はじめに:キャリーとは
債券運用において「キャリー(carry)」という言葉がよく使用されます。一般的に、投資に際しての「キャリー」とは、市場の状態(例えば金利水準など)に変化がないという前提の下で一定期間内にその投資対象からどのくらいのリターンが得られるか、つまり、その投資対象を保有しているだけでどのくらいのリターンを得ることができるか、を示すものであるといえます。
債券運用におけるキャリーの要素を分解するにはいくつかの方法がありますが、伝統的には「クーポン(利子)」の受取<インカム・ゲイン>と「ロールダウン」による債券価格の上昇<キャピタル・ゲイン>に分けて考えることができます。本稿では債券運用におけるロールダウン効果がもたらすキャリーについて解説します。
ロールダウンとは
ロールダウン(roll down)とは、文字通り斜面を転がり落ちる動作を示す言葉ですが、債券運用においては、イールドカーブ注1の傾斜に沿って利回りが下がっていくことを指します。利回りの低下は債券価格の上昇を意味するため、図表1のように、イールドカーブが右肩上がりの形状(すなわち、償還期限の長い債券ほど利回りが高い)であるならば、債券の償還期限が短縮するとともに債券価格が上昇していくことになります。
注1:イールドカーブについては、ボンド・ベーシックス「イールドカーブ(利回り曲線)の解説」をご覧ください。
(図表1)ロールダウン効果

更に、イールドカーブの右肩上がりの傾斜が急な部分ほど、ロールダウン効果が高い、すなわち、(イールドカーブの形状に変化がないという前提において注2)その債券を保有することによって得られる債券価格上昇リターンが高い、ということができます。
注2:イールドカーブがスティープな形状であるときに得られるプラスのロールダウン効果は、イールドカーブの形状が不変であるという前提条件がある場合になります。そもそも、イールドカーブの形状がスティープであるということは、市場が将来の金利上昇を見込んでいることを表しますので、市場の織り込む金利上昇が実現した場合、ロールダウン効果は低下します。
実際の例を用いてみましょう。
図表2にあるイールドカーブ①とイールドカーブ②を比較すると、イールドカーブ①では償還期間5年の利回りは4%、償還期間4年の利回りは3%で、一年間で利回りが1%低下するのに対して、イールドカーブ②では、償還期間5年の利回りは同様に4%ですが、償還期間4年の利回りは3.7%と、償還期間5年と4年の利回りの差は小さく、イールドカーブ①のほうがより傾斜が急なカーブとなっています。
今、市場がイールドカーブ①の状態で今後1年間変化しないという仮定の下、償還期間5年のゼロ・クーポン債(償還価格100円とする)を1年間保有するとすると、利回りが4%から3%に低下するのに伴い債券の理論価格は82円から89円に上昇します。一方、市場がイールドカーブ②の状態で今後1年間変化しないという仮定の下、同様に償還期間5年のゼロ・クーポン債(償還価格100円)を1年間保有すると、債券の理論価格は82円から86円に上昇しますが、その上昇幅はイールドカーブ①と比較して小さくなります。これは、償還期間が5年から4年となるまでの一年間における利回りの低下幅はイールドカーブ①よりもイールドカーブ②の方が小さいためです。
(図表2)イールドカーブの傾斜度によるロールダウン効果の比較

主要国イールドカーブ、ロールダウン効果比較
同様に、世界の債券市場のイールドカーブを比較すると、イールドカーブの傾斜が急であるほど、ロールダウンによって得られるリターンは高いといえます。例として、2006年3月末の各マーケットのイールドカーブを比較すると、米国、および欧州のイールドカーブは非常に平ら(フラット)な形状にある一方、日本のイールドカーブは傾きがあり、よりスティープです。
従って、日本のイールドカーブは、利回りの絶対水準としては低いものの、ロールダウン効果においてはもっともキャリーを得ることのできる形状をしているといえます。一方、イールドカーブが非常に平坦な形状になっている米国、英国はロールダウンによるキャリーはほとんどなく、特に英国のイールドカーブは逆イールド(短期金利が長期金利よりも高い)となっているため、満期が短くなるにつれ金利水準が上昇し、債券価格は下落します。この場合、ロールダウン効果(むしろロールアップの状態になっています)によるリターン、すなわちキャリーはマイナスです。 

まとめ
以上のように、ロールダウン効果によるキャリーは、イールドカーブがスティープな形状であるほど高くなると期待することができます。これは異なる通貨間の比較のみならず、同一通貨のイールドカーブ上においても、より傾斜がスティープな部分のエクスポージャーをとることは、債券運用においてリターンを高めるための戦略の一つとなります。更に、ロールダウンによるプラスのキャリーを期待できるイールドカーブの形状であれば、仮に金利水準自体が上昇して債券価格が低下する状況が発生しても、それによるマイナスリターンをある程度相殺するクッションとしての役割をロールダウン効果に期待することができます。