またコモディティ先物指数が開発され、さらには、最近になってコモディティ指数の動きをトラックする投資商品が導入されたことで、コモディティは資産クラスとしても進化しています。本稿では、ポートフォリオに対するコモディティの組み入れを検討すべきと考えられる理由について、説明するとともに、コモディティ投資戦略の一部について、紹介します。
コモディティ投資のメリット:分散化とインフレからの保護
近年、コモディティに対する投資家の需要は急激に高まりました。その理由として、この資産クラスが株式や債券といった伝統的資産クラスをアウトパフォームしてきたことがあります。資産クラスとしてのコモディティのパフォーマンスの測定には通常、コモディティ指数のリターンを使います。その代表的存在として、19品目のコモディティ先物に対してパッシブ投資を行うダウジョーンズAIGコモディティ指数があります。2006年3月31日までの5年間で、ダウジョーンズAIGコモディティ指数は10.6%のリターンを生み、2.6%にとどまったS&P500のリターンを大きく上回りました。
コモディティ価格上昇の背景には、中国やインド、その他新興諸国において、工業製品の生産やインフラ整備に不可欠な原油や鉄鋼を始めとする原材料に対する需要が増加したことなど、数多くの要因があります。また、コモディティの供給もこれまでの設備投資不足により機能が低下しており、それがボトルネックを生み出し、数多くのコモディティ先物のリターンに「保険料」や「コンビニエンスイールド」が付加される結果となりました。こうした経済的要因は、長期にわたりコモディティ指数のリターンの持続的な上昇に寄与するものと考えられます。
コモディティに対する投資家の関心が高まった最大の理由は、魅力的な収益を得られる可能性にあると考えられますが、それだけではありません。コモディティ投資から得られる大きなメリットとして、ポートフォリオの分散効果の拡大や、インフレおよびイベント・リスクに対するヘッジ機能を挙げることができます。
株式や債券といった「金融資産」と異なり、コモディティは「実物資産」であり、それゆえに、伝統的な金融資産とは異なる形で、経済ファンダメンタルの変化に反応する傾向がみられます。例えば、コモディティはインフレの亢進が好材料になる数少ない資産クラスの1つです。財やサービスに対する需要が増加すると、通常その価格は上昇し、その生産に用いられる原材料価格も上昇します。インフレが加速すると、通常はコモディティ価格も上昇するため、コモディティに投資することにより、ポートフォリオにインフレに対するヘッジ効果を付加できる可能性があります。
対照的に、株式や債券はインフレ率が安定、もしくは低下する場合に、パフォーマンスが良好になる傾向があります。反対に、インフレが亢進すると、株式や債券が生み出すキャッシュ・フローの将来価値は低下します。これは、将来のドルの購買力が現在よりも低下するためです。1980年代および1990年代には、インフレ率が低下する一方、株価と債券価格は上昇しました。
こうした理由から、ヒストリカルにみると、ダウジョーンズAIGコモディティ指数など、幅広い品目をカバーしたコモディティ指数のリターンは、株式や債券のリターンとの相関が低くなる一方、インフレとの間に正の相関関係が生じています。1990年12月以降、ダウジョーンズAIGコモディティ・指数の四半期別リターンはS&P 500指数およびリーマン・ブラザーズ米国総合インデックス(LBAG)と負の相関を示す一方、消費者物価指数とインフレの前期比変動率双方に対して正の相関関係にあります。
ダウジョーンズAIGコモディティ指数と株式および債券との間に相関関係が存在しないことこそ、幅広いコモディティに対してエクスポージャーを取る最大の利点、すなわち分散効果を実証するものです。分散ポートフォリオでは個々の資産の値動きが一方向にならないため、一般的にポートフォリオ全体のボラティリティは低下します。ボラティリティが低下することにより、ポートフォリオのリスクは減少し、長期的なリターンの安定性が向上すると期待することができます。リスクが低減されると同時に、リターンが上昇する可能性があることから、分散化は投資における唯一の「フリーランチ」と呼ばれてきました。
また、コモディティ投資により、投資家は分散効果やインフレに対するヘッジ機能に加え、「イベント・リスク」、すなわち金融危機や戦争、地政学的イベントにより、コモディティ以外の資産価格が下落する可能性に対するヘッジ効果も得られます。例えば、1990年にイラクがクウェートに侵攻した際、株式相場は下落したものの、コモディティは良好なパフォーマンスとなりました(下図参照)。
出所: ゴールドマン・サックス、ブルームバーグ・フィナンシャル・マーケッツ
別の例として、次のチャートが示す通り、1987年の株価暴落時にもコモディティの分散効果が発揮されました。
出所: ゴールドマン・サックス、ブルームバーグ・フィナンシャル・マーケッツ
コモディティは多大なメリットをもたらす可能性がある一方で、この資産クラスにはリスクもあります。コモディティのリターンのボラティリティは株式と同程度となる傾向がみられ、パフォーマンスが株式を下回る可能性もあります。例えば、1990年1月から2006年3月までの年率換算した月次ボラティリティは、ダウジョーンズAIGコモディティ指数が12.1%であったのに対して、S&P 500指数が13.9%、ゴールドマン・サックス・コモディティ指数が18.8%となりました。株式とコモディティはボラティリティが同程度になりますが、両者が同一の年に下落した例はごくわずかです。1970年から2005年の35年間で、それぞれリターンがマイナスとなった年はS&P 500指数が7年、GSCIが8年ありました。しかし、双方の指数ともマイナスのリターンになったのは、この35年間でわずか2年にとどまっています。
コモディティ投資戦略
かつて、コモディティに対するエクスポージャーがもたらすメリットを最大限享受することは困難でした。例えば、原油1バレルや、牛1群、小麦1ブッシェルといった形で現物のコモディティに投資することは非現実的です。そこで、投資家はこれまで、コモディティ関連の株式の購入や、コモディティ先物をアクティブ運用するマネージド・フューチャーズ勘定に投資し、コモディティに対するエクスポージャーを取ろうとすることが一般的でした。
しかし、こうした投資戦略では、分散効果を始め、コモディティに対するエクスポージャーを取ることによりポートフォリオに付加できるメリットを獲得できない場合もあります。例えば、コモディティ関連企業の株価にコモディティ市況の価格変動が必ず反映されるとは限りません。石油生産企業が供給量を先物ですでに売却済みであれば、その株価に原油価格上昇のメリットが完全に反映されることはないでしょう。さらに、コモディティ関連株のリターンは、企業の財務構造やコモディティとは関係のない事業の業績といった要因に影響される可能性もあります。実際にコモディティ関連企業の株価はコモディティ市場よりも株式市場全体との間に高い相関が認められています。コモディティをアクティブ運用するマネージド・フューチャーズ勘定の場合も、過去のコモディティ指数のパフォーマンスから推定されるほどの利益をコモディティエクスポージャーから得られない場合もあります。こうした勘定の収益にはコモディティ市場固有のリターンではなく、適切なコモディティを適切なタイミングで選択できるマネージャーのスキルが反映されがちになるためです。
コモディティ先物指数に連動する投資商品が登場したことによって、投資家にとってはコモディティに対するエクスポージャーを取るために利用できる選択肢が1つ増えたことになりますが、さらにはこうした形の投資により、コモディティがもたらすメリットを最大限享受できる可能性があります。コモディティ先物指数に連動する投資商品は、コモディティ先物をアクティブ運用するマネージド・フューチャーズ勘定と同じではありません。コモディティ指数のリターンは、広範囲なコモディティに対するパッシブなエクスポージャーが生み出す成果を示しています。例えば、ダウジョーンズAIGコモディティ指数はエネルギー、畜産物、穀物、産業用金属、貴金属、ソフト・コモディティなど、19品目のコモディティの先物価格に連動しています。指数構成品目の変更はマネージャーの裁量ではなく、予め設定された規則によって決まります。
ダウジョーンズAIGコモディティ指数の構成要素
2006年3月31日現在

出所: AIG
指数に連動するコモディティエクスポージャーを取る利点の1つとして、個別のコモディティ間の相関が低いために、指数のリターンは個別コモディティのリターンよりボラティリティが低くなると考えられることがあります。もう1つの利点として、コモディティ・指数そのものが数十年にわたり存続しているため、資産配分に関する研究調査を行うに十分な量のヒストリカル・データが揃っていることがあります。
投資家はコモディティに対する幅広いエクスポージャーから数多くの潜在的利益を獲得することができますが、その一方でコモディティ投資にはリスクも伴います。特に、米国経済またはグローバル経済の景気サイクルが悪化局面にある場合には、消費者や産業界からの需要が減退するため、コモディティのパフォーマンスが悪化する可能性もあります。ヒストリカルにみると、コモディティのボラティリティは株式市場に肩を並べています。例えば、1990年12月から2006年3月の年率換算した月次ボラティリティは、ダウジョーンズAIGコモディティ指数が12.2%、S&P 500指数が13.8%となりました。また、最近の実績だけを比較した場合でも、2001年6月から2006年6月の年率換算した月次ボラティリティはダウジョーンズAIGコモディティ指数が13.9%となり、13.5%となったS&P 500指数をわずかに上回っています。
まとめ
コモディティは独立した1つの資産クラスであり、株式や債券のリターンと相関の低いリターンを生み出す資産クラスです。このため、コモディティに対する幅広いエクスポージャーをポートフォリオに組み入れることにより、株式と債券で構成されるポートフォリオの分散効果を高めることが可能になり、リスクの低減や収益の増加をもたらす可能性があります。分散の拡大が容易に行えるようになった背景には、広範囲のコモディティに連動する投資商品の誕生があります。