イールドカーブは債券利回りと償還期限との関係を示したグラフ(曲線)で、債券投資における重要な指標です。イールドカーブは金利予測、債券の価格決定、総利回り向上のための戦略策定における基準として投資家に利用されています。また、イールドカーブは経済活動についての先行指標ともなりえます。
本稿では以下の項目について解説します。 始めに:イールドとは何か? / イールドカーブとは何か? / 何がイールドカーブの形状を決定するのか? / いつイールドカーブの形状が変わるのか? / イールドカーブのさまざまな利用方法とは?
始めに:イールドとは何か?
イールド(利回り)とは投資の年間収益を示すものです。債券の利回りは、購入価格と受取金利またはクーポン(表面利率)がベースになります。
債券のクーポン利率は通常固定されていますが、債券価格は金利の変化のほか、当該債券の需給、残存期間、クレジット・クオリティー(信用度)に反応して常に変動します。発行後の債券は通常額面に対してプレミアム(額面よりも高い価格)もしくはディスカウント(額面よりも低い価格)で取引され、満期時には額面価格へと収斂します。債券利回りは債券価格に基づいて形成され、債券利回りは債券価格の変化と逆方向に動きます。すなわち、債券利回りが上昇すれば債券価格は下落、債券利回りが低下すれば債券価格は上昇します。
債券利回りには二つの主な指標があります。直接利回りと最終利回りです。
- 直接利回りは、債券購入価格に対する年間受取金利です。債券の年間クーポン受取額を購入価格で割って計算します。例えば、投資家が額面$1,000、クーポン利率6%の債券をパー(額面)で購入すると、年間のクーポン受取額は$60となります。従って、直接利回りは6%となります($60/$1,000)。債券が額面で購入された場合には、直接利回りはクーポン利率と同じになります。しかし、もし同債券が額面を下回った価格すなわちディスカウント・プライスの$900で購入されると、直接利回りは6.6%($60/$900)に上昇します。
- 最終利回りは、償還まで債券を保有した場合に投資家が受取る総利回りです。債券の最終利回りは、利息の再投資収益を含めて購入から償還までの全ての受取金利を反映したものです。また、債券価格の上昇もしくは下落分も最終利回りに含まれます。なお、繰上償還利回りとは、債券の満期前に発行者により償還(コール)もしくは買い戻され、繰上償還日に投資家が額面の支払いを受ける場合の利回りで、最終利回りと同様に計算されます。最終利回り(もしくは繰上償還利回り)は、購入から償還(もしくは繰上償還日)までの債券の総利回りを反映しているため、一般的に投資家にとって、直接利回りよりも意味のあるものとなります。
最終利回りを見ることで、投資家は異なる償還期限、クーポン利率、信用度を持つ様々な種類の債券を比較することができます。
イールドカーブとは何か?
イールドカーブは、同等のアセットクラスおよび信用度の債券の最終利回りと残存期間の関係を表した曲線です。グラフは最も残存期間の短いスポット金利から始まり、通常 30 年まで期間が伸びていきます。
下記のグラフは 2002 年12 月31 日時点の米国債のイールドカーブです。その当日における利回りは、10 年国債が約3.8% であるのに対し、2 年国債は約1.6% であることを示しています。
イールドカーブは、トリプル A 格のモーゲージ債(住宅ローン担保証券)からシングルB 格の社債まで、債券市場のいかなるセグメントにおいても描くことができます。最も広く使われているのは米国債のイールドカーブです。米国債にはクレジット・リスクがなく、従ってクレジット・リスクによる利回り水準への影響がないとみられているほか、米国債市場が3 ヶ月から30 年という事実上全ての残存期間の証券を含んでいるためです。
イールドカーブは、残存期間の違いからのみ生じる利回りの差、つまりイールドスプレッド(利回り格差)を表しています。よってイールドカーブとは、ある時点において市場で一般的とされる債券利回りと残存期間の全般的な関係を表すものです。この利回りと残存期間の関係は、金利の期間構造(ターム・ストラクチャー)として知られています。
上図で示されたように、イールドカーブの「通常」の形(もしくは傾き)は右上がり(左から右へ)であり、一般的に債券利回りが残存期間の長期化につれて上昇することを表しています。時としてイールドカーブの傾きが右下がり、もしくは「逆」になることがありますが、通常は長期にわたって「逆」の状態が続くことはありません。
何がイールドカーブの形を決定するのか?
大半のエコノミストは、二つの要素がイールドカーブの傾斜に影響を与えるという点について同意しています。二つの要素とは、将来の金利に対する投資家の期待(予想)、および長期債を保有するにあたり投資家が求める“リスク・プレミアム”です。
以下の 3 つの理論は、これらの要素について詳細に説明をしており、広く一般に認識されています。
- 純粋期待理論(Pure Expectations Theory)は、イールドカーブの形状は、将来の短期金利に対する投資家の期待によってのみ影響されると考えます。多くの場合、投資家は将来金利が上昇すると予測していることが、イールドカーブが通常右上がりである根拠とされています。
- 流動性選好理論(Liquidity Preference Theory)は、純粋期待理論から派生したもので、長期金利は将来の金利に対する投資家の期待だけではなく、期間プレミアム(term premium)もしくは流動性プレミアム(liquidity premium)と呼ばれる、長期債を保有することに対するリスク・プレミアム(割増分)も含まれているとの主張です。このプレミアムは、資金の長期固定化により追加的に発生するリスク、例えば価格変動の不確実性の高まり等を投資家に対して補填するものと考えられています。期間プレミアムにより長期債利回りは短期債利回りよりも高い傾向にあり、イールドカーブは右上がりになります。
- 純粋期待理論から派生したもう一つの理論に特定期間選好(市場分断)理論(Preferred Habitat Theory)があります。同理論は、金利期待のほかに、投資家にはそれぞれ独自に選好する投資期間があり、投資家が“選好”する残存期間以外の期間の債券を購入するためにはそれに見合うだけのプレミアムを要求するという考え方です。この理論提唱者は、債券市場において短期債に対する需要の方が多いため、長期金利が短期金利よりも高くなる傾向にあると考えています。
イールドカーブは、金利に関する投資家の期待および長期債のリスク・プレミアムの両方の影響を反映しうるため、イールドカーブが示唆する市場の期待を解釈すること容易ではありません。エコノミストや債券ポートフォリオ・マネージャーは、イールドカーブのある特定の時点において、何がイールドカーブ上の特定の部分を押し上げているのかを的確に理解するため多大な努力を行っています。
いつイールドカーブの形状が変わるのか?
従来より、イールドカーブの傾斜は経済動向についての一つの先行指標であるとされています。カーブの形状は投資家が予想する将来の金利動向を集約しているので、投資家の経済予測をも表すと考えられています。
傾斜の急な右上がりのカーブ(またはスティープ・イールドカーブ)は、将来の景気回復を織り込んでいると考えることが可能です。スティープ・イールドカーブを形成するのは、将来金利が上昇するであろうとの予測です。もし投資家が経済の急速な成長を予測しているならば、それに伴うインフレ率の上昇および金利上昇により債券利回りが上昇するリスクがあるため、投資家は残存期間の長い債券に対しより高い利回りを要求するようになります。インフレが進行すると、米連邦準備理事会( FRB )はインフレを沈静化するため金利を引き上げます。
下図は、米国経済が 1990-1991 年の不況から回復し始めた1992 年年初のスティープな米国債のイールドカーブです。

一方、フラット・イールドカーブは将来の景気減速を織り込んでいると考えることが可能です。米国連邦準備理事会( FRB )が急激な景気加速を抑制するために金利を引き上げると、利上げを反映して短期金利は上昇し、長期金利はインフレ抑制期待から低下するので、イールドカーブは通常平坦化(フラット化)します。こうしたフラット・イールドカーブの状態はまれで、通常右上がりもしくは右下がりの傾斜への変換期を示しています。以下にある米国債のフラットなイールドカーブは、1990 年から1991 年の不況に先駆けて経済の低迷を示唆するものでした。

逆イールドカーブは、景気後退を示唆していると読むこともできます。短期債の利回りが長期債の利回りよりも高い場合、景気減速およびインフレ低下と連動して金利が低下すると投資家が予測していることを示唆しています。歴史的にイールドカーブは不況の 12 ヶ月から18 ヶ月前に逆方向になります。下のグラフは、2001 年の不況の約1 年前である2000 年初の逆イールドカーブです。

イールドカーブのさまざまな利用方法とは?
イールドカーブは、債券利回りおよび残存期間を比較するための参照ツールとして、幾つかの目的に利用することができます。
第一に、前述の通り、イールドカーブは、市場が織り込む将来の景気動向を示唆する、先行指標として利用することができます。
第ニに、国債のイールドカーブはその他多くの債券の価格設定におけるベンチマークとして利用することができます。米国債はクレジット・リスクを伴わないと考えられているため、クレジット・リスクを伴う大半の債券は国債よりも高い利回りで価格が決定されています。例えば、償還まで5年の国債の利回りが 3.8 %として、同じ残存期間のある社債銘柄利回りが 4.6 %である場合、その社債と国債の利回り格差(スプレッド)は、0.8 %(80 ベーシス・ポイント)として、その社債のクレジット・リスク度合いを表す一指標となります。また、償還まで3 年のハイ・イールド債は同じ残存期間の国債利回りより4% (400 ベーシス・ポイント)高い利回り水準で価格が設定されることがあります。
第三に、イールドカーブの動向を予想することで、債券の運用者は債券ポートフォリオにおいて平均を超過するリターンの獲得を目指すことができます。異なる金利環境の下でリターンを向上させるために、幾つものイールドカーブ戦略が開発されてきました。
以下の 3 つのイールドカーブ戦略は、債券ポートフォリオにおける残存期間の配分に焦点を置いています。ブレット戦略(bullet strategy )においては、債券の満期がイールドカーブ上の一点に集中するようにポートフォリオが構成されています。例えば、ポートフォリオの大半が残存期間10 年の債券で構成されるといった形です。バーベル戦略(barbell strategy )においては、ポートフォリオ内の債券の満期が、5 年と20 年というように、年限が離れた2 点に集中しています。ラダー戦略(ladder strategy )は、一定期間毎、通常は毎年同額づつ債券が償還されるポートフォリオです。一般的には、イールドカーブの傾斜が急になった(スティープ化)時にはブレット戦略がアウトパフォームし、カーブが平坦化した(フラット化)時にはバーベル戦略がアウトパフォームします。ラダー戦略は、負債サイドにおける定期的なキャッシュのアウト・フローとマッチする受取金利を確保するため、もしくは低金利環境下で資金の大部分の再投資を余儀なくされるリスクを軽減するために採られる戦略です。
イールドカーブを利用して、投資家はある時点において割安または割高と見られる債券の識別を試みることもできます。債券の価格は、債券からの予想キャッシュフローの現在価値、もしくは将来の受取金利および償還額面を特定の金利(もしくは複数の金利)で現在価値に割り引いたものがベースになります。仮に投資家が異なる予測金利を適用した場合、当該債券の価格は異なってきます。この様に、投資家は特定の債券が市場において割安か割高かを判断し、債券を売買することによって超過収益を得ようとします。
債券の運用担当者は、イールドカーブの「ライディング」、もしくはイールドカーブの「ロール・ダウン」として知られている債券投資戦略によって、リターンを追求することが可能です。イールドカーブの傾斜が右上がりの場合、債券は満期に近づくに従い、もしくは“イールドカーブをロール・ダウン”するに従い利回りは低下し、価格は上昇します。この戦略に基づき、債券価格が上昇する間債券を保有し、満期前に売却することで利益を実現することができます。イールドカーブが通常の状態、つまり右上がりの傾斜であれば、同戦略によって継続的に債券ポートフォリオの総利回りを向上させることが可能となる機会が存在します。
*ロールダウンについての詳細は、ボンド・ベーシックス「債券運用におけるキャリーとロールダウン」をご参照ください。