを現物債券の代替としてとると同時に、同年限におけるスワップ・スプレッドの縮小を狙った戦略をもとることができます。また、国債ベンチマーク運用において5年ゾーンの金利リスクを対ベンチマークでアンダーウェイトしたいとき、5年国債の保有をベンチマークより少なくする代わりに、5年の金利スワップで固定金利を払う(ショート)ポジションを組み入れることで、金利リスクのアンダーウェイトのみならず、スワップ・スプレッドの拡大を狙った戦略をもとることができます。つまり、一つの金利スワップで金利戦略とスプレッド戦略を共に実現することができるのです。こうした意味においても、金利スワップは債券ポートフォリオの構築において非常に有効なツールであるといえるでしょう。