債券投資家にとって、ポートフォリオのベンチマークの選定はきわめて重要です。ベンチマークはポートフォリオ・マネージャーにとって、ポートフォリオを作り上げる際の起点になると同時に、構築したポートフォリオをリスクとリターンの双方の観点から、どのように運用すべきかの指針として常に機能するものでもあります。
今日、債券市場には膨大な数のベンチマークが存在しますが、適切なベンチマークを選定することは必ずしも容易ではありません。このベンチマーク選定プロセスの一助となるよう、このレポートではベンチマーク自体について説明すると共に、適切なベンチマーク選択が難しい理由と、個別のポートフォリオにとっての最適なベンチマークを選定しようとする際に考慮すべき点について解説します。
ベンチマークとは
ほとんどの場合、投資家はポートフォリオのベンチマークとして市場「インデックス」を選択しています。インデックスは投資適格債市場など、広い範囲を包括する資産クラスのパフォーマンスをトラックするものもあれば、投資適格社債など、市場の限定的な一部分のみのパフォーマンスをトラックするものもありす。インデックス持ちきりベースでみたリターンをトラックするものであり、どの債券が最も魅力的かを見極めようとするものではありません。つまり、インデックスは「パッシブ型」運用アプローチを象徴するものであり、アクティブ運用ポートフォリオのパフォーマンスを判定する際の優れた基準として利用することが可能です。インデックスを利用することにより、アクティブ運用の債券マネージャーがどれだけの付加価値を生み出したのか、そしてその付加価値は何から、もしくはどの投資商品から得たものかを把握することが可能になります。
債券の場合、一般的にリーマン・ブラザーズやJPモルガン、メリル・リンチ、シティグループといった大手証券会社が開発したインデックスが利用されています。こうした会社は数多くのインデックスを開発し、投資家が取得しようとする可能性のあるほぼすべての債券市場エクスポージャーに対するベンチマークを提供しています(例:リーマン・ブラザーズは30種類以上のインデックスを発表)。
こうした企業はインデックスを作り上げるにあたり、インデックスにおいてトラックしようとする資産クラスを代表する債券を抽出し、そのリターンをトラックしています。例を挙げると、リーマン・ブラザーズのグローバル債券総合インデックスは、世界中のさまざまな種類の債券を含む、世界の投資適格債市場をトラックするように設計されています。グローバル総合インデックスでは市場の時価総額に占める各地域の割合に応じて、それぞれの地域の債券を組み入れています。
リーマン米国総合債券インデックスの構成
2006年6月30日現在

出所:リーマン・ブラザーズ
主要なインデックス提供業者はインデックスに組み込まれる銘柄の判定について、発行額や格付水準など、前もって規定した明確な基準を公表しています。通常の場合、インデックスの採用基準とリターンやその他の統計数字はインデックス提供業者のホームページ、もしくはブルームバーグやロイターといった情報サービスから取得することが可能です。
投資家の間で新たな種類の債券ポートフォリオに対する関心が高まると、新たなインデックスが開発されることが一般的です。たとえば、エマージング債に対する投資家需要の高まりを受けて、JPモルガンは1992年にエマージング市場のベンチマークを市場参加者に提供することを目的に、エマージング市場債インデックスを開発しました。
適切なベンチマークを選ぶ重要性
インデックスは膨大な数が存在するため、ベンチマークとしてどのインデックスを採用するかを決めることは簡単ではありませんが、インデックスの選定は次の3つの理由からきわめて重い意味を持ちます。
第1に、ポートフォリオのリスクとリターンはベンチマークから強い影響を受けます。ポートフォリオ・マネージャーはポートフォリオを作り上げる際に、ベンチマークに採用されている銘柄を起点としてアクティブ運用ポジションを取り、付加価値の獲得を目指すことが一般的です。
第2の理由として、投資家によるベンチマークの選択はポートフォリオに組み入れるべき債券の種類を示すだけでなく、ポートフォリオに組み入れられない債券の種類も示します。具体的にいうと、ポートフォリオのベンチマークとして、国債インデックスを選択することは、ポートフォリオ・マネージャーに対して、ポートフォリオに組み入れる高リスク債券の割合を低く抑えるべきというシグナルを送ることになります。もう1つの例を挙げると、モーゲージ債を含まない
投資適格債インデックスをベンチマークとすることで、投資家はポートフォリオにおけるモーゲージ債の比率が高くなることを希望していないというシグナルを送っていると考えられます。
第3の理由として、個別の運用目標や運用スタイルを理由に、見合うベンチマークを採用するケースもあります。ポートフォリオの目標を、金利と共に変動する負債を相殺することに置く場合、ベンチマークの選定にあたって最も重要になるのは、見込まれるリターンではなく、ベンチマークの金利感応度、すなわちデュレーションになることでしょう。元本の保全を最重要視する投資家の場合であれば、ベンチマークのクレジット・クオリティも重要な条件になると考えられます。
適切なベンチマークの選定は、外国債券やグローバル債券に投資しようとしている投資家にとって、特に重要になります。外国通貨に対するエクスポージャーはポートフォリオの価値とボラティリティ双方に影響を与える可能性があるため、外国為替エクスポージャーをヘッジするかどうかによって、グローバル債は異なる2つの意味合いをポートフォリオに持たせます。為替ポジションを取るための手段として、外国債券に投資しようとする投資家の場合には、為替ヘッジなしのインデックスを利用するでしょう。このインデックスは、通貨価値の変動の影響を受けることになります。たとえば、米ドルの下落を予想している投資家は、他通貨建て債券への投資を選択することでしょう。これは、ドルの下落により、他通貨建て債券の価値は増大するからです。為替は債券よりもはるかにボラティリティが高いため、為替ヘッジなしで外国債券に投資する場合、バリュエーションの重大な変動は債券の価格変動ではなく、通貨のボラティリティによって生じることになります。しかし、投資家は元本の保全や債務とのマッチングを求めて、債券への投資を検討することが多いため、ほとんどの場合には為替リスクをヘッジしたインデックスを採用して、外国通貨への投資により生じるボラティリティの回避が図られます。
次の表は最もよく利用されるベンチマークを投資家の種類別にみたものです。ただし、これはあくまでも例であり、ここに挙げたものだけが適切な選択肢というわけではありません。
ベンチマーク選定にあたベンチマーク選定にあたっての主要な考慮点っての主要な考慮点
これまで適切なベンチマークの選択が重要であることを説明してきましたが、次にベンチマークを選択するにあたって浮上する代表的な疑問とそれに対する回答を示します。
全体的なパフォーマンス目標をどこに置いているか? どの程度のボラティリティやリスクを許容できるか?トラック・レコードのリターンが高いインデックスでは、月次リターンや四半期リターンのボラティリティが高くなる可能性があり、短期的にはリターンがマイナスになる可能性も高くなります。しかし、投資家はリターンの高いボラティリティを容認することで、長期的には高い絶対リターンを獲得することができます。
流動性はどの程度必要か? 必要な運営資金を得るために構築され、高い流動性が必要になるポートフォリオの場合、超短期の債券ファンドで最も多く採用されているシティグループ3ヵ月物Tビル・インデックスを利用することでしょう。これよりもリスクの高いベンチマークになると、流動性に劣る銘柄が含まれ、金利感応度も高くなります。
投資資金の裏側にある負債はどういった性質のものか?上記のように、投資家の負債の性質は、金利感応度、すなわちデュレーションの点で、どのようなインデックスを採用すべきかに影響を与えます。負債のデュレーションが長いポートフォリオでは、金利が低下すると負債が大幅に増加しますが、こうしたポートフォリオの場合、リーマン米国長期債インデックスや長期クレジット債インデックスなど、デュレーションの長いインデックスが適していると考えられます。
負債はインフレに連動しているか? インフレ率が上昇すると、投資家の実質リターン、すなわちインフレ調整後リターンが損なわれます。そのため、負債がインフレ率に連動している投資家の場合には、リーマン米国TIPSインデックスが選択されると考えられます。このインデックスは、元本と利息がインフレ率に合わせて調整される米国物価連動国債で構成されています。
ポートフォリオ・マネージャーに対してどういった分類の債券への投資を認めるのか? ベンチマークは、投資可能な証券の範囲という点で、投資家のポートフォリオと運用マネージャーに うまく「マッチ」している必要があります。幅広い投資ユニバースは潜在的に、リターンの向上とボラティリティの低下に寄与する可能性があります。一方、ベンチマークの範囲を必要以上に絞り込むと、運用マネージャーにとって、アクティブ運用によりポートフォリオ全体のパフォーマンスに寄与することが困難になります。
優れたベンチマークとは
どのベンチマークを選択すべきかは、投資家それぞれによって異なりますが、検討対象となるベンチマークすべてが満たすべき最低限の基準があります。ベンチマークがその機能を果たすためには、以下のすべての項目、もしくは大部分を満たす必要があります。
· 透明性が高いこと—ベンチマークを構成する債券の銘柄とウェイトが明確に規定されていること。
· 投資可能であること—ベンチマークは投資家が市場で購入可能か、容易に置き換え可能な債券で構成されていることが必要。
· 日毎に値洗いされること—ベンチマークのリターンが定期的に計算されていること。
· 過去データの入手が可能であること—ヒストリカル・リターンを測定するため、ベンチマークの過去のリターンが入手可能であること。
· 銘柄入替え頻度が低いこと—インデックス採用銘柄の入替え頻度が高いことは望ましくありません。インデックスの構成が頻繁に変更されると、それを基にポートフォリオ配分を決めることが困難になるためです。
· 前もって確立されていること—ベンチマークは評価開始時点以前に確立されていることが必要。
· リスク特性が公表されていること–ベンチマーク提供業者がベンチマークの詳細なリスク特性を定期的に発表し、それにより、運用マネージャーがアクティブ運用のポートフォリオのリスクをパッシブ運用となるベンチマークのリスクと比較可能なこと。
結論
債券ポートフォリオにとって、ベンチマークはポートフォリオ運用のリスクとリターンのパラメーターを規定するものであるため、適切なベンチマークを選定することはきわめて重要です。債券市場では選択肢となり得る数多くのベンチマークが存在しますが、その中からどれを選択するかは、個々の投資家によって異なる多くの要因によって変わります。適切なベンチマークを選択するにあたっては、最低限必要な条件を満たすベンチマークを特定し、その中からポートフォリオの投資家の目標とそうした目標を達成するために投資家が積極的に取ろうとするリスク水準に最も良く適合するインデックスを選択することが重要になります。