投資にあたっては、インフレを理解することがきわめて重要になります。それは、インフレによって運用リターンの価値が低下する可能性があるためです。インフレは、個人の消費支出、企業の設備投資、失業率をはじめ、政府の各種プログラム、税制、金利水準など、経済のあらゆる側面に影響を及ぼします。
本稿では、次の点からインフレの基本について解説します: インフレとは何か、インフレの原因、インフレを測定する方法、インフレが投資リターンに与える影響、インフレから債券ポートフォリオを守る方法、そしてインフレをコントロールする方法です。
インフレとは何か?
インフレとは、物価の全体的水準が持続的に上昇する状態を言います。経済成長は、適度なインフレ率を伴うものですが、高いインフレ率は、経済の過熱を示している可能性もあります。
景気が拡大するにつれ、企業や消費者は財やサービスに対する支出額を増やします。各景気循環における拡大局面では、通常の場合、需要が財の供給を上回り、生産者は製品価格を引き上げることが可能になります。その結果、インフレ率は上昇します。経済成長が急激に加速すると、それ以上のペースで需要が拡大し、生産者は頻繁に製品価格の引き上げを行います。その結果、物価のスパイラル的な上昇が発生することがあります。これは「悪性インフレ」、もしくは「ハイパーインフレ」と呼ばれることもあります。
インフレ環境は、「財に対して通貨が多すぎる状態」と言われることがあります。これを言い換えると、支出が、財とサービスの生産を上回るために、経済システムにおける通貨供給量が、金融取引に必要な通貨の量を上回っている状態であると言えます。その結果、通貨の購買力は低下します。
一般的に、経済成長が減速し始めると、需要も減退し、需要に対する財の相対的な供給量が増加します。通常こうなると、インフレ率は低下します。このようにインフレ率が低下する状態を、ディスインフレーションと呼びます。また、ディスインフレは、政府や政策当局がインフレをコントロールするために、協調的取り組みを進めた結果として生ずる場合もあります。実際に、米国は、1990年代のほとんどの期間を通して、堅調な経済成長を達成しつつ、長期にわたるディスインフレを達成しました。次のチャートは、米国のインフレ率が、1980年につけた15%の水準から、2000年に2%程度に低下したことを示しています。

このグラフは、 PIMCO の商品の過去、もしくは将来のパフォーマンスを示すものではありません。
実際に物価が下落する状態になると、デフレ局面に陥ったと言えます。デフレは、需要の低迷が長引いた結果として発生することが多く、最終的にリセッションにつながる場合や、恐慌につながる場合もあります。このチャートは、大恐慌時代の1920年代から30年代に発生したデフレが、20世紀の中で、最も長く、最も深刻なデフレであったことを示しています。
インフレを測定する方法
エコノミストがインフレ率を評価しようとする場合、通常は「コア・インフレ率」に注目します。「ヘッドライン」インフレ率、つまり総合インフレ率と異なり、コア・インフレ率は、価格が急激かつ短期的に変動する食品価格とエネルギー価格を除外したものです。
インフレの状況を把握するために投資家が利用できるインフレ指標として、複数の統計が発表されています。多くの国で最も一般的に使われている指標は、消費者物価指数(CPI)です。これは、小売物価の変動を月次ベースで追ったものです。たとえば労働契約など、民間部門や政府の契約は、CPIに連動している場合があります。また、後ほど紹介する通り、インフレ連動債も、その価値がCPIと連動する仕組みになっています。
また、多くの国では、一般的に小売業者から、生産者に支払われた価格を追跡しており、これは生産者価格(PPI)と呼ばれます。一般的に、PPIは、インフレ・サイクルの比較的早い段階で、上昇する傾向があります。
インフレの原因
エコノミストの間では、ある特定の時点におけるインフレ加速の原因について、必ずしも意見は一致しません。しかし、特定の要因がインフレに寄与していることは明らかです。
商品価格の上昇は、おそらく最もわかりやすいインフレ要因でしょう。商品価格が上昇すれば、原材料やサービスのコストが、全般的に上昇するためです。特に、原油価格の上昇は、経済に対して、最も広範な影響を与えます。原油価格の上昇は、まずガソリン価格の上昇として現れます。ガソリン価格の上昇は、トラックや鉄道、船舶により市場まで輸送される商品やサービスすべての価格が上昇することを意味しています。同時に、航空用燃料の価格も上昇するため、航空運賃も値上がりします。また灯油価格も上昇するため、消費者、企業双方にとって打撃となります。
原油価格の上昇は、経済全体の物価水準を上昇させ、消費者や企業の資金力を低下させることになります。したがって、エコノミストは、原油価格の上昇を、実質的な「税金」と位置づけ、元々弱い状態にある経済にとってさらなる打撃を与える可能性があるものと見ています。多くの国では、1970年代、80年代、90年代の初期に、原油価格の上昇に続くリセッション、すなわち低い成長率と高い失業率が物価の上昇と共存するスタグフレーションを経験しました。
原油価格の上昇だけでなく、為替レートの変動もインフレの前兆となる場合があります。ある通貨の為替レートが下落すると、輸入品を購入する際の価格が上昇し、これが全体の物価水準を押し上げることになります。たとえば、2003年上半期に、ドルは対ユーロで当時の史上最安値をつけましたが、この時、米国における欧州からの輸入品価格は上昇し、米国のインフレ率が上昇する可能性があることを示していました。
長期的に見ると、インフレ率が高い国の通貨は、インフレ率が低い国の通貨に対して下落する傾向にあります。インフレは、長期的に投資リターンの実質価値を低下させるため、投資家は投資資金をインフレ率が低い市場へとシフトさせます。
インフレが、投資リターンに与える影響
インフレは、実質ベースで貯蓄と投資リターンの価値を少しずつ低下させるものであるため、投資家にとっては隠れた脅威と言えます。ほとんどの投資家は、長期的な購買力を上昇させることを目指しています。インフレは、この目標の達成を危うくさせます。実質購買力を上昇させるためには、インフレ率以上の投資リターンを生み続けることが必要になるためです。たとえば、インフレ率が3%の環境で、インフレ調整前の投資リターンが2%であれば、インフレ調整後の実質的なリターンはマイナス1%になってしまいます。
投資家がポートフォリオを防衛しなければ、インフレにより、特に債券のリターンが悪影響を受ける可能性があります。多くの投資家は、金利として支払われる安定した定期的収入を求めて、債券を購入します。しかし、ほとんどの債券は、償還期限までの表面利率が一定であるため、インフレ率が上昇すると、金利収入の購買力は低下してしまいます。
ほぼ同じメカニズムで、インフレ率が上昇すると、債券の元本価値も損なわれます。ある投資家が、5年債を元本価値にして100ドル分購入したとしましょう。インフレ率が年率で3%だとすると、この債券が償還になる5年後に、この債券のインフレ調整後元本価値は、約84ドルに低下しています。
債券の金利は、インフレの影響をどう考慮するかによって、次の2通りで表すことができます。
- 名目金利、もしくは表面金利。これは、インフレ分を調整していない利率です。名目金利は、次の2つの要因を反映しています。それは、インフレ率が0%の場合に、得られる金利(すなわち実質金利。後述)と、期待インフレ率です。期待インフレ率は、インフレによるリターンの低下に対して、投資家が求めるその見返りを示しています。ほとんどのエコノミストは、名目金利には、市場のインフレ期待が反映されていると考えています。名目金利の上昇は、インフレ率が上昇すると予想されていることを示し、名目金利の低下は、インフレ率が低下すると予想されていることを示します。
これに対して、ある資産の実質金利とは、名目金利から、インフレ率を差し引いたものです。実質金利は、インフレ率を考慮したものであるため、投資家の購買力の伸びを示すより正確な指針となります。ある債券の名目金利が5%で、インフレ率が2%だとすると、実質金利は3%になります。
インフレは、別の形で債券運用に悪影響を与える可能性があります。インフレが上昇すると、市場のインフレ期待が上昇するだけでなく、これまでの例では、中央銀行もインフレに歯止めをかけようと、利上げを実施するため、金利が上昇する傾向にあります。名目金利が上昇すると、固定利付債の価格は下落します。したがって、インフレは、債券価格の低下につながり、債券のトータル・リターンを低下させる可能性があります。
債券と異なり、インフレ率が上昇する場合に価格が上昇する資産があります。こうした資産の価格上昇により、インフレのマイナス効果を相殺できる可能性があります。
超長期的に見た場合、普通株は、しばしばインフレに対抗する優れた投資対象となってきました。それは、インフレ環境においては、企業のコストが上昇しても、企業は製品の価格を引き上げることができるためです。製品の価格引き上げは、収益の増加につながる可能性があります。しかし、短期的には、株式とインフレの相関が負となることも多く、特に予想外にインフレが台頭した場合に、株式は悪影響を受ける可能性があります。インフレ率が突然上昇したり、予期せぬ形で上昇したりすると、経済に対する不安感が高まる可能性があり、これが企業収益見通しの下方修正につながり、株価が下落します。
一般的に商品価格は、インフレと歩調を合わせて上昇します。商品先物には、予想される将来の商品価格が反映されているため、予想されるインフレ率が上昇すれば、それを好感する可能性が高いでしょう 。
インフレから債券ポートフォリオを守る方法
インフレの悪影響を排除するために、一部の債券では、リターンをインフレ率と連動させる仕組みを採用しています。
変動利付債の金利は、主要な金利に連動して上下します。変動利付債の金利は、米国財務省短期証券やロンドン銀行間貸付金利(LIBOR)など、基準となる金利インデックスの変動を反映して、決まった周期で変更されます。したがって、変動利付債とインフレの間には、完全ではないものの、正の相関が存在します。
インフレ連動債、もしくはリアル・リターン債は、多くの国が発行していますが、これは、インフレ率に連動するものです。インフレ連動債は、インフレから投資家を守るものであり、この債券の元本と支払い金利は、CPIの変動に合わせて変化します。
たとえば、商品指数など、商品をベースにした多くの資産の場合、通常はインフレ環境でトータル・リターンが上昇するため、こうした資産はポートフォリオに対するインフレの悪影響を軽減する役割を果たします。しかし、商品をベースにした投資対象には、商品価格以外の要因の影響を受けるものもあります。たとえば、石油株は、個別企業に固有の材料に基づいて変動する可能性があり、そのために、石油株と原油価格それぞれの動きが異なる場合もあります。
インフレをコントロールする方法
中央銀行は、経済活動のペースを調節することによって、インフレをコントロールしようとしています。一般的に、中央銀行は、短期金利を上下させることにより、経済活動に影響を与えようとします。
短期金利を引き下げると、市中の銀行は、中央銀行からの借入や銀行間借入を増やし、経済における通貨供給量が拡大します。そして市中銀行は、企業や消費者に対する融資を拡大し、これが消費と全体的な経済活動を刺激することになります。経済活動が活発になるにつれ、インフレ率も上昇することが一般的です。また、短期金利を引き上げた場合には、逆の効果が発生します。短期金利が上昇すると、経済主体は借入に消極的になり、通貨供給量が減少して経済活動は停滞し、インフレ率が低下します。
中央銀行による通貨供給量管理を、金融政策と呼びます。短期金利の引き上げや引き下げは、金融政策の実践手段として最も一般的な手法です。
米国の場合、1990年代の株価上昇につながった長期にわたるディスインフレを生み出した功績は、FRBの金融政策にあると言われます。1979年には、インフレ・スパイラルによりCPIは15%近くまで上昇しましたが、これを断ち切るため、当時のポール・ボルカーFRB議長は、繰り返し短期金利を引き上げました。この後、FRBは経済状況に慎重に対応し、必要に応じて金利を上下させることにより、2002年中盤までにインフレ率を2%以下の水準に低下させることに成功しました。
場合によっては、連邦政府も、財政政策を用いてインフレに歯止めをかけようとすることがあります。財政政策の効力については、必ずしもすべてのエコノミストの見解が一致しているわけではありませんが、政府は増税や歳出の削減により、経済活動に一種の緩衝材を組み込み、インフレに歯止めをかけようとすることが可能です。逆に、デフレの場合には、経済活動を刺激するために、減税や歳出拡大により、デフレからの脱出を図ることも可能です。